上司に呼び出され台北へ
市内のステーキハウスへ向かうと
上司の友人が先に席についていた。
上司の後について、その男の席へ向かう。
どこからどうみてもミスターブーのマイケルホイだ。
やはり中華圏。
同じような顔をした人っているんだな。
我々が席に近づくと、その男は満面の笑みを浮かべて
椅子から立ち上がった。
「どうもどうも、待ってたよ~。遅いわ~」
あれ?
日本語だ?
綺麗な日本語、しかも関西弁だ!
「この子が例の新人君。頑張ってるみたいやね~。噂は
聞いてるよ~」
流暢な日本語だ!
「いつも来るのが早いんだよ。せっかちなだな~」
と上司が笑いながら私の方を振り返り、
「紹介するよ。大阪の小野田社長だよ」
えっ?日本人なの???
どこからどうみても香港のミスターブー、マイケルホイ
なのに。。。。
「どもども!」と右手を差し出してきたので握手した。
「ささ、早く座ろうや~」と私を急き立てた。
「ありがとうございます」と小野田社長の向かいに座らせて
もらった。
「ささ、何食べる。何でもいいよ」と私の上司。
そう言われると「これ」とは言えなくなる。
「一番良いコースにしとこうや~。酒も飲むやろ?」
酒は飲めないのだが「は、はい。ありがとうございます」
と答えてしまうあるあるな展開。
そこから約2時間、次々と運ばれてくる海鮮ものやステーキ
を楽しんだ。
上司と小野田社長は本当に仲が良く、若い頃の話で盛り上がっ
ていた。
次々と酒を飲み小野田社長と上司。
小野田社長と私の会社は血縁という訳ではないものの兄弟のよ
うな関係で、先々代からのお付き合い。
小野田社長は若い頃、上司の会社で2年ほど修行。
歳が近かったので毎日遊び歩いていた仲だそうだ。
私は食べる係。
2人は飲む係。
無理矢理酒を勧められる事もなく、2人の若い頃の話を聞きな
がら、久々に日本人との食事を楽しんだ。
最後の方になると上司は呂律が回っていなかった。
「もうダメだ~。ホテルで寝る」と上司がカバンから財布を取
り出しながら会計の準備を始めた。
「今夜はご馳走になっとくわ。前回、俺がおごったんだからな」
と小野田社長。
「了解了解。次ぎ、香港に行ったらおごれよな」
香港?
マイケルホイの顔が頭を過ぎった。
「君、酒飲んでないやろ?ちょっと付き合わん?なぁ、この子
ともう少し話したい。借りてもええやろ?」と小野田社長。
「あんまり変な遊びを覚えさせるなよ。みんなそれでダメにな
っちゃうんだからさ」と上司。
明日、ホテルの朝食には絶対間に合うこと。食事が終わったら
即竹南の工場へ帰る事を条件に、私は小野田社長と一緒に店を
出た。
二人でタクシーに乗り、小野田社長が宿泊しているホテルのラ
ウンジへ。
「いやぁ、飲んだ飲んだ。うるさかったやろ。ごめんな~」
小野田社長は相当酒が強いらしい。あれだけ飲んだのに全然酔
っていない。
少し酔ってはいるようだけど、他社に入社したての新米社員に
対してとても丁寧な対応をしてくれている。
笑顔のマイケルホイ。
二人でアイスコーヒーをオーダーした。
「さっき、私の上司が香港で会おうと言ってましたけど。。。」
と私が切り出した。
「そうそう、俺、大阪の会社の他に香港でも会社を立ち上げてな
。中国での生産が増えていくことを見込んで、現地で孤軍奮闘
してるんだよ。昔はここ台湾でも生産してたけど、これからは
中国や。将来的にも中国は大きなマーケットになるから、それ
を見込んで今から動いてるんだよ」
香港にオフィスがあり、小野田社長は1年のほとんどを香港で過
ごしていて、大阪の会社は銀行に勤務していた弟を口説いて入社
させ、経理を中心に管理してもらっているとのこと。
さっきまで大笑いしながら冗談ばかり言っていた小野田社長の顔
が少しキリリとしてきた。
なんか。。。。格好良い
ミスターブーなのに。。。。
つづく