Mとはまだ会えてはいないものの徐々に彼女の状況が見えてきた。
彼女が経営する市内の3店舗目に行くと店内に商品を運び込むス
タッフたちを発見。
そこには現場で指揮を取るスカイの姿が。
ビッグモーとの再会と彼の口から語られた話。
想像以上にMの状況は厳しそうだ。
Mが店舗に来る前にお茶でもしましょうと声を掛けてくれたスカ
イと一緒に、店の近くにあるカフェに行くことに。。。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ここっスよ」
と言いながら、スカイがカフェのドアを開けてくれた。
洒落たカフェ。
2ヶ月前にオープンしたばかりだという。
「ウィ~ッス!」とカフェスタッフたちに敬礼のようなポーズを
取って挨拶をするスカイ。
「あ~!スカイさん!いらっしゃませ!!」
3人ほどいるフロアースタッフたちが一斉に振り向いて、私たちに
笑顔を向けてくれた。
「お~!みんな今日も最高に可愛いね!」とスカイ。
「も~。冗談ばっかり!でも嬉しい。ありがとう」
とスタッフの1人が笑顔で返す。
いやいや、冗談ではなく本当に可愛い。
「俺、コーヒーね。何飲みますか?」
「ミルクティーはある?ホットがあると良いんだけど」
「はい。ありますよ」とスタッフさん。
「じゃあホットのミルクティーで」
「はい。ありがとうございます」
オーダーを済ませて窓側の席に付いた。
「スカイ、あの子達、本当に可愛いな」
「でしょ?モロタイプなんじゃないっスか?ははは」
「ど真ん中だよ、ははは」
そんなやり取りをしている間に
「お待たせしました~」とスタッフが注文したドリンクを運んで
くてくれた。
「ありがとう。ここのコーヒー、美味いっスよ~」
と冗談っぽい口調で話すスカイ。
「はは。ありがとうございます。味音痴のスカイさん!」
接客になれた感じのスタッフがそう返す。
スカイとも中が良さそう。
会話のテンポが良い。
「お客様はホットのミルクティですね。ポットでお持ちしちゃい
ましたけど」
「いいよ。ありがとう。払いはスカイがしてくれるからね」と下
手な中国語で私が応対すると。
「あの~。お客様は台湾人ではないですよね?」
「ははは。そうだよ。俺の中国語、やっぱり下手かな?」
「いえ。ちゃんと通じてますよ。ただ発音が独特だなって。香港
の方?」
(やはり日本人?とは聞かれないんだなぁ~)
すかさずスカイが
「いや。彼は日本人。俺の友達だよ。君の事を話したら、是非会わせろ
って言い出してさぁ~」
「え~~~~!」と口に手を当てて驚くスタッフ。
「おいおい。今、初めて会ったばかりなのに。。。でも、想像の遙か上を
行く可愛さだねぇ!」と私も調子に乗る。
「も~~~。からかわないで下さいね!」
ほっぺたを膨らませて怒った表情。でも、目は笑っている。
なっ、なんて可愛いんだろう~!
「スカイさんの友達もスカイさんと同じ感じ。類友ですね!」
「ははは。だから仲良くなれるんじゃん!」とスカイがこちらを
見て笑う。
「違いない。類友は国境を越える!」
「はいはい。分りました~。もう大人なんですから、しっかりして下さいね。
ではごゆっくり」
「ありがとう」
テーブルから離れていくスタッフに手を振る私とスカイ。
( 本当に可愛いなぁ~ )
と思いつつ、Mが来るまでの時間、スカイに聞ける事は聞いておきたい。早速、
聞けそうなところから聞いてみよう。
「あの大きな倉庫付きのオフィス。契約更新しなかったんだ?」
「そうなんですよ~。僕ら耳にピアスしてるし、タトゥーが入っ
てるスタッフが多いじゃないですか。どうやら麻薬密売者と勘
違いされて、大家が契約更新してくれなかったらしいんですよ
ね~」
「本当かよ?」
「と、まぁ、これはMさんの説明なのですが。。。少しは知って
るんでしょ?」
「うん。全部じゃないけどね。○○路の店は閉店してるし、スタ
ッフの何人かは給料が貰えてない。普通の状況じゃないよね?」
「そうっスネ」
スカイが砂糖の入ったスティックを封を切り、コーヒーカップに
入れながらため息をついた。
「僕らが麻薬密売者っぽいから契約更新してくれなかったって説
明もね(笑)そう聞いた時、口元が緩んじゃいましたよ。だっ
て僕ら、あそこで働いてるんっスよ。デパートのとんずらされ
たことだって、最近売上が落ちていて在庫がなかなか回転して
いないことも。。。多分、Mさんよりも僕らの方が感じてたと
思う」
「そうだよね~。しっかし麻薬密売者って。。。ははは。ごめん
、そんなこと言ったんだ」
「はい。ちょっと失望しました」
顔は笑ってはいたものの、少し寂しそうな表情を見せてスカイ。
「ここ数ヶ月でこんな状況になってきたの?」
「いや。もう数年前からです。流行廃りってあるじゃないですか
?以前はアメリカのブランドが1番って感じでしたけど、今は
日本なんっスよね。台湾のイケてる連中が欲しいのは」
当時、日本では裏原宿から発信されるファッションは日本だけで
はなく、台湾、香港、そしてアメリカやイギリスなどでも評価さ
れていた。
細かいところにも凝ったデザインの服、わざと穴を空けたり色落
ちさせたダメージジーンズ。
日本製のダメージジーンズは1本で数十万で取引される事もあった。
取引先からは「もうアメリカじゃない。日本からの商品が欲しい
」との声を聴いていたスカイは何度もMとヒースに日本のブラン
ドとのコンタクトを勧めていたそうだ。
「でも。なかなか動いてくれなかった。ヒースはアメリカ人で日
本にコネがある訳じゃないし。。。。Mさんもねぇ~。2人共
、このビジネスをやりには歳を取り過ぎているのかも」
「そうかぁ。頭では分っていても実際に動こうとすると腰が重く
て動けない。そうこうしている間に売上は落ちていく」
「はい。それにプライドっスよね。2人のプライド。数年で会社
をあそこまで大きくしたんだっていうプライドが現実と向き合
う事を許さなかったんだと思います」
ブランドビジネスの過酷さもスカイが語ってくれた。
「どのブランドもそうだと思うのですが、年間の取引額の最低ラ
インを超えていかないと翌年の契約が解除されちゃう場合が多
いんですよ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
スカイの説明によると
☆年間最低取引額のクリア
その額は年々上がっていく場合もある
数字をクリアする為、そして実力を示す為、無理をした仕入
を繰り返し、売れない商品が在庫の山となっていく
ブランドのご機嫌伺いの為、台湾では売れなさそうなデザイ
ンもオーダーする。当然、売れないのでこれも在庫になって
いく
☆マーケットの変化
アメリカのものではなく、日本のブランドへ
マーケットが急速に変化してしまっていた
☆サイクルの早いマーケット
ストリートウェアを着るのは高校生、大学生がほとんど。
卒業を機にファッションが変化するので、流行の変化が早い
ブランド単体のアメリカンブランドではなく「日本」という
パッケージを背景にした文化としての日本ブランドへ関心が
移りつつあった
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「アメリカからはもっと売れ!と言われ、仕入れる商品が増える
一方で、僕らのお客さんたちからはこれじゃないと言われて取
引が減っていく。。。ここ2~3年はそんな傾向に歯止めがか
からなっくなっていたんスよ。あの2人も感じていたハズなの
に。。。」
「そうかぁ~。そんな状況下でデパートにとんずらされて。。。」
「はい。弱り目に祟り目ですよね~。まぁ、Mさんたちも新しい
事にトライしようとしてたのは知ってます。ほら、途中で放り
出してしまった雑貨屋」
「あのキャンディが暴れちゃった店だよね?」
「はい。彼女には本当に申し訳なかったっス。それとお願いして
いた日本のギャルブランド。あれも中途半端な感じで。。。」
「そうだよ。せっかく日本のブランドも興味を持ちだしていたの
にさ」
「もうあの頃には会社の体力が。。。新しい事業を立ち上げる資
金が無かったんだと思います」
「Mたちの家、売りに出してるらしいね」
「そっ、そんなことまで知ってるんスか?外人なのに凄いネット
ワークっスね!」
目を丸くして驚くスカイ。
「はい。家も。。。最近は車も売ってしまったので、スタッフが
送迎をしてますよ。でも、引っ越した先は高額家賃のマンショ
ンで。。。そんな金があったらスタッフに給料を払って欲しい
っスよ」とスカイが続けた。
「あの車も売ってしまったんだ!」
「そうなんスよ~」
「スカイは今後、どうするの?」
「俺っスか? 俺は最後まで。。。最後まで残ってMさんを支え
ます。と言うか、そうならないよう頑張ってみます」
そう言いながら胸を張ったスカイの言葉にはブレが無かった。
「大丈夫なの? 給料を貰えてないスタッフの食事まで負担して
るって聞いてるけど」
「はっはっは!良く知ってますね~!そんなことまで知ってるん
スね~」と無邪気な笑顔を見せるスカイ。
「仲の良い子たちもいるからさ。耳に届いてしまうんだよね」
「へぇ~。でも、俺もこうして外国人のあなたに話してしまって
るもんなぁ~。苦しい時や悩みのある時に話を聞いてくれる人
の存在って有り難いっスよ」
と言ってコーヒーカップを口にしたスカイ。
そこでスカイの携帯が鳴る。
「はい。もう着きました?はい、一緒にいますよ。はい。じゃあ
これからそっちへ戻りますね。は~い。また後で!」
電話を切ったスカイが
「Mさん、到着したみたいです。そろそろ戻りましょうか?」と
言ってレシートを持って席を立つ。
「スカイ。いいよ。ここは俺に奢らせてくれよ」
と私がスカイの手からレシートを取ろうとするのをすり抜けたス
カイが
「ここは台湾。外国人のあなたはお客さんです。お客さんにお金
を払わせてたら台湾人である僕の面目丸つぶれじゃないっスか
。ほら、彼女たちも見てることだし、ここは僕に格好を付けさ
せて下さいよ」
多少財布の中が寂しかろうと見栄を張る。
見栄と言うより心意気という方が的確な表現だろう。
「分ったよスカイ。。。もし君が日本に来た時は俺に奢らせてく
れよ」
「はい。落ち着いたら日本に行きたいっス。俺、まだ行ったこと
ないから。。。渋谷の109でギャルをナンパしたいっス!」
そう言っていたずらっぽく笑うスカイだった。
オシャレなカフェを出た私とスカイはMが待つ店に向かった。
つづく。