M 3


久々に台北桃園国際空港に落ち立った。

空港でタクシーに乗り込み、新竹へ向かった。

空港からタクシーを飛ばすと約1時間で新竹の街に着く。

ホテルで荷物を下ろす。

M達と会うのは翌日だ。

今日は新竹の街をブラブラしながら、知人達の店を訪れて
みよう。

身体が落ち着く前に着替えを済ませ、私は街へ繰り出した。

小さな飲食店の社長さんたち、ティースタンドの店員さんたちが
私の姿を見るなり「お帰り~!」と声を掛けてくれる。

「ただいま!」と返す私。
あれ?俺って日本人なんだけど。。。。(笑)

顔馴染みの焼き鳥屋の前を通る。
焼き鳥を焼いていた社長が私の姿を見るなり、こちらへ掛けてき
た。

「こんにちは社長!帰ってきたよ。今日も儲かってるんじゃない
 ?」と冗談交じりに挨拶すると
「おい。どうなってんだよ。あいつ」と社長がいきなり質問をぶ
つけてきた。

質問の内容を理解出来ない私は
「あいつって?」と逆に社長に質問をする。

「あいつってあいつだよ。Mだよ!」

この社長はクセが強いけど面倒見が良く、私はとても仲良くさせ
てもらっている。
でも、彼はMのことが大嫌い。

「M?何かあったの?」
「あいつの家、売りに出されてるぞ」

「えっ?そうなの?」
一瞬驚いたけど、Mとヒースはタイでの事業立ち上げに向けて動
いている。
もう台湾で大きな家に住む理由がないと判断したのだろう。
彼ららしい決断だ。
Mたちからはそんな話は聞いてないけど、多分、それが理由だろ
うと私は思った。

「そうなんだね。引っ越しでもするのかな?」
今後のMたちのプランをペラペラと話す訳にはいかないので、適
当に話をはぐらかす。

「あいつらの行動はいつも怪しいからな。今回も何か企んでいる
 に違いないんだよ。お前、いつも一緒にいるけど気を付けろよ
 な。あいつら台湾人の恥さらしなんだから」

焼き鳥社長がなぜこんなにMの事が嫌いなのかは分らないけど、
他にもMを嫌っている人をたくさん知っている。

彼らに共通しているのは「嫉妬」という感情のような気がする。

話に付き合っていると街歩きする時間がなくなるので
「社長、また新しい情報が入ったら教えてね。ちょっと女の子に
 会いに行く途中なんだよ」
と嘘をでっち上げて立ち去ろうとする。

「お前またこっちの女の子に惚れたのかよ!ちゃんと男と付き
 合える子を選べよな!」

人の古傷を。。。
「はいはい。今回は大丈夫だよ」
と手を振りその場から離れた。

「到着早々参ったなぁ~」
フレンドリーな台湾人。
でも、ちょっとグイグイ感があり過ぎるので、時々疲れる。

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市内にある日系デパートの前に到着。

デパート1Fにあるスタバでお茶でもしようかな?
そう思った時だった。

「あ~!お久しぶりです!」と声を掛けてくれたのはジョージ。

俳優のムロツヨシに似た顔でいつもニコニコしている。
穏やかで優しく、とても気を配ってくれ、礼儀も正しい好青年。

彼はMが経営する直営店で働いている。

「お~!ジョージ!久しぶり!元気だった?」
「はい。お陰様で」とニコニコ。

「休憩中?」
「いえ、今日は休みなので街をブラブラしてるんです」

「そう。良かったらスタバ、付き合わない?」
「えっ?いいんですか?」

「いいよ。もちろんだよ」
「でも、スタバは高いから、あのカフェでどうです?」
とデパート近くにあるローカルな、でもちょっとオシャレなカフ
ェを指さすジョージ。

「オーケー!良い感じのお店じゃん」
「はい。あの店ならスタバの半額でコーヒーが飲めるので」

堅実なジョージは見栄っ張りなところがない。
スタバに入れば私がジョージの分まで支払う。
その負担を掛けたくない。
そんな心配りが出来るのがジョージなのだ。

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オシャレカフェ内に入り、席に付く。

ホットカフェオレを2つオーダーした。

「元気そうだな。ジョージ。変わりない?」
「はい。元気でやってます」とニコニコ。

「仕事の方は?そろそろ店を任される頃なんじゃない?」
好青年ジョージは20代後半。
バイトから入社してそろそろ4年目。

スカイからは「ジョージは仕事が出来る」と聞いているし、私の知人
たちからも「ジョージの接客は丁寧。まるで日本で買い物をしている
気分になれる」と聞いていた。

そろそろ年齢と実績に見合ったポジションが必要な頃だろう。

改めてジョージに目を向けると、目線を落とし、顔からは笑顔が消え
ていた。

「どうした?ジョージ?悪いことでも聞いちゃったかな?」
Mの会社と社員のこと。
外国人の私が口だしすることではない。

安易な行動だったかも知れない。。。

「実は。。。あなたにこんな話をして良いのか分らないのですが。。」
そこまで言って、口を真一文字に閉じたジョージ。

「うん?どうした?仕事のこと?」
「はい。。。」

「俺じゃ役に立たないだろうけど、話を聞くくらいなら。。。話して
 みろよ」
「はい。でも。。。でも、この話はまだ内緒でお願いします」

「もちろん。俺を信用して話してくれるんだろ?誰にも言わないさ」
「はい。ちょっと愚痴っぽい話になるのですけど。。。」

「うん。いいよ」
「実は仕事を辞めようかと」

服と接客が大好きなジョージ。
でも、30歳を目前にして自分の中で限界でも感じたのだろうか?
将来を考えてオフィスや工場で働く道を模索し出すタイミングなのか
も知れない。

しかし、ジョージからは意外な事を知らされた。

「実は。。。お給料が。。。」
「給料?ジョージの給料?」

「はい。。。2ヶ月ほど貰えてなくて。。。」
「えっ?給料が出てないの?」

「はい」
「Mとは? Mとは話をしたの?」

「はい。でも、何度聞いてももう少し待ってと言われるだけで。。。」
「本当かよ?」

「はい。そうなんです」
「他の社員やスタッフ達は?」

「貰えてる子とそうでない子がいて。。。そうでない子はもう何人か
 店を去ってしまってます」

どうなってるんだ?
ジョージの話を聞きながらもジョージの話がうまく理解出来ない。
頭が混乱している。

事業をタイに移すから、台湾の事業を縮小していく気なのか?
でも、こんなやり方って。。。でもMなら。。。やりかねないな。

でも待てよ。
台湾の事業がスカイに引き継がせ、継続すると話していたよな。。。

頭を抱えるジョージを見ながら、Mへの不信感が改めて頭を持ち上げ
てきた。

その一方で
「今、ジョージから聞いている話は嘘であって欲しい」
と願う私もいた。

つづく

M 2


Mとの再会。

たった数ヶ月時間が空いただけだったけど、随分時間が経過して
いたように感じた。

Mの存在感。
当時のMと私の距離感がそう思わせたのかも知れない。

再会の場所はタイの首都バンコク。

まさか彼らがバンコクまで来るなんて。

しかもバンコクで仕事を立ち上げるつもりらしい。

ヒースからのメールには
「現地の工場や材料調達先、海運会社。将来的には現地法人を立
 ち上げる予定なので、可能であれば弁護士など、現地の法律に
 詳しい人間を知っていたら紹介して欲しい」
と書いてあった。

まだ具体的な案はないようだけど、今回の出張でトライアル的に
何かを仕入れて台湾へ送ってみることも考えているようだった。

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待ち合わせ当日。

私はMとヒースが宿泊しているバンコク市内にある米国系ホテル
へ向かった。

Mとヒースにとっては初めて訪れるタイのバンコク。

交通網が整理されている大都市とは言え、移動に関しては不安が
あったのだろう。ホテルまで迎えに来て欲しいとの連絡があった
のだ。


ホテルのロビーに入ると、椅子に座って英字新聞を読んでいるヒ
ースが目に入った。

ヒースに向かって歩き出した私。
その気配に気が付き、顔を上げたヒース。
ニッコリとした笑顔で手を上げ「元気だったか?」と声をかけて
くれた。

「久しぶりだね、ヒース。ありがとう。元気だったよ」
「そりゃ良かった。Mも来たよ」とエレベーターホールを指差す
ヒース。

我々に気付いたMが笑顔でゆったりと歩いてくる。

立ち上がってMを迎える私。。。と突然、Mが抱きついてきた!

「なっ!なんだよM!どうしたんだよ?」と驚く私から身体を
放して、「久しぶり!」と嬉しそうな笑顔を浮かべたM。

そこにはもう雑貨屋で出来てしまったわだかまりのようなものは
消えていた。

と言うか、Mのペースに乗せられているだけなのか?

「元気そうじゃない?」とM。
「あぁ。ここバンコクに来ると元気が出るんだよ」

「うふふ。こっちに可愛い彼女でもいるんじゃないの?」
「まさか」

「バンコク。綺麗な女性が多くてびっくりしたわ」
「でしょ?」

「オフィスを開いたら可愛い女性を雇って、あなたに紹介するわ」
「本当?じゃあ、すぐに会社を設立しないとね」

そんな会話を楽しむ私とMを笑顔で見つめているヒース。

いつもと変わらない会話。
笑顔と笑いが絶えないいつもの3人組。

懐かしいなぁ。。。この感覚。
そう思った。

けど。。。
「ねぇ、2人とも少し痩せた?ちょっと疲れているような感じだ
 けど。。。もしかしてタイの食事が合わないとか?」
「タイの料理は大好きよ。昨日も屋台でタイ料理を食べたんだか
 ら」

「そう。それは良かった。仕事、忙しいの?」
「あぁ。台湾の仕事はとても良い感じだ。その中でタイでのビジ
 ネスを進めたい。仕事をしながら市場調査などもしていたし、
 今後はスカイを社長に据える予定だから、その引き継ぎなども
 しなければいけなくてね」
いつもの冷静な口調でヒースがそう説明してくれた。

「そりゃ大変だったね。今回は少し休めるの?」
「えぇ。そのつもりよ。だから携帯はオフにしておくのよ」とM。

「大丈夫なの?」
「もうスカイが現場を指揮してるわ。朝晩、スカイがメールで報
 告メールを送ってくることになっているわ。大丈夫。久々にヒ
 ースとバケーションを楽しむわよ」

「分った。じゃあ、市内を案内するよ。時間がない。行こうか!」
と立ち上がった私。Mとヒースも腰を上げて続いた。

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アメリカや日本の若者向けブランドを輸入し、販売しているMたち。

タイから雑貨や衣料品を輸入している私のビジネスとは全く違う分
野になる。

3日ほどかけて私の仕入先や仲の良い現地の友人達を訪れた。

海運会社は普段ヒースが関係している関係者からタイ国内の業者を
紹介してくれたようだ。

現地法人化に詳しい知人(日本人)がいたので、彼を紹介したりも
した。

日本人である私。
台湾人のM。
アメリカ人のヒース。

そして打ち合わせの相手はタイ人。

こんな日常を過ごすことになったら、これはこれで面白そうだな。
そう思った。

インターナショナルで刺激的な数日間だった。

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「ヒース。どう?ビジネスになりそう?」
「あぁ。まだ台湾国内のマーケットを調べる必要があるけど、何
 か出来そうな気がするよ」

「そう。良かった。何かあったら手伝うからさ。何でも言ってく 
 れよ」
「あぁ。そう言ってくれると嬉しいし、頼もしく感じるよ。あり
 がとう」

少しやつれた表情が気になったけど、タイでのビジネスに期待を
抱いている様子のヒース。

Mは仕入先を歩き周り、少し疲れたようだったけど、仕事の後は
ショッピングを楽しんでいた。

買いすぎた服やアクセサリー。
とてもハンドキャリーじゃ運べない。

現地で買い付けた荷物と一緒に航空便で台湾の自宅へ送る手配を
済ませた。

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帰国前日。
ホテルでのディナー。

「今夜はたくさんお食べなさい」とM。
「ありがとう。でも、もうそんなに食べられないよ」と笑う私。

バンコク市内を駆け回った数日間。
とても充実した時間だった。

リラックスしながら食事を済ませ、綺麗なカフェに移動してゆっ
たりとした時間を過ごしていた。

「来月か再来月。時間が出来たら台湾へ行くよ」と私が言うと
「いいわ。でも、こっち(バンコク)での再会でも良いんじゃ
 ない?」とM。

「そうだね。でも、夏が過ぎると仕入れるものがないからさ」
「そうなの?」

「うん。日本には冬があるけどタイは常夏の国。合う商品が少
 ないからさ」
「そうなのね」

「だから久々に台湾へ行こうと思う。俺もバケーションしたい」
「うふふ。そうね。今回は私たちの事に付き合わせてしまった
 ものね」

「気にしないで。俺たちの仲だろう。それは気にしなくて良い
 よ」
「ありがとう。頼りになるわね」

笑顔でM、そしてヒースと握手を交わす。

3人とも、とてもリラックスした良い笑顔だった。

日が沈み、涼しい風がバンコクに流れていた。



つづく




M 1

「ねぇ。あたながタイへ行くのはいつ? 予定はあるんでしょ?
 私とヒースを案内なさい」

突然掛ってきた国際電話。
こんな唐突な話を切り出すのは。。。そうMだ。

案内なさいって。。。そんな頼み方があのかよ!
と内心ムッとした。

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Mとは数ヶ月連絡を取り合っていなかった。

Mが途中で放り投げてしまった雑貨屋とキャンディの事で言い合いに
なってしまい、少し距離が出来てしまっていた。

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キャンディが警察に連行されてしまったと聞いたあと、私はMの携帯
へ電話した。

Mは何事も無かったかのような口調で
「時間を作るわ。食事しながら話をしましょう」
とディナーをしながら話をすることになった。

場所はホテル内にあるレストラン。

キャンディと初めてランチした、市内にある外資系ホテルのレストラ
ンだった。

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「M、なんだよ。あれじゃビジネスにならないじゃん!全然連絡取れ
 ないし、仕事はほったらかし。キャンディの事も全然面倒見なかっ
 たんだろ?」

やや強い口調で私はMを問い詰めた。

「キャンディねぇ~。私も見る目がなかったわ。あんな馬鹿な子だと
 は思わなかったわ。あなたにも迷惑をかけたわね」

「そうじゃないだろう!キャンディはちゃんと仕事をしていたんだよ
 !店をほったらかし、売れている商品の手配もしない。あのアパレ
 ルブランドだった、もう少しで口説けた筈だよ。これまで協力して
 くれてた日本企業にもどう説明したら良いんだよ。出来ないなら出
 来ないって」

そこまで言って時だった。

バシーン!

Mがテーブルを強く叩き
「おだまりなさい!ここは台湾よ。そして私はM。外国人のあなたに
 何かを言われる筋合いなんてないわ」

腹が立った。

ヒースの反対を押し切り立ち上げた事業。

販売員としての人気と地位を確立していたキャンディに声をかけたに
も関わらず、彼女の人生をぶちこわしてしまった責任を感じてないと
いうのか?

キツい目で私を睨み付けるM。
私も視線を外すことなく睨み返した。

私のことはともかく、キャンディの人生をぶちこわしておいて、彼女
を馬鹿扱いしたMが心底憎らしかった。

自分の事を押えられず、何かを言おうとした瞬間だった。

「そこまだにしろ!」
今度はヒースがテーブルを叩いた。

初めて聞いたヒースの大声だった。

「今回の件は申し訳なかったよ。Mは。。入院してたんだ。過労が原
 因で倒れてしまったんだよ」

ヒースが連絡が途切れ途切れだったことや仕事を進める事が出来なか
った事を詫びながら、当時の状況を説明してくれた。

そしてキャンディに対しては自分の責任を認め、訴訟は起こさず、穏
便に済ませることを約束してくれた。

怒りの炎で燃えていた私の心が静まっていく。
Mの表情も少し緊張から解放された様子だった。

「じゃあ、そう言ってくれれば良いのに」と私が言うと
「私が倒れたなんて言える訳ないわ」とMが反論。

少し冷静な口調で
「キャンディの事を馬鹿だなんて言うもんじゃないでしょ。Mの話に
夢を乗せて移籍してくれた子を。。。馬鹿だなんて」

「我慢が足らないのよ。台湾人の悪い癖だわ」とM。
「私の評判をどうしてくれるのよ。あの子のせいで私のプライドが傷
 ついたわ。この顔に泥を塗ったのよ」と続けたM。

「Mのプライドの問題じゃないだろ!これはビジネスだろ!自分の事
 ばかりじゃなく、従業員やスタッフ、関係しているパートナーたち
 の事も考えてくれよ!」
と再び私はヒートしてしまった。

Mは自分の指で耳を塞いで目を瞑った。
私の話は聞きたくない。。。という意思表示なのだろう。

Mの子供じみた態度には本当に腹が立ったけど、もう感情を言葉にす
ることは止めた。

何を言っても無駄だ。
そう感じた。
そしてMに対して失望した。


入院していたならそう言って欲しかった。
「台湾に来て手伝って欲しい」そう言ってもらえたなら、私は喜んで
台湾へ飛んでいただろう。

Mの店舗でキャンディの後方支援くらいは出来た筈だし、入院中のM
や看病をしていたヒースと連絡を取り合いながら、日本へのオーダー
も進められた筈だ。

すでに無くなってしまったビジネスだけど、やり切った感覚がないま
まに終わってしまった仕事に未練を感じていた。

反面、Mが途中で仕事を放り投げた訳ではないことが分かり、少し安
心した。

クセのあるMだけど、信頼はしていたし、尊敬もしていた。

でも、その日はお互いに強い口調で言い合ってしまい、ギクシャクし
た空気の中で食事を済ませ、別れてしまった。

それから数ヶ月、お互いに連絡を取り合うことはなかった。

もう会うことはないかも知れない。
まぁ、それならそれでも良いかな。。。と思いながらも、ヒースから
のメールやMからの電話を待っていた。
心の片隅で。。。


そこへ掛ってきたMからの電話。

Mに対する反発と懐かしさが心の中で巻き起こった。

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「タイへ?タイへ何しに行くの?バケーションのお伴ならお断りだか 
 らね」と言うと

「何馬鹿な事を言ってるの?仕事よ」とM

「仕事?タイで何をするの?台湾の仕事もあるだろ?」
「台湾の仕事はもちろん継続するわ。でも、私とヒースはこの台湾マ
 ーケットからは一線を引くわ」

「会社はどうするの?」
「継続するわよ。スカイの事、覚えてるでしょ?彼はもう立派に成長
 した。彼を社長にして国内のマネジメントを任せるのよ。そして私
 とヒースは東南アジアにその拠点を移し、新しいビジネスにトライ
 するのよ」

スカイ。
Mの会社で営業を担当している社員。
若手のまとめ役。
従業員からの信頼はもちろん、取引先からの信頼も絶大だった。
あいつなら出来るだろう。
もしかするとM以上に会社を大きくすることが出来るかも知れない。


「新しいビジネスって。。。」
私の脳裏にはあの雑貨ビジネスの事が過ぎった。
入院していたとは言え。。。出来るのかよ?
と思う反面、Mなら何かやってしまうかも知れない。
そう思わせるだけのカリスマ性がMにはあった。

「とりあえず俺に出来ることなら何でも協力するけど。。。来月タイ
 へ飛ぶ予定があるから、予定を合わせてもらえるなら。現地集合で
 良いでしょ?」
「もちろんよ。詳細はヒースにメールさせる。あなたのスケジュール
 をヒースにメールして。すぐにチケットを取るわ」

「あぁ。分った。ヒースには連絡しておく」
「うふふ。ありがとう。やっぱり頼りになるわね。私たちのビジネス
 に興味があれば協力しなさい。今度はちゃんと儲けさせるから」

「話半分に聞いておくよ。現地では俺も仕事があるんだから、そこは
 理解してくれよ」
「もちろんよ。でも、あなたの仕入先を一緒に回りたいし、現地の製
 造業や海運会社なども紹介して」

「タイからの輸入を考えてるってこと?」
「現地での生産も含めて、タイでの展開を考えてるのよ」

まだ具体的な事が思いついていない様子。
まずは現地を見て「出来る」「出来ない」の判断をするのだろう。

「分ったよ。タイの仲間や仕入先は紹介する。でも、絶対に彼らに迷
 惑をかけないでくれよ」と念を押すように言った。

「迷惑って何よ。私を誰だと思ってるの?」と冗談交じりに返してき
たMだった。

「ははは。Mは変わらないな」
「そうよ。私はわたし。変わりようがないわ」
相変わらずのM。

短いやり取りだったけど、少しだけ以前の関係に戻れたような気がし
た。

Mの話に飛びつくことはないし、パートナーシップを結ぶにしろ、前
回の経験から少し慎重に、そして距離を取りながら関係を維持してい
こう。これから先、また良い話、良い縁に恵まれたなら、その時はま
た改めて、パートナーとして一緒に仕事が出来れば良いのだから。

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そして翌月。

私は日本から。
Mとヒースは台湾から。

待ち合わせ場所であるタイの首都バンコクへ飛んだのだ。

つづく



キャンディ 4


待望の新規事業を立ち上げたM。
そしてMが語るビジョンに夢を見たキャンディ。

しかし事態は思わぬ方向へ。。。。

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まさか、あのキャンディが。。。。

ニッキーからの説明を聞きながら
「お願いだから夢であってくれ。。。」

そう思ったが、現実は現実だ。
起きた出来事は変えようがない。


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Mの新規事業が立ち上がり、商品の手配が十分でないにしろショップが
オープン。

最週の売上は想像以上だった。

Mはカリスマ経営者。
キャンディはカリスマ販売員。

街ではちょっとした有名人だった彼らが一体何を立ち上げるのか?

2人の心棒者、ファンたちの間で大きな期待が膨らんでいく。

オープン当日と2日目は
Mや彼女のオフィスに勤務する内勤スタッフがヘルプしないとお客さん
に対応出来ない。まさに活況を呈していた。

3日目。4日目。
売り切れる商品が出てくる。

キャンディは店の状況を逐一Mへ報告し、売れ筋商品の追加をお願いし
ていた。

「分ったわ。すぐに動くから。商品が来るまで頑張って!」
当初はMもそう対応していたようだ。

5日目。6日目。
店内の売場がガラガラになってくる。

しかし相変わらず訪れるお客さんの数は多く、噂を耳にした人達も大勢
押し寄せていた。

携帯で撮った写真を見せながら
「同級生の子がここで買ったって教えてくれたんです。同じもの、あり
 ますか?」と笑顔で買い物に来てくれる学生たちも多くいた。

「キャンディ。早く日本の服が見たいわ。中国の偽物じゃなくて、本物
 の日本の商品なんでしょう?お薦めの服があったら、私、試着したい 
 !」
そんな言葉を掛けてくれるキャンディのファンも多かった。

その度に
「ごめんね。衣料品の入荷が遅れてるの。でも、デザインはもちろん、
 品質も佳い日本からの商品が入ってくるの。もう少し待っていて」
丁寧に、そして笑顔で接客するキャンディ。

代わりに店内にある雑貨を勧めたりして、売上に貢献していた。

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2~3週間が経過した。
雑貨の再入荷もなく、衣料品も入って来ない。

「キャンディ。日本からの服はまだ。。かな?」
「キャンディのオススメの服を買いたかったけど。。。」

そんな声に対応する日々がキャンディを苦しめていく。

たくさんのファンの期待に応えなければ。
来てくれたお客さんを満足させて帰してあげたい。

日に何度もMへ電話をした。
とにかく急いで欲しい。

「分ったわ。もうすぐだから」
と最初のうちはそう対応していたMだったが、電話に出る事が少なく
なり。。。ついには何度電話しても無視されるようになった。

毎日来店してくれていたキャンディのファンたちも徐々に顔を見せな
くなっていく。

ガラガラになっったままの店。
遠のく客足。
落ちていく売上。。。


開店後1ヶ月も経過していないにも関わらず、廃業寸前のような状況
になってしまっていた。

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そして悲劇が起きてしまう。

当日はキャンディと2人の学生バイトが店で勤務していた。

面倒見の良いキャンディはバイトにも優しく接していたが、その日は
笑顔がなかった。

様子がおかしいなと思いつつも、ガラガラになった店内の掃除を終え、
すっかり客足が遠のいてしまった店内で雑談を始めたバイトたち。

その時だった。

「もういい加減にして!」
大きな声で叫び声を上げたキャンディがレジを叩き始めた。

一瞬、目の前で何が起きているのか理解出来ずに立ちすくむバイト2
人。

怖い。怖い。怖い。怖い。
恐怖から身体が動かなくなっていた。
ただ、鬼のような形相でレジを叩きまくるキャンディを見ているしか
なかった。

しばらくレジを叩いていたキャンディの動きが止まる。

そして毎日出勤時に持ってきていた自分のバッグを開けた。
次の瞬間、キャンディの手に握られていたのはナイフだった。

キャ~~~
その場に座り込み、叫び声を上げるバイトたち。
もう動くことは出来なくなっていた。

ナイフを手にしたキャンディがナイフを見つめながら
「私の。。。私の服はどこなのよ!」

次の瞬間、大きくナイフを振り回し始めた。

その恐怖に再び叫び声を上げたバイトたち。

「さぁ、どこなのよ!私の服。服を出しなさい。今すぐに、今すぐ
 ここに持って来なさい!私の服を持って来いって。。。言ってる
 のよ~!」

そう叫びながら鬼の形相をしたキャンディが店内にある雑貨を切り
刻み始めた。

商品が、そして店舗が破壊されていく。。。

「おい!何やってんだ!」
バイトたちの叫び声を聞きつけた屋台のおじさんたちが店に来る。
「危ない!危ないだろ!ナイフを置け!」

キャンディを説得しようとするものの

「私の服は。。。。どこなのよ~~!!」

そう叫びながら店の商品を切り刻んでいくキャンディ。
おじさんたちの声はキャンディには聞こえていないようだった。

店にあった商品の半分ほどを切り刻んだところで、キャンディの
動きが止まり、その場に座り込んでしまった。

手にはまだナイフが握られていたが、もう力は抜けていたようだ
った。

そして
「私の。。。私の人生を。。。どうしてくれるのよ。。。」そう
言ってから号泣し始めたキャンディ。

その姿を見て、恐怖に怯えていたバイトたちも鳴き出した。
近くにいて、キャンディの苦労と苦悩を見てきた彼らだ。
心情を察したのだろう。

誰かが通報したのだろう。
やがてパトカーがやってきた。

警察官にうながされ、パトカーに乗るキャンディ。

街で人気のカリスマ店員キャンディが警察署に連行されていく。

そん姿、想像したくもなかった。

好条件だったとは言え、Mの語った夢に自分の夢を重ね、仕事を
辞めてまで移籍してくれたキャンディ。

それがどうだろう。

店がオープンして1週間も経たずに店はガラガラ。

毎日期待を胸に店を訪れてくれるお客さんたちには謝るばかり。

期待に応えられない自分。
期待を裏切ってしまっている自分。

そんな自分に絶えられなくなっていたと思う。

悔しかっただろうな。

悲しかっただろうな。

もう少し早く私が台湾に来る事が出来ていれば。。。こんな状況は
避けられたかも知れない。
そう思ったりもした。

ガラガラの店内。
店のあちらこちらにはナイフで切りつけられた小さな傷が残ってい
た。。。。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

2年ほど経過したある日。

私は台湾のとあるデパートに入ってブラブラとしながら時間を潰し
ていた。

そして。。。。「!」

キャンディだ!

キャンディを発見した。

デパート内の女性服売場で楽しそうに働いているキャンディ。
笑顔はあのときもままだ。

声をかけたら当時のことを思い出させてしまうかも知れない。
そんなためらいもあったけど、挨拶だけでもしておきたい。

そう思った私はキャンディ近づいて行った。

私の姿に気が付くキャンディ。
一瞬、目を背けたけど、笑顔で「ハロー」と手を振ってくれた。

「久しぶり。元気だった?」
「はい。お陰様で」

「今はこの店で働いてるんだね?」
「はい。もう半年くらいになります」

「こんな話をすると。。。。何て言ったら良いのかな。。。あの
 時は本当にごめんね」
「いいえ。あなたの責任ではないですよ」

「そう言ってくれると。。。助かるよ」
「私も大人気なかったなって。。。ダメですよね」

「そんなことないさ。あんなことされたら、誰だった頭に来るさ」
「ありがとうございます」

「このお店は働き易い?」
「はい。毎日新作の服が入ってきますし、当時のお客様たちも少
 し大人になったのでデパートで買い物をするようになっていて、
 私に会いに来てくれるんですよ」

「へぇ~!それは凄いなぁ~。当時のお客さんとも良い関係のま
 まなんだね」
「はい」

「さすがだよ、キャンディは」
「いいえ。みなさんのお陰ですよ。ここの社長さんもとても良い
 人で、私たちスタッフをとても大切にしてくれます。それもこ
 れも、あの出来事を経なければ。。。ようやくそう思えるよう
 になっったんです」

多少の傷は残っているだろうけど、笑顔でそう話してくれたキャ
ンディの姿を見ることが出来て嬉しかった。

どんな人間にでも良いときもあれば悪いときもある。

傷を傷のままにして過ごすのか?
ひとつの学びとして次のステージへ活かす事が出来るのか?

綺麗な女性から綺麗で強い女性へ。。。彼女の成長を感じた。

おわり


キャンディ 3

新規事業を立ち上げ、店舗を確保し、アイコンになるスタッフ、キャンディ
の協力を得る事が出来た。

やや後手後手ではあるけれど、動き始めたMのビジネス。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「はい。そうなんです。是非、御社の商品を台湾で販売させて欲しいんです」

Mからリクエストを受けて交渉を進めている女性衣料品ブランド。

当初は興味がないとの返答ばかりだったけど、何度もコンタクトを取りつづ
けているうちの担当者との会話もスムーズに出来るようになってきた。

そして
「分りました。再度上席に報告、検討させていただきます。台湾ですかぁ。
 実はアジア圏からの引き合いは初めてでしてね。社内にも詳しい者がいな
 いもので。。。」

「もしご都合が合うようでしたら、私がアテンドしますので是非視察にでも
 行ってみませんか?」
「ははは。そうですね。この場では返答出来ませんけど、食事も美味しそう 
 ですよね。その際には宜しくお願い致します」

「はい。是非案内させて下さい。美味しい店を知ってますので!」
「ありがとうございます。では、また後日連絡させていただきます」

「ありがとうございます!」
そう言って電話を切った。

すぐさま台湾のヒースにメールして状況報告。

今頃は店舗の内装工事が終わり、オープニングに向けて準備が進んでいる事
だろう。

Mからは日本のメーカーが製造する雑貨や玩具のオーダーがあった。
アイテム数が少ないのが気がかりだけど、格好だけは付くだろう。

そして女性衣料品ブランドが店内に並べば、店の印象ががらりと変わる。

胸が躍った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

一方で気になることもあった。

ビジネスに関してキッチリとしてるヒースからの連絡が遅いのだ。

「タバコの吸いすぎで調子が悪いのかな?」

ヘビースモーカーで体重も増えつつあったヒース。
病院で薬を処方してもらっている事は知っていたので、少し心配だ。

Mのビジネスはヒースとの両輪じゃないと成立しない。

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待てど暮らせどヒースからの返事はない。
時々、Mの携帯へ電話を掛けると

「商品の件でしょう?分っているわ。すぐに追加のオーダーをするから
 もう少し待っていて」

毎回そう答える割にはなかなかオーダーが来ない。

そんなある日、ヒースからの返答が来た。
「先日、店をオープンさせることが出来た。かなりの評判だよ」

普段と比べるととても短いメールだった。

売れているのなら商品を追加しなくて良いのか?
そんなメールを折り返し送ったが、返事はなかった。

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別件で台湾へ行く用事もあり、日程をヒースにメールした。

「分った。待っている」
またも短いメールが返ってきただけ。

ビジネスは大丈夫なのか?

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台湾へ到着した私はすぐさまMの店がある街へ向けて、空港から焚くしーに
飛び乗った。

何かが起きているに違いない。。。
一体、どうなっているのだろう?

高速道路を飛ばして役1時間。
目的に付いた。

ホテルでチェックインを済ませて、身軽になってからMの店に向かうつもり
だったけど、すぐにでも確認したかった。Mの店は大丈夫なのかを。。。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

店の前は普段通りの人の多さ。

放課後、学校帰りの学生たちで賑わい始めていた。

いつもの景色に少し心が落ち着いた私は荷物を背負ったまま店に入る。

「いらっしゃいませ」
アルバイトらしく2人の女の子。
私の顔をみるなり、驚いたように目を大きく見開いた。

そして、そのうちの1人がレジにいる女性スタッフに声を掛けた。

キャンディ。。。。じゃない。。。ニッキーだ。

ニッキーはMの会社で営業を勤めている女性スタッフ。

なんで店舗にいるんだ?

「あれ・ニッキーじゃん!」

「あ~!お久しぶりです~!! あれ?今日からですか?」
「あぁ、そうだよ。Mから聞いてなかった?」

「はっ。。はい。。。何も。。。」
ニッキーはそう言ってうつむいた。
いつも元気なニッキーなのに。。。どうしたんだ?

ニッキーの態度が気になりながらも店内を見渡す。

2人のバイトはやる気なさそうにおしゃべりをしている。

表の通りにはたくさんの人が歩いているのに、店内にいるのはニ
ッキーとバイトの2人、そして私だけだった。

ヒースからのメールでは店の売上は上々。
店内には常にお客さんがいると報告があったけど、そんな雰囲気
は全くなかった。

そして気が付いた。
店には商品がほとんど。。。。ない。

「ねぇ、ニッキー。商品、商品は?」
「あっ。。。はい。。。もう売れてしまって。。。残っているの
 はこれだけなんです」

「これだけって。。。。Mには売上を報告してるんでしょう?」
「はい。。。報告は。。。しているんですけど。。。」

「俺のところにかMからのオーダーが来てないよ」
「えっ?そうなんですか?」

「そうだよ。最近、ヒースからの連絡もないしさ。一体、あいつ
 ら何を考えてるんだよなぁ」
そう冗談交じりに言いながら、ニッキーやバイトの2人に視線を
送った。

この異様な光景を信じたくはない。。。そんな心理が働いて冗談
っぽい口調になったのかも知れない。

「なぁ、ニッキー。状況を全部俺に話してくれないか?俺があい
 つらに話をしてオーダーを急がせるから。商品がこんなに少な
 いんじゃ、お客さんが来ても買うものがないもんね」
「そう。。。ですね」

それからニッキーが話し始めた内容は。。。

オープン当日と2日目。
街中の話題をさらうかのごとく多くの人が押し寄せた。
棚の商品が次々に売れていく。
ストックから商品を補充するのが大変で、Mの会社の社員が休日
返上でヘルプに来たほどだったという。

もちろん、Mもスタッフたちと共に接客販売に参加。
元々は街のジーパン屋で小売りをしていたM。
口達者で販売の仕事も大好きだ。

Mに心酔する若い女性たちも多く、多くのMファンが来店してく
れたようだった。

そしてキャンディ。
彼女も街では名の知れた人物。

彼女が移籍した店で何やら新しい事が始まる。
キャンディの友人やファンの期待感が口コミを通して街中に知れ
渡っていたので、店の中は人でごった返していた。

1週間もすると売り切れになる商品が出始めた。

キャンディやバイトたちが商品をリピートして追加して欲しいと
Mに連絡する。

売上を上げたい!

台湾では販売金額に対する歩合が発生する契約が多く、毎日少し
でも多くの売上を上げて、得られる給料を上げていきたい。

それがモチベーションとなる。

しかし。。。待てど暮らせど商品は入ってこない。

キャンディは何度も何度もMに電話を入れていたが、商品が追加さ
れることはなかった。。。

「私はMさんとあなたの間に何か問題があって関係がこじれ、それ
 で商品が入って来なくなったのだとばかり。。。じゃあ、Mさん
 との関係は特に問題ないんですね?」とニッキー。

「あぁ、何も問題はないよ。ただ、オーダーが来ないからさぁ」

そこで気が付いた。

キャンディの姿がないことに。

「ねぇニッキー。キャンディは?今日は休みなの?」
「キャンディですか。。。」

「うん。彼女、日本の服を売りたがってただろ?話を進めるのに時
 間が掛ってたんだけど、何とかなりそうなんだよ。今日は彼女に
 その話も報告したいと思ってたんだ。今日が休みなら構わない。
 明日にでもまた店に顔を出すからさ」

日本の服を売る為にMが引き抜いたキャンディ。
キャンディもMの熱意と仕事の内容に興味を持って、働いていた店
を辞めてまで移籍してくれている。

早く彼女に服を売ってもらいたい。
雑貨も好きと話していたけど、彼女が1番輝くのは衣料品を販売し
ているときだろう。

「キャンディは元気?早く会って話をしたいよ」

しかし。。。ニッキーから聞いた話は。。。。

つづく

キャンディ 2

日本から衣料品や雑貨を輸入して販売する計画を進めるM。

そのビジネスのアイコンとして街でも有名な女性をヘッドハンティング
しようとアクションを起こす。

Mとその女性と私はあるホテル内にあるレストランでランチをすること
に。

さて、Mはその女性を口説けるのか?
女性はMの猛烈なアタックに対してどうリアクションするのか?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ランチセットのオーダを済ませると、にこやかな笑顔でMが話し出す。

「台湾には日本の商品を売る店はまだまだ少ない。しかも実は中国のコ
 ピー品を平気で並べている店がほとんど。私はそんな現状に風穴を開
 けたいのよ」

詳細を詰めるのは下手だけど、大きな構想を描き、語るのは得意なM。

確かに台湾の街を歩いていると「日本直輸入」をうたっている店を見か
けるけど、大体が偽物だったりする。
(2020年現在はそんなことはないですけど)

インターネットの普及により、台湾の消費者たちも直に日本の情報に
アクセス出来るようになり、身の回りで見かけるものや流通されている
ものが本物かどうか判断出来るようになりつつあった。

「日本から商品を輸入するのはコストが掛るし原価も高い。販売する商
 品の価格も上がってしまうけど、私には出来ると思うのよ。台湾人の
 購買意欲の高さってとてもポテンシャルを感じさせるのよ」

アクションを交え、くるくると表情を変えて構想を語るM。
相手を納得させてしまう迫力、そして「この人なら何かやってくれそう
だな」と感じさせる魅力を備えている。

ひと通り構想を話し終えたタイミングで料理が運ばれてきた。

「さぁ、難しい話はこれくらいにして、美味しい食事をいただきましょ
 う!」両手を胸の前で合わせたMが音頭を取る。

「いただきま~す」
お腹が減っていた私は料理に手を伸ばす。

「そうだ。まだ名前を聞いてなかったね」と私が切り出すと
「あっ、そうでしたね。申し遅れました、キャンディです」

「可愛らし名前だね。失礼かも知れないけど、あまり台湾人っぽくない
 顔立ちしてるよね」
「はい。父は台湾人ですが、母はタイ人なんです。もう離婚しちゃいま
 したけどね」そう言って笑顔を見せてくれたキャンディ。

台湾人とタイ人のハーフだった。
顔立ちから漂う南国情緒はその為だったのか。

これまでの生い立ちや楽しかったお客さんとのエピソード。
日本への憧れなど、初対面の割には思った以上に自分の事を話してくれ
たキャンディ。


場の空気が暖まったところでMがキャンディの仕事や収入に関する話を
し始めた。

「私はあなたが欲しい。私のビジネスを手伝って欲しい。あたなにはそ
 れが出来るのよ」とM
そんな事を突然言われて驚いた表情のキャンディ。
そりゃそうだろう。ちょっと引いてるようにも見えた。

「彼が日本から商品を送ってくれる。その辺にある偽物じゃない。本当
 の日本の商品よ。偽物と分っていながら渋々と商品を買っている人た
 ちへ本当に日本のデザインやクオリティを感じて欲しい。あなたなら
 それを伝える事が出来ると思うの。どうかしら?手伝って欲しいのよ
 」
そう言ってキャンディの手を握るM。

「私のことをそこまで。。。とても嬉しいです。ご期待に応えられるか
 どうか。。私にはその自信が。。。」
「大丈夫よ。あなたになら出来るわ。」
キリっとした表情になるM。

「それと。。。Mさんのお仕事には興味があります。その~~~」
何か聞きづらそうなキャンディ。

「お給料のことね? 今のお店からは幾ら貰ってるの?」
単刀直入にそう聞くMに対して、キャンディは指でテーブルをなぞるよ
うにして数字を書いた。

Mの右の眉が一瞬動いた。
そして
「分ったわ。心配しないで。少なくとも今のお給料より上の金額を払う
 ようにするわ。少し時間を貰える?勝手に決めるとヒースが怒るから
 」
と珍しくヒースを気遣うMだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

食事を終え、Mの運転する車でキャンディを送った。
車を降りて頭を下げ、笑顔を手を振り私たちを見送るキャンディ。
とても丁寧だ。

「どう口説けそう?」おT聞くと
「あの子、結構な給料を貰ってたわ。本当かどうかは分らないけど、小
 さな店の販売員としては破格のギャラよ。びっくりしちゃったわ」
険しい表情のM。

「そうなんだ!」

台湾の販売員。
全てではないけど、基本給プラス歩合が一般的。
キャンディにはフォンが付いているし、販売力がある。
当然、その仕事に見合った給料になっているはずだ。

「どうするの?諦める?」
「ヒースに相談する必要があるけど。。。彼女には販売員としての魅力
 以上に店のイメージを確立させるアイコンとしての役割を担ってもら
 えるわ。どうしても来て欲しい。ヒースを説得しないと」

アメリカ人のヒースは仕事が細かい。
そしてコストにうるさい男だった。

でも、結局Mが押し切るいつものパターンになるんだろうなぁ~

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

そして数日後
「キャンディ、ウチに移籍してくれることになったわ」
Mからの電話。

「良かったね!」と答えた私だったが。。。

「ねぇ、M。商品。商品はどうするの?まだ何を売るのか、どんなお店
 にするのかが全く決まってないじゃん」

少しMのお尻を叩かないとさすがにマズイと感じた私はやや強い口調で
話した。

「そうねぇ~。あなたが日本から送ってくれたカタログに目を通してお
 くわ。あなた、明日帰国よね?じゃあ3日以内にオーダーをメールす
 るからすぐに手配して。例の衣料品店との交渉も継続して。私、あの
 ブランドの服を売りたいのよ。この台湾で」

Mからの依頼で日本のある女性服ブランドと交渉を始めていた私。
初めての仕事だったけど、楽しかった。
先方も初めて海外からのオファーを貰い、慎重ながらも興味を持ってい
てくれた。

帰国したら、また交渉再開。
胸が高鳴った。

つづく





キャンディ 1


「ねぇ。私、日本の服や雑貨を売る。そんな店にトライしようと思うの。
 あなた、強力しなさいよ。あなたも儲けられるかもよ」

そう言ってウィンクしたのはMだった。

本業はアパレル。
なので目の付け所は悪くない。

でも、彼女が手がけているのは男性向けブランド。
社員、スタッフを増員。
乗りに乗っているこの時期に、新しい事にトライしたい。

Mの気持ちは理解出来た。

「いいけど。。。女性向けの店を立ち上げるの?」
「ええ、そうよ。若い世代の女性に向けた事業を立ち上げるの」

Mの頭の中にはボヤ~としたイメージしかなかった。

横でMの話を聞いているヒースがオフィスの天井を見上げて両手を広げる。
賛成しかねるという意思表示だ。

「ワイフ。良く聞いてくれ。俺たちには若い女性向けのビジネスを展開す
 るノウハウなんてないだろう。マンパワーだって足りない。今、我々の
 ビジネスが順調だ。この事業1本で進むべきだ。新しいトライアルはも
 う少し先にすべきだよ」

「あなた、何を尻込みしてるのよ!私たちがモタモタしてたら、他の誰か
 が同じ事を始めてしまうわ!」
Mの言葉には焦りとトゲがあった。

いつも冷静で慎重なヒース。
指摘が的確だった分、Mは頭に来たのかも知れない。

「ワイフ、冷静になれって。現状では無理だよ」
「話にならないわね!」とバッグを肩に掛けて席を立つM。

「さぁ、行きましょう」
「行きましょうってどこへ?」
「店舗を探しに行くわよ。そして働いてくれるスタッフもね」
「いっ、今から?」
「そうよ。何をボヤッとしてるの。行くわよ」

私がヒースに視線を向ける。
ヒースはたばこに火を付けながら笑顔を見せる
「悪いな。一緒に行ってやってくれ」
そう言っているような感じがした。

巻き込まれた。。。

プライベートでは仲の良い夫婦で一緒に食事を作ったりもするけれど、
ビジネスではこうして時々意見が衝突する。
そして私は板挟みになる。

今回も最終的にはヒースが折れるんだろうなぁ~

そう思いながらMがエンジンを掛けた車に乗り込んだ。
そして街の繁華街へ向かった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

当然のことだけど、その日は具体的な収獲はない。

でも、Mの仕事に対する情熱。。というか執着は物凄いものがあった。

良さそうな立地にある店を見つけると車を止めて、店に入る。

そして「ねぇ、この店、私に譲る気はない?」と躊躇なく話を切り出す
のだ。

営業している店にとっては何とも失礼な振る舞い。

あとで
「ねぇ、なんであんなことを聞くの?失礼なんじゃない?」と聞くと。
「経営なんて表から見るのと裏から見るのとでは全然違うわ。理由は
 様々だけど、閉店を考えてる、考え始めてるという人は多いのよ。
 特に浮き沈みの多い台湾ではね」

聞かなきゃ何の分らない。
聞くだけ、話をするのはタダだから。。。確かにそうかも知れない。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

数ヶ月後、再び台湾へ行く機会に恵まれた私。

Mから電話で連絡を受けた。

「人通りの多い場所にある物件があったわ。一緒に見に行かない。も
 っとも、もう押えちゃったんだけどね」とM。

「もう押えちゃったって。。。まだ何を売るかも決めてないのに?」
「えぇ、そうよ。ヒースはカンカンだけど。。。ウフフ」

ウフフじゃないだろう。。ヒースが怒るのも無理はない。

「スタッフとして来てくれそうな子も見つけたわよ。今日は彼女と軽
 く食事するの。だからあなたも来て」

私のスケジュールが勝手に埋まっていく。。。いつものことだけど。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

午前11時にMの車が私の宿泊しているホテルに到着。

「例の子とは12時から○○ホテルでランチするの。予約はしてある
 わ。その子、この街ではちょっと有名なスタッフなのよ」

「へぇ~。来てくれそうなの?」
「分らないわ。彼女が働いている店の売上は相当なもの。お客のほと
 んどが彼女に憧れていて、彼女のようになりたくて店に来る。お給
 料も良いでしょう。オーナーもそう簡単には手放さないと思うわ」

Mの車が止まる。
「ここよ」とM。

人通りのある店舗だった。
たまたま見つけた空き物件。
すぐに借り手が見つかってしまうと思ったので、即断即決。すぐに契 
約を交わしたそうだ。

常に人が歩いている。
「夕方から夜にかけては学生たちがたくさん買い物に来る通りよ。タ
 ーゲットドンピシャよ」

Mが展開しようとしている日本の衣料品や雑貨。
台湾の学生達は大好きだ。
ビジネスになるかも知れない。。。そう思った。

「来週から店舗の内装工事が始まるわ。ねぇ、日本から商品を送って 
 ね」
「えっ?送るって。。。何を売るのさ?ミーティングもしてないじゃ
 ん」

「大丈夫よ。何でも売ってみせるわ」自信満々のMだ。
向かうところ敵無しの快進撃を続けていたM。
そう言い切れるだけの自信と確信があったのだろう。

しかし。。。。
何でも良いから送ってってのは。。。ビジネスなのだろうか?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「車に乗って。スタッフとして迎える子とのランチに行くわよ」
「あっ、はいはい」

もう完全にMのペースだ。

意外と慎重なMが運転する車は市内にある外資系ホテルに到着した。

ホテル地下にある駐車場に車を止めて、エレベーターでロビーフロア
へ上がった。

エレベーターのドアが開く。
Mと2人でフロアに出た。
辺りを見回すM。
そして「ハ~イ!」と笑顔で大きな声。

ロビーにいた人達が一斉にこちらに視線を送る。
ひやぁ~、みんなこっちを見てるじゃん。
恥ずかしいしな~。。。

そして1人の女性が笑顔でこちらへ向かって歩いてきた。

「待った?ごめんね」とMが親しげに話しかける。
「いえ。それほどでも。」と笑顔の女性。

台湾人っぽくない彫りの深い顔。
目や鼻のパーツに南国情緒を感じてしまった。
綺麗だ。

「こちらが私の日本のパートナー。彼が日本から衣料品や雑貨を送
 ってくれるのよ」
「初めまして」と女性が静かな口調で挨拶をしてくれた。
「初めまして。よろしくね」と挨拶を返す私。

「さぁ、ご飯にしましょう」とM。
ホテル内にあるレストランへと向かった。

大人しいけど、笑顔を絶やさず、気品があって台湾人っぽくない顔
立ち。
立ち姿や歩き方も美しい。

きちっとしているけど、押しつけがましくなく自然な感じだ。

仕事も出来そうな感じだ。

これは女性からの支持もあるだろうなぁ~。

レストランのスタッフに案内され、我々3人は席に付いた。

果たして彼女はMの話を受け入れてくれるのか?
Mは彼女を口説けるのか?

楽しみになってきた。

つづく


パーティ パーティ IN 台北 出会った彼らのその後

台北のパーティで出会った芸能人や芸能人のたまごたち。

今も私の記憶の中が輝いている彼ら。

そんな彼らのその後。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
JD

台湾のスーパースター。

Mが電話でサイン入りのCDを私にプレゼントするよう無理なお願い
をされてしまっていた。

直接会う事は叶わなかったけれど、後日、本当にMのオフィスにサイ
ン入りのCDを送ってくれた。
あれだけのスーパースターだというのに、細やかな気遣いが出来る人。

youtubeで検索したら今年も新曲をリリースしているようだった。

たゆまぬ努力と周囲の人を大切にする心が彼の人気を支えているのだ
ろうと思う。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

マイケル

繊細で優しかったマイケル。

ある日、台北の街で再会した際には気軽に声をかけてくれた。
ファンに囲まれていたのに私に気が付いてくれた。
(まぁ、分かり易い顔してるので。。。)

「僕の事、覚えてますか?」なんて向こうから気さくに声をかけて
くれた。
「と言うか、俺の事覚えてるの?」と私が聞くと
「はい。だからこうして日本語で話しかけてます」と微笑んでくれ
た。

パーティで会った時の印象そのままだった。

芸能界ではあまり有名にはなれなかったようだけど、彼の性格なら
誰にでも好かれて、周囲の人も幸せに出来ているのではないかと思
う。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

キングゴリラ

パーティ会場では私を追いかけたり、持ち上げたり。
話も上手で私とマイケルを終始笑わせてくれたゴリラ。

その後、Mの尽力でストリートファッション系の雑誌のモデルに起
用されたり、テレビで見かけることもあった。

知名度はそこそこあったようだけど、生き残ることは出来なかった
ようだ。

台湾の友人達に聞いても「まぁまぁだったかな~」との声が多かっ
た。

今頃はどうしてるのかなぁ~。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

DJ POO

パーティの後、スカイやMのオフィスで働くスタッフ、マイケルや
私を誘って食事会に連れて行ってくれた。

会食中、独特の話術で場を楽しく盛り上げてくれていた。

後日、JDのサイン入りCDをMのオフィスまでわざわざ届けてく
れたのは彼だった。

その際も「元気?またご飯に行きましょう!」と気さくに声をかけ
てくれた。

当時はテレビで良く見かけたけれど、当時すでにアパレル事業にも
進出していたから、今頃は実業家になっているかも。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

スカイ

パーティから数年後に独立。

香港からブランド品を輸入し、台湾全土へ営業開始。
瞬く間に知名度抜群の経営者へ!

面倒見があって兄貴分的な存在のスカイ。
誰に聞いても「良い奴」「信頼してる」という声を評判だった。

忙しくなった後も、街で私の姿を見かけると必ず声をかけてくれた。

一緒に仕事をする話を持ちかけてくれたけど、日本の仕事が忙しく
なってしまい、夢は叶わず仕舞いだったけど、台湾では本当にお世
になった。

頼れる奴だった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ジャッキー・ワン

今でも台湾のスーパースター。
昨年(2019年4月)
母と台湾に行った際にも彼が出演しているテレビ番組がたくさん放
送されていた。

浮き沈みの激しい台湾芸能界で長く現役トップの座に君臨している
のだから、相当なやり手なのだろう。

握手した時の分厚い手と大袈裟な笑顔が今でも印象に残っている。

普通のおじさんっぽいけど、大物が放つオーラを感じさせた。
存在感ってあるものですね。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

そして、あの女の子。

Mの話では業界で有名になる為に知名度のある芸能人の愛人になる
子も多々いるそうだ。

彼女が本気でワンのことを好きだったのか、有名になる為のステッ
プとしてワンの愛人になることを選択したのか?

私には分らない。

その後、どうなったかも分らない。

たった1度の出会い。。。出会いというほどのものではないか。

もう顔も覚えていないけれど、世界のどこかで元気にしていて欲
しい。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Mとヒース。

彼らに関してはまた別の機会に書いてみたいと思っています。


尚、ここに登場する芸能人たちに関しては、現役で活躍されている
方々もいる関係上、仮名を使っています。

まぁ、向こうは私のブログなんて読むことはないでしょうけどね。

ありがとうございました。

おわり。





パーティ パーティ IN 台北 5


台湾の大物芸能人 ジャッキー・ワン主催のパーティ

業界関係者でもないのになぜかパーティに参加した私。

人懐っこい台湾の芸能人達との出会い。
そして彼らとの楽しい会話。

華やかな場での楽しい時間が過ぎていく。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ねぇ。可愛い子は見つかったの?」
POOとの軽い打ち合わせを終えたMが近づいてきて、私に話し
かけてきた。

あっ!
そうだった。
パーティに参加している女の子を紹介してくれるという約束
をしてたんだ。

マイケルやゴリラとの会話、そして台湾の大物芸能人のジャ
ッキーとの対面が続き、すっかり忘れていた。

華やかな場所にいるというのに、話したのは全員男。
そのウチのひとりは筋肉野郎のゴリラとは。。。

「M、本当に大丈夫なの?」
「フフフ。大丈夫よ。でも、誤解しないでね。あくまで引き
 合わせするだけよ」

「もっ、もちろん!」
台湾の芸能人やモデルさん、そのたまごたち。
可愛い女の子と話が出来るだけでも上出来だろう。

「会場を一巡りしてくれば良いじゃない。話してみたい子が
 いたら、私に声をかけてね」とMがウィンク。

ずば抜けた交渉能力。
そして不思議と人を引きつける魔力のようなものを持つM。

もしかすると、もしかするかもな。。。
などと妄想を始める私。

飲み物をお代りをする体で会場内を歩き始めた。

少し歩いただけなのに、綺麗な人や可愛い人がこんなにたく
さんいるなんて。。。

台湾女性の顔立ちが好きな私には楽園天国のような場だ。

少し会話が出来ればなんて話していた筈なのに、この中の誰
かと付き合う事になり、台北の街を歩いてる妄想が広がる。
馬鹿な私。

もう誰でも良いんじゃないか。。。そう思いながら会場内を
歩いているときだった。

1人の女性の姿が目に入った。

ストレートのロングヘア
つやつやの黒髪がライトに照らされていて美しい。
色白で円らな瞳。

会場内にいるタレントさんやモデルさん達のキラキラとした
雰囲気とは違う。。。夜空に浮かぶ満月のような静かな輝き
を放っている。

立食用のテーブルに1人。
テーブルの上には小さなお皿とティーカップが置かれていた。
優しい笑みを浮かべ、周囲に暖かい視線を送っていた。

誰と会話している訳でもないのに、とても楽しそう。

でも、ちょっと陰があると言うか。。。儚さを感じる。

「あんなに綺麗な人なのに、誰も話しかけたりしないんだな。
 高値の花。。。そんな存在なのかも知れないな」

そう思わせるような独特のオーラを発していた。

よし!あの子にしよう。

このまま話しかけても良いような気がするけど、成功の確率
を上げる為には、Mの強力が必要かも知れない。

そう思いMのいる場所へ引き返す私。

彼女を見つける前に「綺麗」「可愛い」と思った女性の事は
全て頭から消えていた。
それほどのインパクトがあった。

一直線にMの元に戻ってきた私に
「良い子が見つかったみたいね」とMが微笑んだ。

「うん。いたよ。見つけたよ!」
「あらあら。鼻息が荒すぎよ。落ち着いて。ちょっと一杯飲
 んで落ち着きなさい」とMがグラスを差し出した。

「う、うん。」
Mの差し出したグラスを受け取り、ゴクリ。。。うぇ~ウィ
スキーだ!ウーロン茶じゃないのかよ~~~!

「それで?どの子?私が連れてくるから」
「本当に大丈夫?」

「大丈夫よ。任せなさいって」
「う、うん」

「で?どの子?」
「あそこ。あのテーブルに1人でいる女の子」
と周囲に気付かれないように小さく指を差す。

私が指さす方向に視線を送るM。

「どれどれ?うん?」

そして次の瞬間だった。

Mは表情を変えず、私の方を顔を近づけた。
そして。。。
「あの子はダメよ」
とキッパリ。

えっ?
どうして?
なんでダメなの?

「えっ?どうして???紹介してくれる。誰でも紹介してく
 れるって言ったじゃん」

「あの子はだ~め。ダメなのよ」

「どうしてさ?」
「こっちに来なさい」Mが私の腕を引きながら歩き出す。
そして私を廊下へと連れ出した。

「なんでダメなのさ?」
「あの子は。。。特別なのよ。」

「もう彼氏がいるとか?」
「まぁ。。。そんなもんね」

「やっぱりそうかぁ~。あんなに綺麗なんだもんなぁ。彼氏
 くらいいるよなぁ~」
と言いつつ
「でもさ、話。話くらいはしても大丈夫だよね?」と諦めの
悪い私。

「だ~め」とMはつれない返事。

「話をするのもダメなの?」
「そうよ。話をするのもダメ。近づくことさえダメなの!」

そしてMは私の耳元に口を近づけ、こう囁いた。

「あの子。。。ジャッキーの愛人よ」

ガ~~~~ン!
ジャッキーの。。。あいじん。。。

あんなに可愛い女の子が普通のおじさんにしか見えないジャ
ッキーの愛人。。。。

力が抜けてしまった。。。。
なんであのオッサンが。。。
しかも奥さんではなくて愛人。。。。

「なんであの子がそんなことしてんのさ」
「知らないわよ。でも、彼女がジャッキーの愛人だという事は
 業界内では公然の秘密。だから誰も声をかけたりしないのよ
 」

「なんだよジャッキー!愛人ならこんなところに連れてくんな
 っての!」
と、なぜか半ギレした私。

「理由は分らないわ。それが彼女が選んだ道だわ。それはあな
 たには関係ないでしょ?」
「た、確かにそうなんだけど。。。なんだかぁ~」


「そうかぁ~。。。彼女を見た瞬間、身体に電流が走ってさ。
 Mに紹介を頼む前に話しかけちゃおうかな?なんて思っちゃ
 たんだよね~」
冗談めかしてMにそう伝えると、Mの表情が変わった。

「もしそんなことしたら、あなた日本には帰れなかったかも。
 台湾の海に捨てられていたかも知れないわよ」とM。

「まさか。話しかけたくらいで?」
「ジャッキーは台湾芸能界の大物よ。彼の顔に泥でも掛けてみ 
 なさい。大変なことになる」

「そんなものかね。。。。」

半信半疑だったけど、可能性がゼロではないのだろう。

再び会場内に戻った私。
マイケルやゴリラが迎えてくれた。

そしてまた、ゴリラのトークで笑いの渦が巻き起こり始めた。
ゴリラは顔が濃い分、表情が豊か。
トークが上手く彼の近くにいると本当に楽しい。

腹を抱えてゲラゲラと笑いながらも、ついつい横目であの子を
見てしまう私。

「あの子がねぇ。。。」

人にはそれぞれの生き方がある。
分ってはいるけれど。。。今ひとつ納得出来ない私がいた。


(おわり)

パーティ パーティ IN 台北 4


台湾人のような日本人、私
爽やか青年のマイケル
そして筋肉お化けのキングゴリラ

なぜか話のウマが合うこの3人組。

楽しく談笑をしている時だった。

「コンバンワ~~~!」
いきなり大きな声を出して現れたおじさん

おじさんの隣にはレディM。
おじさんは。。。あのジャッキーだった。

満面の笑みで
「ワタシハ ニホンゴ ゼンゼン デキマセ~ン!」
とこれまた大きな声を張り上げながら、人懐っこい笑顔で
右手を差し出してくれた。

私が右手を差し出すと、その手を強く握りしめながら
「今日はありがとう。お会い出来て光栄です」と挨拶をして
くれた。


マイケルとゴリラはやや緊張した面持ちになっていた。

「一緒に写真、いいですか?」とジャッキー。
とても気さくだ。

「いいんですか?」と私が聞くと
「もちろんですよ。あたなも私の友人だ」と笑顔のジャッキー。
社交辞令だろうけど、素直に嬉しかった。

「マイケル。私のカメラで撮影してくれる?」とMがカメラを
マイケルに渡し、ジャッキー、M、そして私の3人で写真に収ま
った。

「マイケル、ゴリラ。新しい契約がまとまりそうだから、A社の
 社長さんに挨拶しておいて。ほら、あそこのテーブルにいるだ
 ろ?」とジャッキー。

マイケルとゴリラは
「ジャッキーさん、ありがとうございます!」と深々と頭を下げ
て「挨拶が終わったら戻ってくるね」と私に声を掛けてA社社長
がいるテーブルへ早足で向かった。

ジャッキーは目を掛けている新人タレントを自分の番組に出演さ
せたり、スポンサー企業との橋渡しをしたり。。。みんなの兄貴
分のような存在でもあるのだろう。

駆け出しの新人さんたちにとってはとても心強い存在のはず。

「M。ごめん、他のスポンサーさんにも挨拶に行かないと」とジ
ャキー。
「気にしないで。お時間を割いてくれてありがとう」とMが返す。

「謝謝」と私が言うと、軽くハグしてくれたジャッキー。

売れっ子タレントでもありやり手のビジネスマンでもある。
そんな印象だった。

「ジャッキーの後押しがあれば、新人君たちも安心だね」と私が
Mに話をふると

「個性的な人やイケメンなんて掃いて捨てるほどいる。顔が良く
 て歌が上手い位じゃ誰の記憶にも残らないわ。台湾人は飽きっ
 ぽいしね」とM。

「そうだね。言われてみれば、確かにそうだよね。」


A社の社長さんや重役らしき人達に笑顔で頭を下げているマイケル
とゴリラを見ながら、「どこの世界でも生き残るのは大変だな」と
思った。

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「M、DJ POOさんがご挨拶したいと」
私とMが談笑している場所にスカイが早足で歩いてきた。
スカイの後ろには小太りな男性がこちらに笑顔で手を振っていた。

黒いティーシャツに黒い短パン。
スニーカーも黒だ。

長い髪を後ろでまとめ、両サイドは短く借り上げられている。
黒縁のメガネを掛けている。

体型の割に身だしなみに気をつけている。
程よく香水の香りも漂わせている。
きっとオシャレが好きな感じだ。

「M姐さん、こんばんは。記者会見、最高でした!」
完結にそつなくMを持ち上げる。
彼も相当なビジネスマンなのだろう。

DJ POO。
彼もMがスポンサーをしているタレントの1人だ。

「こちらはPOO。台湾ではちょっと有名なDJよ」
「姐さん、やめてくださいよ。私なんてまだまだ。。」と照れ臭そ
に笑うPOO。人懐っこい笑顔だ。

「彼は私の友人。このパーティの為に日本から来てくれたのよ」
出た!
Mの十八番!
嘘。。。とは言わないが、いつも大袈裟に話を膨らます。
私はたまたま他の用事で台湾を訪れていただけなのに。。。まった
く。

「へぇ~!そうなんですか!さすが姐さん、海外にも友達がいるん
 ですね!」

POOが私を見て右手を差し出す。
私も握り返す。

「コンバンハ。よろしく」
「ありがとう。よろしく」

挨拶を交わし合う。

「そうだ。姐さん、実はJDなんですけど。。。」

JD
台湾の大物ミュージシャンだ。

「今、新作のレコーディングが押してて、今夜は来れそうにないっ
 って。。。」

ジャッキーと親交があり、今夜のパーティに来る予定だったのだ。

「いいのよ。いいのよ。彼は今、台湾で一番の売れっ子。落ち着いた
 らまた台北で食事会でも開きましょう。そう伝えておいて」

「分りました。。。おっ?」
POOの携帯が鳴った。
「姐さん、そのJDから電話ですよ。もしもし。。。姐さん、今、俺の
 目の前にいる。ちょっと待ってて。はい姐さん」
POOが彼の携帯をMに渡す。

「元気にしてる?忙しそうじゃない?えつ?いいのよ~。今はあなた
 にとってとても大切な時期なんだから。えぇ?来週?大丈夫よ」

JDと携帯を通して会話をするM。
楽しそうでもあり、誇らしげでもあった。

声を少し大きめにしているのは周囲に自分の存在を誇示したかったの
だろう。隙が無い女性だ。

「そうそう。今夜のパーティに日本から私の友人が来ていてね。あな
 たの大ファンなのよ~」とMは私に視線を向けてウィンク。

おいおいおいおい。
JDの事は知ってるけど、別にファンじゃないんだけど。。。

横でスカイが吹き出すのを堪えている。

「本当?私の友達も喜ぶと思うわ~。あなた、本当に優しいわね。ウ
 ン、分ったわ。また連絡ちょうだい」
JDとの会話が終わったMがPOOに携帯を手渡し、私に顔を向けた。

「JDが自分のCDにサインを書いてくれるって。あなたへのギフトよ」
「あっ、ありがとう」

いつの満仁やらJDのファンに仕立てられた私。
CDなんて頼んでない。。。

要らないとも言えないし、喉から手が出るほど欲しくもない。
そしてそのCDはいつ届くのだろうか。。。?
微妙。。。


MとPOOがビジネスの話を始めた。

私はスカイに向かって
「JDのCD。もし届いたら、スカイにあげるよ。俺が貰っても価値が
 分らないからさ」

「いやっ!貰えないっすよ~」とスカイは目を大きく開いて両手を
私に向けて手を振った。

「このパーティの後、時間ありますか?」とスカイ。
「空いてるよ。何の予定も入れてない。何かあるの?」

「はい。POOさんから晩ご飯に誘われてて。なかなか行けない店なの
 で、台北の思い出になるんじゃないかと思って。超高級中国料理
 ですよ。僕も行ったことないですけど、超美味しいって評判です」

「行きたいけど。。。POOさんと面識ないしなぁ」
「さっき握手したじゃないですか。もう友達ですよ」とスカイが笑
う。

「さっき会ったばかりなのに悪いよなぁ。しかもPOOさんが誘ってく
れた訳でもないし」
「大丈夫っすよ!行きましょう。マイケルも来ますよ。」

いやいや、マイケルとも今夜初めて会ったばかりなんだけど。。。
まぁ、いいか。流れに身を任せてみよう。

台湾ではこうやって人脈を広げる。広がっていく。

芸能人ではないけれど、土産話にはなるだろう。

あちらこちらで笑顔と笑い声。
賑やかで華やかな台北でのパーティは続く。

つづく。