台湾の思い出 さらば台湾 再見 1 出張という名の一人旅 35話

小野田社長からのお誘いを断り、再び工場での仕事に集中する。

日本での発売日が決まっていて、国内問屋、物流会社とのスケジュールも
決まっているので、遅れる事は許されない。

土壇場で不良品などが出ないよう、出来上がった商品はもちろん、そこで
働く人たちにも目を配る。
私同様、ちょっと飽きっぽいところのある台湾人。
木が抜けないよう適度に声をかけたり、冗談で笑わせたりしながら、私も
検品を続ける

会社に入社したばかりの新米社員が入社40日後に命じられた海外出張。
出張先は初めて訪れる台湾。

その台湾の田舎町、竹南。
街にはコンビニが数軒、マクドナルドなどのファストフォード店はなく、
地元ローカルな店があるばかり。

住宅街と田畑に囲まれたこの小さな工場で製造されたクリスマスツリーが
日本の大手コンビニエンスストアの店頭に並ぶのだ。

それを思うと改めてプレッシャーを感じる。

輸送中の衝撃で商品が壊れないか?
箱詰めした商品を一定の高さから落として耐久性を確認する。
落としては開封し、商品が破損していないか?
ICから流れる音楽に問題ないかもチェックした。

サイ社長やパートのおばちゃんたちも真剣な顔でその様子を見つめて
いた。
「日本の品質管理はここまでするのか?」
サイ社長はそう思ったと後日語っていた。

印刷された商品説明文に間違いや印刷不良がないかも再度確認。

工場からの出荷日が迫るにつれ、作業量が増え、工場内の緊張感も高ま
っていった。

一方で仕事に関わってくれた地元のメーカーさん達が別れの挨拶に来て
くれる。
ICチップの社長さんには映画に連れて行って貰ったけど、字幕なしの香
港映画の内容は全然分からなかった。

印刷屋社長さんと彼の家族には地元のお祭りや山の上の料理屋へ連れて
行ってもらった。
小さな娘さんに懐かれてしまい、別れる度に大きな声で泣かれた。

元日本人のおじいちゃん達の家には時々お邪魔していた。
いつも優しい笑顔と大きな声で迎えてくれた。
台湾の田舎で日本語が通じる。
私にとって癒やしの時間だったし、おじいちゃん達にとっても懐かしい
日本語を使える滅多にないチャンス。
子供や孫を呼び寄せては、日本語を話す勇姿を見せていた。

途中で連絡が取れなくなってしまった南国美少女。。。どうしているだ
ろう。。。?
結局再会する機会には恵まれなかったけど、竹南のどこかで元気にして
いるのだろう。
希望する台北の大学に無事入学出来る事を祈った。。。けど、心残りだ
ったなぁ~。

工場での生産が無事に終わった。

後半は生産ピッチを上げる為、残業までして頑張ってくれたパートさん
たちには本当に助けられた。

商品を全て箱に入れ、工場に来た運送屋のトラックに箱を詰め込む。

サイ社長から「力仕事は手伝わなくて良いよ。疲れただろうから座って
みてれば」と言われたけど、最後まで手伝った。
そうしたかった。

これがサイ社長やパートさんたちとの最後に仕事になってしまうのだか
ら。。。

最後の1箱をトラックに載せる。
サイ社長がトラックの運転手に話しかけ、運転手はこちらに手を振りト
ラックに乗り込んで行く。

「無事、港まで届きますように」
心の中でそうお願いした。

全ての仕事が終わった。
サイ社長とがっちり握手。
普段は大人しいサイ社長が大きく目を見開き、本当に嬉しそうな表情
を見せてくれた。

夕陽が傾き出していた。
退社時間だ。

工場を後にするパートのおばちゃん達1人1人にお礼を言って見送っ
た。
お礼と言っても「謝謝」としか言えなかったけど。

みなさん
「これからも頑張ってね」
「またここにおいでよ」
「アリガトウ」(日本語で)
と労ってくれた。

異国で異国の人達との
一体感と達成感。

いや、異国だからこそ感じるのかも知れない。

工場を後にする時、サイ社長が「明日はもう台北へ行くの?何時?も
し時間があるなら、ウチで最後の水餃子を食べていってよ」

「えっ?いいの?竹南を午後出れば良い事になってるから」
嬉しかった!

「よし、じゃあお昼にしよう。ホテルへ迎えに行くよ」
とサイ社長。

最初は言葉も通じず、意思の疎通が出来ず、ちょっと険悪な雰囲気に
なってしまったこともあったけど、今では気さくに言葉を交わせる関
係になっている。

毎日工場への通勤に使っていた自転車はサイ社長の家で預かってくれ
ることになった。
「もし、来年も来るようなら必要になるでしょ?」とサイ社長が申し
出てくれたのだ。

そして宿泊しているホテルまで車で送ってくれた。

もっと話したいのに言葉が出てこない。
それはサイ社長も同じようだった。

ほとんど会話もないままサイ社長の運転する車がホテルに着いた。。。
着いてしまった。

車を降りると車内から「明天見」(また明日)と声を掛けてくれた。

「ハイ、明天見!」と手を上げて答える私。

サイ社長の車が動き出す。
サイ社長の車が見えなくなるまで見送った。

疲れていたけど、すぐにホテルの部屋に戻りたくなかった。
竹南最後の夜。
良く買い物したスーパーや小売店の人達の顔を見に行く。
話せる余裕がありそうな人には声を掛け、日本に帰る事を告げる。

「再見!」
みんな笑顔でそう言ってくれた。

ホッとした、と同時に疲れを感じた。

「そろそろホテルへ戻るかな」

竹南にしては賑やかな通りを歩き、ホテルへ戻った。
いよいよ明日、竹南を後にする。

つづく

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