台湾喜人伝 15話 デビット 5

カンボジアのプノンペンで再会したデビット。

彼が現地で知り合った仲間を呼び、私の歓迎会を開いてくれた。


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台湾、香港、シンガポールに中国。

様々な国に住む中華系の若者なちが集まった。

しかし時間の経過と共に酒が進み、恐怖のゲームが始まった。

ジャンケンのようなゲームで負けた人間はビールを一気飲みしなけ
ればならない。

まぁ、このくらいのゲームは日本人もやるかも知れない。

怖いのは酔いが回ってからだ。

一気飲みしたあと、みんなに持ち上げられ、プールの中に放り込ま
れるのだ。

放り込む方も放り込まれた方も大笑いしているが、1歩間違えたら
大惨事だ。

酒の一気飲みだけでもキツいのに、プールに投げられたらたまった
ものではないな。。。どうにかこの場を去らなければ。。。

辺りを見渡すとプールサイドから離れたところで女性4人と日本語
を話すフランス人が食事をしていた。

「あっちに逃げよう。。。」

気付かれないようにそ~っと場を離れる私。

酔っ払ってゲームに興じている連中は誰1人として気が付いていな
い。

無事に脱出し、女性達が食事しているテーブルへたどり着いた。

「こんばんは。お腹空いちゃった」と話しかけると

「ここ、空いてるから座って」と1人の女性が椅子を指さす。

「ありがとう」と会釈をして席に付く。

「お口に合うか分からないけど食べてみる?」と別の女性が鍋を勧
めてくれた。

見るからに辛そうな赤いスープ。
四川料理のようだった。

「これ、四川料理?」と聞くと
「そうですよ。良く分かりましたね」と鍋を勧めてくれた女性が答
えた。

席に座るよう勧めてくれた人は台湾人で、そのほかは全員中国人だ
った。

最初は遠慮しがちな、差し障りのない会話だったけど、徐々に場が
温まる。

台湾の女性は台湾での仕事に行き詰まりを感じ、思い切ってカンボ
ジアにある台湾企業で働くことにしたそうだ。

中国の女性たちは家族全員でカンボジアでビジネスを立ち上げる為
に来ていた。

四川鍋を勧めてくれた女性が
「ねぇ。聞いてもいい? どうして日本人は中国人の事が嫌いなの?」

「正直、あまり良い印象はないからね。でも、そっちも日本人の事
 は嫌いでしょ?」
と聞きかえした。

「う~ん。私の父母の世代まではそうかも。でも、私たちの世代は全
 く違う印象を持っているわ。もう何度も日本へ行ったけど、サービ
 ス業のレベルは高いし、みなさん、とても親切。とても勉強になっ
 ているのよ」

意外な話だった。

「今、私と同世代の中国人は日本から学べというスタンスで仕事をし
 ている人がとても多いし、これからも増えていくわ」

今まで口を開かなかった女性も
「私なんて去年、日本に5回も行っちゃった(笑)全てが最高よ」

時代が移り代わり、世代交代が進めば、新しい価値観が生まれる。

中国の新世代はとても好意的に私たちを見ているのだな。。。
意外で新鮮な驚きだった。


「お~~~い!飲んでるかい!!!」
ベロベロに酔っ払ったデビットだった。

大声で女性達1人ひとりに声をかけ、場を和ませていく。
さすがデビットだ。

そして私の横に来たデビットが
「今、仲間たちと投資するビジネスの話があるんだけど、明日、そ
 の物件を見に行くんだけど、良かったら一緒に行かない?」

「いいの?部外者の俺が同行しちゃって?」

「ダイジョウブ ダイジョウブ ゼンゼンダイジョウブ」

滅多にない機会だ。
「是非、同行させてよ」

「オウ!オッケーラ」

どうやら完全に酔っている訳ではないようだった。

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翌朝、デビットと朝食を済ませると
「ちょっと待ってて。今日はuberで移動してみよう」
デビットがスマホを操作。

迎えに来る車から5分後に到着するとの返答があったようだ。

カンボジアでもuberが広まっていた。

新しい仕事として現地でのuberの仕事に就く人が増え、車の需要も右肩
上がりだそうだ。

デビットのオンボロ日本車をアメリカから輸入した業者にも会ったのだ
が、社員が2週間交代でアメリカへ渡り、現地で実物を見て車を購入、
コンテナに積んでカンボジアへの輸出業務をしているとのこと。

需要が増えているので、アメリカでの車の確保が大変になっていると話
していた。

迎えにきた車に乗り込み20分ほど。

大きな衣料品の卸市場へ到着した。

大きなドーム状の建物の中に無数の小さな衣料品卸業者が軒を連ねてい
だ。

「この建物の中にこれだけの業者がいて、たくさんの仕入業者が来るの
 に、コーヒースタンドが一件もないんだよ」とデビット。

小さな5坪くらいのスペースが空いたとの情報があり、そこを改装して
コーヒーを売る店にしようという計画らしい。

「小さな店だから投資額は少額だよ。でも、俺たちはよそ者だし、この
 土地でのビジネスに慣れている訳じゃない。だから、こうした小さな
 ビジネスをたくさん経験して、仲間との協力関係を強化して、徐々に
 大きなビジネスにトライしたいと思ってるんだよ」

そう話すデビットの横で、店のサイズを測る業者が仕事を始めていた。

「彼も台湾人。こっちで頑張ってるんだよ」とデビット。
デザイン事務所と大工を兼業しているそうだ。
無口で黙々と仕事をしている。

もう1人の中華系も到着。
彼も台湾人で日本語を少し話せる。

「デビットが先陣を切って話を進めてくれるんだ。僕の家族は台湾でカ 
 フェを展開しているんだけど、僕は新天地でビジネスにトライしたい
 と思ってね。経営ノウハウやマシンの供給ルートはあるから、プノン
 ペンでコーヒー関連のビジネスを展開してる。始まったばかりだから
 、この先の事は全く分からないけど、カンボジアには台湾にはない成
 長や進歩が感じられる。この国に賭けてみようと思ってるんだ」

そう話す彼の瞳は輝いていた。

すでに市内にある大手銀行数店舗と銀行内にコーヒーマシンを置く契約
を締結させたそうだ。

デビットはもちろん、デビットの仲間たちも活き活きとしている。
身体から生命力が飛び散っている。

現場で話を聞き、意見交換しているデビット。
とても逞しく見えた。


つづく

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