台湾の思い出 親友チェンとの出会い 1 出張という名の一人旅 16

サイさんの息子、ベイビーの帰省を機に、サイさん
ファミリーとの仲が急速に縮まった。

「早!」 (おはよう!)
いつものようにベイビーが声をかけてくれる。

「早!」
私も笑顔で応える。

ベイビーが何かを紙に書いて見せてくれた。

「明天工作休暇 有没有時間?」
(明日、ひま?)

毎週日曜日は工場が休み。
いつもは昼近くまで寝て、気が向けば隣町の新竹へ
電車で出かけ、街歩きをしたり映画を観たりしてい
たけど、ベイビーから初めてのお誘いだったので、
一緒に出かけてみることにした。

ベイビーがサイさんのオンボロ車を指さし、「俺が
運転する」というジェスチャーをする。

午前10時に私が宿泊するホテルまで迎えに来てく
れるようだ。

それにしても何処へ行くのだろう?

その質問をどう聞いていいのか分からない。。。
少し中国語の勉強をしないとなぁ。

サイさんファミリーと仲良くなると、工場で働く他
のパートさん達数人との距離も縮まった。

フルーツを持ってきてくれる人
晩ご飯に招待してくれる人
何を話しているのか分からないけど、彼等の気持ち
は伝わってくる。

多少でも中国語が話せれば。。。帰国したら習いに
行ってみようかな。。。そんな思いを強くした。

翌日、約束の時間よりやや遅く、ベイビーがホテル
に来てくれた。

「ドウゾ」
お父さん同様、彼が良く使う日本語だ。

車に乗り込む。
社内のラジオから台湾の演歌のような歌が流れてい
た。

交通ルールはあるものの、やや曖昧な台湾の人達が
操る車やバイクが道路を行き交う。

次第に町を離れ、山間の道を進むおんぼろ車。

力強い緑が視界に広がる。

ベイビーは小さな声で鼻歌を歌う。
会話はないけど気まずい雰囲気もない。

どうせ言葉は通じない。
お互いそんな認識を持っているからか。
だからこそ会話がなくても気楽にしてられる。

30分ほど走ると、大きな建物が見えてきた。

どうやら学校のようだ。

校門で車を止める。
守衛のおじさんが近づいてきて、ベイビーが応対した。

○○科技専門学校

工業系の専門学校のようだな。

校内のパーキングに車を止めて、校内へ入る。

何か催し物でもやっているのかな?

そんな事を想像しながらベイビーの後に続くと、職員室
に到着した。

ベイビーがドアをスライドさせると、数人の教師らしい
人達が振り返る。

「ヘイ」とベイビーが手を上げると、一人の男性がこち
らに向かって笑顔で歩いてきた。

歳は私より少し上くらいだろうか。
30歳(当時)にはなっていない感じ。
細身でサラサラの紙。
とても親しみの持てる笑顔だった。

「コンニチハ」
近づく彼の口からは日本語が飛び出してきた。

「あれ?日本語大丈夫ですか?」
私が聞くと

「はい、少しだけですけど。。大丈夫です」

久々に日本語での会話が出来る!

「私の名前はチェンです。」
日本語で自己紹介してくれた。

これが我が親友との最初の出会いだった。

つづく

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