台湾の思い出 兆し 出張という名の一人旅 9

ICチップメーカーの社長が、サイ社長や工場で働くスタッフ達
に中国語(あとで分かったのだけど、台湾語でした)に通訳し
てくれている。

その間、サイ社長の眉間には皺が寄ったまま。
工場スタッフたちの表情も同じだった。

日本から近い国、台湾。
親日国とは聞いていたけど、好きなのと、日本のルールに従う
事って違うのかな?

「いいたいことはそれだけ?」
ICチップの社長が声を掛けてきた。
彼の表情もまた硬い。

「はい
「通訳、ありがとうございました。」
と礼を言うと、ICチップの社長は表情も変えず、ただ片手を上
げ、「サイ社長と話をするから、ちょっと待ってて」と答えた。

「はい」と答え、木製の椅子に腰を下ろし、工場の天井を見上
げた。

やるべきことはやった。。。んじゃないかな?
もうこれ以上は何も出来ないよ。
商品管理という仕事をしに遙々台湾の田舎町まで来たのに、こ
れって仕事以前の問題じゃん。。。

出来る事はやった。
答えを出すのは向こうだ。
彼等の答えを待とう。。。

「ねえ、いいかい?」
ICチップの社長が声を掛けてきた。

「はい」
椅子から立ち上がり、サイ社長とICチップの社長の元へ歩いて
行った。

ICチップの社長が話し出した。

「君の話を聞いて、サイ社長と協議したよ。まぁ、俺は直接あ
んたの会社と取引がある訳じゃないから、あまり顔を突っ込み
たくはないんだけどさ。」

風向きは変わらなかったかな。。。

「サイ社長は驚いているよ。
なぜかって、昨年の話を今頃になって持ち出してさ。
日本の状況なんて全然聞いてなかったし、あんたの会社も台
北のオフィスも報告してこなかったみたいだよ。
今年もオーダーが来たから品質には問題がなかったのだと思
っていたってさ。
あんた、サイ社長の気持ち、分かる?」

「はい。それは本当に申し訳ありませんでした。私は新米社員
ですが、それを言い訳にはしません。日本に持ち帰り、社内
で話し合いをします。」

と言葉は通じないけどサイ社長に向かって話をした。

サイ社長は英語が分からないのにうなずいて私の話を聞いてい
たけど、聞き終わってからICチップの社長に「なんて言ってん
の?」みたいな顔をして通訳を頼んでいた。

「君の話を聞いて、私もサイ社長も決断したよ」

何を決断したんだろう。
結論から言ってくれ~~~。

「ここにあるICチップは1度持ち帰る。これから工場へ戻り、
俺の工場でICチップを検品し、問題のないものを明日また届
けるよ。」

エッ?
耳を疑った。。。けど疑いたくなかった。

「本当ですか?」
と確認を取る。

「あぁ、だってそんな問題が起きているのが分かったのだから
対処しない訳にはいかないだろ。

「サイ社長はここにある電池を全て返品するって言ってるよ」

エッ????
「ダイジョウブ?」
となぜか私が変な日本語でサイ社長に話しかける。

「ダイジョウブデショ」とサイ社長が変な日本語で返事をした。

サイ社長が続けた。
「君が気になる点、点検したい事を全て伝えて欲しい。検品す
るには増員して検品専門の人を見つけてこなきゃならない。
1日時間をもらえますか?」

オ~~~~
意外な展開!

完全に和解。
雪解け。。。にはほど遠いけど、意見を交わす事によって変化
の兆し、今後の仕事にとって大きな転換になるかも。

やった!
やったぞ~~~!!

嬉しさを抑える事が出来ず、サイ社長に近寄り手を握る。
「謝謝!」

サイ社長は驚いていたけど、「オーケー、オーケー」と笑顔で
手を握り返してきてくれた。

社会人になって初めて仕事をした気分だ!

「じゃあ、俺は工場へ戻って検品するよ。ったく日本の会社っ
って面倒だな(笑)欧米の会社はこんな細かい事なんて気に
しないぞ。」
そう言い残して、笑顔で手を振り工場を出ていくICチップの社
長。

よ~~~し!
興奮と嬉しさに包まれて俄然やり気が出てきた。。。けど、材
料がなくなってしまったので、やることがなくなってしまった。

サイ社長が「明天見」(明日ね)と笑顔で手を振った。

たまにはいいか。

私も工場をあとにした。

つづく

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