「俺たち、どうやって知り合って、なんでこんなに仲良くなった
だっけ?」」
「う~ん、覚えてないなぁ。。。」
私とデビットはいつもこの会話をして大笑いする。
出会ったのは2008年辺りだったような記憶がある。
でも、共通の知人はいない。
それが毎晩食事を共にし、夜中まで話し込む仲になっていた。
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デビット
豪放磊落で大食い。
バスケやサーフィン、日本の漫画やアニメも大好き。
友達からのお願いやお誘いはほぼ断らない。
身体が大きく、明るい性格なので、彼の周りにはいつも人がいて、
笑いが絶えなかった。
台北出身だが大学進学を機に新竹に住むようになり、卒業後も新竹
に残っていた。
彼は新竹でサーフブランドの衣料品を売る小さな店を経営していた。
自身もサーファーだ。
売っているのはアメリカの有名サーフブランド品。
なぜ彼が有名ブランド品の取り扱いを出来ているのか不思議だった。
「代理店と契約してるの?」と聞いたことがあった。
「いや。違うよ。俺の友達の親類が中国で大きな工場を経営してて
さ。アメリカの大手ブランドから受注して商品を生産してるんだ。
俺はその工場から商品を送ってもらってる。ブランドの連中には
内緒でね」と笑っていた。
ブランド会社も馬鹿ではない。
工場からの横流しが発覚すると別の工場での生産に切り替える。
しかし切り替えた新規の工場が元の工場の親類だったりする事が多
く、工場からは安定した商品供給という名の横流しが継続するのだ
そうだ。
本物の商品をアウトレット価格で売っていたが、新竹の人達の間で
はサーフブランドは定着しておらず、彼のビジネスは苦戦していた。
「売れないよ。でも、俺はこれが好きだからさ」
いつもそう話していたデビット。
そうは言っても店の家賃や光熱費を支払っていかなければならない。
困った時はどうするのか聞いたところ
「小さな商売だけどさ、時々日本に行くんだ。日本のフリマに行く
と古い日本製カメラのボディが20個で500円位で売られてて
さぁ。あんなの直せるからね。台湾には日本製の古いカメラを使
いたい連中が多い。俺は壊れたカメラを直して、彼らに売ってる
んだ。1台1万円位売れるんだよ」
20個500円で購入したカメラを1台1万円で売る。
凄い利益率だ。
しかし素人のデビットが修理したカメラってちゃんと作動するのだ
ろうか。。。。
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彼にはリサという彼女がいた。
大学の同級生。
出会ってすぐに意気投合、付き合いが始まり、すぐに同棲生活をスタ
ート。
普段は物静かだがコーヒーと椅子の話をしている時は身振り手振りが
大きくなり、まるで別人になる。
デビットを信頼し、いつも側にいるが、デビットの遊びに関してはつ
べこべ言わない。
デビットが他の女性の話をしている時でも、横でニコニコしながら話
を聞いている。
「どうせ私からは離れない」そんな余裕を感じさせた。
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「次ぎ、台湾に来るときは俺の家に泊まりなよ」
デビットがそう切り出してきた。
しかし彼はリサと同棲中だ。
「いや、いいよ。リサに悪いだろ」
と私が答えると
「そうよ。私たちの家、部屋が空いてるから、そこに着替えとか置いて
いっちゃってもいいのよ」
とリサが好意的に勧めてくれる。
台湾人と仲良くなると大体家に泊まれと言われるのだが、同棲中のカッ
プルの家に居候するのもなぁ~と考えてしまったけど、彼らのご厚意に
甘えることにした。
「もしよかったら、ホテルをキャンセルして今夜からウチに泊まれば」
「えっ?今夜?」
はっ、早いなぁ~
「大丈夫なの?」
「ダイジョウブ、ダイジョウブ、ゼンゼンダイジョウブダ~」
大学で1年間日本語を専攻したデビットは少しだけ日本語のフレーズを
知っていた。
「じゃあ、ホテルをチェックアウトして今夜からお世話になるよ」
「オッケー。チョットマッテテ」
そう言い残し、デビットはバイクでどこかへ行ってしまった。
デビットが不在の間、リサと話をしているとデビットが戻ってきた。
「はい、これ」
デビットの手の平には鍵があった。
「何これ?」
「ウチの家の合い鍵だよ。俺たちがいない時でも勝手に家に入って構
わないし、腹が減ってたら冷蔵庫のものを食べちゃって良いからね」
仲が良いとは言え、外国人の私に合い鍵。。。まぁ、それだけ信頼さ
れているということなのかな。
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大食いデビット。
台湾人は男性も女性も比較的よく食べる。
しかしデビットはその枠を越えている。
都市伝説レベルの大食いだ。
普段のお昼はマクドナルドでビッグマック2個とチーズバーガーや
その他のバーガー類、計4つとポテトを食べている。
そんな彼には時々更に大食いになる時がある。
以前、台湾の焼き肉食べ放題へ行ったときのこと。
時間無制限のお店で、3時間も焼き肉を食べ続けていた。
「はぁ~食った、食った!」
彼のお腹はぽっこりと膨らんでいた。
とにかく肉だけを食べていた。
ご飯や野菜は絶対に食べない。
「だって焼き肉を食べに来たんだからさ」
そう言ってデビットは笑っていた。
それはそうだけど。。。
そんな彼が日本に来た際、都内にあるイタリアンレストランへ行き、
90分の食べ放題コースをオーダーしたことがあるそうだ。
一つの皿にパスタを山のように盛り付ける。
その時点でお店側から「本当にそんなに食べる事が出来るのか?」と
聞かれたらしいのだが、いとも簡単に完食し、次の皿、そして完食、
また次の皿。。。
そんなことを繰り返していると、店のオーナーさんが出てきて「ノー
ノー!ストップストップ!」と英語で言われた。
「まだ40分しか経ってないのになぜ?」と聞くと
「こんなに食われたら店はたまったもんじゃない。お金は要らないか
ら返って下さい。お願いします」と頭を下げられてしまったそうだ。
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こんなデビットとの絆が深まる出来事があった。
まだ記憶には新しい「あの日」の事は絶対に忘れることは出来ない。
つづく