久々に台北桃園国際空港に落ち立った。
空港でタクシーに乗り込み、新竹へ向かった。
空港からタクシーを飛ばすと約1時間で新竹の街に着く。
ホテルで荷物を下ろす。
M達と会うのは翌日だ。
今日は新竹の街をブラブラしながら、知人達の店を訪れて
みよう。
身体が落ち着く前に着替えを済ませ、私は街へ繰り出した。
小さな飲食店の社長さんたち、ティースタンドの店員さんたちが
私の姿を見るなり「お帰り~!」と声を掛けてくれる。
「ただいま!」と返す私。
あれ?俺って日本人なんだけど。。。。(笑)
顔馴染みの焼き鳥屋の前を通る。
焼き鳥を焼いていた社長が私の姿を見るなり、こちらへ掛けてき
た。
「こんにちは社長!帰ってきたよ。今日も儲かってるんじゃない
?」と冗談交じりに挨拶すると
「おい。どうなってんだよ。あいつ」と社長がいきなり質問をぶ
つけてきた。
質問の内容を理解出来ない私は
「あいつって?」と逆に社長に質問をする。
「あいつってあいつだよ。Mだよ!」
この社長はクセが強いけど面倒見が良く、私はとても仲良くさせ
てもらっている。
でも、彼はMのことが大嫌い。
「M?何かあったの?」
「あいつの家、売りに出されてるぞ」
「えっ?そうなの?」
一瞬驚いたけど、Mとヒースはタイでの事業立ち上げに向けて動
いている。
もう台湾で大きな家に住む理由がないと判断したのだろう。
彼ららしい決断だ。
Mたちからはそんな話は聞いてないけど、多分、それが理由だろ
うと私は思った。
「そうなんだね。引っ越しでもするのかな?」
今後のMたちのプランをペラペラと話す訳にはいかないので、適
当に話をはぐらかす。
「あいつらの行動はいつも怪しいからな。今回も何か企んでいる
に違いないんだよ。お前、いつも一緒にいるけど気を付けろよ
な。あいつら台湾人の恥さらしなんだから」
焼き鳥社長がなぜこんなにMの事が嫌いなのかは分らないけど、
他にもMを嫌っている人をたくさん知っている。
彼らに共通しているのは「嫉妬」という感情のような気がする。
話に付き合っていると街歩きする時間がなくなるので
「社長、また新しい情報が入ったら教えてね。ちょっと女の子に
会いに行く途中なんだよ」
と嘘をでっち上げて立ち去ろうとする。
「お前またこっちの女の子に惚れたのかよ!ちゃんと男と付き
合える子を選べよな!」
人の古傷を。。。
「はいはい。今回は大丈夫だよ」
と手を振りその場から離れた。
「到着早々参ったなぁ~」
フレンドリーな台湾人。
でも、ちょっとグイグイ感があり過ぎるので、時々疲れる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
市内にある日系デパートの前に到着。
デパート1Fにあるスタバでお茶でもしようかな?
そう思った時だった。
「あ~!お久しぶりです!」と声を掛けてくれたのはジョージ。
俳優のムロツヨシに似た顔でいつもニコニコしている。
穏やかで優しく、とても気を配ってくれ、礼儀も正しい好青年。
彼はMが経営する直営店で働いている。
「お~!ジョージ!久しぶり!元気だった?」
「はい。お陰様で」とニコニコ。
「休憩中?」
「いえ、今日は休みなので街をブラブラしてるんです」
「そう。良かったらスタバ、付き合わない?」
「えっ?いいんですか?」
「いいよ。もちろんだよ」
「でも、スタバは高いから、あのカフェでどうです?」
とデパート近くにあるローカルな、でもちょっとオシャレなカフ
ェを指さすジョージ。
「オーケー!良い感じのお店じゃん」
「はい。あの店ならスタバの半額でコーヒーが飲めるので」
堅実なジョージは見栄っ張りなところがない。
スタバに入れば私がジョージの分まで支払う。
その負担を掛けたくない。
そんな心配りが出来るのがジョージなのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
オシャレカフェ内に入り、席に付く。
ホットカフェオレを2つオーダーした。
「元気そうだな。ジョージ。変わりない?」
「はい。元気でやってます」とニコニコ。
「仕事の方は?そろそろ店を任される頃なんじゃない?」
好青年ジョージは20代後半。
バイトから入社してそろそろ4年目。
スカイからは「ジョージは仕事が出来る」と聞いているし、私の知人
たちからも「ジョージの接客は丁寧。まるで日本で買い物をしている
気分になれる」と聞いていた。
そろそろ年齢と実績に見合ったポジションが必要な頃だろう。
改めてジョージに目を向けると、目線を落とし、顔からは笑顔が消え
ていた。
「どうした?ジョージ?悪いことでも聞いちゃったかな?」
Mの会社と社員のこと。
外国人の私が口だしすることではない。
安易な行動だったかも知れない。。。
「実は。。。あなたにこんな話をして良いのか分らないのですが。。」
そこまで言って、口を真一文字に閉じたジョージ。
「うん?どうした?仕事のこと?」
「はい。。。」
「俺じゃ役に立たないだろうけど、話を聞くくらいなら。。。話して
みろよ」
「はい。でも。。。でも、この話はまだ内緒でお願いします」
「もちろん。俺を信用して話してくれるんだろ?誰にも言わないさ」
「はい。ちょっと愚痴っぽい話になるのですけど。。。」
「うん。いいよ」
「実は仕事を辞めようかと」
服と接客が大好きなジョージ。
でも、30歳を目前にして自分の中で限界でも感じたのだろうか?
将来を考えてオフィスや工場で働く道を模索し出すタイミングなのか
も知れない。
しかし、ジョージからは意外な事を知らされた。
「実は。。。お給料が。。。」
「給料?ジョージの給料?」
「はい。。。2ヶ月ほど貰えてなくて。。。」
「えっ?給料が出てないの?」
「はい」
「Mとは? Mとは話をしたの?」
「はい。でも、何度聞いてももう少し待ってと言われるだけで。。。」
「本当かよ?」
「はい。そうなんです」
「他の社員やスタッフ達は?」
「貰えてる子とそうでない子がいて。。。そうでない子はもう何人か
店を去ってしまってます」
どうなってるんだ?
ジョージの話を聞きながらもジョージの話がうまく理解出来ない。
頭が混乱している。
事業をタイに移すから、台湾の事業を縮小していく気なのか?
でも、こんなやり方って。。。でもMなら。。。やりかねないな。
でも待てよ。
台湾の事業がスカイに引き継がせ、継続すると話していたよな。。。
頭を抱えるジョージを見ながら、Mへの不信感が改めて頭を持ち上げ
てきた。
その一方で
「今、ジョージから聞いている話は嘘であって欲しい」
と願う私もいた。
つづく