このおじいちゃん達、一体何をする気だろう。。。?
「俺たちは日本にとても感謝してるんだ」
「そうそう、日本、そして日本人は本当に良かった」
あれ?
想定していた内容とは違う話を切り出してきたおじいちゃん達。
「でも、台湾は日本に占領されたんですよね? それって国と
しては辛い事じゃなかったですか?」
聞きながら、こんな事聞かなくても良かったかな。。と思った
りもしたけど、おじいちゃん達がなぜ日本に感謝しているのか
?
少しだけ知りたくなってきた。
「そんなことはないよ。楽しいこと、嬉しいことばかりだった」
教科書に載っていた「日本の海外進出」という言葉が再び思い
浮かんだ。
「日本が来てくれて道路が綺麗になり、学校が建てられ、俺たち
はそこに通い、勉強することが出来た」
「でも、台湾人だからという理由で差別されたりはしなかったで
すか?」
と聞く。
「確かに教室は別々だったよ。でも、勉強が出来れば朝礼で日本
人と一緒に賞状が貰えたり、運動で頑張れば、日本の子供と同
じ表彰台に立てたんだ。」
「そうだ。日本の先生達はみな優しくて、尊敬出来る人ばかりだ
った。俺たちを見下したりしなかったよ」
「それだけじゃないぞ。働けばちゃんとお金を貰えたんだ」
えっ?
それって当たり前のことなんじゃないの?
「そう、日本の会社やお店で働くと、給料は働いた分だけきちん
と払ってくれたんだ。恥ずかし話、同じ台湾人のところで働い
たらそうはいかなかったんだ」
う~ん、ブラック企業経営者達に聞かせたい話。
「それと警察さ。交番が建つようになり、街中での犯罪が減った
から、安心して生活が出来るようになった。」
「道路や鉄道もそうだ。」
ある日突然他国を侵略し、我が物顔で振る舞っていた。
そんな印象しか持っていなかった戦前戦中の日本をイメージして
いたけど。。。。違うみたいだな。
「俺たちは日本兵として戦うつもりだったよ。近所に住んでいた
日本人が戦地で亡くなったという話を聞いて、敵を取りたいと
思ったりもしたな。」
「そうだ。だって日本人だからな、俺たちは。。。」
おじいちゃん達は下を向き、辛そうな表情を浮かべた。
日本の戦況が悪化し、台湾上空にもアメリカの戦闘機が飛来する
ようになる。
他国の戦闘機を排除するために飛び立つ日本の戦闘機。
しかし、アメリカの戦闘機は機動力がり、日本の戦闘機は次々と
撃墜されていく。。。
ある日本のパイロットは市内への墜落を避ける為、街の外へ出る
まで機体を維持し、畑や山に墜落し、命を落としていったそうだ。
「日本が戦争に負けて台湾を出ていくときは辛かった。先生達が
泣きながら手を振ってさ。。。俺も泣いたよ。日本に連れて行
って欲しかったよ。。。」
泣きそうになった。。。
悪いイメージしかなかった当時の日本人たち。
でも、被占領国、被占領民の台湾の人達には美しい思い出を残し
ている。
日本が台湾から撤退する際、兵士は隊列を崩さず、女性や子供達
も頭を下げながら街を去っていったという。
「俺たちの夢はさ、本土へ行って、当時の校長先生や担任の先生
達と再会することなんだ。戦後、手紙のやりとりはしていたけ
ど、今はどこに住んでいるかは分からない。でも、東京へ行け
ば、何とかなるんじゃないか。先生達に逢えるんじゃないかっ
って思うんだけどさ。。。。」
「もう亡くなっているかも知れないよな。。。」
言葉が出なくなっていた。
台湾の人達に対して持っていた、どこか後ろめたい気持ちが、少
し晴れたような感覚を覚えた。
「ご飯、食べてくか?」
いきなり声のトーンが変わり、優しい笑顔でおじいちゃんが聞い
てきた。
「ごめんなさい、お昼ご飯を食べてしまったので。。。」
「そうか。」笑顔でおじいちゃんがうなずく。
「また遊びに来てもいいですか?今度はご飯を食べに来ます」
おじいちゃん達が笑顔で「来なさい。是非遊びに来なさい!」
と言ってくれた。
竹南滞在中。
何度かその家を訪ね、晩ご飯をいただいた。
日本に帰ったあと、日本の薬局で薬を買い、台湾へ送ったりも
した。
わざわざ台湾から私が勤務する会社に電話を掛けてきてくれ、
「ありがとう」と何度も何度も言ってくれた。
彼等の出会いと交流から随分時間が経過した。
もう生きてはいないのかも知れない。
真夏の台湾での不思議な出会いと縁。
今では美しい思い出。