M 4

約半年降りに訪れた台湾の地方都市 新竹

街中で久々に再会したジョージ。

もう2ヶ月も給料が支払われていないことを聞き
愕然とした私。

嘘であって欲しい。

しかしあのMならやりかねないかも知れない。

再びMに対する猜疑心と不信感。

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ジョージを別れた私はMの経営するお店に行ってみることにした。

Mのメイン事業は海外ブランドの輸入卸。

そして本社のある新竹では3店舗の直営店を運営していた。

「何か分るかも知れない。。」

そう思いながら早足でMの店に向かった。

1店舗目。

新竹市内でも家賃の高い通りに面している。
道路は石畳。カフェや日本式焼き肉屋や寿司屋が並ぶ、市内でも
品のある通りだ。

店が見えてきた。。。。

シャッターが閉まっている。

「売上はそれほどないけど、この通りに店を出すことがブランド
 イメージも上げるのよ」と話していたM。

外観も店舗内も良く作り上げられていた、彼女の自慢の店だった。

その店のシャッターが。。。閉まっている。

「やはり。。。何かあったのかな?」

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2店舗目に向かった。

この店は学生が多く歩いている道。

人通りの割には客単価が低いのだが、日に多くの来店客があり、
3店舗のうちで一番売上げが良かった。

開いているのか。。閉まっているのか。。。
出来れば開いていて欲しい。
と思い店に近づくと。。。開いてたい。

店の中を覗くとスタッフの小白がいた。

私の姿に気が付くと「あ~っ!戻ってきたのね!」と大きな声で
上げて手を振ってくれた。

小白は英語が話せるので、Mの会社のスタッフの中でも比較的よ
く話す間柄だった。

「お~!小白じゃん。元気だった」

「あ~ったりまよ~!」
目鼻立ちの整った顔で元気な女の子。

好きなサーフィンで日焼けしている。
サーフィンを始める前は色白が自慢だった。

台湾人としてはとても白かったので「小白」と呼ばれるようにな
ったそうだけど。。。今では信じられないくらい日焼けしている。

「どう?商売は?」
「うん。お陰様でね」

小白は口達者で商売上手。
誰とでもすぐに友達になってしまう。

そして何より美人だった。

この店は彼女の接客とキャラクターで成り立っている要素も強か
った。

「ちょっと外で話そうよ。タバコ。。。。吸いたくなちゃった」
と笑いながら小白が店の外に出る。

彼女は相当なヘビースモーカー。
オマケに酒も強い!

久々の再会。
冗談を交えながら、再会の時を楽しんだ。

会話している間、小白は常にたばこに火を付けていた。
チェーンスモーカーってやつだ。

会話が弾む一方でMの会社の事が頭から離れない。

なぜジョージに給料を払っていないのか?
Mの会社は一体どうなっているのか?

小白の表情を見ていると以前と変わりない。

お金にうるさい台湾人は給料未払いなどがあるとすぐに話し出
すはずなんだけど。。。

「ねぇ。Mの会社なんだけどさ。最近、おかしなこととか起き
 てない?」
思い切ってそう切り出してみようかと思ったけど、踏みとどま
った。

給料が貰えてないのはジョージだけかも知れない。
ジョージが何か問題を起こした可能性もない訳ではない。
最初に訪れた1店舗目は定休日だったのかも知れないし。。



タバコを吸いながら大声で笑う小白の笑顔を見ていたら、迂闊
に変な質問をして彼女に不安を抱かせてはいけない。
そう思った。

30分ほど話しをしてから
「そろそろ行くよ」と小白に別れを告げた。

「うん。暇だったか顔出して。そうだぁ~、今度こそ飲みに行
 こうよ」
「いやぁ~。小白は酒飲みだからなぁ」

「はっはっは!あんたはウーロン茶飲んでれば良いじゃん。私
 に奢らせてよ」
「分った分った。時間を見てまた寄らせてもらうよ」

「うん。絶対だよ!」
「うん。じゃあ行くね」

「うん。気を付けてね~」と笑顔で手を振る小白。

私は手を振りながら店から離れた。

2店舗目は賑わっている様子だし、小白の様子からも以前と変わ
らなかった。

ジョージから聞いた話をそのまま受け止めてはいけないのかも知
れないな。。。
もしかしたらジョージが大きな失敗をやらかしたのかも。。。

そう思いながら3店舗目に向かった。

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3店舗に向かう為に大通りへ出た。

やや早足で3店舗目に向かっている時だった。

「あら!」
早足で歩く私の前に1人の女性が立ち止まって声をかけてきた。

「あっ!こんにちは!」

「あらぁ。台湾へようこそ!再会出来て嬉しいわ」

彼女はジャッキー。
新竹で大きな会計事務所を経営している。

1度彼女のオフィスにお邪魔した事があるのだが、事務所の経営
は彼女が取り仕切り、旦那さんがサポート役として副社長をして
いた。

陽気で外交的。
バリバリのキャリアウーマンだが、とても心配りが出来るジャッ
キーとシャイな旦那さん。

そして彼女のオフィスで働くスタッフ40人ほどは全員が女性だ
った。

クライアントはほぼ大企業のようだったけど、気さくな性格で面
倒見が良いので中小の小売店や個人経営の飲食店の仕事も受けて
いた。

Mの会社も彼女のクライアント。
その関係でジャッキーとも知り合った。

Mとジャッキー。
タイプは違えど出来るビジネスウーマン同士。
仲が良く、そしてお互いにリスペクトしあっている。

2人の会話や仕草からそう感じ取れた。

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「今回は仕事?観光?それともお嫁さん探し?」とジャッキー。
「わははは!どれでもないけど、どれも正解のような」と私が答
える。

「台湾の女性はお薦めよ。私のオフィスには女性がたくさん働い
 ているから、今度また遊びに来なさいよ。お薦めの子を紹介す
 るわ」
「はいはい。是非行かせてもらいますよ」とその気がないような
フリをして半分本金の私だった。

「今回はどんな予定なの?」
「いつもと同じですよ。明日、Mとヒースに会う予定です」

「そ。。そう。Mとヒースね。。。」
ジャッキーの口調がやや重くトーンダウンした。

「ねぇ。何か。。。あったの?」
ジャッキーの表情の変化に気が付き、私はそう質問した。

「ねぇ。今、時間はあるの?」とジャッキー。
「はい。ありますよ」

「お茶しない。立ち話しでは。。。ちょっと。。。」
「はい。今日はフリーなので大丈夫です」

「悪いわね。じゃあ、ちょっと付き合って」
「はい」

道路に駐車してあったジャッキーのBMWに乗ると、市内にある
外資系ホテルのカフェへ。

カフェの席に付くとジャッキーが
「私はコーヒー。あたなは。。。コーヒーが飲めなかったわね。
 じゃあ、ミルクティをひとつ。ポットで持ってきて」

さすがキャリアウーマンのジャッキー。
1度食事をしただけなのに、細かいことまで覚えている。

当時の私はコーヒーが飲めなかったのだ。

「ジャッキー。話ってMとヒースの事だよね?」
「うん。そうよ」

「あなたは今、Mたちと取引はしているの?」
「いえ。何度かビジネスの話はあったのですが、立ち消えになっ
 たままで。台湾が好きなので、彼女たちとビジネスが出来れば 
 いいな。。なんて事も考えているのですけどね」

「そう。。。。こんなことを話して良いのか分らないけど、もし
 彼女たちからビジネスの話を持ちかけられたら断りなさい」

ジャッキーの口調はやや強かった。

あれほど仲の良かったMとの関係に何があったのだろうか?

つづく









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