台湾喜人伝 13話 デビット 3

デビットとリサ。

私のかけがえのない友達だ。

回数は減ってしまったけど、今でも連絡は取り合っている。

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「もう、面白くないんだよ。この街」
デビットはふてくされていた。

黙って聞いているリサ。

2人のビジネスは新竹ではなかなか定着せず、徐々に下降線を辿って
いく。

新竹は海にも近く、サーファーもある程度は存在しているのだが、彼
らは普段着にはあまり気を使わない。

短パンとティーシャツ。
別に有名ブランドである必要はない。
そう考えている人が多かった。

ブランド好きな台湾人の間でもサーフブランドは今ひとつピンと来な
いカテゴリー。
サーフィンがマイナースポーツのひとつでしかない。

どうせブランド品を買うなら誰もが知っている有名ブランドを買う。
そんな意識が一般的だった。



そして。。。。

「もう台北に戻る」
デビットが切り出した。

「店は閉めるの?」

「うん」
「台北で同じような店を?」

「いや。もう店はいいや。就職するよ」
「そうか。。。。」

残念だったけど、店を開けていても訪れるお客は少ない。
サイドビジネスで展開している中古カメラ販売も月に1台か2台を売
る程度になってしまっていた。

「リサはどうするの?」と聞くと
「彼が台北に戻るなら。私も台北に戻る」と笑った。

2人の実家は台北にあり、しばらく実家に世話になりながら、将来の
事を考えていくのだろう。


「結婚はしないの?もう付き合いも長いんだろ?」と今後の事を聞い
てみると

「俺たちはこの関係がベストなんだ。結婚もしないし、子供もいらな
 い。だよな?」
デビットがリサに確認を取るように話を振る。

「うん。結婚は私たちのスタイルじゃない。彼と毎日、自由気ままな
 生活、楽しく生きられればそれで十分」
とリサが答えた。

「そうか」
恋愛と結婚は別もの。
恋愛のゴールが結婚という概念には私も違和感を持っている。

当事者のデビットとリサが選ぶことだ。

自分たちにとって必要なものとそうでないもの。
彼らにはそれが分かっている。

「普通はさ」なんて言葉に振り回されず、自分たちを理解し、居心地
のよい生活を選んで生きている。

周囲がとやかく言う問題ではないのだ。


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数ヶ月後、2人は店を閉め、実家のある台北へ戻った。

デビットは台北市内にオフィスを構える不動産屋へ就職。

「台湾は退屈だ」と常々口にしていたデビットはその不動産会社の支店
があるカンボジアのプノンペンで仕事をすることに。

リサは実家に居候。
どうやら裕福な家の娘さんだったらしく、仕事をする必要はないそうだ。

3ヶ月に1度、デビットは台湾へ帰ってくる。
そしてリサと会い、1週間ほど一緒に過ごす。

私もデビットの帰国に合わせて台湾に飛び、彼らとの旧交を温めたりす
ることもあった。


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「カンボジアに来ない?」

ある日、デビットから連絡が入った。

「カンボジアかぁ~」
行きたいと思っていたけど、機会のないまま時間だけが経過していた。

プノンペンからアンコールワットのあるシェムリアップへ足を伸ばすのも
悪くないかな?

マイレージも溜まってるし、1週間くらいの予定を立ててみるか。

即決した。

成田からのチケットを買い、デビットが待つカンボジアへひとっ飛び。


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予定より早く空港に到着。
タイのバンコクほど乗降客がいないカンボジアの飛行場。
入国審査もすぐに終わり、待ち合わせ場所である空港入口でデビットを
待つ。

そして。。。。
「お~い!」
デビットだ!

うん?
かなり太っている!

「お~!元気だったかよ」と手を差し出すと
「ダイジョウブダ~」と例の変な日本語で手を握り返してきた。
数年ぶりの再会。

日本や台湾以外の国で会うのは初めてだ。

「太ったな~!」とデビットのお腹を軽く叩くと
「うん。こっちの飯、美味くてさ」と笑う大食いデビット。

「車、向こうに止めてあるからさ。とりあえず泊まる場所へ案内するよ」
「ありがとう」

ホテルはデビットが知り合いの所へ案内してくれるとのことで予約はして
来なかった。

空港の駐車場に止めてある古い日本車を指先したデビット。
「これ、買っちゃったよ」とニコニコしている。

日本大好きな彼はアメリカにルートを持つ現地輸入ディーラーにお願いし
アメリカで古い日本車を見つけてもらい、輸入してもらったのだ。

カンボジアはアメリカと同じ左ハンドル。
アメリカから輸入するのは手続きも簡単だったそうだ。

しっかしボロボロだ。
走るのかな?
エアコンは効くのかな?
途中でエンスト。。。車を押すなんてことは勘弁だ。

ちょっとだけ不安に思ったりもしたけど、意外と車は普通に走ってくれた。
妙な音がしていたけど。

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空港から30ほど走ると住宅街。

古い家と新竹の高層マンションが入り交じる街並み。
背の高い木々。
強い日差し。

タイとはまた違う東南アジア感。
この感じ、好きだなぁ~!


そして大きなマンションに到着。

ここがデビットの管理する物件。

部屋数は300ほどあり、住宅としてはもちろん、出張者向けに短期契約
を結べるようにもなっていた。

1階にはセキュリティと受付。
屋上にはプールとジム、そしてカフェが併設されている。

「こっちでは中流って感じの物件だよ」とデビット。
そして
「部屋、空いてるからさ。ここに泊まれば良いよ」

デビットもこのマンションに住んでいるとのことで、何か問題があればすぐ
にデビットと連絡が付く。

「お~。部屋も綺麗だし。いいね。1泊幾ら?」
「お金なんて要らないよ~。フリー。フリーだよ」

「タダって訳にはいかないだろう。会社の持ち物だろうし」
「実は俺の会社、カンボジアから撤退しちゃってさ」

「えっ?今はどうなってるの?」
「会社にコミッションを払ってはいるけど、この物件は俺が管理しているん 
 だよ。だから、どうにでもなる。友達から宿泊料なんて取れないよ」と笑
うデビット。

相変わらずだな~。

「もう少しで仕事も終わる。最上階のカフェで飯でも食べようぜ」
デビットはそう言うと私の荷物を持って部屋へ案内してくれた。

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案内してもらった部屋は広く、家具は完備され、wifiも飛んでいて快適な
環境だった。

また高層階にある部屋からの展望は朝も夜も美しかった。

「仕事は順調なの?」
デビットの仕事の事を聞いてみた。

「うん。お陰様で300室のうち80%以上がが稼働しててね。カンボジア
 を視察する台湾企業など大口の契約もあるし、収入は安定してる。もう台
 湾へは戻れないよ」

デビットは誇らしげに語った。

会社へのコミッションの支払いはあるものの、月収としては日本円で約30
万円。カンボジアで月収30万円の生活だ。

しかもオフィス、自分の部屋、友人を招くゲストルームは全て無料。

収入が多くコストは少ない。ある意味理想的な生活を送る事が出来ていた。

「ちょっと外を見に行こう。イオンモールもあるし、いろいろ見せたいもの
 もあるからさ」

そうデビットに促され、再びオンボロの輸入日本車に乗り込み、プノンペン
の街へ繰り出した。



つづく

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