パーティ パーティ IN 台北


「今週の土曜日。時間を空けておいて。約束よ」
そう言ってレディMはウィンクをした。

レディMは当時台湾で有名になりつつあった女性実業家。

手がけている事業が波に乗っていた彼女から、週末台北で
開かれるパーティに誘われた。。。と言うか、すでに私は参加
メンバーに加えられていた。強制参加ってやつだ。

パーティ会場は台北。
主催は現地で有名なあるタレントさんだった。

彼が所有する中規模な商業施設のオープニングに合わせて開か
れるパーティで、取材するマスコミなども大挙して押し寄せて
てくるそうだ。

レディMはその有名タレントと契約を交わし、彼がテレビ出演
する際にはMがアメリカから輸入しているブランドのスニーカ
ーを履いてもらうことになったらしい。

最初にMからパーティの話があった際には、あまり乗り気では
なかった。

「なぜ俺がそのパーティに?」と聞くと
「ウフフ。あなたが日本人だからよ」と言われた。

悪い人ではないけれど見栄っ張りなM。
自分には日本人の友達がいるというところを見せびらかしたい。
そんな思惑が伝わってきた。

「是非来たらいいよ」
そう言ってくれたのはMの旦那さんのヒース。
アメリカ人。

彼の尽力によってアメリカのアパレルブランドを台湾に輸入す
るビジネスを立ち上げ、台湾各地の有力な小売店との取引やデ
パートへの出店を進め、短期間で業績を上げていったM。

知的で冷静なヒースと天賦の商売人M。
夫婦であり最高のビジネスパートナーだった。

「ねぇ、ヒース。本当に俺が行っても大丈夫かのかい?」
「大丈夫だよ」

「本当に?」
「あぁもちろん!」

「どうしてそう言い切れるの?」
「ここは台湾。ノールールがルールだ。気楽に楽しめよ」

台湾に長く住み、Mと結婚して長いヒース。
中国語は話せないけど、台湾でどう生きて行くべきかは心得て
いた。

「Mはあんな調子だけど、決してお前を利用することばかりを
 考えている訳じゃない。会場に行けば台湾でも有名な連中が
 わんさかといる。そこで顔を売れば良いじゃないか。お金が
 掛かる訳じゃないしさ」

「それもそうかもしれないね」
ヒースのこの言葉で私もパーティへ参加する気持ちになってき
ていた。

「それにさ。名前を忘れたけど、あの施設の持ち主は相当なビ
 ッグネームだよ。多分、お前も知ってるんじゃないかな?」
「えっ?そんなに有名な人?だれだろう?名前、そいつの名前
 は?」

「う~ん、ちょっと待てよ~。。。何て言ったかなぁ。。。」
「思い出せない?こっちでは何て呼ばれてるの?」

「え~っと。。。確かジャッキー。。。そんな奴いたろ?」
ジャッキーという名の有名人。

「えぇ~!まさかジャッキー・チェン。。。じゃないよね?」
「ビンゴ!そいつだ。ジャッキー・チェンだ」

本当かよ!
小学生の頃に彼の映画「モンキーフィスト酔拳」を観た時の
衝撃が蘇る。
ジャッキーに。。。あのジャッキーに本当に会えるのか?

でも待てよ。
ジャッキー・チェンは台湾じゃなくて香港の俳優だ。
冷静に考えてみればジャッキー・チェンが台湾にいる訳がな
い。

ヒースの奴は少し適当なところがあった。

「ヒース。それ、本当にジャッキー・チェン?」
「本当だとも。。。確きっと。。。多分。。。」
そう言ってたばこをくわえて、私から視線を外した。

出た!
ヒースはいつもこんな調子だ。

「美味しい食べ物や酒も出るし。来いよ。どうせ暇してるん
 だろ?」
ヒースがこちらを振り返り、そう言った。

「まぁ、暇。。。だよね(笑)うん。行ってみるか」

Mが紙袋を抱えてやってきた。

「当日はこれを来て頂戴」

渡された紙袋の中にはTシャツが入っていた。
MがプロデュースしているブランドのTシャツだ。

オイオイ、俺みたいなおっさんがこんな若い子向けのブラン
ドなんてと思ったけど、Mのビジネスのお手伝いが出来れば
それはそれで良いかと思い、紙袋を受け取った。

「OK。必ず着て行くよ」
「当日の昼、あなたのホテルへ迎えに行くから、部屋で待っ
 てなさい」

ちょっと上から目線なM。
でも、面倒見が良く親切でもある。

「はいよ。楽しみに待ってるよ」
「あなたには絶対に損はさせないわ。私を信じて」
そう言ってMはまたウィンクをした。

Mのウィンクは嫌みがなくて自然だ。

たまには台北の街で楽しむか。
こんな機会は滅多にないだろう。
日本の友達への土産話にもなりそうだし。

万が一、つまらなかったら逃げ出しちゃえばいいや。
どうせ誰も気が付かないだろう。


つづく

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