台湾の思い出 元日本人たちとの出会い 2 出張という名の一人旅 11

初めて経験する台湾の夏は暑かった。

蝉が猛烈な勢いで鳴き声を競い合う中、日本語を話す
おじいちゃん達に促され、椅子に腰を下ろした。

「あんた、ビール飲むか?」
「あんたなんで台湾にいる?」
「東京からか?」
「台湾語は出来るか?」
「結婚してるのか?」

おじいちゃん達が一斉に質問をしてくる。
聖徳太子じゃないんだから、誰がどんな質問をしているのか
把握出来ないよ~

「ちょ、ちょっと待って! ゆっくり、ゆっくり」

「わっはっはっは!そうだな。まだ時間あるか?」と最初に
目が合ったおじいちゃん。

時間はあるけど、このノリにはついていけないなぁ。
すでに疲れが。。。。

「あまりありません。」
嘘をついてしまった(笑)

「俺の名前は水沢だ」
「俺は○○だ」
「俺は○○だ」

あれ?日本人と同じ名字だ。
この人達、もしかすると日本が台湾から撤退するときに逃げ遅れた人
達なのか?

「おじいさんたちは日本人?」
と聞きながら、そんなはずはないと思った。

日本語を話し、日本人と同じ名字を持ってはいる。
けど。。。何か日本人っぽくないのだ。

「そうだ。俺たちは日本人だ」

えっ?
やはり逃げ遅れた日本人なのか?

「生まれは台湾。でも当時、ここは日本だったよ」

そうか!
昔、日本が台湾を占領していた。
そんな歴史があったっけな。

学生時代に行った韓国。
どこかの町で宿泊した民宿のおじいさんも同じ時代の人で、彼も
流暢に日本語を話していたっけな。

日本の海外進出
韓国台湾を併合

日本とアジアに陰を落とす暗い歴史。
無理矢理国籍を変えられた人達。
不当な扱いを受け、さずかし辛い思いをされたのだろうな~
申し訳ない。。。浅黒いおじいちゃん達の顔を見て、そんな気持
ちになった。

そしてすぐに不安な気持ちになった。

当時辛い思いをした事への恨み。
彼等はまだ当時の苦しみを抱えていて、たまたま通りかかった日
本人の私に恨み辛みをぶちかましに来る気かも。。。。

これは辛い時間になりそうだ。。。。ホテルに帰れるのかな。。。

勝手につがれたビールをゴクリと飲む。
苦みが嫌いで普段はほとんど飲まないビール。
しかも冷えてないし。。。

恨み節が長く続くようなら、椅子から立ち上がって自転車で逃げ
ちゃえばいいや。
どうせ追いかけてこないだろう。。。おじいちゃんたちにそんな
体力気力はないだろうから。

と自転車を止めた場所を確認しながら、ポケットに入れた自転車
の鍵に触る。

逃げる準備を整えながら、おじいちゃん達の話を聞くフリをした。

つづく

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