台湾の思い出 元日本人たちとの出会い 1 出張という名の一人旅 10

サイ社長たち台湾サイドと前向きな話が出来た。

ICチップや電池などの部品が工場から運び出されてしまった
為、仕事にならなくなり、その日は急遽工場を閉める事に。

日本へのシッピング、納期が気になったけど、不良品を送る
より数段良い。
そして。。。疲れた。。。。

まだお昼前だ。

工場に止めてある自家用車、(竹南で買った自転車)に乗っ
て工場を後にした。

よく利用していた竹南唯一の日本料理屋、東京でエビフライ
定食を食べ、冷えたコーラを飲む。

店で働いている子達が何やら話しかけてくるけど、サッパリ
分からない。

東京のママさんが「ごめんね。日本人見るの初めてだから」
ママさんは少しだけ日本語が話せる。
彼女も以前、日本人との結婚、そして離婚を経験していた。
台湾に戻ってからは日本語を話す機会がなく、もうあまり覚
えていないと話していた。

「中国語を覚えて、こっちで嫁さんもらってこの街に住め
ばいいよ」
毎回、ママに言われる。

それも悪くないかな~
何も考えず、そんな風に思ったりもした。

支払いを済ませ、自転車に乗る。

さて、どうしよう。。。

この田舎町に来て以来、朝8時から夜6時まで働き、晩ご飯
を食べてホテルで寝るだけの生活が続いていた。
工場ではトラブルが続き、心も身体も疲れていた。

ちょっと遠回りしてみようかな。

いつもは通らない道を走ってみようかな
もう少しこの町の事を知るのも面白いかも。

すっかり旅人気分になっていた。

毎日素通りしている小さな小道に入る。

レンガ作りの平屋が多く、太く高い木々。
漢字表記の看板。
耳にする異国の言葉。

観光地じゃないけど十分新鮮だった。

しばらく行くと町並みが消え、遠くから鶏の鳴き声。
鶏舎が見えてきた。

私が小さかった頃、母の実家には鶏舎があり、休みの
日に遊びに行くと、よくたまご取りを手伝わされた。
幼い日々を思い出す。

もうしばらく進む。
獣の臭いが強くなる。
豚小屋や牛小屋だ!
ブーブー、モーモー。
日本にいる時には聞く機会のない獣たちの鳴き声。

水田地帯に入ると涼しい風が吹いてきた。
気持ちが良かった。

のんびりしてていいなぁ~。

自転車を止め、少し涼んだあと、もと来た道をまた戻る。

再びレンガの家並みが見えてきた。

今度はまた違う道を走ってみる。

しばらく走っていると家のガレージに座っているおじい
ちゃん達を発見。

何をしてるんだろう?

スピードを落として彼等を見ると。。。麻雀をしていた。

大きな声で話したり、笑ったり。
とても楽しそうなやり取りを見ながら、自転車のスピード
を落とした。

そんな私に気がついたのか、麻雀を楽しんでいたおじいち
ゃんの一人と目が合う。

あれ、邪魔しちゃったかな。
と思った瞬間。。。。

「日本人か?」
目が合ったおじいちゃんが私に向かって日本語で叫んだ。
他のおじいちゃん達が一斉に私の方を振り返った。

「あっ、はい。そうです。日本語、出来るのですか?」と
聞くと

「お~、あんた日本人か。こっちに来なさい。」
と私の質問を無視して手招きをしている。

捕まっちゃったな。。。
仕方なく自転車を止め、おじいちゃんの方へ近づいた。

「あんた麻雀出来るか?」
「いえ、ギャンブルはやりません」

「わっはっはっは!真面目だな。座りなさい。」
とプラスチック製の椅子に座るよう促してくれた。

なぜか日本語を話すおじいちゃん。
う~ん、面倒くさい事にならなきゃいいんだけど。。
適当にやり過ごそう。
5分位話して立ち去ればいいや。

そんな軽い気持ちで椅子に腰掛けた。

つづく

台湾の思い出 兆し 出張という名の一人旅 9

ICチップメーカーの社長が、サイ社長や工場で働くスタッフ達
に中国語(あとで分かったのだけど、台湾語でした)に通訳し
てくれている。

その間、サイ社長の眉間には皺が寄ったまま。
工場スタッフたちの表情も同じだった。

日本から近い国、台湾。
親日国とは聞いていたけど、好きなのと、日本のルールに従う
事って違うのかな?

「いいたいことはそれだけ?」
ICチップの社長が声を掛けてきた。
彼の表情もまた硬い。

「はい
「通訳、ありがとうございました。」
と礼を言うと、ICチップの社長は表情も変えず、ただ片手を上
げ、「サイ社長と話をするから、ちょっと待ってて」と答えた。

「はい」と答え、木製の椅子に腰を下ろし、工場の天井を見上
げた。

やるべきことはやった。。。んじゃないかな?
もうこれ以上は何も出来ないよ。
商品管理という仕事をしに遙々台湾の田舎町まで来たのに、こ
れって仕事以前の問題じゃん。。。

出来る事はやった。
答えを出すのは向こうだ。
彼等の答えを待とう。。。

「ねえ、いいかい?」
ICチップの社長が声を掛けてきた。

「はい」
椅子から立ち上がり、サイ社長とICチップの社長の元へ歩いて
行った。

ICチップの社長が話し出した。

「君の話を聞いて、サイ社長と協議したよ。まぁ、俺は直接あ
んたの会社と取引がある訳じゃないから、あまり顔を突っ込み
たくはないんだけどさ。」

風向きは変わらなかったかな。。。

「サイ社長は驚いているよ。
なぜかって、昨年の話を今頃になって持ち出してさ。
日本の状況なんて全然聞いてなかったし、あんたの会社も台
北のオフィスも報告してこなかったみたいだよ。
今年もオーダーが来たから品質には問題がなかったのだと思
っていたってさ。
あんた、サイ社長の気持ち、分かる?」

「はい。それは本当に申し訳ありませんでした。私は新米社員
ですが、それを言い訳にはしません。日本に持ち帰り、社内
で話し合いをします。」

と言葉は通じないけどサイ社長に向かって話をした。

サイ社長は英語が分からないのにうなずいて私の話を聞いてい
たけど、聞き終わってからICチップの社長に「なんて言ってん
の?」みたいな顔をして通訳を頼んでいた。

「君の話を聞いて、私もサイ社長も決断したよ」

何を決断したんだろう。
結論から言ってくれ~~~。

「ここにあるICチップは1度持ち帰る。これから工場へ戻り、
俺の工場でICチップを検品し、問題のないものを明日また届
けるよ。」

エッ?
耳を疑った。。。けど疑いたくなかった。

「本当ですか?」
と確認を取る。

「あぁ、だってそんな問題が起きているのが分かったのだから
対処しない訳にはいかないだろ。

「サイ社長はここにある電池を全て返品するって言ってるよ」

エッ????
「ダイジョウブ?」
となぜか私が変な日本語でサイ社長に話しかける。

「ダイジョウブデショ」とサイ社長が変な日本語で返事をした。

サイ社長が続けた。
「君が気になる点、点検したい事を全て伝えて欲しい。検品す
るには増員して検品専門の人を見つけてこなきゃならない。
1日時間をもらえますか?」

オ~~~~
意外な展開!

完全に和解。
雪解け。。。にはほど遠いけど、意見を交わす事によって変化
の兆し、今後の仕事にとって大きな転換になるかも。

やった!
やったぞ~~~!!

嬉しさを抑える事が出来ず、サイ社長に近寄り手を握る。
「謝謝!」

サイ社長は驚いていたけど、「オーケー、オーケー」と笑顔で
手を握り返してきてくれた。

社会人になって初めて仕事をした気分だ!

「じゃあ、俺は工場へ戻って検品するよ。ったく日本の会社っ
って面倒だな(笑)欧米の会社はこんな細かい事なんて気に
しないぞ。」
そう言い残して、笑顔で手を振り工場を出ていくICチップの社
長。

よ~~~し!
興奮と嬉しさに包まれて俄然やり気が出てきた。。。けど、材
料がなくなってしまったので、やることがなくなってしまった。

サイ社長が「明天見」(明日ね)と笑顔で手を振った。

たまにはいいか。

私も工場をあとにした。

つづく

台湾の思い出 やれんのか 3 出張という名の一人旅 8

さて、どうする
何が出来る。。。。

考えていても時間が過ぎるばかりだ。
え~い、口からでまかせ
やってみるさ!

ICチップメーカーの社長さんに近づき、話を切り出した。

昨年の話を今更持ち出してすみません。
でも伝える必要があります。

昨年納品してもらったクリスマスツリーですが、かなりの不良品
が出ています。

昨年は私たちにとって初めての経験、トライアルだったので、彼等
も納得してくれてます。
でも、今年また同じ事が起きたらどうなりか分かりますか?

来年は仕事が貰えません。

弊社に取っても大打撃。
売上はもちろんですが、取引先に対する信用を一気に失います。
だから同じ失敗を繰り返す訳にはいきません。

これがどういう意味か分かります?
そうです、あなた達も仕事を失うのです。

これだけの数量のオーダーを貰う事は、失礼な言い方ですけど、
あなたたちの規模ではほぼありえない事だと思います。

この工場だって、年間の4分の1はこのクリスマスツリーのオ
ーダーで仕事が埋まっていると聞いてますし、総売上に対する
比率も大きいですよね?

仕事がなくなればサイ社長はもちろん、あなた(ICチップ社長)、
そしてここで働く皆さんが仕事を失うか、今よりも暇になる。
ICチップの社長さんの所にも従業員さんがいるはずです。

彼等の収入をどうするつもりですか?
路頭に迷わせて良いのでしょうか?
それ、社長としてどうなんでしょう?

一方で、昨年あなた達が作った商品を買ったお客さん、10人
中3人が不良品を手にしてしまってます。

弊社や取引先である某大手コンビニにはたくさんのクレームが
来ました。
対応するために多くの人と彼等の時間を費やしてます。

そして不良品を買ってしまったお客さんたち。

仕事に疲れ、家に帰る途中に入ったコンビニで、このクリスマ
スツリーが目に入り、子供や家族の事を思って買ってくれた人、

恋人との楽しい時間を過ごすために買ってくれら人たちの心を
傷付けてしまっています。

ツリーを楽しみにしていた子供達。
なのにスウィッチを入れたら光らない、音楽が鳴らない。。。
どんな思いがしますか?
想像してみて下さい。

契約書や品質に関する書類を用意しなかった弊社の責任が大き
いですし、今年になってこんな話をするのはとても心苦しいで
す。
でも、理解して下さい。
お客さんの気持ちを
お客さんの心を!

入社して2ヶ月も経っていない私ですが、約束します。
もし今年、不良品が激減した場合は、私が責任を持って来年の
仕事を契約してきます

だから、今年は私の事を信じてついてきて下さい。
お願いします!

ICチップの社長は私の話に耳を傾け、都度サイ社長や工場で働
く人達に通訳してくれている。

口から出任せだけど、筋は通しているつもりだし、お互いの利
益にも触れているし、来年の展望が見えるような話もしたつも
りだ。

これで態度を変えてくれないなら仕方がないし、何も手を打た
なかった日本の会社が一番悪い。

納得してもらえないなら、当初のプラン通り、仕事が終わるま
でこの街に住み、お金がなくなるまで南国ライフを楽しめば良
いだけだ。

話し終わる頃には気持ちが落ち着いていた。

どうにでもなれ。。。。

つづく

台湾の思い出 やれんのか 2  出張という名の一人旅 7

固くて冷たい空気
そのときの工場内の空気感を今でも覚えている。

「1歩も引けない。引くわけにはいかない。
引く気もない。。。」

自分の表情を見る事が出来ないけれど、こわばった表情を
しながらも強い意志を発していたのではないかと思う。

緊張した空気の中、しばらくすると。。。ドドドドドド。

工場の外に車のエンジン音がした。
音の感じからトラックだろう。

エンジンが止まり、車のドアを開閉する音。
近づく足音。

2人の男が工場に入ってきた。

「うわぁ~、敵が増えてるよ~」
最悪、袋叩きかもなぁ。。。
台湾の海に浮かんだりして。。。

2人の男のうち、一人がサイ社長に近づき、何やら話しかけ
た。

その男がこちらを見て口を開いた。

「what`s problem ?」

あれ、英語だ!
しかもフランクな感じで、表情からは状況を把握しようとし
ている雰囲気が伝わってくる。

「英語、話せるの?」

「あぁ、俺はサイ社長にICチップを供給している工場を経営
していて、取引先は主に海外だから、英語は少し出来るんだ
よ。一体何があったんだい?話してくれないか?」

見方。。。ではないけど、やや中立的な立場に立ってくれる
かも知れない。
そんな期待がふくらみ、少し緊張が解けた。

ICチップの社長に品質面の問題を伝えた。

不良品を手にした彼が電源を入れて、確認をしている。

眉間に皺を寄せ、何度も何度も電源を入れたり切ったりして
いる。

もし彼が「こんなの問題のうちに入らないよ」と言ったらど
うしようか。。。。より悪化した状況を思い浮かべてしまう。

ICチップの社長が電源を入れたり切ったりを繰り返しながら
、不良品を片っ端からチェックしている。

時折、サイ社長と何か話をしている。

「チッ!」とICチップの社長が時折舌打ちをする。

あいつら、1歩も引かない気かも。。。

工場内のスタッフ達は下を向いたり、おしゃべりをしたりし
て落ち着かない。いい加減にしてくれよ、そんな表情を浮か
べてこちらを見ているスタッフもいた。

「さて、どうしよう。どうしよう。」

どうしよう。。。というかどうにかしないと!

サイ社長とICチップの社長をどうやって納得させるのか?

どうする
どうする

何をどう話せば彼等を納得させられるんだ。。。。

つづく

台湾の思い出 やれんのか? 出張という名の一人旅 6

工場の中に入る
外気とは違い工場内はややヒンヤリと感じた

天井が高く、その高い天井から吊されている
大きなプロペラのような扇風機がクルーンクルーン
とゆっくり回転しながら工場内の空気を回している
からだろう。

サイ社長が笑顔で立っていた。

私はペンを取り
「全部検品」と紙に書き、サイ社長に見せた。

サイ社長の顔から笑顔が消え、両手を広げて何か言って
いる。

多分、「ナゼ今更そんなことを言うのか?」とでも言っ
ているのだろう。

どうせ言葉が通じない。
そう思った私はパッケージに入れられる前の商品を手に
取り、出来上がったばかりのクリスマスツリーを勝手に
検品し始めた。

ざわつく工場内。

スタッフ達の顔も険しくなった。

でも、関係ないや!

縦横斜め
手に取ったクリスマスツリーを様々な角度から検品する。。

見た目は特に問題がない。

つぎは機能をチェックする。

生産していたツリーはスウィッチを入れるとサンタや星の
形をしたオーナメントが点滅し、ICチップがクリスマスソ
ングを奏でるものだった。

スウィッチをオンにした。
音楽が流れ、オーナメントも無事に点滅する。

よし、次ぎだ。

周囲が呆れているのは言葉が通じなくたって伝わる。

構わず検品を続ける。

何個目かのツリーを検品しているとき、音が外れるツリー
を発見。

別の場所に置く。

しばらくするとオーナメントのひとつが点滅しないものを
発見。

次は電池が装填されている場所に違和感を感じるものを見
つけた。
電池ボックスを明けてみる。。。液漏れ、電池の液漏れだ。

サイ社長が私の元に寄ってくる。

普段通りの声だったけど、目が怒りに燃えているのが分か
った。

「ダイジョウブデショ」(大丈夫でしょう)
サイ社長が「ドウゾ」以外の日本語を初めて話した。

「ノーノー」と首を横に振る私

こんなに不良品が出てるのに検品なしに日本へは送れない!

日本人1人 VS 約30人の台湾人

工場内の空気が更にひんやりとしていく。

やれんのか?

本当にやれんのか、俺???

つづく

台湾の思い出 聞いてないことばかりだけど 出張という名の一人旅 5

言葉が通じない
仕事の契約書なし
日本人はただ1人

上司はすでに次の訪問先のタイへ向かってしまった。

台北オフィスの人たちも良い人だけど責任を取ってくれそう
にもない。

工場の人達は台湾語で冗談を交わしながら、どんどん仕事を
進めてしまう。

真面目に仕事したら馬鹿を見そうだな~

全身から力が抜けていくのを感じた。

こんなの仕事じゃない。
仕事になる訳ない。
俺の責任でもない。。。。

思考が良くない方へ、良くない方へ引っ張られていく。。。

「ドウゾ」

工場のサイ社長だ。

手にスイカを持ってニコニコしている。

「謝謝」

疲れた。
スイカでも食べて今後の事を考えるか。。。
すぐに帰国して会社へ行き、辞表を叩き付けてやる!

工場の外にある椅子に座りながらスイカを食べる。
蝉の声がけたたましい。
目を開けてはいるけれど、何を見ているわけでもない。

工場の周辺はたんぼだらけ。
ときどき吹いてくる風はややひんやりとして
いて心地良い。

台湾、いいな~
仕事はこんな状況だけど、もう少しここ、この田舎町で
過ごしていたいな~

日差しの厳しい空を見上げながら、そんな事を考えてい
た。。。

しばらくすると。。。
いや待てよ。。。帰国して退社する前に、この仕事だけ
ちゃんとやってみよう。

会社の為とかじゃない。
もう少しここで、この街にいたい。

本社が仕事をしないのだから、俺には関係ない。
俺は俺の好きなこと。
この街にもう少しこの街で過ごしたい。

仕事は最後までやり抜く。
その見返りとして飛行機のチケットと滞在費は会社持ち

それでいいや!

会社からは宿泊費その他に掛かるお金を貰ってきている
んだし、上司からは「その金、全部使って良いよ。台湾
で人脈作るくらいの気持ちでやってくれ」と言われた。

手持ちの金がなくなるまで台湾にいよう!

数分前まで辞表の書き方を考えていたのに、何故かとて
つもないエネルギーが湧いてきた。

気持ちに火がついた私は食べ終わったスイカの皮をバケ
ツの中にたたき込み、再び工場に中へ向かった。

つづく

台湾の思い出 聞いてないよの連続2 出張という名の一人旅

日本語が通じない
英語もダメ。。。

どうしようかなぁ~
明日から商品の生産を始めないといけないのに。。。。
と思いながら、ふと工場のラインを見ると。。。

作り始めている!
ゴーサインを出す前に。。。作り始めている!!!

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生産するのはクリスマスツリー。
納品先は某大手コンビニエンスストア。

台湾に来る前、国内部の課長から呼び出され、
「ウチの会社はコンビニとの取引が全体の60%以上なんだ。
不良品率が高ければ今後の取引に影響が出る。
だから頼んだぞ!」
こう言われた。
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そうだ、マニュアルくらいは作ってあるハズだ。
1度生産を止めてもらい、良品と不良品の違い程度は確認しよう。

と思ったけど。。。どうやって伝えれば良いんだろう。。。

困った顔をしていると工場のサイ社長が何を言っている。

でも、何を言っているのか分からない。。。

サイ社長はしばらく考えたあと、近くにあったペンと紙を取り上げ
て、何かを書き、私に見せてくれた。

打電話台北公司?

なんとなく。。。なんとなくだけど、台北のオフィスに電話するか?
と聞いてくれているようだ。

「yes yes , thank you 」

台北オフィスに連絡して、私の話を通訳してサイ社長に伝えてもらお
う!

事務所に戻り、台北オフィスに電話した。

プー
プー
呼び出し音が数回なったあと、「ウェイ」(もしもし)と聞き覚えのある声。
社長のテイさんだ。
テイさんは日本語も流暢なので話が早いと思い、現場で起きている状況
を伝えた。

「はい、私からサイ社長に伝えてみましょう」

助かった~

ソファに腰を下ろし、訳の分からない中国語のやり取りを聞きながら一
安心。

サイ社長が受話器を渡してくれた。

しかし。。。テイ社長からは伝えられたのは。。。。

「もう生産は始まっているし、細かな事は聞いていない。今更そんな事
を言われても困る。工場には工場の予定があると言ってます。」

エ~~~ッ!

「じゃあ、マニュアル。生産に関するマニュアルがあるか聞いてもらえ
ます?」

「いやぁ、そんなものはないですよ。大体君の上司は台湾に来ても仕事
しないよ。そんな話しなんてしている訳ない。実際、私も聞いてない
ですしね」

結局、契約書や生産マニュアルなど、仕事に必要な書類が存在しない事
を知るだけだった。。。

サイ社長に「電話日本 ok ?」と書いた紙を渡すと「ドウゾ」と言って
くれたので、日本の会社に電話して状況説明をした。

国内部の課長からは「やはりそうかぁ~。いや、昨年もその工場に生産を
依頼したのだが、結構な不良品が出てしまった。だから今年はそうならな
いよう話をしてたんだけどなぁ~」

話をしただけで具体的なアクションは起こしてなかった。。。という事だ
った。。。。

こんなんで仕事になるの。。。?
これって仕事なの。。。。。。?

つづく

台湾の思い出  聞いてないよの連続  出張という名の一人旅 3

「 hello every one ! 」

笑顔を作り、大きな声で挨拶

シ~ン。。。。

あれ?
返事がない。。。
返事がないどころか笑顔すらなく、ただ黙ってこちらを見ているだけ。

しばらく見つめ合ったまま静寂が続く。
そして、何事もなかったかのごとく仕事を再開する現地の人々。。。

「ドウゾ」
工場の社長サイさんが私を誘導し、工場隣にある自宅へ案内してくれた。

大きな広い家。
さぞかし儲かっているのだろう。

大広間に通され、大きなソファーに座るよう促された。

外の暑さとは違い、ひんやりとした室内。

「ドウゾ」
サイさんがテレビをつけてくれた。

「ドウゾ」
次いでお茶を出してくれた。

小さな器で出された中国茶がとても美味しかった。

サイさんがテレビのリモコンでチャンネルを次々と変えていく。

突然、画面からは日本語が聞こえてきた。
サイさんが画面を指さし、笑顔でうなずく。
多分、「このチャンネルでいいですか?」と聞いてくれている。

「 ok ok」
笑顔で答える。

リモコンを手渡してくれ、「好きなチャンネルに変えて良いよ」と言って
くれている(のだと思う)

ソファに横たわりながらお茶を飲み、テレビを見る。
のんびりしててアジア感満載。。。。いやいやいやいや、俺、仕事に来た
んだよ。

サイさんと話がしたい。
工場に英語を話せる人がいるハズだと思い、サイさんに「english english」と
話しかけるが、サイさんは両手を広げるだけ。
うわぁ、englishさえも通じない。

工場の方へ指を指し、仕事場に行きたい意思表示をしてみたら、サイさんが
立ち上がった。

2人で工場へ戻る。

再びスタッフさん達の元へ歩み寄り、「誰か英語が話せる人はいませんか?」
と聞いてみるも、相変わらず笑顔はなく、こちらを見つめるだけ。

出張を命じられた際、専務が「英語は話せますよね?なら大丈夫」なんて会話、あれは一体何だったのだろう。。。

そうだ、台北オフィスのテイ社長が「現場には日本語を話す女性がいますから、
安心して下さいね」と言われたな。

そこで「日本語が話せる人はいますか?」と聞いてみた。

大きな身体のあばさんが小さく手を上げた。
良かった~。
仕事が出来る。

そのあばさんに日本語で話しかける。
あまり上手ではないけど、会話は成立する。

以前、日本人と結婚し日本に住んでいたのだが、その後離婚。
台湾に戻ってきたらしい。

「僕の言う事を翻訳して下さい」
「はい、大丈夫」

まずはサイさんに仕事の状況や今後の予定、問題点があれば話して欲しいと
あばさんに伝えた。。。。だが、おばさんの日本語能力はかなり低下してし
まっており、全然通訳出来ないのだ。

挨拶や天気の話などは問題ないのだが、仕事の事やちょっと難しい話になると全く会話が成立しなくなってしまう。

英語が通じない。
日本語が通じない。

これ、どうやって仕事すれば良いの????

つづく

台湾へ 初めの1歩 出張という名の一人旅 2

台湾の田舎町 竹南

さて、いよいよ工場へ!
と思ったその矢先、

「台北から通う? それともこの町に住む?」と上司

上司曰く、竹南は何もない町。
こんな町にいたら気分転換も出来ない。台北から通った方が良い。

しかし、台北からは電車で1時間半。
台湾に来てまで長距離通勤なんてしたくなかった。
それに竹南という田舎町。
どこか懐かしくて、のんびりとしていて。。。気に入ってしまったのだ。

「この町に住みたいです。ダメですか?」と聞くと

「君がそうしたいならそうしなさい。じゃあホテルを探そうか」

台北オフィス社長のテイさんが工場社長のサイさんに良いホテルがないか
聞いてくれた。

が、田舎過ぎてホテルがない。

ちょっと歩いてみようということになり、散歩がてら町を歩いてみた。

駅前でさえ質素で、周辺に繁華街さえない。

ただ、ホテルとは言えないけど宿泊施設の看板が数軒目に入った。
旅社だ。

オンボロな建物。
昼だというのに怪しい雰囲気が漂っている。
夜はかなり危なそうだ。

「こんなところしかないよ。やはり台北から通った方が。。。」という
上司に
「いや、ここで十分ですよ」と私。

「本当?まぁ、君がそう言うなら。。。ちょっと部屋だけ見てみよう。
判断はそれから私が下します」と上司もなかなか了解してくれない。

旅社のひとつに入り、部屋を見せてもらった。

小さな部屋で冷蔵庫、エアコンにテレビがある。
シャワーとトイレはあるけど、分かれていない。

お~、面白そうだ~
ここ、ここでいい!
もうここに住むことにした!

そう思った瞬間、上司から「ダメ、危ないよ。会社として君をここに住まわす
事は出来ません」

が~ん!
せっかくアジアに来たというのに。。。

台北から通いかよ~と気持ちが萎えそうになった。

そのとき、工場社長のサイさんが何かを思いだしたように話し始めた。

どうやらホテルが1軒あるのを思い出したらしい。
旅社ではなくホテル。
それもとても綺麗なホテル。

綺麗なホテルじゃ面白くないけど、この町に住めるならそれでもいいかな。

上司に「そのホテルを見て、もしダメなら台北から通います。判断をお願い
します」と伝え、そのホテルを見に行くことに。

汚い旅社から数ブロック先にそのホテルはあった。

駅からも近い。

10階建てのビルの9階と10階がホテルになっていた。
8階から下は全てオフィス。

立地も悪くない。
エレベーターでエントランスのある9階へ向かう。

エレベーターのドアが開くと受付の女性が2人立っていた。

宿泊費は1泊5千円ほど。

どうやら日本でいうラブホテルなのだけど、綺麗だし、毎日掃除もしてくれる。

上司からも了解を得られた。

寝床が決まり、いよいよ工場へ!

そのとき上司が「あっ、時間がなくなった。我々は台北に戻らなくてはいけないんだけど、一人で大丈夫だよね?」

「はい。でも、私は工場で何をすれば良いのですか?仕事の内容をまだ聞いてないのですが。。。」

「朝起きたら工場に行き、彼等が作る商品の品質管理。それだけだから出来るよね?」

いやいやいやいや、出来るけど、何をどう管理するのか?現地工場との取り決めなどはないのか?

上司に聞いたところ、
そんなものはない。
昨年もこの工場に発注して問題なかったから仕事は簡単だよ。
そんな答えだった。。。。

これって仕事って言えるの????

上司と台北オフィスの人達は車に乗り込み、台北へ戻ってしまった。

残された私と工場の社長サイさん。

優しい笑顔で車に乗るよううながすサイさん。

「謝謝」と唯一しっている中国語で答え、サイさんの車に乗る。

ホテルからは車で約5分。

田んぼに囲まれた小さな工場に到着。

よっしゃ~、いよいよ仕事だ!

サイさんの案内で工場の扉を開ける。

天井からはプロペラのような送風機がクルクル回り、ラジオからは中国語
(台湾語だった)の放送が流れている。

私とサイさんが到着するのを見て、工場で働く人達がこちらに視線を送って
くる。

彼等と働くことになるのだから、まずは仲良くなろう!

普段より大きな声で「hello every one ! 」と笑顔で手を挙げた。

つづく

台湾へ  初めの1歩  出張という名の一人旅

「来週から台湾へ行ってもらいます」

会社入社後、約1ヶ月後に専務から伝えられた海外出張。

学生時代に海外旅行に目覚め、海外で働ける仕事を探していた。
そんな私にとって入社早々にして巡ってきたチャンス。

「ありがとうございます! 期間はどれくらいですか?」

「仕事が終わるまでです」と専務

仕事が終わるまで。。。ってどれくらいなんだろう?
まぁ、いいか。
海外で仕事が出来る。

「あなたは英語、大丈夫でしたよね?」と専務

「はい。専門的な会話は出来ませんけど」
英語、勉強しておいて良かった。
芸は身を助けるのだ。

台湾の事は地理的な位置や中国と独立問題で揉めている程度の知識しかなかったので、会社近くの本屋で関連本を買い込んだ。

「では桃園飛行場(台湾の国際空港)であなたの上司と待ち合わせて、台北市内のオフィスへ向かって下さい。翌日、上司が仕事場へ案内してくれますので」と専務から事務的に伝えられた。

海外旅行の経験がそこそこあったので、飛行場から台北のオフィスなんて住所さえ教えてくれれば自分で行けるのになぁ~と思ったけど、リムジンを手配してくれたと言うし、経験として乗っておくのも良いだろう。

人事部から渡されたチケットを手に、当時は羽田空港にある中華航空専門のターミナルへ。

新入社員なのに何故かビジネスクラスのチケットだった。
同族経営の会社で経費の使い方でめちゃめちゃだったのだ。

現地時間の昼過ぎに空港へ到着。
入国審査を済ませてゲートを抜けると私の名前が書いてあるボードを持ったおじいさんが立っていた。
おじいさんの元に駆け寄り、名前を告げると「私はテイです。よろしく」と優しい笑顔。

台北オフィスの社長さんだった。

後ろには当時の上司が立っていて、握手で迎えてくれた。
この上司か台湾、香港、タイ、フィリピンを常に飛び回っていたので、日本では会う機会がなく、飛行場で会うのが初対面だった。

大きな黒塗りのリムジンに乗り、台北のオフィスへ直行。

高速を降りて街中を走るとコンクリートむき出しの、やや古ぼけた建物。
漢字だらけの看板。
南国独特の日差し。

異国間満載。
もうそれだけでテンションが上がる。

オフィスに到着。
さて、打ち合わせでも、と思いペンやノートを取り出したその時、
「もう遅いので仕事は明日。さぁ、ご飯を食べに行きましょう」とテイさん。

拍子抜けしたけど、時刻は17時。

オフィス近くにある寿司屋で料理を楽しみ、酒を飲まされ、酔っ払ってタクシーに乗せられホテルへ。。。。

こんなんでいいのかな。。。?
と思いつつ、まぁ、アジアだしねと変に自分を納得させて眠りについた。

翌日、張り切ってオフィスへ。
8時に全員が揃い、台北から約1時間半ほど車で南下。
竹南という田舎町にある工場へ向かう。

そこにある工場で商品品質管理をするのが仕事だと伝えられた。
あれ、台北勤務じゃなかったのね。。まぁ、どこだろうが海外で働ければ良かったので、どこでも問題はなかった。

竹南に到着すると工場ではなくレストランへ。
そこで現地工場の社長さんと待ち合わせしているとのこと。

店に入ると大人しくて優しそうなおじさんがニコニコしながら近寄ってきた。
「○○○○○。。。」と早口で巻くし立て、私の手をギュッと握る。

初めて聞くリアルな中国語だった。
「この方は社長のサイさんです」
台北オフィス勤務のワンさん(女性)が英語で通訳してくれた。

丸くてクルクル回るテーブルに座り、台湾料理を楽しむ。
初めて見る台湾料理が次々と運ばれてくる。
美味しい!
どれも美味しい!

私の上司は中国語が話せたので、現地の方々と談笑。
理解出来ない私はひたすら台湾料理を食べていた。

台湾料理、美味い!
これがその後、私に遅い掛かる悲劇、いや喜劇の始まりでもあった。

美味しい食事が終わり、工場社長のサイさんがお会計を済ませた。

さて、いよいよ工場へ!
一体どんな場所で働くのだろうか?

ワクワクしながら店の外の駐車場へ向かった。

つづく