「ちょっと胸が苦しくて。。。」
母の声に目を覚ます。
時計を見たら午前2時。
「大丈夫? 救急車を呼んだ方がいい?」
そう私が聞くと
「そこまで苦しくないんだよ。ただ不安だから医者に診て欲しい」
我慢強い母が夜中に起き出して医者に行きたいと言う。
「じゃあ車に乗って行こう。それで大丈夫かな?」
「うん。。。悪いね。こんな時間に。。」
それじゃあ近くの病院へ出発!
という訳にはいかない。
特に大きな持病のない母親。
かかりつけの病院があると言っても小さなクリニック。
こんな真夜中には開いていない。
スマホをタップし市内や近くの病院で夜間応対していくれそうな
病院を幾つかピックアップし電話をかける。
「はい〇〇病院です。どうしましたか?」
意外と電話は繋がるものだな。
そう思うと安心した。
母の状況をゆっくりと出来るだけ詳細に伝えようとした。
けど、他人の病状というか状況を電話で伝えるのって思った以上に
難しい。
母は「胸がちょっと苦しい」と繰り返す。
「今日は時々めまいもしたんだよ」と付け加えてくる。
電話の向こう側の医者に母の話すことをそのまま伝えてはいるもの
の、果たして伝えている症状がひとつの病気に繋がるものなのか?
こんな説明で医者が判断する材料になるのか?
そんなことが頭に浮かび始める。
「そうですね~。ちょっと今、ウチでは人員的に余裕がないんです
よ。すみませんが他の病院を当たってみてもらえますか?夜間対
応している病院さんを幾つかお伝えしますので」
その方が市内及び近郊にある病院名数件を教えてくれた。
「ご丁寧にありがとうございます」
そう伝えると
「いいえ。お役に立てず本当に申し訳ありません」
若そうな声の主はそう言って電話を切った。
意外と夜間でも対応してくれる病院がありそうだな。
先ほどの声の主が教えてくれた病院へ間髪入れずに電話をしてみる。
「次は受け入れてくれるだろう」
その目論見は甘かった。。。甘すぎた。。。
次に電話をかけた病院のその次の病院も
「余裕がない」との理由で受け入れをしてもらえない。
再びスマホで病院を検索し、ちょっと離れているけどとても評価の
高い病院を見つけたのでそこへ電話する。
「はい〇〇病院です。どうしましたか?」
母の状況を伝える。
「そうですか~。受け入れたいのは山々なのですが。。。今、医者の
数が。。。」
ここもだ。。。
「お母さま、今はどのような感じですか?」
そう聞かれたので母の方を振り返り
「どう?」と母に確認するように聞くと
「うん。さっきと変わらない感じ」
幸いと言うべきか状況は悪くはなっていなかった。
「もしよろしければの話なのですが、医者を派遣してくれるサービス
を提供している企業もありますので、そちらをご利用されるのも手
だと思いますよ。ただ費用が掛かってしまうのですけど。一応連絡
先をお伝えしましょうか?」
母の状態は悪化していないとは言え、このまま病院への連絡を続けて
いても状況を打破するのは難しいと感じ始めていたので、「お願いし
ます」と伝え、会社名と連絡先を聞いた。
どこかで何度か聞いたことのある企業名だった。
さっそくスマホをタップし電話をかけてみる
「もしもし〇〇ドクターです。どうされましたか?」
専用オペレーターらしき女性の声。
私が答えやすいよう的確な質問をしてくれる。
マニュアルがあるのだろうけどこちらが不安感を覚えないようゆっく
りと落ち着いた声だ。
一通り質問に答えたあとに
「それではこれから近くにいるドクターと連絡を取ります。そのドク
ターから直接ご連絡を差し上げる場合もございます。ご連絡先をお
願い出来ますでしょうか?」
家とスマホ、両方の電話番号を伝えると
「ありがとうございます。ではしばらくお待ちいただけますでしょう
か?」
そう言って電話が切れた。
10分ほど経過したころだった。
スマホに着信が入る。
「はいもしもし」
「〇〇ドクターに登録している〇〇と申します。〇〇さんのお電話で
間違いないでしょうか?」
「はい。そうです。ありがとうございます」
幾つか母の状況に関する質問があったのち
「めまいなのですが、以前から同じ症状がありましたか?」
「いえ。数年に1度くらいはありましたが。。。今日も1度だけのよ
うなのですけど」
「そうですか。。めまいがあるとなると脳に問題がある可能性がござ
います」
脳に問題がある可能性。。。
全く予期していなかった医師の言葉に下腹がヒヤリとした。
「脳。。。ですか?」
「はい。でもあくまでも可能性があるという話でして。。。」
「はい」
「脳を調べるとなるとそれなりの機材が必要になります。派遣の我々
ではその設備を持っているものが。。。申し訳ありません」
「そ、そうですか。。。」
「お母さまのご様子は如何ですか?」
母の顔を見ると少し辛そうだった。
「大丈夫?」
「う~ん、、、ちょっと苦しい。。」
と辛そうな表情。
時計を見ると午前3時を少し回っていた。
母が苦しいと訴えてから1時間も経過してしまっていた。
状況を医師に伝えると
「即救急車を呼んで下さい。その方が良いと思います。申し訳ありま
せん。。。何のお役にも立てず。。。」
私はお礼を伝え電話を切り、119番をタップした。
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私も母も今まで大病を患ったこともなく病院、特に今回のように急患
に近い状況に陥った経験がなかったので、少々甘く考え過ぎていたの
かも知れない。
夜間でも開いている病院があり夜間対応とうたっていても現状ではそ
の場にいる医師の数が足りなかったり、専門技師が不在だったり。
重篤な方や緊急を要する方もいる。
いきなり病院へ連れて行っても果たして診察してくれたのか?
その可能性はとても低かったように思う。
ネットでも繋がる派遣型医療サービスも症状によっては専門機材が必
要な場合があり、100%対応してもらえる訳ではないことも知るこ
とが出来た。
そしてコンタクトや説明に時間を要している間に病状が悪化してしま
う場合もある。
軽い症状でいきなり救急車を呼んでしまうのもどうか?と思ったりも
したけど、状況が良くない方へ進行してしまっていると気付いたら迷
わず救急車を呼んだ方が良い。
そう感じた経験でした。
あくまで私の経験であり、私の経験が100%全てのケースに充ては
まるものではないことはご了承下さい。
丁寧な対応をしてくれた医師、看護師、救急隊員の方々本当にありが
とうございました。
おわり