台湾喜人伝 5話 チェンの教え子 アーピー 3

アーピーの大学入試試験当日のエピソードのつづき。


散々だった英語の面接。
ペアレンツの発音が出来ず、パパ、ママと叫んでしまったアーピー。

落ちたな、これは。。。
チェンはそう思ったそうだ。
チェンばかりではない.
アーピーの両親、そしてアーピーの彼女も
同じように思っていた。

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「なんだよ~。意味は合ってるじゃんかよ~」
アーピーが話し出す。

「も~、あんたって子は! 真面目にやりなさい!真面目に!」
アーピーのお母さんがアーピーを叱る。

「真面目にやってんじゃんかよ~~~」
アーピーが口を尖らせて反論する。

「午前中の学科はどうだったんだ?」チェンが聞く。
「う~ん。。。分からない」適当な返事をするアーピー。

「あんたって子は!」
アーピーのお母さんが手を上げて、アーピーを叩こうとした。

慌ててチェンが静止する。

試験会場でコントのようなやり取りをしているのはアーピーの家族
だけだ。


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「そろそろ体育の試験です。受験生は体育着に着替えて校庭に集合
 して下さい」

アナウンスが流れた。

入試試験最後の科目は体育。
日本ではあまり聞かないが、台湾の大学、主に私立大学などでは体育
実習が試験に含まれているケースもあるらしい。



「よっし!行ってくらぁ!」
気合いを入れるアーピーを見ていると益々不安になる。

体育着に着替える為、校舎へ向かうアーピーの後ろ姿。
頼りない。。。



着替えが終わり他の受験生たちに混じってアーピーが登場。

ヒョロヒョロでがに股。
格好悪い。

一同の不安を余所にアーピーーはニッコリ笑ってピースサイン。



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体育の試験は長距離走。
2キロのマラソン。

長距離とはいえ2キロだ。
いくらアーピーでも走りきれる。
最悪ビリでも良い。
最後まで一生懸命走る姿を見せて欲しい。

実の子供のようにアーピーを可愛がっているチェンの気持ちが
届くと良いのだが。。。。。


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パ~ン!
乾いたピストルが鳴り響き、受験生達が走り出す。

ずる賢いアーピーは受験生集団の最前列に紛れ込んでいた。


もう何でも良い。走ってくれ、走りきってくれ!
チェンは心からそう叫んでいた。



先頭集団に紛れ、良いポジションでスタートを切れたアーピー。
両腕を大きく振り、がに股で走るアーピー。
必死な顔で走る、走る、走る。

校庭を1周した後、大学周辺を走るコース。
アーピーは徐々に順位を落としつつも、まだ戦闘集団に食い
ついている。

受験生たちが次々と校門から出ていく。

頑張れ!
頑張れ!
頑張れ!

チェンやアーピーの家族達が応援する。


「あの子。。。。大丈夫かしら。。。」
アーピーのお母さんが心配そうに呟く。

「体育が得意という訳ではないけど、大丈夫。最後まで走り切って
くれると思いますよ」とチェンが言葉を掛ける。

「なら良いんだけど。。。」


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しばらくすると校舎周辺のコースを走り終えた生徒達が校庭に戻り
出す。
最後は再び校庭を1周するのだ。

アーピーが先頭集団にいるはずはない。。。そう思いつつもちょっ
とだけ期待していた。

でも、、、やはり先頭集団にアーピーの姿を見つける事が出来なか
った。

先頭集団がゴールする後を他の受験生達が続々と校庭を1周して
ゴールしていく。

どこをどう探してもアーピーの姿がない。

「あの子は?ウチの子は?ねぇチェン、ウチの子は?」
アーピーのお母さんが焦り出す。

「え~と~」チェンも焦り出す。
いない。。。
どこにもいない。。。
先頭集団にいたはずのアーピーの姿が確認出来ない。

すでに参加した受験生の半分以上がゴールしていた。

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待てど暮らせどアーピーの姿が確認出来ない。

2キロのマラソンだ。
それほど長い時間が経過していた訳ではない。。。ハズなのだが、
アーピーを待っているみんなにとってはとてつもなく長い時間に感じた。


「え~、そろそろ試験を終わりにします。皆さんは校舎へ戻り着替えを
 して下さい」
面接官が試験の終わりを告げた。

「ちょっと待って下さい!」
チェンが手を上げて面接官へ向かって走り出し。

アーピーの家族がそれに続く。

「ウチの子が。。。ウチの子がまだ。。。まだ帰ってきてません」
チェンが走りながら面接官に訴えるように叫んだ。

「えぇ?まだ??? そんなはずでは。。。」
面接官も驚いたようだ。

「2キロのコースです。こんなに時間が掛かるはずは。。。」
と面接官。

もしかして。。。
走っている間にお腹が痛くなったのか?
足を挫いたのではないか?
まさか。。。車に。。。いやいや、そんなこと想像したくもない。

「体育教員がいます。彼にコースを確認してもらうよう頼んでみます」
面接官が体育の教員に声を掛け、事情を説明し始めたその時。。。。


「ウチの子が!ウチの子が帰ってきた!」
アーピーのお母さんが校門を指さして叫んだ。

一同、アーピーのお母さんが指さす校門へ顔を向けた。


帰ってきた!
アーピーが帰ってきた!!

なぜか歩いている。
しかもヘトヘトになっていて歩くのが精一杯の様子。

交通事故に巻き込まれた訳ではなかった。
生きて帰ってきてくれた!

チェンやアーピーの家族がゴール付近へ移動して、アーピーのゴールを
待つ。

へとへとになりながらがに股で1歩1歩歩くアーピー。
右へ寄ったり左へ寄ったり。

やはり腹痛なのだろうか?
チェンはその様子を見て心配になった。

「もう少しでゴールよ!頑張って!」
アーピーの彼女が声を限りに叫び出す。

「そうよ、アーピー!頑張って!」お母さんもたまらず叫びだしていた。

よろよろしながらようやくアーピーがゴール。
そして倒れ込む!

「最後まで頑張ったな!」チェンが駆け寄り、声を掛ける。
「心配したんだから!」彼女がアーピーを介抱するように抱きかかえる。

「一体、何があったんだね?身体の調子でも悪くなったのかね?」
面接官が駆け寄り、心配そうにアーピーに声をかけた。


「こっ。。。こっ。。。。こんな。。。長い。。。距離。。走れるわけ
 ないじゃんかよ!」

アーピーが振り絞るような声で返答した。

2キロである。

普段、運動していないとは言え、18歳の少年が2キロを完走出来ない。
しかもふらふらになりながら歩いてゴール。。。

前代未聞の出来事に面接官も言葉を失っていた。

落ちたな。。。。これは。

倒れてもがに股で倒れているアーピーを見下ろしながら、チェンが再び
その思いを強くした。


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しかし、結果は合格。
事実、アーピーは大学生になったのだ。


「そんな事ってあるの?」
私が聞くと

「アハハハハハ。アーピーの大学は適当なんだよ。アーピーの家庭が入
 学金を払う意思を見せたから合格になったんだよ。大学もビジネス。
 少しでも売上、そして利益を上げていかないと経営が傾く。台湾では
 少子化が問題になっているくらい、子供が少ないからさ」

「そっ、そんな理由で。。。。合格。。。。試験の意味が。。。ない」
愕然とした。

4年後、無事に大学を卒業したアーピーは地元にあるスーパーに就職し
た。

そして昨年(2019年4月)久々に台湾へ行き、チェンからアーピー
のその後の話を聞いた。

数年前、無事に結婚。
相手は当時から付き合っていた可愛い彼女だ。
小さな赤ちゃんも授かっているそうだ。


アーピーが結婚。
アーピーがお父さん。。。。

人生って不思議だ。






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