台湾喜人伝 6話 イエローの結婚 1

私の親友 イエロー

名字が「黄」
だからみんなからイエローと呼ばれている。

台湾の中壢(ちゅうれき)という街に暮らす、私の友人の
紹介で出会ったイエロー。


無類のスニーカー好きで、日本のストリートウェアが大好き。
当時は日本でも裏原(うらはら)という言葉が流行のキーワード
だったりして、裏原宿発信のストリートウェアが香港や台湾でも
取り上げられ、一部の若者たちに熱狂的な支持を得ていた。

彼もAPEやNEIGHBERHOODなどの裏原ブランドに身を固めていた。


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「初めまして」
ちょっといかつい兄ちゃん風の外見だが、話し方はとても優しく、
笑顔が似合う。

とても丁寧な言葉使いで、年上の私をいつも立ててくれる。

出会った当初は中壢になる日系デパートでアルバイトをしていた
イエロー。

「アルバイトなんだね」と私が聞くと

「はい。今は資金を貯めてます」

「何か始めるの?」

「はい。自分で店を持つのが夢なんです。ストリートウェアの。俺、
 スニーカーも好きだし、そういう店を出すので仕入資金を貯めて 
 るんです」

「へぇ~。そうなんだ。目処は付いてるの?」

「はい。父が婦人服屋をやっているのですが、そろそろ引退を考え
 ていて。。。その店舗を改装して自分の店にします。家賃は少し
 安いのですが、駅から少し遠いのがちょっと。。でも、オープン
 したら必ず来て下さいね!」

「ありがとう。必ず行くよ」

そう約束して別れた。


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約束したからには必ず行く。

知人からイエローが店をオープンしたと聞いた私は店に顔を出した。

「ハロー!」
私が店の奥、レジ付近にいたイエローの手を振ると、驚いたような
表情を見せたイエロー。

「ほっ、本当に来てくれたんですね!嬉しいなぁ。日本人って本当
 に約束を守るんですね~。父からよく日本人の話を聞いてました
 けど、本当だった!」

う~ん、約束を守らない人もたくさんいるけどなぁ~
まぁ、いいか。

親日家の台湾
日本や日本人に対するイメージはとても良い。


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その後、彼の店に行く機会が増えた。

イエローとは世間話から始まり、ビジネスの悩みや相談をされる機会
が増えてきた。

旅行代理店を経営しているイエローのお姉さんには台湾からタイへの
チケットを手配してもらったりすることもあった。

ご両親とも仲良くさせていただいた。

お父さんはかつて婦人用衣料品店を切り盛りされていた経験があり、
温和で優しい方。
日本の政治にとても興味があるようだった。

お母さんは韓国の血が流れる方で遠い親類たちは韓国に住んでいると
話されていた。
話好きで面倒見が良く、会う度にとても優しくしてくれた。
ちょっと気が強そうだったけど。

イエロー一家との距離がどんどん近くなっていった。


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そんなある日
「今度、紹介したい人がいるんです。会ってもらえますか?」
とイエローから電話があった。

「もちろん、イエローの知り合いだったら大歓迎だよ」
私はそう答えた。



それから数ヶ月後。
イエローの店に行くと、見知らぬ女性が店にいた。
いたというか、働いていた。

新しいスタッフさんかな?

イエローとその女性が一緒に手を振りながら近寄ってきた。

「こんにちは」
「こんにちは」

「元気そうですね」イエローが丁寧に声を掛けてくれる。
「ありがとう。そちらの女性は?」

「はい。いつか話したのを覚えてますか?紹介したい人がいる
 って」
「もちろん覚えてるよ。その方がそうなの?

「はい。僕の彼女です。お店で僕の仕事を手伝ってくれる事に 
 なりました」

「へ~。2人で店を!いいね!」
「はい。僕も嬉しいです」と言ってイエローは笑顔で彼女に顔
を向けた。彼女も笑顔。2人で見つめ合う。

彼女は英語が堪能だった。

地元中壢にある日系デパート内で日本ブランドの化粧品販売員
として長く働いていた。

そのキャリアを物語るようにメイクや髪型が決まっていた。
格好良い「デキる女」という感じだった。

そして気さくで面倒見が良い。

「お腹空いてないですか?」
「何か飲みますか?」

少々お節介な台湾人らしく、何も要らないよと答えても「ちょ
っと待ってて!」と言っては外に飛び出し、飲み物を買ってき
てしまう。

見かけによらず「ひとりコント」のような事が大好きで、自身
が経験した面白いエピソードなどを身振り手振りを交えて、面
白おかしく話してくれる。

ゲラゲラ笑う、私を見るのが好きだと良く言っていた。

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「実は。。。結婚しようと思ってて。。。」

イエローと彼女、そして私の3人で食事している時に聞かされた。
イエローの横に座る彼女も笑顔でウンウンとうなずいていた。

照れるイエロー。
笑顔の彼女。

2人とも本当に幸せそうだ。

聞けば交際はもう6年。
彼女はお年頃でもある。
とっても仲が良さそうだし、良いタイミングなのではないか?と
思った。

「いいじゃない!だからイエローの店で働き出したの?」
「はい。もっと彼の仕事を手伝いたいから、日々男性服やスニー
 カーの勉強もしています。まだ慣れないけど」
とはにかんでイエローを見る彼女。

幸せオーラが出まくっている。

「イエロー、じゃあ仕事は順調なんだね?」
「はい。お陰様で」
イエローは胸を張った。

「式の日取りなどはまだですが、決まったら来てくれますか?」
「もとりんだよ。2人の門出を祝福したいよ」

イエローと彼女はとてもよろこんでくれた。

つづく













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