ニューオリンズ 僕の荷物はどこですか?

アメリカ南部の街
ニューオリンズ

ジャズの街としても有名で、観光エリアへ行くと
ストリートミュージシャンがあちらこちらで演奏を披露
していた。

好きな事をして生きている人たち。
足を止めて彼らの演奏を楽しむ観光客たち。
集う人々は皆笑顔。
歓声を上げたり、演奏に合わせて踊り出したり。

音楽と街。
そして人生を楽しんでいる。
底抜けに明るい街だ。

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1日中、街を歩き。
夕飯を終えてバスターミナルへ戻る。

再び夜行バスに乗り、次の街へ向かう為だ。

ターミナル内にある案内所でバスの出発時間を確認。
一息付いているときだった。

「あのう~、すっ、すみません。日本人ですよね?」
と日本語で声を掛けられた。

振り返ると気の弱そうなメガネの男性が立っていた。
日本人だ。

「はい。そうですよ」
そう返事をすると、

「ちょっと良いですか?」

「は、はい。大丈夫ですよ。座って話しましょうか」

「あ、ありがとうございます」
おどおどとした表情で彼はベンチに腰を下ろす。

超弱気な感じ。
緊張しているのか、ベンチに浅く腰掛けていた。

何かトラブルにでも遭ったのかな?

「あのう。。。僕の。。。僕の荷物がないんです」

置き引きにでも遭ったのかな?

「荷物がないって。。。盗まれたの?」

「いえ。今朝、この街に到着してバスを降りた時、バス会社
 の人が近寄ってきたんです。。。。」

彼が言うには、そのバス会社の人は
「ようこそニューオリンズへ!」
と笑顔で話しかけてきたそうだ。

バス会社の人と名乗る男はは街の観光名所やお薦めのレスト
ランやバーの店名や場所を丁寧に話してくれたそうだ。

親しみのある笑顔と優しい物腰。
質の良いサービス。
日本人の彼は説明を聞いている間にバス会社の人への信用を
深めていった。

「この街には何日間の滞在予定ですか?」
と聞かれた彼は

「今日の夜には街を出ます。夜のバスで」
そう答えたそうだ。

「そうですか。1日だけとはちょっと残念ですが、1日だけで
 もこの町を心ゆくまでお楽しみ下さい。
 あっ、大きなお荷物があるのですね。お荷物を持ったままで
 の観光は大変でしょう。ターミナル内ではお荷物を預かるサ
 ーブスがございまして、私はその担当なんです。もし宜しけ
 れば、私がお預かりしますよ。こちらにチケットがあります。
 街を出る際、このチケットをカウンターへお持ち下さい」

と言って、その男性からチケットを受け取り、大きなバッグを
バス会社の人に預けた。
そしてニューオリンズへ出た。

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観光を終えてターミナルへ戻ってきた彼はサービスカウンター
へ行き、チケットを出した。。。。

「すみません。僕の荷物をお願いします」

しかし。。。

「何これ?」
サービスカウンターの担当からはつれない返事。

「こっ、これは僕の荷物を預かってくれたバス会社の人から貰
 ったチケットです。あなたの会社が荷物を預かってくれるっ
 て。。。」

「ウチはそんなサービスしてないよ。ほら、あそこに見えるコ
 インロッカー。荷物を預けるのはあそこだけだよ」

「えっ?じゃ、じゃあ、僕の荷物は。。。?」

「そんなこと、僕が知る訳ないじゃん。あんた、欺されたんだ
 よ。ったく、日本人はよく欺されるんだよなぁ~。それを俺
 たちに言われてもさ~」

「じゃあ、僕は。。。僕はどうすれば良いですか?」

「知らね~よ。警察にでも相談したら。ったく、こっちは忙し
 いの!」

対応してくれないばかりか話も聞いて貰えず。
警察への連絡もしてくれなかったそうだ。


彼がターミナルに到着した際、たまたま私を見かけたのを覚え
ていたので、、もしかすると同じような被害に合ってないか?
同じ男から声を掛けられなかったか?
そう思い、声を掛けてきたそうだ。

藁にもすがる思いだったのだろう。

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荷物は出てこないだろう。
とは思ったけど、バス会社の人に話をしてみよう。

そう思った私は近くを歩いていたバスターミナルの警備員に話
しかけてみた。

「すみません」

黒人の警備員は笑顔で「何かご用でしょうか?」
とても丁寧は応対をしてくれた。

「実は。。。。」

一通りの説明を終えると
「恥ずかしいことにこの街で多発している事件なんですよ。
 我々も注意を呼びかけているのですが、被害は後を絶ちませ
 ん」

警備員は対応も良く、熱心に話を聞いてくれた。

「残念ですが荷物は出てこないでしょう。でも、警察に被害届
 を出しますか?」

「はっ、はい。荷物は。。。出てこないのでしょうけど。。。」

と気弱な青年。

そして私の方を向き
「大切なお時間を。。。ありがとうございました」
と言って深々と頭を下げてくれた。

「警察まで付き合おうか?」と言ったが
「いえ、僕のミスであなたの時間を奪う訳にはいきません。多少
 英語も出来るし大丈夫です。今夜のバスに乗るんですよね?」

「うん。本当に大丈夫?」

「はい」
少しだけ笑顔になった青年は
「お気を付けて。ありがとうございました」と私にお礼の言葉を
伝えてくれた。

「いいえ。お役に立てず申し訳ない」

「そんなことないですよ。久々に日本人と話せて良かったです。
 ありがとうございました」

そこで彼とは別れた。

幸い財布や飛行機のチケット、そしてパスポートは身に付けて
いたので、旅を続けること、そして日本へ帰ることは出来ると
話していた。

冷静に考えるとあり得ない話だ。でも英語で話しかけられて気
が動転したり、完全に理解しないまま相手のペースに乗ってしま
うと隙を突かれる事がある。

旅は楽しい。
でも、自分の身は自分で守るしかない。
リスクもあることを忘れてはいけない。
それが1人旅。


おわり



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