M 7

Mとはまだ会えてはいないものの徐々に彼女の状況が見えてきた。

彼女が経営する市内の3店舗目に行くと店内に商品を運び込むス
タッフたちを発見。

そこには現場で指揮を取るスカイの姿が。

ビッグモーとの再会と彼の口から語られた話。

想像以上にMの状況は厳しそうだ。

Mが店舗に来る前にお茶でもしましょうと声を掛けてくれたスカ
イと一緒に、店の近くにあるカフェに行くことに。。。


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「ここっスよ」
と言いながら、スカイがカフェのドアを開けてくれた。

洒落たカフェ。
2ヶ月前にオープンしたばかりだという。

「ウィ~ッス!」とカフェスタッフたちに敬礼のようなポーズを
取って挨拶をするスカイ。

「あ~!スカイさん!いらっしゃませ!!」

3人ほどいるフロアースタッフたちが一斉に振り向いて、私たちに
笑顔を向けてくれた。

「お~!みんな今日も最高に可愛いね!」とスカイ。

「も~。冗談ばっかり!でも嬉しい。ありがとう」
とスタッフの1人が笑顔で返す。

いやいや、冗談ではなく本当に可愛い。

「俺、コーヒーね。何飲みますか?」

「ミルクティーはある?ホットがあると良いんだけど」

「はい。ありますよ」とスタッフさん。

「じゃあホットのミルクティーで」

「はい。ありがとうございます」

オーダーを済ませて窓側の席に付いた。

「スカイ、あの子達、本当に可愛いな」

「でしょ?モロタイプなんじゃないっスか?ははは」

「ど真ん中だよ、ははは」

そんなやり取りをしている間に

「お待たせしました~」とスタッフが注文したドリンクを運んで
くてくれた。

「ありがとう。ここのコーヒー、美味いっスよ~」
と冗談っぽい口調で話すスカイ。

「はは。ありがとうございます。味音痴のスカイさん!」
接客になれた感じのスタッフがそう返す。
スカイとも中が良さそう。
会話のテンポが良い。

「お客様はホットのミルクティですね。ポットでお持ちしちゃい
 ましたけど」

「いいよ。ありがとう。払いはスカイがしてくれるからね」と下
手な中国語で私が応対すると。

「あの~。お客様は台湾人ではないですよね?」

「ははは。そうだよ。俺の中国語、やっぱり下手かな?」

「いえ。ちゃんと通じてますよ。ただ発音が独特だなって。香港
 の方?」

(やはり日本人?とは聞かれないんだなぁ~)

すかさずスカイが
「いや。彼は日本人。俺の友達だよ。君の事を話したら、是非会わせろ
 って言い出してさぁ~」

「え~~~~!」と口に手を当てて驚くスタッフ。

「おいおい。今、初めて会ったばかりなのに。。。でも、想像の遙か上を
 行く可愛さだねぇ!」と私も調子に乗る。

「も~~~。からかわないで下さいね!」

ほっぺたを膨らませて怒った表情。でも、目は笑っている。
なっ、なんて可愛いんだろう~!

「スカイさんの友達もスカイさんと同じ感じ。類友ですね!」

「ははは。だから仲良くなれるんじゃん!」とスカイがこちらを
見て笑う。

「違いない。類友は国境を越える!」

「はいはい。分りました~。もう大人なんですから、しっかりして下さいね。
 ではごゆっくり」

「ありがとう」

テーブルから離れていくスタッフに手を振る私とスカイ。

( 本当に可愛いなぁ~ )

と思いつつ、Mが来るまでの時間、スカイに聞ける事は聞いておきたい。早速、
聞けそうなところから聞いてみよう。

「あの大きな倉庫付きのオフィス。契約更新しなかったんだ?」

「そうなんですよ~。僕ら耳にピアスしてるし、タトゥーが入っ
 てるスタッフが多いじゃないですか。どうやら麻薬密売者と勘
 違いされて、大家が契約更新してくれなかったらしいんですよ
 ね~」

「本当かよ?」

「と、まぁ、これはMさんの説明なのですが。。。少しは知って
 るんでしょ?」

「うん。全部じゃないけどね。○○路の店は閉店してるし、スタ
 ッフの何人かは給料が貰えてない。普通の状況じゃないよね?」

「そうっスネ」

スカイが砂糖の入ったスティックを封を切り、コーヒーカップに
入れながらため息をついた。

「僕らが麻薬密売者っぽいから契約更新してくれなかったって説
 明もね(笑)そう聞いた時、口元が緩んじゃいましたよ。だっ
 て僕ら、あそこで働いてるんっスよ。デパートのとんずらされ 
 たことだって、最近売上が落ちていて在庫がなかなか回転して
 いないことも。。。多分、Mさんよりも僕らの方が感じてたと
 思う」

「そうだよね~。しっかし麻薬密売者って。。。ははは。ごめん
 、そんなこと言ったんだ」

「はい。ちょっと失望しました」
顔は笑ってはいたものの、少し寂しそうな表情を見せてスカイ。

「ここ数ヶ月でこんな状況になってきたの?」

「いや。もう数年前からです。流行廃りってあるじゃないですか
 ?以前はアメリカのブランドが1番って感じでしたけど、今は
 日本なんっスよね。台湾のイケてる連中が欲しいのは」

当時、日本では裏原宿から発信されるファッションは日本だけで
はなく、台湾、香港、そしてアメリカやイギリスなどでも評価さ
れていた。

細かいところにも凝ったデザインの服、わざと穴を空けたり色落
ちさせたダメージジーンズ。

日本製のダメージジーンズは1本で数十万で取引される事もあった。

取引先からは「もうアメリカじゃない。日本からの商品が欲しい
」との声を聴いていたスカイは何度もMとヒースに日本のブラン
ドとのコンタクトを勧めていたそうだ。

「でも。なかなか動いてくれなかった。ヒースはアメリカ人で日
 本にコネがある訳じゃないし。。。。Mさんもねぇ~。2人共
 、このビジネスをやりには歳を取り過ぎているのかも」

「そうかぁ。頭では分っていても実際に動こうとすると腰が重く
 て動けない。そうこうしている間に売上は落ちていく」

「はい。それにプライドっスよね。2人のプライド。数年で会社
 をあそこまで大きくしたんだっていうプライドが現実と向き合
 う事を許さなかったんだと思います」

ブランドビジネスの過酷さもスカイが語ってくれた。

「どのブランドもそうだと思うのですが、年間の取引額の最低ラ
 インを超えていかないと翌年の契約が解除されちゃう場合が多
 いんですよ」

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スカイの説明によると

 ☆年間最低取引額のクリア

  その額は年々上がっていく場合もある

  数字をクリアする為、そして実力を示す為、無理をした仕入
  を繰り返し、売れない商品が在庫の山となっていく

  ブランドのご機嫌伺いの為、台湾では売れなさそうなデザイ
  ンもオーダーする。当然、売れないのでこれも在庫になって
  いく

 ☆マーケットの変化

  アメリカのものではなく、日本のブランドへ
  マーケットが急速に変化してしまっていた

  
 ☆サイクルの早いマーケット

  ストリートウェアを着るのは高校生、大学生がほとんど。
  卒業を機にファッションが変化するので、流行の変化が早い

  ブランド単体のアメリカンブランドではなく「日本」という
  パッケージを背景にした文化としての日本ブランドへ関心が
  移りつつあった

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「アメリカからはもっと売れ!と言われ、仕入れる商品が増える
 一方で、僕らのお客さんたちからはこれじゃないと言われて取
 引が減っていく。。。ここ2~3年はそんな傾向に歯止めがか
 からなっくなっていたんスよ。あの2人も感じていたハズなの
 に。。。」

「そうかぁ~。そんな状況下でデパートにとんずらされて。。。」

「はい。弱り目に祟り目ですよね~。まぁ、Mさんたちも新しい
 事にトライしようとしてたのは知ってます。ほら、途中で放り 
 出してしまった雑貨屋」

「あのキャンディが暴れちゃった店だよね?」

「はい。彼女には本当に申し訳なかったっス。それとお願いして
 いた日本のギャルブランド。あれも中途半端な感じで。。。」

「そうだよ。せっかく日本のブランドも興味を持ちだしていたの
 にさ」

「もうあの頃には会社の体力が。。。新しい事業を立ち上げる資
 金が無かったんだと思います」

「Mたちの家、売りに出してるらしいね」

「そっ、そんなことまで知ってるんスか?外人なのに凄いネット
 ワークっスね!」
目を丸くして驚くスカイ。

「はい。家も。。。最近は車も売ってしまったので、スタッフが
 送迎をしてますよ。でも、引っ越した先は高額家賃のマンショ 
 ンで。。。そんな金があったらスタッフに給料を払って欲しい
 っスよ」とスカイが続けた。

「あの車も売ってしまったんだ!」

「そうなんスよ~」

「スカイは今後、どうするの?」

「俺っスか? 俺は最後まで。。。最後まで残ってMさんを支え
 ます。と言うか、そうならないよう頑張ってみます」

そう言いながら胸を張ったスカイの言葉にはブレが無かった。

「大丈夫なの? 給料を貰えてないスタッフの食事まで負担して
 るって聞いてるけど」

「はっはっは!良く知ってますね~!そんなことまで知ってるん
 スね~」と無邪気な笑顔を見せるスカイ。

「仲の良い子たちもいるからさ。耳に届いてしまうんだよね」

「へぇ~。でも、俺もこうして外国人のあなたに話してしまって
 るもんなぁ~。苦しい時や悩みのある時に話を聞いてくれる人
 の存在って有り難いっスよ」

と言ってコーヒーカップを口にしたスカイ。

そこでスカイの携帯が鳴る。

「はい。もう着きました?はい、一緒にいますよ。はい。じゃあ
 これからそっちへ戻りますね。は~い。また後で!」

電話を切ったスカイが
「Mさん、到着したみたいです。そろそろ戻りましょうか?」と
言ってレシートを持って席を立つ。

「スカイ。いいよ。ここは俺に奢らせてくれよ」
と私がスカイの手からレシートを取ろうとするのをすり抜けたス
カイが

「ここは台湾。外国人のあなたはお客さんです。お客さんにお金
 を払わせてたら台湾人である僕の面目丸つぶれじゃないっスか
 。ほら、彼女たちも見てることだし、ここは僕に格好を付けさ
 せて下さいよ」

多少財布の中が寂しかろうと見栄を張る。

見栄と言うより心意気という方が的確な表現だろう。

「分ったよスカイ。。。もし君が日本に来た時は俺に奢らせてく
 れよ」

「はい。落ち着いたら日本に行きたいっス。俺、まだ行ったこと
 ないから。。。渋谷の109でギャルをナンパしたいっス!」

そう言っていたずらっぽく笑うスカイだった。

オシャレなカフェを出た私とスカイはMが待つ店に向かった。


つづく。

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