「お待たせしました。さぁ、会場に入りましょう」
スカイが先導してくれる。
台北の高級エリア。
日本でいえば東京の代官山っぽいエリアになるのだろうか?
入口で厳しいチェック。。。は全くなく、スカイが受付でIDカードを
受け取り、それを首から提げて会場へ。
エスカレーターに乗って2階へ上がる。
「まぁ~!来てくれたのね!」
レディMが大袈裟に手を広げ、満面の笑みで迎えてくれた。
そして走り寄ってきてハグ!
日本人の私はこういうのに慣れていない。
もちろん台湾人のほとんどがこんな欧米じみたことはしてこない
。
アメリカ人のヒースは自分の奥さんがこんなことをしても、別に腹を
立てたりはしない。
「分った分った!分ったからもうこの辺で」
何が分ったのかは分らないけど、私はそう言ってMを引きはがした。
スカイがニヤニヤしながら私の顔を見ていた。
私は舌を出して白目にしておどけた。
「嬉しいわ!本当に嬉しい」
「仕事が順調なようで、私も嬉しいよ、M」
「ありがとう。私のキャリアにとっても試金石になるビジネスになる
わ」
「記者会見もあったんでしょ?」
「そうなのよ~。あなたを迎えに行こうと思っていたんだけど。。。
昨夜、ジャッキーのマネージャーからいきなり電話があってね。ジ
ャッキーがマスコミを呼んでしまったからって。。。」
そう言いながらもMは嬉しそうだった。
そりゃそうだろう。
大手のテレビや新聞がこぞって取材に来たのだろうから。
実際、翌日の新聞の芸能欄はジャッキーが1面を独占。
Mもしっかり写真に写っていた。
大きな宣伝になっただろう。
「そろそろパーティーを始めます。参加される方はIDカードが分るよ
うにしておいて下さい!」
黒服の男がパーティ会場へ入るよう促す。
「さぁ、行きましょう!」
Mは私の手を引っ張ってグングン会場へと進んで行く。
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「ハロー」
「ようこそ」
「いらっしゃいませ」
会場内では華やかな女性たちがそう声を掛けてくれた。
綺麗な女性
可愛い女性
レベル高っ!
「みんなモデルやタレントのたまごたちよ。どう?台湾の女の子たち、
可愛いでしょう?」
「それは知ってるけど。。。。ここにいる子たちはレベルが違うね」
会場内に参加者が集まると、場の空気が暖まる感じがした。
皆、楽しそうな顔をしている。
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「そろそろパーティを始めたいと思います」
司会者の黒服が進行する。
「本日の主催者であるジャッキーから皆様へご挨拶があります」
そう言って黒服が拍手をすると、会場内の参加者達も拍手を始めた。
ヒューヒュー!と口笛を鳴らすものもいた。
その拍手に迎えられ、スーツに身を包んだジャッキーが登場!
両手を挙げて、手を振る。
大袈裟なスマイルだけど、慣れているようだ。
会場内は大歓声だ!
「彼がジャッキーよ。台湾芸能界の大物のひとりよ」
Mが耳元に顔を寄せてそう言った。
格好良くもない、普通のおじさんにしか見えないけど。。。大物なんだ。
ジャッキーが挨拶をしているけど、中国語なので私にはサッパリ理解出来な
い。
さすがに芸能人
良く通る声をしている。
3分程度でジャッキーの挨拶が終わり、立食パーティが始まった。
「さぁ。料理をいただきましょう」
またMが私の手を引っ張る。
立食用のテーブルのひとつにはMの名札。
私たちの専用テーブルだ。
そこに料理を運び、ウェイターからワインを貰った。
「M、凄いね」
「ジャッキーとも良い話がまとまったのよ。コストは掛かるけど、それに見合
た、いえ、それ以上のリターンがある契約になるわ」
Mは本当に嬉しそうだった。
そこへ
「本日はご参加いただき誠にありがとうござます」と1人の女性が挨拶に来た。
うわぁ!めちゃめちゃ可愛い!
「あら、こんばんは。この前、ジャッキーのオフィスで会ったわね」
「覚えていてくれたんですか!嬉しい!」
その子は両手を胸の前で合わせて、綺麗な歯を見せて喜んだ。
「今日はジャッキーのお手伝いで来ました。何かありましたら遠慮なくお申し
付け下さいね」
「ありがとう。そうそう。この人、私の友達で日本人なのよ」
と私を紹介してくれたM
「え~!そうなんですか!初めまして。コンニチハ。。。でいいですか?」
妙な発音の日本語を交え、そう挨拶をしてくれた女の子。
「初めまして。日本人に見えないでしょう?」
私がそう言うと
「そ~んなことないですよ~。中国語が出来るのですね」
「簡単な会話だけ。深い話は出来ないです」
「すご~い!私なんて日本語も英語も出来ないのに~」
「日本語は難しいからね」
「高校生の頃、少しだけ勉強しましたけど。。。ギブアップしました」
笑顔がキラキラしていてる。
「私はこの辺にいますから、何かあったら声を掛けて下さいね!」
「ありがとう!」
笑顔で手を振り、軽く会釈をして彼女は他のテーブルにいる参加者へ挨拶を
しに行った。
「M、あの子、可愛いね~」
「フフフ。たまごとは言えモデルを目指している子ですもの」
「だよね~」
「そうだ。もし気に入った子がいたら、私に言ってちょうだい。あなたに紹
介するから」
「え~!いいの?」
「問題ないは。でも勘違いしないでね。口説けるかどうかはあなたの腕次第
。私はそこまで関与出来ないわ」Mは笑った。
そんな話をしていると
「コンニチハ」と男性の声。
「あらマイケル!」とMが笑顔で応える。
そしてハグ。
華奢な男の子だ。
Mと挨拶を交わした後
「初めまして。私はマイケルです。宜しくお願い致します」
と流暢な日本語で私に話しかけてきた。
「あれ?マイケル君、日本語が上手だね!」
「はい、勉強を少しだけしました」
「学校で?大学で専攻していたの?」
「いえ。。。あの~、私は日本の漫画、特にドラえもんが好きなんですけど、
中国語ではなく、どうしても日本語で読んでみたくなってしまい、独学で
勉強をしました」
そう言って照れくさそうに舌を向いた。
「独学でこんなに上手になるの?」
「私の日本語、大丈夫ですか?」
「大丈夫どころか、とても綺麗な日本語だよ」
「ありがとうございます。ちょっと緊張してますけど。。安心しました」
お世辞でも何でもなく、マイケルの日本語は本当に綺麗だった。
マイケルはジャッキーに面倒を見てもらい、最近デビューしたタレントだった。
「このマイケルもウチと契約を結んだのよ」とM。
「そうなの?」と私はマイケルを見た。
「はい。Mさん、とても親切で。。。いつもご飯をご馳走になっています」
マイケルもジャッキー同様、テレビに出演する際はMのブランドの服を着る
契約を結んだようだ。
「まだ全然有名ではない僕と契約してくれるなんて。。。とても嬉しかったで
す。僕、頑張りますね」
マイケルが笑顔でMにそう話す。
マイケルをハグするM。
ビジネスの契約。
ではあるけれど、家族的な結びつきのような暖かさを感じる。
マイケルを抱きしめているMは、ちょっと歳の離れたお姉さんのようだった。
ちょっと感動。。。とその瞬間
突然、私の身体が宙に浮いた!
「うわぁ~!」
腰の辺りには浅黒い筋肉質の手が巻かれていた。
「おいおいおいおい!下ろしてくれよ!」
持ち上げられたままもがく私。がそう言うとス~と優しく下ろして
くれた。
着地した私が振り返るとタンクトップを着たマッチョな男が立っていた。
身長は190センチほど。
タンクトップから見える肩や腕がとても逞しい筋肉マン。
「あら!キングゴリラじゃない!」
私と筋肉マンを見て、Mが大声で笑った。
「キングゴリラ???」
「おぅ!オハヨウゴザイマス!」と妙な日本語で挨拶をしてくれたキングゴリ
ラ。
オイオイ、今は夜だよ!
心の中でそう思ったけど、面倒なので黙っていた。
Mが会話の橋渡しをしてくれる。
「彼はキングゴリラ。これから有名になるわよ。彼との契約もまとまったのよ」
「ハッハッハッ。M姐さん。今回はありがとう。仕事、バリバリやりますよ!」
ゴリラはまるで誓いを立てるかのように大きな声を出して、力こぶを作ってみ
せた。
腕の筋肉が隆起した。
「そして彼は。。。」と私を紹介しようとしたところ
「日本人ですよね!俺、日本人を持ち上げるのが大好きなんスヨ~」と言って
今度は両腕で力こぶを作ってみせた。
「凄い身体してるね~」
「毎日筋トレしてるよ。日本人、あんたも鍛えた方が良いんじゃネ?」
まさにゴリラだ。
マイケルのような繊細さ、知的な感じは全くない。
野生のゴリラの方がジェントルなんじゃないだろうか。。。
でも、顔は精悍。
野性味のある顔立ちで格好良かった。
台湾人にしか見えない私
イケメンで繊細で知的なマイケル
そして筋肉お化けのゴリラ
妙な3人で会話している不思議な空間だった。
オーバーなアクションと大きな声で笑いを取るゴリラ。
それを見てケラケラ笑いながら、私にも配慮してくれるマイケル。
会って10分もしていないのに、とても身近に感じる彼ら。
とても人懐っこい。
デビューしたての新人さんということもあるだろうけど、業界人でも
ない私につきっきりで話をしてくれていた。
場違いな雰囲気にアウェイ感を感じていた私にとっては心強い2人だ
った。
しかし、キングゴリラ。
会話の合間合間になぜか私を抱えて持ち上げる。
その度に周囲の人達から送られてくる視線。
モデル風の女性たちはケラケラと笑いながら、何かを話している。
「男っていつまで経っても子供よね~」なんて言われてるのかな?
つづく