初めて台湾を訪れたときに出会ったチェン。
彼との交流はその後も続いていた。
チェンに会う為に台湾へ行く度に、彼の友達や仲間、そして
教え子達との出会いがあった。
今回は彼の元教え子の1人であるアーピーのエピソード。
チェンは心優しい公立学校の教師の顔を持ちながら、学校には
内緒で室内デザインのオフィスを経営していた。
公務員の副業はもちろん禁止されている。
多分、仲の良い教師の何人かは彼が副業を持っていることが知
っていた。
そして学校にバレないようサポートしていたと思う。
経営しているオフィスの景気は良く、順調に売上を伸ばしてい
たので、他の教師と比較すると収入面ではかなりの余裕があっ
た。
しかし物欲のないチェン。
余ったお金は彼流のやり方で社会還元していた。
担任するクラスで学費や給食費の納付に苦労している家庭に対
して、彼がそれらの納付を全て引き受けていた。
学校には内緒のようだった。
毎年1~2人の生徒を選び、親に会い、補助する価値があると
思った家庭に対して補助の申し出をしていた。
また卒業後、性格的に既存の社会に馴染まない子供を自分のオ
フィスで働かせ、経験を積んだ後、知人の会社などへの就職を
斡旋してもいた。
もちろんコミッションなどは受け取らず。
一緒にいて楽しいのはもちろん、私は彼の献身的な態度と行動
に対して尊敬の念を抱いていた。
そんなチェンの教え子の1人、アーピー。
ヒョロヒョロで頼りなく、喧嘩の強い友達と一緒の時は威勢が
良く、1人だとおどおどしている。まるで漫画から出てきたよ
うな弱虫君。
口が悪く生意気だけど、なぜか人気者。
彼と最初に出会ったのは彼が高校2年のころ。
チェンが開催する私の歓迎会にちょっと年上のアーシーと
一緒に参加していた。
飲み会の席で高校生なのに酒を飲み、たばこを吸う。
チェンはそんなアーピーの姿を見せて、特に注意する素振りも
見せなかったし、気にもしていない様子だった。
やがて高校を卒業し大学へ進学。
車の免許を取り、大好きな日本車を乗り回すようになっていた。
あの車はどうやって買ったのか???
彼の過程はチェンが補助をしていたはずなのだが。。。
その大好きな日本車で私を空港に迎えに来てくれたり、新竹市
内の移動の際は必ず運転手として活躍してくれたり。
チェンが私と過ごす時は、アーピーが運転手としてサポートし
てくれていた。
チェンの頼み事なら何でも引き受けていた。
チェンや相棒のアーシーと一緒にいるのが本当に楽しそうだっ
た。
彼にとっての居場所だったのだろう。
頼りにはならないけど愛嬌があり、どこか憎めない。
チェンが買い物をする際には必ず側にいて、会計はチェン任せ。
チェンもそんなアーピーが可愛いようで、食事をおごったり、
服を買ってあげたりしていた。
適当で弱虫で中行きなアーピにはすっごく可愛い彼女がいる。
性格が良くしっかりものの女の子がなぜ。。。なぜアーピーの
彼女なんだろう?
男と女は分からないものだ。
チェンと行動する時はいつもアーピーが運転を担当してくれる。
でも、ちょくちょく道を間違えるし、一方通行を逆走する。
対向車からクラクションを鳴らされることはしょっちゅうだった。
そして致命的な問題が。。。。
彼は車のバックが出来ないのだ。
前進したりカーブを曲がる事は出来るのだかバックが出来ない。
車を駐車する際はいつもチェンに運転を代わってもらう。
「も~~~」とチェンが言いながら運転を代わるのが面白かった。
日本より遙かに短時間で免許が取れるらしいけど、バックが出来な
いアーピーはどうやって試験に受かったのだろうか?
そしてこんなエピソードもある。
私が日本から来ている日本人だと言うことは当然知っているのだ
が、日本がどこにあるのかは知らない。
チェンが世界地図を広げ、「日本はどこ?」と聞いた事があるそ
うなのだが、オーストラリアを指さしたそうだ。
チェンは笑いが止まらなかったそうだ。
そして飲み会の席では必ずその話をする。
集まったみんなは大爆笑。
だって台湾のすぐ近くには沖縄があり、そこはすでに日本。
ほとんどの台湾人はそんなことは知っていて当然なのに。。。
そんな彼は大学生。
一体どうやって大学生になれたのか???
1度チェンに聞いてみたことがある。
「チェン、アーピーなんだけど大学生だよね?」
「うん、そうだよ」
「こう言っては何だけど、彼の。。。。」
「はははは。頭が悪いって言いたいんでしょ?」
直球だなぁ~
「彼の入試試験の際、彼の両親が心配だと言うので私も一緒に大学
まで行ったんだよ。そのときに話をしようか」
チェンが笑いを堪えながら話してくれた。