日本から衣料品や雑貨を輸入して販売する計画を進めるM。
そのビジネスのアイコンとして街でも有名な女性をヘッドハンティング
しようとアクションを起こす。
Mとその女性と私はあるホテル内にあるレストランでランチをすること
に。
さて、Mはその女性を口説けるのか?
女性はMの猛烈なアタックに対してどうリアクションするのか?
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ランチセットのオーダを済ませると、にこやかな笑顔でMが話し出す。
「台湾には日本の商品を売る店はまだまだ少ない。しかも実は中国のコ
ピー品を平気で並べている店がほとんど。私はそんな現状に風穴を開
けたいのよ」
詳細を詰めるのは下手だけど、大きな構想を描き、語るのは得意なM。
確かに台湾の街を歩いていると「日本直輸入」をうたっている店を見か
けるけど、大体が偽物だったりする。
(2020年現在はそんなことはないですけど)
インターネットの普及により、台湾の消費者たちも直に日本の情報に
アクセス出来るようになり、身の回りで見かけるものや流通されている
ものが本物かどうか判断出来るようになりつつあった。
「日本から商品を輸入するのはコストが掛るし原価も高い。販売する商
品の価格も上がってしまうけど、私には出来ると思うのよ。台湾人の
購買意欲の高さってとてもポテンシャルを感じさせるのよ」
アクションを交え、くるくると表情を変えて構想を語るM。
相手を納得させてしまう迫力、そして「この人なら何かやってくれそう
だな」と感じさせる魅力を備えている。
ひと通り構想を話し終えたタイミングで料理が運ばれてきた。
「さぁ、難しい話はこれくらいにして、美味しい食事をいただきましょ
う!」両手を胸の前で合わせたMが音頭を取る。
「いただきま~す」
お腹が減っていた私は料理に手を伸ばす。
「そうだ。まだ名前を聞いてなかったね」と私が切り出すと
「あっ、そうでしたね。申し遅れました、キャンディです」
「可愛らし名前だね。失礼かも知れないけど、あまり台湾人っぽくない
顔立ちしてるよね」
「はい。父は台湾人ですが、母はタイ人なんです。もう離婚しちゃいま
したけどね」そう言って笑顔を見せてくれたキャンディ。
台湾人とタイ人のハーフだった。
顔立ちから漂う南国情緒はその為だったのか。
これまでの生い立ちや楽しかったお客さんとのエピソード。
日本への憧れなど、初対面の割には思った以上に自分の事を話してくれ
たキャンディ。
場の空気が暖まったところでMがキャンディの仕事や収入に関する話を
し始めた。
「私はあなたが欲しい。私のビジネスを手伝って欲しい。あたなにはそ
れが出来るのよ」とM
そんな事を突然言われて驚いた表情のキャンディ。
そりゃそうだろう。ちょっと引いてるようにも見えた。
「彼が日本から商品を送ってくれる。その辺にある偽物じゃない。本当
の日本の商品よ。偽物と分っていながら渋々と商品を買っている人た
ちへ本当に日本のデザインやクオリティを感じて欲しい。あなたなら
それを伝える事が出来ると思うの。どうかしら?手伝って欲しいのよ
」
そう言ってキャンディの手を握るM。
「私のことをそこまで。。。とても嬉しいです。ご期待に応えられるか
どうか。。私にはその自信が。。。」
「大丈夫よ。あなたになら出来るわ。」
キリっとした表情になるM。
「それと。。。Mさんのお仕事には興味があります。その~~~」
何か聞きづらそうなキャンディ。
「お給料のことね? 今のお店からは幾ら貰ってるの?」
単刀直入にそう聞くMに対して、キャンディは指でテーブルをなぞるよ
うにして数字を書いた。
Mの右の眉が一瞬動いた。
そして
「分ったわ。心配しないで。少なくとも今のお給料より上の金額を払う
ようにするわ。少し時間を貰える?勝手に決めるとヒースが怒るから
」
と珍しくヒースを気遣うMだった。
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食事を終え、Mの運転する車でキャンディを送った。
車を降りて頭を下げ、笑顔を手を振り私たちを見送るキャンディ。
とても丁寧だ。
「どう口説けそう?」おT聞くと
「あの子、結構な給料を貰ってたわ。本当かどうかは分らないけど、小
さな店の販売員としては破格のギャラよ。びっくりしちゃったわ」
険しい表情のM。
「そうなんだ!」
台湾の販売員。
全てではないけど、基本給プラス歩合が一般的。
キャンディにはフォンが付いているし、販売力がある。
当然、その仕事に見合った給料になっているはずだ。
「どうするの?諦める?」
「ヒースに相談する必要があるけど。。。彼女には販売員としての魅力
以上に店のイメージを確立させるアイコンとしての役割を担ってもら
えるわ。どうしても来て欲しい。ヒースを説得しないと」
アメリカ人のヒースは仕事が細かい。
そしてコストにうるさい男だった。
でも、結局Mが押し切るいつものパターンになるんだろうなぁ~
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そして数日後
「キャンディ、ウチに移籍してくれることになったわ」
Mからの電話。
「良かったね!」と答えた私だったが。。。
「ねぇ、M。商品。商品はどうするの?まだ何を売るのか、どんなお店
にするのかが全く決まってないじゃん」
少しMのお尻を叩かないとさすがにマズイと感じた私はやや強い口調で
話した。
「そうねぇ~。あなたが日本から送ってくれたカタログに目を通してお
くわ。あなた、明日帰国よね?じゃあ3日以内にオーダーをメールす
るからすぐに手配して。例の衣料品店との交渉も継続して。私、あの
ブランドの服を売りたいのよ。この台湾で」
Mからの依頼で日本のある女性服ブランドと交渉を始めていた私。
初めての仕事だったけど、楽しかった。
先方も初めて海外からのオファーを貰い、慎重ながらも興味を持ってい
てくれた。
帰国したら、また交渉再開。
胸が高鳴った。
つづく