久々に訪れた台湾の地方都市 新竹
Mの出身地でありビジネス拠点がある街。
郊外にあるハイテク系企業と取引する日本企業も多く
駐在している日本人も多い。
現地の特産品のビーフンは日本にも輸出されていて、
デパートなどで見かけるとこともある。
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Mのビジネス環境に変化が起きている。
2ヶ月分の給料を貰えていないジョージ。
対照的にいつもの明るい笑顔だった小白。
3店舗ある直営店のうち、1店舗はシャッターが閉まって
いたが、小白が勤務する店は通常通り。
売上も好調だと小白が話していた。
そして3店舗目へ。。。
向かう途中で再会したジャッキー。
現地で大きな会計事務所を経営する女性経営者。
Mは彼女のクライアントであり、仕事を通してプライベート
での仲も良かった。
そんなジャッキーから衝撃的な話を聞くことになるとは。。
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「Mからビジネスの話を持ちかけられたら断った方が良いわ」
「そこなんだけどさ。彼女のビジネスは上手く行ってないの?」
「彼女は長年私のクライアントだったし、ここ数年は友人と
してもとても良い関係を築けていたわ。でも。。。でもね、
ここ半年ほど毎月の契約料を払ってくれなくて。。。」
「えっ?半年も?」
「そうなのよ。ビジネスは良い時もあれば苦しい時もある。
だから、何かあれば相談して欲しかったし、契約料が払えな
い状況なら、何か説明をして欲しかったわ。私にも手伝える
事があると思うし。。。」
大手デパートから露天商まで。
ジャッキーの人脈は幅が広く、多くの人に慕われている。
彼女は誠実だし友情にも厚い。
Mから頼まれれば人や企業の紹介もしてくれただろう。
「コンタクトは取れてるの?」
「未払いが発生してから最初の2~3ヶ月は連絡が取れていた
わ。でも、それ以降は私の電話には出てくれない。ヒースに
は何度かメールしたけど返答は無かったわ」
「そんな状況なんだね」
「えぇ。だから先月、クライアント契約を打ち切らせてもらっ
たのよ。まぁ、お金を払わない彼女には何の影響もないので
しょうけど。。。」
ジャッキーの表情は悲しそうだった。
信頼していた友人に裏切られた。。。それ以上に何の相談もし
てくれなかったMに対しての悲しさが顔に表れていた。
私は給料が貰えていないジョージの話をした。
「そうね。お給料の件で何人かのバイトはすでに店を去ってい
るらしいわ。それは私も聞いている」
「あんなに羽振りが良かったのに。。。信じられないな」
「詳しく調べた訳ではないけれど、彼女が取引していた大きな
衣料品問屋が倒産した。その影響が大きいと思うの」
「売掛金は?」
「全く回収出来てないと思う。その問屋のオーナーはアメリカ
へ逃げてしまったし。彼の愛人とね」
「Mはその問屋に引っかかってしまったのかぁ~。銀行とかに
相談すれば何とかなったんじゃないかな?だってMの会社の
業績は良かったんでしょ?」
「あなた。。。無理もないわね。。。。Mの会社の状況はもう
ボロボロだったのよ」
「えぇ?だって芸能人のスポンサーをしたり派手な広告を打っ
たりしてたよね?」
「もうあんな事をして状況を変えられる段階は過ぎていたわ。
規模縮小してコンパクトなビジネスから立て直すよう何度も
進言していたのよ。。。でもMは。。。あの性格でしょ?
私のアドバイスなんて聞いてくれないし、むしろどんどん派
手でお金の掛ることばかり仕掛けてしまって。。」
「あの派手な戦略にコストが掛り過ぎて、会社の資金繰りを悪
化させたのが一番の原因なのかな?」
「それもあるけど、原因はもっと基本的なものよ」
「基本的なもの。。。。物販だから在庫過多とか?」
「そうなのよ。私は衣料品の専門家ではないから流行の事など
は分らないけど、決算書を作り上げる過程で年々在庫の量が
増えていくのが気になっていたわ。売上と在庫量がアンバラ
ンスだったわ。年々売上も落ちていたし。。。」
「それに追い打ちを掛けるように取引先の社長がアメリカへト
ンズラして。。。」
「あれは悲劇だったわ。同情する。でもね、Mの場合はそれ以
前の問題だっと思う。ヒースにさえコントロール出来ない彼
女の性格。派手で見栄っ張り。もちろん優しい面や好きな人
の面倒をとことん見たりもする良い面もたくさん持ち合わせ
ている素敵な女性だと思うけど。。。」
「Mの店を見に行ってきたんだけど、○○路にある店は閉まっ
てたんだ」
「あの店の契約はとっくに破棄してると思うわよ。契約満了前
に勝手にね。大家さん、カンカンになってウチに電話してき
たわ」
Mに店のオーナーを紹介したのはジャッキーだった。
「でも○○路の店は健在だったよ」
「あの店は土地ごと権利を持っているから家賃は発生しないか
らだと思うわ」
少しずつMと彼女の会社の状況が見え始めた。
「そう言えばさ。今日、あの焼き鳥屋の社長と道でバッタリ会
ってさ。知ってるでしょ?Mのことが大嫌いな」
「はい。あの社長さんね。もちろん知ってるわよ」
「あの社長がね、Mの家が売りに出されてるって言ってたんだ」
「えっ?そっ、そうなの?」
ジャッキーもそこまでは知らなかったようで、とても驚いていた
。
「あの社長はMの事が大嫌いだからネガティブな情報を言いふら
しているのかと思って相手にしなかったんだけどさ」
「あの社長は顔が広いから。。。もしかすると本当かも知れない
わね」
Mの家。
給料を貰えていないジョージ。
○○路の店。
顧問契約を解除したジャッキー。
点と点が繋がり始め、Mの状況が見えてきた。
「最後に会ったのはいつ?」
「半年ほど前だったわ。電話でのやり取りだったけど、これから
タイへ行くので帰国したら電話をすると約束をしていたのだけ
ど。。。何もなかったわ」
「タイ?半年ほど前?」
それは私の出張に合わせてMとヒースがタイに来た時期だ。
現地での事の顛末をジャッキーに話をすると。
「もしかしたら。。。負債を放り出して海外へ逃げる準備がした
かったのかも知れないわね。。。」
「海外。。。逃亡?」
「えぇ。Mとヒースの負債は相当な額に登っているわ。銀行から
も手を引かれたと聞いているし。。。あんな額、個人で返済出
来る額じゃないもの」
ジャッキーの話を聞きながら、タイで合流したMとヒースの表情
や交わした言葉などが次々と頭の中に蘇ってくる。
台湾ではもうやることがない。
新しいチャレンジの場として東南アジアのタイ、バンコクで事業
を起こす。
全てが嘘ではないだろう。
でも、現状でMとヒースが打てる最後の賭けだったのかも知れな
い。
「ごめん。アポイントが入っているの。そろそろ行かないと」
とジャッキー。
忙しい女性だ。
「あぁ。気にしないで。会えて良かった。話してくれてありがと
う」
「私も嬉しかったわ。ありがとう。Mの誘いには乗っちゃだめよ
。分ったわね」
「うん。絶対に乗らないよ」
そう私が答えると、笑顔で右手を差し出すジャッキー。
その手を握り返す私。
「また会いましょう」
「うん。ジャッキーのオフィスで働く女性スタッフさんを見に行
かないとね」
「まぁ。忘れてなかったのね」
「忘れる訳ないさ」
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ジャッキーがカードで支払いをしてくれ、再び彼女のBMWに乗
った。
繁華街付近で降ろしてもらい、Mの3軒目の店舗を見に行くこと
にした。
やや人通りの少ない道だが、その分家賃が安い。
Mが展開するようなストリートウェアの店舗が10店舗ほど並ぶ
道なので、ある程度の売上があり、利益も確保しやすいとMが話
していた。
あの店はまだあるのだろうか?
少し早足でMの店に向かう私だった。
つづく