台湾の思い出 南国での出会い 8 出張という名の一人旅 29話

彼女が工場に来なくなってすでに1週間以上が経過した。

相変わらず彼女の姿は工場にない。

もう彼女は工場に来ない。
本当なのだろうか?

塾の夏期講習が終わればまた出勤してくる可能性がある。。。
いや、その頃には夏休みも終わり、学校が始まっているだろう。

私だっていつまでも台湾に、この工場にいる訳ではない。

会えなく。。。なってしまう。。

夏休みも終盤に入った。
彼女の2人の妹達は相変わらず工場へ出勤している。
ちょくちょく話しかけているけど、相変わらず距離は縮まらない
ままだった。

その妹達が仕事をするのを長めながら、思いついた。
最後の手段。
あの2人の妹たちに彼女への手紙を託そう。

毎日持ち歩いているノートとペンを使って、彼女へ手紙を書き、
妹たちに届けてもらうことにしよう。

私は変わらず元気で過ごしていること。
勉強のお陰でサイさん達と中国語で会話が出来るようになったこと。
仕事の進行状況などを書いた。

そして

「もし私との勉強会の件でご両親から怒られていたとしたらごめん
なさい。でも、もしそうでなかったら、君に時間があるのなら、
また中国語を教えて欲しい」

と書いた。

けど

「君にもう1度会いたい」とは書けなかった。。。

相手が高校生だったから。。。いや、私にその一言を書く勇気がな
かっただけ。

工場の片隅で手紙を書き上げ、就業に2人の妹たちに近づいて手紙
を渡した。

「これ、お姉さんに届けてくれる?」

2人の妹たちは私を見上げ、表情を変えずに手紙を受け取り、コク
リと頷いた。

律儀な彼女のこと。
すぐに返事をくれるだろう。

1日
2日

待てど暮らせど返事は来なかった。

妹たちに手紙を託して3日後、私は妹たちに問いかけた。

「お姉さん、元気?」
コクリと頷く妹たち。

「そう。勉強してるの?」
再びコクリと頷く妹たち。

会話が続かない。
仕方がないな。

私の顔を無表情に見上げる妹たち。

「バイバイ」と笑顔で彼女達を見送った。

とうとう夏休みが終わり、子供達全員が工場から姿を消した。
2人の妹達の姿もない。

そして。。。彼女が工場に来る事はなかった。

小さな田舎町。
そのうちどこかで会えるかも。。。。

そんな微かな期待が叶う事はなかった。

食事をしたり映画を観に行ったり。。。誘ってみるべきだった
かな。

私が帰国したら会社に事情を話し、有給を使い、毎月彼女に会
いに来る。。。馬鹿な妄想をしたもんだ。。。

工場に来なくなる前に一言、さよならでもいいから何か言って
欲しかった。。。。

過ぎ去った時間は決して元には戻らない。

でも、彼女と勉強した小学校の校舎は町に。
彼女が用意してくれたテキストは私の手元に。
そして彼女と共に過ごした時間は私の記憶の中に存在し続けて
いる。

あの夏、台湾の片田舎で出会った南国美少女。

素敵な思い出。
ありがとう。

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