台湾の思い出 怖い話 1 出張という名の一人旅 18

ある日、2人の男がサイさんの工場を訪ねてきた。

サイさんの取引先で、今回私が所属している会社がオーダーした
クリスマスツリーの箱の製造を請け負っている、町の小さな工場
の人らしい。

サイさんが手招きをする。
私と彼等を引き合わせてくれた。

1人はちょっとチンピラ風の。。。映画アウトレイジに出てきそ
うな雰囲気の男。

もう1人は髪を7-3にキッチリと分け、黒縁メガネをかけた、
いかにも真面目そうな男。

「 hello, nice to meet you 」
チンピラ風のの男がにこやかに手を差し出す。
英語だ。

「英語、話せるの?」と聞くとアウトレイジな男がニコリと微笑
みながら「あぁ、以前は貿易会社で仕事をしていたんだよ。その
会社、倒産しちゃったんだけどさ」と答えた。

「 do you speak english ? 」
もう1人の真面目君に聞くと、びっくりしたような表情で手を振
った。

真面目君は見たまんま。
いかにもって感じの真面目君だった。

箱に関する話をしているとき、アウトレイジな男が「ねぇ、昼は
どうしてるの? 時間があるなら一緒にご飯でもどう? 美味し
い店があるんだよ」と食事に誘ってくれた。

サイさんやベイビー、そしてチェン。
少しずつ台湾の友達が増え始めていたので、彼等とも仲良くなり
たくなった。

幸い、アウトレイジな男は英語が出来るので会話にスムーズだ。

「本当?嬉しいな。台湾の料理、美味しいよね」とお誘いを受
けることにした。

午前中の仕事が終わると、工場の外に2人の男が立っていた。
暑い中、待っていてくれたようだ。

近づくと真面目君が表情を変えずにヘルメットを差し出してきた。
バ、バイクで移動かぁ~
ちょいと怖いな。。。と思いつつヘルメットを受け取り、被る。
臭いなぁ~~~

真面目君が運転するバイクの後部座席に座り、田舎町をバイク
で疾走した。

鋭い夏の日差しに焼けた肌を掠めていく冷たい風が心地良かっ
た。
台湾に来て初めて乗ったバイクだった。

2台のバイクが向かった先は小さな小さな台湾料理屋さんだっ
た。

店の中はテーブルが5つ。
あとはカウンター席だ。

良く分からない台湾料理が運ばれてくる中、当時は日本であま
り見かける事がなかった羽根付き餃子が運ばれてきた。

「ここの餃子は美味いんだよ。さぁ、食べて食べて」
アウトレイジな男が気さくに勧めてくれる。

「ビールでいい?」
おいおい昼間だよ。しかも飯食ったら工場で仕事するんだから

「コーラでいいよ。酒、飲めないから」

そう答えておいた。

小料理屋の奥さんがビール2本とコーラを運んできた。
真面目君が受け取り、3つのコップのビールを注ぐ。

慌てて「 no no ! 」と言って、ビールを注ぐのを止めさせよ
うとしたら、真面目君が「分かってる」というような顔をして
ビールを注ぐ手を止めた。

コップ3分の1位注いだビールをコップをクルクル回して泡立
てる。
そしてコップの中のビールをポィっと店の床に捨てた。

エッ!
一瞬驚いた。
店の人、怒るんじゃないかと不安になった。
けど、店の人は特に気にしていない。

ビールでコップを洗ったのか!
しかも泡立てて。。。(笑)

羽根付き餃子に箸を伸ばす、口に運ぶ。。。。う、美味い!
言い方は悪いけど、こんな小汚い店なのに味は絶品!

1人だったら絶対に入らない店。
現地の人達と一緒だから知る事が出来る地元の美味い店、美味
い品!

アウトレイジな男は香港での勤務経験もあり、仕事の話からつ
まらない冗談まで幅広い話題と独特の話術で場を盛り上げてく
れる。
真面目君が時折ニッコリとして話を聞いている。

昼休みは90分。
「そろそろ工場へ戻らないと」と私が切り出す。

「そうだね。サイ社長に怒られちゃうよね。送っていくよ」と
アウトレイジな男が言いながらお会計を済ませてくれた。

送ってくれるのは良いけれど、この2人、結構飲んでたな。
でも、工場に帰るにはこの2人のバイクに乗るしか手がないの
で仕方なく真面目君のバイクに2ケツした。

酔っ払い運転に慣れているのだろうか?
無事、サイさんの工場まで戻ってこれた。

「ありがとう。楽しかった。料理も美味しかったよ」とお礼を
言うと、「良かったらまた食事しようよ。今度は晩ご飯でも。
この町は小さいけど、美味しい店はまだまだあるんだよ」とア
ウトレイジ。

「嬉しいな!是非誘ってよ」と宿泊しているホテルの電話名前
を告げ、部屋番号を書いた紙を渡した。
当時はまだ携帯もスマホもない時代だった。

「 ok, see you 」とアウトレイジには英語で。「再見」と真
面目君には中国語で別れを告げた。

あまり表情を変えない真面目君が笑顔を見せて、コクリとうな
ずく。

2人は手を振りながら、なぜかヘルメットを被らずに走り去っ
て行った。。。。

楽しかったなぁ~
あの羽根付き餃子、なんだあんなに美味いんだろう。
そしてまた新しい友達が出来た!

台湾でどんどん友達が増えていく。

心が躍っていた。。。。。この時はまだ、翌日から起きる恐怖
の日々を知らなかったから。。。。

つづく

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