台湾の思い出 怖い話 4 出張という名の一人旅 21 話

真面目君

不気味だ。

いつまた現れるのだろうか。。。
不安が募る。
そして彼に対する嫌悪感が日に日に増していく。

こんな気持ちを抱えながら、この先もこの町にいなければならない
のだろうか?

そしてその不安は的中し、深刻化していく。

翌日の目覚めは最悪だった。
最終的には眠れたけど、もう明け方近くだった。

自転車で工場へ向かっている間も真面目君の顔を頭に浮かぶ。

工場でサイさん、ベイビーと挨拶を交わし、パートのおばさんたち
と意味のない会話をする。
忙しくなると真面目君の事は忘れられる。

仕事に集中しよう。
そう思った。

そして昼の休憩時間。

工場の外に出ると。。。。いる。
真面目君がヘルメットを持って待っている。。。。

ベイビーがいるので、工場の近くまでは近づいて来ないのだが不気味
だ。

真面目君からすぐに視線を外し、私はサイさんの家に入り、昼ご飯を
いただく。

が、味が。。。味が分からない。
真面目君の事が頭から離れず、ご飯の味を楽しめないのだ。

昼が終わり、工場へ戻るとき、恐る恐る真面目君が立っていた場所へ
視線を向ける。

いない。
真面目君の姿はなかった。

午後の仕事が終わり、工場を出る。。。いる。
手にはヘルメット。。。

なんという男だろう。

自転車の鍵を解除して、力一杯ペダルを踏む。
彼には視線を向けず、ペダルを踏んで彼の横を通り過ぎた。

追ってくるかな?
工場から少し離れた場所に自転車を止め、後ろを振り返る。

いない。
付いてこない。

良かった~。

しかし、翌日もその翌日も。。。。昼と夜、彼はそこにいた。

他人を無視するのも心地良いものではない。
無視すればするほど、心の中で彼の存在が大きくなっていく。

せっかくの台湾滞在が楽しめなくなっていた。

そんな日々が続き、私の心も疲弊していた。

その日。
いつものように真面目君は私を待っていた。
いつものように私は彼を無視してホテルへ戻った。

食事を済ませ、買い物を済ませ、ホテルで横になる。

テレビを見たり、日本から送られてきた雑誌に目を通したりし
ながらくつろぐ。。。くつろげない。

風呂を済ませ、「今夜はもう寝よう」と決め、部屋の電気を消
す。
疲れていたのだろう、その日は割とすぐに眠りにつけた。

ピンポーン
「?」

ピンポーン
「この部屋だな」

部屋の時計を見ると午前12時半だ。

誰だよ、こんな夜中に。
酔っ払った客が部屋を間違えているのかな。

部屋の電気をつけてベッドから起き上がり、ドアの方へ向かった。

そしてドアの穴から外を見る。。。背筋が凍った。。。。

いる
あいつが。。。真面目君がドアの外に立っている。

寝たふりして応対しないでおこう。
そう思い、ベッドに戻り布団を被る。

ピンポーン。。。。。
ピンポーン。。。。。

なかなか諦めてくれないな。
でも、反応しなければ帰ってくれるだろう
我慢我慢、もう少しの我慢。

ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン

徐々に回数が増え、鳴らす間隔が短くなっていく

ピンポンピンポンピンポンピンポン!!!!

連打している。
その音からは怒りを感じる。

枕で耳を被い、音が聞こえないようにするけど限界がある。

そして鳴り止まないチャイムの音。

時計を見ると午前1時。。。もう30分もチャイムを鳴ら
している真面目君。

それから15分。
午前1時15分になっていた。

「もう限界だ!」
彼に対する嫌悪感を怒りが超えていた。

ドアに向かい、勢いよくドアを開ける。

一瞬、真面目君が驚いたのが分かった。
その次の瞬間、ヘルメットを差し出し
「一起吃飯」(一緒にご飯、食べに行こう)

「ふざけるな!」
日本語で大声を出した。
その後、何を言ったかは覚えていない。

大声で叫び続けた。
彼に対する怒りにまかせ、叫び続けた。

そしてフロントドアの方向へ指を向け、「出ていけ!」と
怒鳴り散らした。

真面目君は不満そうな表情を見せた。
「せっかく誘ってやったのに。。。」とでも言いたげだった。

そしてヘルメットを持ちながら、フロントへ向かった。

私はドアを閉めた。
怒りを。。。怒りを抑えたい。
なんで夜中にこんな大声を出さなきゃならないんだ。

30分ほど過ぎただろうか。
少し冷静さを取り戻した私はフロントへ行く、彼が来たらホテル
へは入れないようにして欲しいとお願いした。

「お友達じゃないんですか?」と聞かれた。
「奇奇怪怪な男だよ」と答えた。

先ほどの大声も聞こえていたのだろう。
ホテルも対策を取ってくれた。

ようやく以前のように楽しく働く日常を取り戻した。

その後、彼の姿を見かける事はなくなり、工場の外で立っている
事もなくなった。

2回ほど部屋の電話がなり、受話器を取ると
「一起吃飯」(一緒にご飯に行こうよ)
との誘いがあったけど、彼からの電話はつながないようホテルに
お願いをした。

なんという執念。

ストーカーなんて言葉のない時代だったけど、ストーカーは存在
していた。

ピンポーン
ピンポーン
「ご飯、ご飯一緒に食べようよ。。。。」

今日もどこかで真面目君が誰かの家のドアベルを鳴らしているの
かも知れない。。。。

そう思うと鳥肌が立つ。

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