キャンディ 4


待望の新規事業を立ち上げたM。
そしてMが語るビジョンに夢を見たキャンディ。

しかし事態は思わぬ方向へ。。。。

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まさか、あのキャンディが。。。。

ニッキーからの説明を聞きながら
「お願いだから夢であってくれ。。。」

そう思ったが、現実は現実だ。
起きた出来事は変えようがない。


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Mの新規事業が立ち上がり、商品の手配が十分でないにしろショップが
オープン。

最週の売上は想像以上だった。

Mはカリスマ経営者。
キャンディはカリスマ販売員。

街ではちょっとした有名人だった彼らが一体何を立ち上げるのか?

2人の心棒者、ファンたちの間で大きな期待が膨らんでいく。

オープン当日と2日目は
Mや彼女のオフィスに勤務する内勤スタッフがヘルプしないとお客さん
に対応出来ない。まさに活況を呈していた。

3日目。4日目。
売り切れる商品が出てくる。

キャンディは店の状況を逐一Mへ報告し、売れ筋商品の追加をお願いし
ていた。

「分ったわ。すぐに動くから。商品が来るまで頑張って!」
当初はMもそう対応していたようだ。

5日目。6日目。
店内の売場がガラガラになってくる。

しかし相変わらず訪れるお客さんの数は多く、噂を耳にした人達も大勢
押し寄せていた。

携帯で撮った写真を見せながら
「同級生の子がここで買ったって教えてくれたんです。同じもの、あり
 ますか?」と笑顔で買い物に来てくれる学生たちも多くいた。

「キャンディ。早く日本の服が見たいわ。中国の偽物じゃなくて、本物
 の日本の商品なんでしょう?お薦めの服があったら、私、試着したい 
 !」
そんな言葉を掛けてくれるキャンディのファンも多かった。

その度に
「ごめんね。衣料品の入荷が遅れてるの。でも、デザインはもちろん、
 品質も佳い日本からの商品が入ってくるの。もう少し待っていて」
丁寧に、そして笑顔で接客するキャンディ。

代わりに店内にある雑貨を勧めたりして、売上に貢献していた。

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2~3週間が経過した。
雑貨の再入荷もなく、衣料品も入って来ない。

「キャンディ。日本からの服はまだ。。かな?」
「キャンディのオススメの服を買いたかったけど。。。」

そんな声に対応する日々がキャンディを苦しめていく。

たくさんのファンの期待に応えなければ。
来てくれたお客さんを満足させて帰してあげたい。

日に何度もMへ電話をした。
とにかく急いで欲しい。

「分ったわ。もうすぐだから」
と最初のうちはそう対応していたMだったが、電話に出る事が少なく
なり。。。ついには何度電話しても無視されるようになった。

毎日来店してくれていたキャンディのファンたちも徐々に顔を見せな
くなっていく。

ガラガラになっったままの店。
遠のく客足。
落ちていく売上。。。


開店後1ヶ月も経過していないにも関わらず、廃業寸前のような状況
になってしまっていた。

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そして悲劇が起きてしまう。

当日はキャンディと2人の学生バイトが店で勤務していた。

面倒見の良いキャンディはバイトにも優しく接していたが、その日は
笑顔がなかった。

様子がおかしいなと思いつつも、ガラガラになった店内の掃除を終え、
すっかり客足が遠のいてしまった店内で雑談を始めたバイトたち。

その時だった。

「もういい加減にして!」
大きな声で叫び声を上げたキャンディがレジを叩き始めた。

一瞬、目の前で何が起きているのか理解出来ずに立ちすくむバイト2
人。

怖い。怖い。怖い。怖い。
恐怖から身体が動かなくなっていた。
ただ、鬼のような形相でレジを叩きまくるキャンディを見ているしか
なかった。

しばらくレジを叩いていたキャンディの動きが止まる。

そして毎日出勤時に持ってきていた自分のバッグを開けた。
次の瞬間、キャンディの手に握られていたのはナイフだった。

キャ~~~
その場に座り込み、叫び声を上げるバイトたち。
もう動くことは出来なくなっていた。

ナイフを手にしたキャンディがナイフを見つめながら
「私の。。。私の服はどこなのよ!」

次の瞬間、大きくナイフを振り回し始めた。

その恐怖に再び叫び声を上げたバイトたち。

「さぁ、どこなのよ!私の服。服を出しなさい。今すぐに、今すぐ
 ここに持って来なさい!私の服を持って来いって。。。言ってる
 のよ~!」

そう叫びながら鬼の形相をしたキャンディが店内にある雑貨を切り
刻み始めた。

商品が、そして店舗が破壊されていく。。。

「おい!何やってんだ!」
バイトたちの叫び声を聞きつけた屋台のおじさんたちが店に来る。
「危ない!危ないだろ!ナイフを置け!」

キャンディを説得しようとするものの

「私の服は。。。。どこなのよ~~!!」

そう叫びながら店の商品を切り刻んでいくキャンディ。
おじさんたちの声はキャンディには聞こえていないようだった。

店にあった商品の半分ほどを切り刻んだところで、キャンディの
動きが止まり、その場に座り込んでしまった。

手にはまだナイフが握られていたが、もう力は抜けていたようだ
った。

そして
「私の。。。私の人生を。。。どうしてくれるのよ。。。」そう
言ってから号泣し始めたキャンディ。

その姿を見て、恐怖に怯えていたバイトたちも鳴き出した。
近くにいて、キャンディの苦労と苦悩を見てきた彼らだ。
心情を察したのだろう。

誰かが通報したのだろう。
やがてパトカーがやってきた。

警察官にうながされ、パトカーに乗るキャンディ。

街で人気のカリスマ店員キャンディが警察署に連行されていく。

そん姿、想像したくもなかった。

好条件だったとは言え、Mの語った夢に自分の夢を重ね、仕事を
辞めてまで移籍してくれたキャンディ。

それがどうだろう。

店がオープンして1週間も経たずに店はガラガラ。

毎日期待を胸に店を訪れてくれるお客さんたちには謝るばかり。

期待に応えられない自分。
期待を裏切ってしまっている自分。

そんな自分に絶えられなくなっていたと思う。

悔しかっただろうな。

悲しかっただろうな。

もう少し早く私が台湾に来る事が出来ていれば。。。こんな状況は
避けられたかも知れない。
そう思ったりもした。

ガラガラの店内。
店のあちらこちらにはナイフで切りつけられた小さな傷が残ってい
た。。。。

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2年ほど経過したある日。

私は台湾のとあるデパートに入ってブラブラとしながら時間を潰し
ていた。

そして。。。。「!」

キャンディだ!

キャンディを発見した。

デパート内の女性服売場で楽しそうに働いているキャンディ。
笑顔はあのときもままだ。

声をかけたら当時のことを思い出させてしまうかも知れない。
そんなためらいもあったけど、挨拶だけでもしておきたい。

そう思った私はキャンディ近づいて行った。

私の姿に気が付くキャンディ。
一瞬、目を背けたけど、笑顔で「ハロー」と手を振ってくれた。

「久しぶり。元気だった?」
「はい。お陰様で」

「今はこの店で働いてるんだね?」
「はい。もう半年くらいになります」

「こんな話をすると。。。。何て言ったら良いのかな。。。あの
 時は本当にごめんね」
「いいえ。あなたの責任ではないですよ」

「そう言ってくれると。。。助かるよ」
「私も大人気なかったなって。。。ダメですよね」

「そんなことないさ。あんなことされたら、誰だった頭に来るさ」
「ありがとうございます」

「このお店は働き易い?」
「はい。毎日新作の服が入ってきますし、当時のお客様たちも少
 し大人になったのでデパートで買い物をするようになっていて、
 私に会いに来てくれるんですよ」

「へぇ~!それは凄いなぁ~。当時のお客さんとも良い関係のま
 まなんだね」
「はい」

「さすがだよ、キャンディは」
「いいえ。みなさんのお陰ですよ。ここの社長さんもとても良い
 人で、私たちスタッフをとても大切にしてくれます。それもこ
 れも、あの出来事を経なければ。。。ようやくそう思えるよう
 になっったんです」

多少の傷は残っているだろうけど、笑顔でそう話してくれたキャ
ンディの姿を見ることが出来て嬉しかった。

どんな人間にでも良いときもあれば悪いときもある。

傷を傷のままにして過ごすのか?
ひとつの学びとして次のステージへ活かす事が出来るのか?

綺麗な女性から綺麗で強い女性へ。。。彼女の成長を感じた。

おわり


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