台湾の思い出 怖い話 3 出張という名の一人旅 20話

昼ではなく夜に現れた真面目君

表情ひとつ変えず、手にはヘルメット。。。

強い嫌悪感と拒否感が沸き上がった。

「今天累」(今日は疲れてる)
とややふてくされた表情を作り、真面目君に伝える。

が、その場から動く気配はなく、手にヘルメットを持ったまま。

見かねたベイビーが真面目君に何やら話をしてくれた。

表情を変えずベイビーの話を聞いていた真面目君はそのままの
表情でバイクのエンジンをかけ、どこかへ立ち去った。

助かった~

ベイビーに「謝謝」と言うとベイビーは人差し指で自分の頭を指し
「アタマ コンクリ」と言った。
(台湾語で頭がどうにかしている。。。という意味。台湾の人は日本
語だと思っているらしい)

自転車でホテルに戻り、少し休んでから晩ご飯に出かけた。
場所はホテル近くにある掘っ立て小屋を利用した食堂だ。

ここはチャーハンが美味しい。
そして水餃子も!

冴えないご主人と美人の奥さん2人で切り盛りしている、小さくても
繁盛しているお店。

当初、私の事を香港人だと思っていたようだ(笑)

言葉は通じないが、いつも笑顔で接客してくれ、お会計も少しだけマ
ケてくれる。

食べながら「好吃」(美味しい)と親指を立てる私を、笑顔でウンウ
ンとうなずきながら、2人楽しそうに何やら話していたのが、今でも
印象に残っている。

食事を終え、小さな商店で紙パック入りのオレンジジュースを買う。
この商店も行きつけになっていた。

店番の女の子が笑顔で何やら話しかけてくれるけど、全然意味が分か
らない。

言葉は分からなくても、いつもの顔があったっりすると行きつけにな
るものだ。

「バイバ~イ」と手を振る。
愛嬌のある女の子。

2~3分歩いてホテルに戻る。

風呂に入り、ベッドに横になりテレビのスウィッチをオンにする。
見るのは台湾のMTVだ。

地元台湾歌手の歌が流れるのとき、歌詞に合わせて漢字の字幕が画面
したに映し出される。

歌を聴きながら、それらの言葉がどう発音されているのかを聴くのだ。

視覚と聴覚の両方で中国語に触れる。
台湾滞在中、少しでも言葉を覚えてサイさんやベイビー、工場の人達
と交流したい。
そんな思いが強くなり、思いついた勉強法だった。

字幕を目で追いながら歌を聴き、少しリラックスしていると部屋の電
話が鳴った。
電話を取り上げるとフロントからだった。

「お知り合いの方がいらしてますよ」
「はい、ありがとう」
と電話を切る。

ベイビーが遊びに来たのかな?と思いながらフロントへ向かった。

フロントの勤務する女性が私に気が付き、「お友達がいらしてます」と
笑顔で話しかけ、手を「私の友達」の方へ向けた。。。。

背筋が凍った。。。。

真面目君が立っているのだ。

なんでここが。。。。あっ、初対面の時、ここに宿泊している事をアウ
トレイジな男に話し、それを真面目君は聞いていたのだ。

相変わらず手にはヘルメット。

怒りがこみ上げてきた。
こんなところにまで。。。。

フロント勤務の女性達の目があり、ここで感情を爆発させたくないと思
い、真面目君の肩に手を置いて、フロントロビーから2人で外に出た。

エレベーターで1階に下りてから

「今天我累」(今日は疲れている)と話す。
真面目君は表情ひとつ変えず、ヘルメットを私の目の前に差し出し。

そして小さな声で「一起吃飯」(一緒にご飯食べよう)と言った。

気色悪い。。。。
言葉は良くないが、それが私の正直な気持ちだった。

なんなのだ、この男は。。。。毎日職場に現れ、ついにはホテルにまで
。。。

「今日は行かないよ。悪いけど帰ってくれ」

差し出したヘルメットを私に向けたまま表情を変えず、帰る素振りも
見せない真面目君。

私はそんな真面目君に背を向けエレベーターのボタンを押し、真面目君
をそこに残して部屋に戻った。
真面目君は追っては来なかった。

フロントの女性達が「友達とお出かけするんじゃなかったの?」と聞い
てきた。
その場の雰囲気を壊したくなかった私は「少し話があっただけなんだ」
と答えて部屋に戻った。

これだけ拒否するれば、もう来ないだろう。
来る筈はない。。。
来ないよな。。。

来る。。。かな。。。。

つづく

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