台湾の中壢で出会ったイエローと彼女。
デパートで日本の化粧品販売をしていた彼女が仕事を辞め、
イエローの経営する店で働き始めた。
結婚へ向け、夢を共有する2人。
とても幸せそうだった。
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最初はややぎこちなさがあったイエローの彼女も徐々にイエローの店
での仕事に慣れてきていた。
ストリートウェアの店なので来店客はちょっと厳つい人が多いけど、
慣れると優しい人が多くて、女性に優しくて気さくだ。
彼女もそんな彼らから認められ、お客さんが連れてくる彼らの彼女た
ちと仲良くなり、彼女なりに居場所を築きつつあった。
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イエローと彼女が働く店に、イエローのご両親が来ることがあった。
ご両親は私を見つけると笑顔で話しかけてきてくれる。
お父さんはイエローにはちょっと厳しい口調だけど、彼女には優しか
った。
お母さんはイエローには優しく、彼女には厳しいとまではいかないけ
ど、いつも真面目な顔つきを崩さなかった。
お母さんの話を真面目な顔で聞いていた彼女。
旦那を支える奥さんの仕事。
イエローのクセや考え方などを話しているのかな?
そんな雰囲気だった。
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ある日、イエローの店を訪れると
「すっ、すみません、台北に用事が出来てしまって。。。。2~3時
間で戻るので、待っててくれませんか?晩ご飯、一緒に食べたいか
ら」イエローが申し訳なさそうな顔で切り出した。
「大丈夫だけど、仕事を優先して。ご飯は次回でもいいし」
「いえ、絶対に戻ってきますので!必ず。。。必ず待ってて下さいね
。すみません、行ってきます!」
そう言い残し、イエローは店から駆け出して行った。
「すみません。イエロー、バタバタしちゃってて。。。」彼女が近づ
きながら話しかけてきた。
「こんにちは。大丈夫だよ。俺、暇人だからね」と答えると彼女が笑
ってくれた。
その日は雨。
来店客が少なく、彼女と話している時間が多かった。
時間が経つに連れ、少し真面目な話もするようになっていった。
「俺から聞いて良いのか分からないけど、結婚の話は進んでるの?」
私が聞くと
「はっ、はい。少しずつですけど。。。」と彼女。
私から視線を外し、少しうつむき加減でそう答えた彼女。
こちらから聞くような話じゃなかったかな。。。ちょっと後悔した。
「実は。。。。ちょっと聞いてもらいたい話があるんです」
彼女の目がいつになく真剣だった。
「どうしたの?心配事?」
「はい。これから話すこと。イエローには内緒にしてくれますか?
そう約束してくれますか?」
切実な表情だった。
「うん。イエローにも誰にも話さないよ。約束する」
「ありがとうございます」
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彼女から聞いた話は少しショックな内容だった。
どうやらお店の経営が上手く行ってないようだった。
固定客に支えられてはいるものの、ストリートウェアというマーケッ
トは客層が限られている
。
毎日同じ人が来て、話をして帰る。
お店は賑やかな反面、売上が伸びていかない。
流行廃りも激しい。
学生の顧客は学校を卒業すると環境が変わり、来店する機会が減る、
なくなる。
ブランド品なので仕入れ値が高く、少しでも商品が売れ残るとすぐに
利益を圧迫する。
中でも問題なのはスニーカー。
色やサイズを豊富に揃えておかないとお客さんのニーズに応えられな
い。ストリートウェアの店なので貴重なスニーカーを並べる必要があ
るそうなのだが、そういう商品は普通のルートでは入荷しないので、
特殊なロートから高値で仕入れているという。
「この店の下。倉庫になっているのですけど、見ていただいても良い
ですか?」
店の問題点を話してくれたあと、私を店の地下にある倉庫まで案内し
てくれた。
そこで見たもの。。。。恐ろしい数の在庫だった。
スニーカーの箱が山のように積み上げられていた。。。
こんなにたくさんの在庫!
イエローの店だけで売れる訳がない。。。。。
「こっ。。。これは。。。」
「そうなんです。一生懸命に仕入れてもすぐに売れ筋が変わる。新し
い商品が出ると昨日まで人気があった商品が売れなくなる。利益が
少ないのに。。。。」
「イエローには何か言ったの?」
「はい。時々話をするのですけど。。。彼、スニーカーが大好きで。
。。。売れなくてもスニーカーに囲まれて生きていたいって。。」
彼女の話は続いた。
「今日、台北へ向かったのも仕入先と話し合いをするのが目的なんで
す。支払いが。。。月末の支払いが無理そうで。。。支払いを少し
先延ばし出来ないかの相談に行ってるんです。。。」
「そっ、そうなの?」
イエローからは店の経営は順調だと聞いていたけど。。。。実情とは
違うようだ。。。
堅実な仕事をしているイメージしかなかったので、実情とのギャップ
に驚かされた。
「店の維持費や給料などは大丈夫なの?」
「はい。この店はイエローのお父様の物件なので、今は家賃をゼロに
してもらいました。イエローは給料を取れてません。私は給料なん
て要らないと言ったのですが、自分は我慢して私に給料を払ってく
れてます。。。」
「何とかしないとね。俺からも話をしようか?」
「いえ、大丈夫です。私と彼で何とかしますので。。。私、彼の仕事
は良く分からないけど、彼を支えたいんです。ごめんなさい。。こ
んな話を。。。ありがとうございました」
「うん。いいんだけど。。。本当に大丈夫?俺から少し話をしてみて
もいいよ」
「はい。もう大丈夫です!だから、今聞いた話、見たことは忘れてく
ださいね」
笑顔を見せてくれたけど。。。。眉間に不安な気持ちが表れていた。
台湾人はメンツに拘る。
お金に苦しい思いをしていても見栄を張る。
イエローはギャンブルやバー、クラブ通いはしてなかったけど、若い
常連客が来ると飲み物をおごったり、ご飯に連れ出したりはしていた。
毎日ではないようだったけど、多分、そういう経費もボディブローの
ように経営を圧迫していったのだろう。
ストリートウェアに限らず、ビジネスで成功している同年代の経営者
達が連日のようにパーティーを開き、その様子をSNSにアップしていた
時代だ。
そんな彼らに憧れを抱いたり、目標にしたりする人達も多かったよう
に思う。
それにしても彼女は凄いな。
こんな現実を目の当たりにしても、まだイエローを支えていきたいな
んて。。。俺だったらサッサと逃げてしまうだろう。。。
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そしてその日、彼女が自分の「夢」を語ってくれた。
結婚生活が落ち着き、イエローのビジネスが難局を乗り越えたら、自
分の店をオープンさせる夢。
日本の商品に触れていたので、日本の品質の素晴らしさを知っていた
し、何度か訪れた事のある日本のサービスの質の高さも経験していた。
有名ではなくても質の良い日本の化粧品を販売したり、来店客にメイ
クを教えたり。
小さくても良いのでそんな店をオープンしたいと話してくれた。
私が当時取引していた日本のオーナーさんでエステサロンを経営され
ている方がいた。
彼の話をすると「もし良かったら、私をその店に案内してくれません
か?」と目を輝かせた彼女。
「もちろんだよ!実現すると良いね」
「はい。はい!実現させます!絶対に!」
素敵な笑顔を見せてくれた。
つづく