心と身体は繋がっている。
それは真実だと思う。
今年(2022年)6月に体調を崩した母。
一時は炊飯器の使い方を忘れ、得意だった煮物の作り方も
分からなくなってしまった。
体調を崩し、メンタルバランスを失った。
日課だった散歩には出ることがなくなり、家の中に居ても
椅子に座る時間が短くなり横になって過ごす時間ばかりが
長くなっていた。
声も日に日に小さくなり何を言っているのか聞き取れない
聞き返すと話をやめてしまう。。。そんな毎日が続いてい
た。
元気だったころの母を知っている私。
この現実を受け入れられない気持ちと老いるとはこういう
ことなのかと現実を受け入れる心の準備をする私。
横になってテレビばかり見て過ごす母を見下ろし、少しイ
ライラもした。
「まだ、そんな歳じゃないだろうに!」
そう心の中で叫んでいたけど口にはしなかった。
口にしてはいけない。。。絶対に言ってはいけない。
母の心に傷をつけ、その傷は永遠に母の傷口を広げ続ける。
そう思ったから。
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趣味だった畑に行くことはなくなった。
台所に立つこともなくなりスーパーで総菜を買ったり、弁
当屋で弁当を買う毎日になっていた。
母は朝から晩まで横になってテレビを見る生活が常態化し
てしまった。
顔からは表情がなくなり口数もほとんどなくなっていた。
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こんな彩のない生活をしていてはいけない。
そう思い母を車に乗せて近くにある芝生が広がる公園に行っ
て散歩したりもしたけど、数分歩いただけで母は
「もう帰りたい」と言いうつむいてしまった。
まだタイミングではないな。
気分転換して欲しかったけど母はまだそれを受け入れられる
心と身体に戻っていない。
少し早すぎたかな。。。
そう思った。
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母が横になっている間にも畑の野菜は育ち雑草は伸び放題に
なってしまう。
植物とはいえ命に変わりない。
ほったらかしには出来ない。
そう思った私は毎日のように畑に通い野菜の世話をするよう
になった。
夏の厳しい日差しの下、汗ダクになって帰宅する私の表情は
充実している。
母の目にはそう映ったようだ。
ネットで料理のレシピや動画を検索し、スマホを見ながら調
理する。
食材を焦がしてしまったり塩を入れ過ぎて失敗してしまった
りしながらも徐々に普通に食べられる料理を作れるようにな
る私の後ろ姿を見て
「楽しそうだな」
「今日は何を作ってくれるのだろう?」
少しずつ自分が見る景色に興味を取り戻しつつあるようだっ
た。
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私の料理を作る手伝いをし始め、まだ作ったことがない料理
のレシピを私に質問し、自分で作る機会も増えてきた。
私が植えたサンチュやイタリアの葉っぱが意外に美味しかっ
たこと。
自分が育てた経験のない人参や万能ねぎの種を植えた息子の
姿を見て久々に畑に足を運びたくなったのだろう。
ある日
「久々に畑に行ってみようかな。あそこまでは歩けないから
車で連れていってくれる?」
母にそう言われたときは本当に嬉しかった。
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今では短い距離ながら午前中に2回。
気持ちが乗っているときは3回。
母は近所を散歩するようになった。
以前のように時間をかけて長い距離を歩くことはなくなったけ
ど短い距離をコンスタントに歩くことでトータルの歩数をキー
プしているようだ。
歩ける自信を取り戻すと今度は手足を上下左右に動かしたり、
力を入れたり脱力したりもするようになっている。
ほぼ毎晩母をマッサージしているのですが、私が不在の間には
自分で手の届く範囲で手足をマッサージしたり軽く揉んだりも
しているらしいようで、手先足先に暖かさを感じるようにもな
ってきたそうだ。
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ああした方が良い。
こうした方が良い。
前は出来たじゃない!
本人を勇気付ける言葉が逆に傷つけてしまうことがある。
側に居て話に耳を傾ける。
発する言葉を注意深く観察する。
言葉や態度。
声のトーンや目。
表情やたたずまい。
人はたくさんの信号を発しているのが少し理解出来るように
なったのは私にとっても大きな収穫だった。
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まだ体調は万全という状態ではなくしばらく好調が続いたかと
思えば突然眩暈に襲われてその場にしゃがみ込んでしまう日も
ある。
夜、ひとりで留守番をすることに対しては不安があるようだ。
ある日の夜中に過呼吸になってしまったことがあり、またあの
症状が出たら救急車なんて呼べないだろうという恐怖心は残っ
たままだ。
でも、話し声は以前と同じボリュームに戻り、会話する回数は
格段に増えた。
時々うるさく感じるほどよくしゃべる。
食欲も戻り先日はご飯をお代わりしていた。
3カ月前。
夜中に不調を訴え救急車に乗って病院に運ばれた母。
自分に対する自信を失い、日々の生活が面倒に感じるようになり
「もうどうでもいいや」が口癖になっていた。
そんな母が
「今日はなんだか気持ちがいいよ。ほら、足もこんなに上がるよ」
そう言いながら両足を交互に上げ下げして足踏みしてみせた。
子供ような母の姿。
なんだか微笑ましい。
読んでいただきありがとうございます。