台湾の思い出 南国での出会い 7 出張という名の一人旅 28話

台湾の片田舎にある小さな工場で出会った
地元の高校生の女の子

彼女に中国語を教えてもらうようになって数週間
少し、ほんの少しだけ中国語での会話が出来るように
なっていった。

工場の社長サイさんや彼の息子ベイビーとも簡単な会話
を交わせるようになった。

難しい話は相変わらず筆談かそれでも分からない場合が
台北オフィスに電話した。

簡単な会話や冗談。
これだけでも人と人の距離はとても縮まるものだ。

ある日の朝、ベイビーが駆け寄ってきた。

「どうしたの?」と私が聞くと
「夏休みがもう終わる。終わったら、俺、軍に帰るんだ」と
ベイビー。

そうだった。
ベイビーは夏休みで帰省中だった。

「いつ?」
「明日」

私は目を大きく見開いて驚いた。
「明日?」
「そう。明日」

8月も中旬を過ぎたのだ。
そろそろ夏休みが終わりに近づいていた。

「そうかぁ~。寂しくなるな。せっかく仲良くなったのに」
「うん。でも俺、来年の夏には軍から戻れるからさ。その後は
親父の工場を手伝おうかなと思ってる。だから、また遊びに来
てよ」

「うん。必ず会いに来るよ。来年もまた仕事を発注する可能性
もあるしね。決まれば、また品質管理としてこちらにお世話に
なると思うからさ」

そんな会話を交わした。

「随分、話せるようになったね」とベイビー。

そう言われれば。。。ベイビーが話している内容が分かるし、
私も中国語で応えていた。

これも彼女が時間を割いて私に中国語を教えてくれた結果だ。
感謝しなくちゃな。

ベイビーと会話している間に始業を告げるベルがなる。

さて、仕事仕事。
今日も働くぞ~!

といつも彼女が座っている場所へ目を向ける。。。
あれ、いないな。
今日は休みかな?
体調を崩したりしてなきゃいいんだけどな。

翌日。
あれ?
また欠席だ。
体調崩しちゃったかな?
心配だ。

翌日。。。欠席。
翌々日も欠席。

どうしたんだろう?
なぜ彼女は来ないんだろう?

彼女の2人の妹達は相変わらず出勤している。

2人に近づき「ねぇ。お姉さんは?仕事には来ないの?」
と聞くと、2人は顔を見合わせた後、私の方を向き首を横に
降った。

「病気なの?」と聞いたが、首を横に振るだけだった。

あまり問い詰めてもと思い、作り笑顔で「バイバイ」と言って
見送った。

一体、彼女に何が起こったのだろうか?
もしかして見知らぬ外国人の私と2人っきりで学校に居ることが
両親にバレて出勤を止められてしまったのかな?

1週間。彼女は出勤して来なかった。

もし私との事で彼女が両親から怒られているとしたら申し
訳ない。。。。

それとも病気か何かかな。。。。

なぜ彼女は来なくなってしまったのか。。。。
理由を知りたい。

彼女が来なくなって8日目。
意を決してサイさんに切り出した。

「サイさん、あの英語が話せる女の子。最近、来なくなっちゃった
ね。病気かなにかなの?何か聞いてない?」

「そう言われれば。。。。いや、何も聞いてないよ」
サイさんは何も聞いてない。
しかも彼女が休んでいることに気が付いてなかった様子。。。。

「ほ、ほら、彼女は英語が得意でさ。何か問題があった時、彼女が
いてくれると助かるじゃない」と適当な理由を続けた。

「そうだな。困るよね。ちょっと電話してみる」
とサイさんが受話器を上げながらノートをめくる。

工場で働いている人たちのリストで住所と電話番号が書いてあるら
しい。

ノートを確認しながら電話のボタンを押す。

しばらくしてサイさんが話し出す。
彼女の実家と繋がったようだ。

早口に聞こえる中国語でしばらく話していたサイさんが受話器を下ろ
した。

「彼女のお父さんが言うには塾の夏期講習が始まったので、勉強に集
中させる。だからもう工場には来ないって」

一瞬、いや、もっと長い時間、私は言葉を失った。

つい1週間ほど前まで、いつも工場に来ていた彼女。
夕方の小学校校舎で中国語を教えてくれていた彼女。
いつも近くに感じていた彼女の笑顔。

一瞬にして全てが過去になってしまったような。。。
その事実を受け入れる事が出来ない私。。。。。。。

もう。。。会えないのかな。。。?

つづく

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