台湾のキング

台湾の王

前回詐欺に欺されたアシェンのエピソードに登場したピーナッツ。

彼はアシェンの遠縁にあたる男だ。

高身長で人懐っこい。
でも、ちょっとズルいところもある。
少し憎めない男だ。

彼とは新竹にある小さな商店街で出会った。
小さな衣料品店を経営していた。

当時、私が取引していた日本の取引先の小売店のオーナーにとても
似ていたので親近感があった。



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「俺、台湾人は信用しないんだ。あいつら嘘つきばかりだからよ」

ピーナッツの口癖だった。



彼には夢を語り合い、夢に向けて行動を共にしていた仲間がいた。

小さくても良いから自分たちで店を経営しよう。
努力して儲かったら、もう少し大きな店、また儲かったら次の店を
オープンしよう。

毎晩毎晩、ピーナッツはその友人と夢を語り合っていた。

ようやく自分たちの予算に合う空き店舗が見つかり、内装工事を手
配。2人で初めての仕入にも行ったそうだ。

ようやく自分たちの夢が叶う。

高鳴る胸。
ピーナッツは眠る事が出来ず、友達に電話をして話をしようと枕元
にあった携帯を手に取ったときだった。。。

一緒に店を経営する友人からの着信。
「なんだよ、あいつも俺と同じ。。。眠れないんだな(笑)」
そう思いつつ電話を受けると

「ごめん、俺、やっぱ店、止めとくわ」
と挨拶もなくその友人が切り出した。

「えっ?冗談だろ?こんなときにやめろよ~。びっくりさせるなよ~」
とピーナッツが切り返す。

「いや。冗談でも何でも無い。俺、店なんてやらない」
いつもとは違い冷たい口調だった。

「冗談だろ?なぁ、冗談だよな?」
ピーナッツは何度も聞きかえす。

「いや。やらないったらやらないよ。だからこうして電話してんじゃん」
「やらないって。。。。お前。。。」

「悪いな。だって儲かりそうにないし、親にも止めろって言われちゃっ
 たんだよ。だから止める」
「なんだよそれ!俺たちの夢だったじゃないかよ!毎日毎日語り合った
 俺たちの夢だろ?」

「夢?まぁ、そうだけど。。。夢は夢でしかない。俺、就職することに
 なったんだ。会社ももう決まちゃった」
「決まちゃったって。。。」

「オヤジのコネでさ。明日から出勤なんだ。朝が早いからさ。もう電話
 切るよ」
「おっ!お前!待てよ! あの店、来週にはオープンだし。。。それに
 内装工事の代金や俺が支払って仕入れた商品の代金とか。。。お金の
 問題もあるだろ!」

「悪いな。全部、そっちでやってくれよ」
「なんだよそれ!内装工事の代金、幾らか知ってるはずだろ!俺1人に
 あの金額を負担させるのかよ!」

「だ~って、お前の店だろ?俺、もう関係ないもん」
「ふざけるなよ!ちょっとこれからでも話そうぜ!」

「これから?さっきも言ったように、俺、明日から会社員。オヤジのメ
 ンツもあるから遅刻なんて出来ない。もう寝るからさ」
「お前、自分のことばかり。。。!」

「じゃあな。商売の成功を祈るよ」
そう言って、ピーナッツの友人は電話を切り、その後音信不通になった
そうだ。

人前ではふんぞり返って威勢が良いピーナッツだが小心者。
未経験の店舗経営なんて、自分1人でやっていけるのか。。。
オープンに掛かった諸費用は親に事情を話し、半分ほど負担してもらっ
たそうだ。



スタートする前からピーナッツの心はズタズタだった。

そんな気持ちで店に立っていても仕事がうまくいくはずはない。

売上は伸びる事がなく、家賃を払うのが精一杯。

信じていた共の裏切りと商売の苦戦。

ピーナッツの心の中に大きな黒い影を落としてしまう。
やがてそれは「人間不信」へと発展してしまう。

ピーナッツは同胞である台湾人を信じる事が出来なくなっていた。

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そんなピーナッツとは

「俺は台湾人を信用しない。でも、日本人のお前は信じるよ」

「どうして?」

「お前は日本人だから」

そんな会話になったこともあった。

日本人でも悪い奴はたくさんいるのだけど。。。

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「今夜も店が終わったら飲みに行こうぜ!」

時々食事に誘ってくれるピーナッツ。

「今日はどうだった?売れた?」と聞くと

「ダメだ!ダメ ダメ ダメ!! この街の連中、俺のセンスが分らな
 いんだ。こんな連中相手に商売したくね~よ」

「おいおい、そんな大声で!歩いている人に聞こえてるぞ」
「関係ないね!」

いつもこんなことを言っている。
悪い奴ではない。。。。のだが情緒が安定していない。

そして売上が悪い日や人通りが少ない日は店で酒を飲んでしまう。
顔が赤く、目がトロンとしている店主。
こんな店で商品を買いたいなんて思う人はいないだろうに。。。

落ち込む時は物凄く落ち込んでしまうけど、調子に乗ると手が付けられ
ない。

そこが妙に魅力的でもあった。

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