初めて経験する台湾の夏は暑かった。
蝉が猛烈な勢いで鳴き声を競い合う中、日本語を話す
おじいちゃん達に促され、椅子に腰を下ろした。
「あんた、ビール飲むか?」
「あんたなんで台湾にいる?」
「東京からか?」
「台湾語は出来るか?」
「結婚してるのか?」
おじいちゃん達が一斉に質問をしてくる。
聖徳太子じゃないんだから、誰がどんな質問をしているのか
把握出来ないよ~
「ちょ、ちょっと待って! ゆっくり、ゆっくり」
「わっはっはっは!そうだな。まだ時間あるか?」と最初に
目が合ったおじいちゃん。
時間はあるけど、このノリにはついていけないなぁ。
すでに疲れが。。。。
「あまりありません。」
嘘をついてしまった(笑)
「俺の名前は水沢だ」
「俺は○○だ」
「俺は○○だ」
あれ?日本人と同じ名字だ。
この人達、もしかすると日本が台湾から撤退するときに逃げ遅れた人
達なのか?
「おじいさんたちは日本人?」
と聞きながら、そんなはずはないと思った。
日本語を話し、日本人と同じ名字を持ってはいる。
けど。。。何か日本人っぽくないのだ。
「そうだ。俺たちは日本人だ」
えっ?
やはり逃げ遅れた日本人なのか?
「生まれは台湾。でも当時、ここは日本だったよ」
そうか!
昔、日本が台湾を占領していた。
そんな歴史があったっけな。
学生時代に行った韓国。
どこかの町で宿泊した民宿のおじいさんも同じ時代の人で、彼も
流暢に日本語を話していたっけな。
日本の海外進出
韓国台湾を併合
日本とアジアに陰を落とす暗い歴史。
無理矢理国籍を変えられた人達。
不当な扱いを受け、さずかし辛い思いをされたのだろうな~
申し訳ない。。。浅黒いおじいちゃん達の顔を見て、そんな気持
ちになった。
そしてすぐに不安な気持ちになった。
当時辛い思いをした事への恨み。
彼等はまだ当時の苦しみを抱えていて、たまたま通りかかった日
本人の私に恨み辛みをぶちかましに来る気かも。。。。
これは辛い時間になりそうだ。。。。ホテルに帰れるのかな。。。
勝手につがれたビールをゴクリと飲む。
苦みが嫌いで普段はほとんど飲まないビール。
しかも冷えてないし。。。
恨み節が長く続くようなら、椅子から立ち上がって自転車で逃げ
ちゃえばいいや。
どうせ追いかけてこないだろう。。。おじいちゃんたちにそんな
体力気力はないだろうから。
と自転車を止めた場所を確認しながら、ポケットに入れた自転車
の鍵に触る。
逃げる準備を整えながら、おじいちゃん達の話を聞くフリをした。
つづく