キャンディ 3

新規事業を立ち上げ、店舗を確保し、アイコンになるスタッフ、キャンディ
の協力を得る事が出来た。

やや後手後手ではあるけれど、動き始めたMのビジネス。

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「はい。そうなんです。是非、御社の商品を台湾で販売させて欲しいんです」

Mからリクエストを受けて交渉を進めている女性衣料品ブランド。

当初は興味がないとの返答ばかりだったけど、何度もコンタクトを取りつづ
けているうちの担当者との会話もスムーズに出来るようになってきた。

そして
「分りました。再度上席に報告、検討させていただきます。台湾ですかぁ。
 実はアジア圏からの引き合いは初めてでしてね。社内にも詳しい者がいな
 いもので。。。」

「もしご都合が合うようでしたら、私がアテンドしますので是非視察にでも
 行ってみませんか?」
「ははは。そうですね。この場では返答出来ませんけど、食事も美味しそう 
 ですよね。その際には宜しくお願い致します」

「はい。是非案内させて下さい。美味しい店を知ってますので!」
「ありがとうございます。では、また後日連絡させていただきます」

「ありがとうございます!」
そう言って電話を切った。

すぐさま台湾のヒースにメールして状況報告。

今頃は店舗の内装工事が終わり、オープニングに向けて準備が進んでいる事
だろう。

Mからは日本のメーカーが製造する雑貨や玩具のオーダーがあった。
アイテム数が少ないのが気がかりだけど、格好だけは付くだろう。

そして女性衣料品ブランドが店内に並べば、店の印象ががらりと変わる。

胸が躍った。

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一方で気になることもあった。

ビジネスに関してキッチリとしてるヒースからの連絡が遅いのだ。

「タバコの吸いすぎで調子が悪いのかな?」

ヘビースモーカーで体重も増えつつあったヒース。
病院で薬を処方してもらっている事は知っていたので、少し心配だ。

Mのビジネスはヒースとの両輪じゃないと成立しない。

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待てど暮らせどヒースからの返事はない。
時々、Mの携帯へ電話を掛けると

「商品の件でしょう?分っているわ。すぐに追加のオーダーをするから
 もう少し待っていて」

毎回そう答える割にはなかなかオーダーが来ない。

そんなある日、ヒースからの返答が来た。
「先日、店をオープンさせることが出来た。かなりの評判だよ」

普段と比べるととても短いメールだった。

売れているのなら商品を追加しなくて良いのか?
そんなメールを折り返し送ったが、返事はなかった。

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別件で台湾へ行く用事もあり、日程をヒースにメールした。

「分った。待っている」
またも短いメールが返ってきただけ。

ビジネスは大丈夫なのか?

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台湾へ到着した私はすぐさまMの店がある街へ向けて、空港から焚くしーに
飛び乗った。

何かが起きているに違いない。。。
一体、どうなっているのだろう?

高速道路を飛ばして役1時間。
目的に付いた。

ホテルでチェックインを済ませて、身軽になってからMの店に向かうつもり
だったけど、すぐにでも確認したかった。Mの店は大丈夫なのかを。。。


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店の前は普段通りの人の多さ。

放課後、学校帰りの学生たちで賑わい始めていた。

いつもの景色に少し心が落ち着いた私は荷物を背負ったまま店に入る。

「いらっしゃいませ」
アルバイトらしく2人の女の子。
私の顔をみるなり、驚いたように目を大きく見開いた。

そして、そのうちの1人がレジにいる女性スタッフに声を掛けた。

キャンディ。。。。じゃない。。。ニッキーだ。

ニッキーはMの会社で営業を勤めている女性スタッフ。

なんで店舗にいるんだ?

「あれ・ニッキーじゃん!」

「あ~!お久しぶりです~!! あれ?今日からですか?」
「あぁ、そうだよ。Mから聞いてなかった?」

「はっ。。はい。。。何も。。。」
ニッキーはそう言ってうつむいた。
いつも元気なニッキーなのに。。。どうしたんだ?

ニッキーの態度が気になりながらも店内を見渡す。

2人のバイトはやる気なさそうにおしゃべりをしている。

表の通りにはたくさんの人が歩いているのに、店内にいるのはニ
ッキーとバイトの2人、そして私だけだった。

ヒースからのメールでは店の売上は上々。
店内には常にお客さんがいると報告があったけど、そんな雰囲気
は全くなかった。

そして気が付いた。
店には商品がほとんど。。。。ない。

「ねぇ、ニッキー。商品、商品は?」
「あっ。。。はい。。。もう売れてしまって。。。残っているの
 はこれだけなんです」

「これだけって。。。。Mには売上を報告してるんでしょう?」
「はい。。。報告は。。。しているんですけど。。。」

「俺のところにかMからのオーダーが来てないよ」
「えっ?そうなんですか?」

「そうだよ。最近、ヒースからの連絡もないしさ。一体、あいつ
 ら何を考えてるんだよなぁ」
そう冗談交じりに言いながら、ニッキーやバイトの2人に視線を
送った。

この異様な光景を信じたくはない。。。そんな心理が働いて冗談
っぽい口調になったのかも知れない。

「なぁ、ニッキー。状況を全部俺に話してくれないか?俺があい
 つらに話をしてオーダーを急がせるから。商品がこんなに少な
 いんじゃ、お客さんが来ても買うものがないもんね」
「そう。。。ですね」

それからニッキーが話し始めた内容は。。。

オープン当日と2日目。
街中の話題をさらうかのごとく多くの人が押し寄せた。
棚の商品が次々に売れていく。
ストックから商品を補充するのが大変で、Mの会社の社員が休日
返上でヘルプに来たほどだったという。

もちろん、Mもスタッフたちと共に接客販売に参加。
元々は街のジーパン屋で小売りをしていたM。
口達者で販売の仕事も大好きだ。

Mに心酔する若い女性たちも多く、多くのMファンが来店してく
れたようだった。

そしてキャンディ。
彼女も街では名の知れた人物。

彼女が移籍した店で何やら新しい事が始まる。
キャンディの友人やファンの期待感が口コミを通して街中に知れ
渡っていたので、店の中は人でごった返していた。

1週間もすると売り切れになる商品が出始めた。

キャンディやバイトたちが商品をリピートして追加して欲しいと
Mに連絡する。

売上を上げたい!

台湾では販売金額に対する歩合が発生する契約が多く、毎日少し
でも多くの売上を上げて、得られる給料を上げていきたい。

それがモチベーションとなる。

しかし。。。待てど暮らせど商品は入ってこない。

キャンディは何度も何度もMに電話を入れていたが、商品が追加さ
れることはなかった。。。

「私はMさんとあなたの間に何か問題があって関係がこじれ、それ
 で商品が入って来なくなったのだとばかり。。。じゃあ、Mさん
 との関係は特に問題ないんですね?」とニッキー。

「あぁ、何も問題はないよ。ただ、オーダーが来ないからさぁ」

そこで気が付いた。

キャンディの姿がないことに。

「ねぇニッキー。キャンディは?今日は休みなの?」
「キャンディですか。。。」

「うん。彼女、日本の服を売りたがってただろ?話を進めるのに時
 間が掛ってたんだけど、何とかなりそうなんだよ。今日は彼女に
 その話も報告したいと思ってたんだ。今日が休みなら構わない。
 明日にでもまた店に顔を出すからさ」

日本の服を売る為にMが引き抜いたキャンディ。
キャンディもMの熱意と仕事の内容に興味を持って、働いていた店
を辞めてまで移籍してくれている。

早く彼女に服を売ってもらいたい。
雑貨も好きと話していたけど、彼女が1番輝くのは衣料品を販売し
ているときだろう。

「キャンディは元気?早く会って話をしたいよ」

しかし。。。ニッキーから聞いた話は。。。。

つづく

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