台湾喜人伝 12話 デビット 2

2011年3月11日

私たち日本人にとっては忘れることの出来ない日

東日本大震災が発生した。

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震災翌日から台湾、タイ、ベトナムの友人や取引先から私や
私の家族の安否を確認するメールやラインが続々と入り出す。

海外でも大きく報道されていたようだ。

彼らの暖かい気持ちのこもった言葉に励まされた事は今でも
忘れない。

たくさんのメッセージの中にはデビットからのものも含まれ
ていた。

毎日ように「大丈夫か?」とのメッセージが入る。

海外の友達全員が日本の地理に詳しくはないので、私の住ん
でいるエリアがどこで、震災した東北にあるのか離れている
のか?
そんな確認も多かった。

そして。。。。原子力発電所。

海外、特に台湾では原子力発電所の被害とその影響に関して
連日トップで報道されていた。

「日本は放射能汚染が広がる」
「もう日本は終わってしまうのではないか?」

現地のニュースを見ながら、そう思った台湾の友人達も多か
ったようだ。

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日本での仕事が止まったまま数週間が経ったころ、デビットか
ら電話があった。

「本当に大丈夫なのか?日本の政府は原発の事を管理出来てな
 いって報道されてるけど」

「うん。いろいろと報道されているけど、俺たち日本人にもよ
 く状況は分からないんだよ」と答えると

「仕事は?仕事はどうなの?」心配そうなデビットの声。

「しばらくはこのままだね。被災地でもないから国からの援助
 は期待出来ない。まぁ、貯金がない訳じゃないから、しばら
 くは食っていけるけど。。。」

天災で長期間に渡って仕事が止まるなんて初めての経験だった
し、世の中は自粛ムードが広がり、一体いつから仕事が正常化
するのかなんて全く見えなかった。

「もしさ、もし、日本に住めなくなったらさ、台湾に来いよ」

「えっ?台湾に?」

「俺の家に住めばいいんだよ。リサも心配してるし、俺たちが
 面倒見るよ!」

デビットの力強い声が伝わってきた。

「面倒見るって。。。」言葉が出なかった。

「だって放射の汚染が広がったら、仕事どころじゃないだろ?」
「まぁ、そうだけどさ」

「俺の家に住むのに抵抗あるなら、俺がマンションかアパート
 を借りるからさ」

「いや、そんな。。。悪いよ」

「ダイジョウブダ~」デビットの変な発音の日本語が出て、ちょ
っと笑ってしまった。

「ハハハハ」
「ハハハハ」

「でもこれ、冗談でもなんでもないよ。すまないなんて思わない
 でくれ。困ってるんだったら甘えてくれ。俺たち、友達だろ」

もう涙が出そうだった。

そしてデビットの話は更に続く。

「仕事。台湾に来たら仕事も必要だろ?小さな店で良かったら、
 俺の名義で契約するから、何でも好きなもの並べて商売すれば
 いいよ。台湾人は日本のものが大好きだしさ」

デビットは住む場所の心配どころか、私が台湾へ行った際の仕事
の事まで心配してくれていたのだ。

「飛行機は飛んでるし、放射能も台湾までは来ないだろ。もし時
 間に余裕があるなら、また新竹に遊びに来いよ。そして俺の家
 に泊まって、今後の話をしようぜ」

先行きの見えない状況にイライラしていた私は、デビットが待つ
台湾へ飛んでみることにした。

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新竹に到着し、デビットの店に向かう。

良くお邪魔していたデビットの小さなサーフショップへ行くと、
私の姿を確認したリサが椅子から立ち上がり、大きく手を振って
くれた。

満面の笑顔で再会を喜んでくれ「元気だった。も~心配してたよ~」
と軽く肩を叩いた。

「お~!待ってたよ~!」
続いてデビットが店の奥から出てきて私を思いきり抱きしめた。
う~ん、男に抱きしめられるのはなぁ~と思いながらも、私も彼を
抱きしめた。

台湾では日本の状況を事細かに報道されており、デビット達は私と
ほぼ同等の情報を持っていた。

デビットの友達が買ってきてくれたお茶を飲みながら、しばらく話
をしていると、デビットが立ち上がった。

「行こう」
「うん?どこへ?」

「まぁ、いいから。リサも行こう。おい、ちょっと店番頼むよ」
とデビットは彼の友人に店番を頼む。

私とデビット、そしてリサの3人で新竹の道を歩いた。

久々に会う人たちが「お~!大丈夫だったの?良かった!」などと
気さくに声をかけてきてくれた。

笑顔で応対する私の姿を見て、デビットとリサも嬉しそうだった。

しばらく歩くと
「ここ」とデビットが小さな古い雑居ビルの前で足を止めた。

「うん?なに?」と私が聞くと。

「これ、店舗なんだよ。中、見てみる?」
そう言ってデビットはポケットから鍵を取り出してシャッターを持ち
上げた。


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ガラガラガラガラ。。。

やや重いシャッターを持ち上げると小さな店舗スペースが見えてきた。

外側も古いけど中もクタクタだ。

「オンボロだな~」と私が言うと
「ハハハハハ。仕方ないよ。相当古い物件だからさ。でも改装するよ。
 俺が金出すから心配しなくていいよ」

デビットが私の為に見つけてくれた店舗物件だったのだ。

「改装費。安くないだろ」と私が言うと
「日本の安全が確保されて、お前が帰国したら俺が2店舗目として使
 うからさ。俺に対する投資でもある。だから、心配しなくていいよ」

なんて奴なんだ。。。。

「上も見て見る?」
「上?」

確かに2階、3階もあるようだった。

店の裏側に階段があり、そこから2階へ上がった。

ドアを開けると小さな居住スペース。水道と台所も付いていた。

「もし、俺の家に住むのに抵抗があるようなら、ここに住めば良いよ」

「えっ?」

デビットの家に長期間住む事に遠慮がちな態度を見せていた私の為に
住む場所まで見つけてくれていた。

「契約するとしたらどうすれば良い?」
と私が聞くと

「ここの大家さん、俺の知り合いのおばさんなんだ。それに。。。」
「それに?」

「もう、借りちゃったんだ」
「借りちゃったの?契約しちゃったの???」
驚く私を見て大笑いするデビット。

笑い事じゃないだろう。

「今、商売も少し良い状況でさ。この雑居ビルを丸々契約しちゃった
 んだよ」

「でも、俺、台湾に来るかまだ決めてないぞ」
「ははははは!どっちでもダイジョウブダ~」
また出た、デビットの変な日本語。

「この部屋は誰かに又貸ししても良いし、下の店舗スペースは倉庫と
 して使っても構わないって大家さんからも言われたしさ」

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台湾人は友達と認めた相手とは徹底的に付き合う。
幸せも楽しさも苦しみさえも共有する。

結局、その後、日本での仕事が順調に回復し、デビットのお世話にな
ることはなかった。

彼との友情は震災後を機に更に深まった。

そして今でも連絡を取り合っている。

つづく










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