台湾のとある街で見かけた美女。
何度かすれ違う間に軽く頭を下げてくれるようになっていた。
ある日、意を決してその女性に話しかける事に成功。
心に火が灯った私は次なる行動に出る為、あの男に相談を持ち
かけることに。
その男とはもちろん。。。
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「ねぇねぇねぇねぇ!」
私はその男の店に入るなり、1人で騒ぎ立てた。
「お~!何だよ今日はやけにやかましいじゃん」
デビットだ。
この男、とにかく顔が広い。
もしかするとあの女性の事も知っているかも知れない。
そしてこの男なら、必ず私をヘルプしてくれるに違いない。
「デビット。お願いがあるんだよ」
「どっ?どうしたんだよ? 珍しいじゃん」
「うん」
「で?何?」
「う~ん」
「どうしたんだよ?何?出来る事なら何でも手伝うよ」
さすがデビット。
心強い存在だ。
「あのさ、○○通りにある△△という店。。。知ってる?」
「お~知ってるよ。あの店のオーナー、メチャクチャ可愛い
んだよ」
「やっぱり!やっぱりそう思う?」
「おう。街でも有名な子だからね」
お~、やっぱりそうなのか!
あれだけ可愛いんだから当然だよな~
「最近さ、その子とよく道ですれ違うようになってさ。。」
「うん。それで?」
「さっき、話しかけちゃったよ」
「えっ?いきなり?」
「まぁ、軽く会釈するようにはなっていたんだけどさ。さっ
き、思い切って話しかけちゃったよ」
「わはははは!そうなんだ!スゲェ~な。さすが日本男児だ!」
「あの子、本当に綺麗だよな」
「うん。台湾美人。日本人はああいう感じ好きだよな。ビビア
ン・スーだろ?」
「うん。ビビアンを嫌いな日本人はいないはずだ。俺も好きだ」
「はははは!正直だな」
「デビットはあの子の事知ってる?」
「お~、もちろん知ってるよ」
「あの子を食事とかに誘えないかなぁ?」
「相談って。。。。あの子に惚れちゃった?」
「う、うん。だって可愛いんだもん」
「わはははは!」
デビットが大声で笑う。
そして
「食事には誘えると思うよ。でも。。。」
「でも?」
「本当にあの子に惚れちゃった?」
「うん。間違いない」
「そうかぁ~。みんな好きになっちゃうんだよなぁ~」
私の同意しつつもデビットの顔が曇る。。。
なんだなんだ?
「彼女、訳あり? あっ、彼氏がいる?もしかして既婚者?」
「う~ん、言ってもいいのかなぁ。。。」
「なんだよ。話せよ。気になるじゃん!」
「そうだな。話すべきだな」
隣にはリサが話を聞いているが、視線を外している。
やはり彼氏がいるのか?旦那がいるのか?
「あの子には彼氏がいるよ。しかも関係は良好だよ。残念だ
けど」
「やっぱりそうか~。そりゃそうだよなぁ~」
山の頂上で1人浮かれていた私は一気に谷底へ落とされたよう
な気持ちになってしまった。
馬鹿な男だ。
たった1度話しかけ、たまたま彼女が相手をしてくれただけな
のに。。。いろいろ想像してしまう単純さ。
あんな美人さんのことだ。相当なイケメン君と付き合っている
のだろうな~と勝手な想像が膨らむ。
「彼氏。。。うん、彼氏がいる。彼氏。。。女だけどな」
「えっ~~~~。女?彼氏は女? 彼氏は女って。。?」
「うん。彼女はTだ」
台湾では女性の同性愛者をTと呼ぶ。
語源はTOM BOY から来ていると聞いた事がある。
日本ではあまりピンとこない単語。
ガ~~~~~ン。
頭の中で大きな大きな鐘が鳴り出した、爆音が耳の中で鳴り止
まない。
同性愛者を蔑視はしていない。
全くない。
でも、想像して欲しい。
自分が好きになった相手が。。。。
そう話すとリサが店に置いてあるパソコンを立ち上げ、キー
ボードを素早く叩く。
そしてディスプレイを私に向けた。
当時スタートしたばかりの某SNSサイト。
画面には彼女のページが表示されていた。
リサが見せてくれた画面にはあの子と彼女の「彼氏」が笑顔
で仲良くハグしている写真が写っていた。
現実を。。。。。現実を受け入れなければ。。。いけない。。
「残念だけどさ。これが現実」とデビット。
珍しくリサが口を開いた。
リサによれば、以前は男性と付き合っていたことがあるのだが、
前の彼氏が酷いDV男。
毎晩暴力を振るわれているうちに男性不信に陥ってしまったと
聞いた事があるそうだ。
当たり前だけど台湾にもDV男がいるんだなぁ~。
くっそ~、そいつが暴力なんて振るわなければ。。。
呆然としながら画面を眺め続けた。
喜びもつかの間とは正にこのことだった。
「何人もの男がアタックしたけど、彼女の心を変える事は出来
なかったんだ」とデビット。
「そっ。。。そうなのかぁ」
まるでシャボン玉のように。。。アッという間に弾けてしまっ
た私の恋心。。。。
そして翌日には私の恋話は街中に広まっていた。
デビットのやつ。。。。
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数年後、デビットから連絡が来た。
「あの子、結婚したよ。相手は男だよ」
「へぇ~。そうなんだ」
男性不信、男性恐怖症からは解放されたんだな。
良かった。
「元気で幸せに暮らしていてくれれば。。。今はそれでいいよ。
連絡してくれてありがとう」
とデビットに返信したあとしばらくの間、彼女と交わした会話を
思い出した。
彼女と話をしたのはあの1度きり。
ほんの数回のやりとりだけ。
こんな話をしていると、また台湾へ戻りたくなる。
おわり