台湾の思い出 香港社長 1 出張という名の一人旅 30話

台湾の夏休みが終わり、工場から子供達が
いなくなった。

相変わらずパートのおばちゃん達に笑い声が工場内
で飛び交っている。

日本にある本社からはファックスがあり、取引先で
あるコンビニチェーン全店での導入日が決まったと
の内容だった。

導入日に商品が店頭に並ばないなんて事はあっては
ならない話。

サイ社長とも細かい打ち合わせをして、台湾から日
本へ輸出する船便の日程から逆算し、この工場から
商品を出荷する日、運送会社を決めていく。

おばちゃん達と冗談まじりの会話を交わしながら、
仕事が滞らないよう、彼女達の気持ちが緩まないよ
う連帯感を深める。

仕事はやや遅れ気味だったので、夕方5時に一旦ラ
インを止め、協力者を募り、夜6時から8時までの
2時間、ラインを動かす事にした。

普段のコミュニケーションが上手く行っていたから
なのか、パートさん全員が協力を申し出てくれた。

1日も遅らせることが出来ない。

気持ちが引き締まる。

そんなある日、工場へ1本の電話が掛かってきた。

電話に出たサイ社長が「日本のあんたの上司からだ
よ」と受話器を私に向けた。

「はい、もしもし」
「よっ、元気?」
「はい、お陰様で」

元気?って。。。あんたが何も打ち合わせをしてこな
かったから、こっちは大変な目に合ったんだそ!

そんな事は言えないので電話口で愛想笑い。
情けない。。。

「実は今、台北にいるんだよ。これから来なよ」
「えっ?これから台北にですか?」

「うん。久々に飯でも食べようよ。美味いもん食べて
元気出して、仕事頑張って欲しいからさ」
「はぁ~。。。でも、仕事が。。。」

「大丈夫だよ、1日くらい。紹介したい奴もいるからさ。
業界に顔を売る、覚えてもらう。これも仕事だぞ」

なにがこれも仕事だぞだよ~。肝心な仕事してね~じゃん!
とも言えず。。。情けない。

「はい。分かりました。これからバスで向かいます。」
「オフィスで待ってるからさ。ホテルも予約してあるから
今夜はゆっくり酒でも飲もう」
「はい、ありがとうございます」

オイオイオイオイ、仕事、間に合わなくなっちゃうよ~。

サイ社長に事情を話すと
「大丈夫だよ。サラリーマンは大変だよね。工場の事は任
せて、たまには都会の空気を吸ってきなよ」

サイ社長の笑顔が後押しを受け、私は台北行きのバスに乗り
込んだ。

竹南から台北までは高速バスで2時間弱。
午後早い時間だったので台北市内も空いていて、夕方までに
は台北オフィスに到着することが出来た。

オフィスの重い鉄の扉を開くと台湾オフィスの社長テイさん
とスタッフのワンさんが笑顔で迎えてくれた。

その奥に私の上司が椅子に腰掛けていた。
私の顔を確認すると手を上げて「早かったね!」と声をかけ
てくれた。

「1人で大丈夫だった?君の頑張りは凄いよ。感謝してる」
それが本音なのかどうか分からなかったけど、悪い気がしなか
った。

「じゃあ少し早いけど食事に行こう」
あれ?打ち合わせも何もしないの???

しないのだ。
この人、本当に仕事しない。

「今夜はステーキハウスに行こう。本店は日本の六本木にある
店でさ。ステーキが美味しいんだよ。そこで知人と待ち合わ
せしてるんだ。もう長い付き合いでね。信頼出来る友人でも
ある。君に紹介しておきたいと思ったんだ」

タクシーに乗り込み、比較的高級ホテルが並ぶエリアへ向かっ
た。

10分ほどで店に到着し店内へ。

「お~い、着いたよ!」と上司が手を上げて大きな声を出す。
先に到着していた男性がこちらを確認し、笑顔で手を上げた。

あれ?
日本人じゃないのか。
台湾の人だ。
誰かに似ている。。。。

そうだ!
私がまだ小学生の頃に人気だった香港映画、ミスターブーの
主役、マイケル・ホイに似てる!

上司の後について、私はマイケル・ホイのそっくりさんが座
るテーブルへ向かった。

つづく

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