M 2


Mとの再会。

たった数ヶ月時間が空いただけだったけど、随分時間が経過して
いたように感じた。

Mの存在感。
当時のMと私の距離感がそう思わせたのかも知れない。

再会の場所はタイの首都バンコク。

まさか彼らがバンコクまで来るなんて。

しかもバンコクで仕事を立ち上げるつもりらしい。

ヒースからのメールには
「現地の工場や材料調達先、海運会社。将来的には現地法人を立
 ち上げる予定なので、可能であれば弁護士など、現地の法律に
 詳しい人間を知っていたら紹介して欲しい」
と書いてあった。

まだ具体的な案はないようだけど、今回の出張でトライアル的に
何かを仕入れて台湾へ送ってみることも考えているようだった。

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待ち合わせ当日。

私はMとヒースが宿泊しているバンコク市内にある米国系ホテル
へ向かった。

Mとヒースにとっては初めて訪れるタイのバンコク。

交通網が整理されている大都市とは言え、移動に関しては不安が
あったのだろう。ホテルまで迎えに来て欲しいとの連絡があった
のだ。


ホテルのロビーに入ると、椅子に座って英字新聞を読んでいるヒ
ースが目に入った。

ヒースに向かって歩き出した私。
その気配に気が付き、顔を上げたヒース。
ニッコリとした笑顔で手を上げ「元気だったか?」と声をかけて
くれた。

「久しぶりだね、ヒース。ありがとう。元気だったよ」
「そりゃ良かった。Mも来たよ」とエレベーターホールを指差す
ヒース。

我々に気付いたMが笑顔でゆったりと歩いてくる。

立ち上がってMを迎える私。。。と突然、Mが抱きついてきた!

「なっ!なんだよM!どうしたんだよ?」と驚く私から身体を
放して、「久しぶり!」と嬉しそうな笑顔を浮かべたM。

そこにはもう雑貨屋で出来てしまったわだかまりのようなものは
消えていた。

と言うか、Mのペースに乗せられているだけなのか?

「元気そうじゃない?」とM。
「あぁ。ここバンコクに来ると元気が出るんだよ」

「うふふ。こっちに可愛い彼女でもいるんじゃないの?」
「まさか」

「バンコク。綺麗な女性が多くてびっくりしたわ」
「でしょ?」

「オフィスを開いたら可愛い女性を雇って、あなたに紹介するわ」
「本当?じゃあ、すぐに会社を設立しないとね」

そんな会話を楽しむ私とMを笑顔で見つめているヒース。

いつもと変わらない会話。
笑顔と笑いが絶えないいつもの3人組。

懐かしいなぁ。。。この感覚。
そう思った。

けど。。。
「ねぇ、2人とも少し痩せた?ちょっと疲れているような感じだ
 けど。。。もしかしてタイの食事が合わないとか?」
「タイの料理は大好きよ。昨日も屋台でタイ料理を食べたんだか
 ら」

「そう。それは良かった。仕事、忙しいの?」
「あぁ。台湾の仕事はとても良い感じだ。その中でタイでのビジ
 ネスを進めたい。仕事をしながら市場調査などもしていたし、
 今後はスカイを社長に据える予定だから、その引き継ぎなども
 しなければいけなくてね」
いつもの冷静な口調でヒースがそう説明してくれた。

「そりゃ大変だったね。今回は少し休めるの?」
「えぇ。そのつもりよ。だから携帯はオフにしておくのよ」とM。

「大丈夫なの?」
「もうスカイが現場を指揮してるわ。朝晩、スカイがメールで報
 告メールを送ってくることになっているわ。大丈夫。久々にヒ
 ースとバケーションを楽しむわよ」

「分った。じゃあ、市内を案内するよ。時間がない。行こうか!」
と立ち上がった私。Mとヒースも腰を上げて続いた。

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アメリカや日本の若者向けブランドを輸入し、販売しているMたち。

タイから雑貨や衣料品を輸入している私のビジネスとは全く違う分
野になる。

3日ほどかけて私の仕入先や仲の良い現地の友人達を訪れた。

海運会社は普段ヒースが関係している関係者からタイ国内の業者を
紹介してくれたようだ。

現地法人化に詳しい知人(日本人)がいたので、彼を紹介したりも
した。

日本人である私。
台湾人のM。
アメリカ人のヒース。

そして打ち合わせの相手はタイ人。

こんな日常を過ごすことになったら、これはこれで面白そうだな。
そう思った。

インターナショナルで刺激的な数日間だった。

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「ヒース。どう?ビジネスになりそう?」
「あぁ。まだ台湾国内のマーケットを調べる必要があるけど、何
 か出来そうな気がするよ」

「そう。良かった。何かあったら手伝うからさ。何でも言ってく 
 れよ」
「あぁ。そう言ってくれると嬉しいし、頼もしく感じるよ。あり
 がとう」

少しやつれた表情が気になったけど、タイでのビジネスに期待を
抱いている様子のヒース。

Mは仕入先を歩き周り、少し疲れたようだったけど、仕事の後は
ショッピングを楽しんでいた。

買いすぎた服やアクセサリー。
とてもハンドキャリーじゃ運べない。

現地で買い付けた荷物と一緒に航空便で台湾の自宅へ送る手配を
済ませた。

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帰国前日。
ホテルでのディナー。

「今夜はたくさんお食べなさい」とM。
「ありがとう。でも、もうそんなに食べられないよ」と笑う私。

バンコク市内を駆け回った数日間。
とても充実した時間だった。

リラックスしながら食事を済ませ、綺麗なカフェに移動してゆっ
たりとした時間を過ごしていた。

「来月か再来月。時間が出来たら台湾へ行くよ」と私が言うと
「いいわ。でも、こっち(バンコク)での再会でも良いんじゃ
 ない?」とM。

「そうだね。でも、夏が過ぎると仕入れるものがないからさ」
「そうなの?」

「うん。日本には冬があるけどタイは常夏の国。合う商品が少
 ないからさ」
「そうなのね」

「だから久々に台湾へ行こうと思う。俺もバケーションしたい」
「うふふ。そうね。今回は私たちの事に付き合わせてしまった
 ものね」

「気にしないで。俺たちの仲だろう。それは気にしなくて良い
 よ」
「ありがとう。頼りになるわね」

笑顔でM、そしてヒースと握手を交わす。

3人とも、とてもリラックスした良い笑顔だった。

日が沈み、涼しい風がバンコクに流れていた。



つづく