台湾喜人伝 20話 南国美少女 後日譚 2

社会人1年目。
入社後40日目。

突然命じられた台湾出張。

出張先は台北ではなく、田舎町の竹南という小さな町。
当時はマクドナルドさえない小さな町だった。

言葉も通じないまま悪戦苦闘の連続だった現地工場での仕事。

その工場にバイトとして働きに来ていた当時高校生の女の子。

英語が堪能で、私の通訳を務めてくれ、勤務の後は私に中国
語を教えてくれた。

仲良くなったものの、ある日突然工場に来なくなり。
仕事が終わった私は日本へ帰国。

サヨナラも言えず再会も出来ないまま時は流れ、私の中で
彼女は思い出になっていた

時は流れ世界はネットで繋がった。

コンタクトを取ってみよう。

あるSNSで彼女らしき女性を見つけ、友達申請をしたものの、
申請が受理されることはなく、何の音沙汰もないまま月日は
流れていた。

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ある朝のことだ。

スマホに電源を入れる。
SNSを開く。

国内や海外の友人達がアップした記事を読んだり、届いて
いるメッセージを読み返信したりしながら朝食を摂ってい
た。。。その時だった。

『○○さんがあなたの友達申請を受理しました』との通知が入
ってきた。

申請を受理してくれた人の名前を確認する。

あっ!
思わず声が出てしまった。

あの子だ。
あの子が申請を受理してくれたのだ!

申請をしてから半年近くが経過していたので、私も申請を
したことを忘れていた。

そして彼女のアカウントへ行き、最近の記事を読んでみよ
うかなと思っていると、1通のメールが届いた。

送り主を確認すると彼女からのものだった。

ドキドキした。
嬉しかった。
早速メールを開く。

「お久しぶりです。
 もう、びっくりしましたよ。

 返事が遅れてごめんなさい。
 私、知らない人からの申請は受けないし、DMも開かない
 ことにしてたから。。。。

 さっき溜まったDMを整理しようと思って確認していたら
 日本人からのメールがあって。。。普通だったらその場
 でゴミ箱に入れるんだけど、あれ?っと思ったの。この
 DMは開いた方が良いって(笑)」

 私の名前、覚えていてくれたのですね。
 ありがとうございます。
 本当に嬉しい。

 あれから何年経ったのでしょうかね。

 私はあのあと、台北の大学へ進学。
 卒業後は台北にある会社に就職しました。

 ほどなく今の旦那さんと知り合い、結婚。
 もう知っていると思うけど、今では2児の母をしていま
 す」

綺麗な英文だ。
工場にバイトに来ていたら頃から独学の割に綺麗な発音だ
った彼女。
語学が好きだと話していたっけな。
きっと多くの努力も重ねてきたのだろう。

当時の暑い暑い竹南での日々が蘇ってくる。。。。

続きを読む。

「今、私は日本語の勉強をしているんですよ。
 まだ子供レベルの挨拶と平仮名の読み書きしか出来ない
 から、日本語でメールを送ったりはしないでね(笑)」

当時、私に中国語を教えてくれていた子が日本語を学んで
いるのか~

「私たち家族は日本が大好きで、家族で大阪や九州へ行っ
 たこともあるんですよ。みなさん、親切で食べ物も美味
 しくて。。。とても好きな。。。大好きな国です」

「あなたはあれから何度か台湾へいらしているようですね。
 竹南のサイ社長とも会われていたようですね。
 懐かしい。」

「もし台北へ来る事があったら是非、連絡を下さい。
 私たち家族でご馳走しますよ。」

台湾人の特有の人懐っこさだ。

「これからは時々、DMを送りますね。
 お互いの近況報告をしましょう。
 
 ありがとうございます。
 また会う日まで。」

返事をしてくれた。
覚えていてくれていた。

そしてこれからも連絡を取り合う事が出来る。

飛び上がりそうな気持ちを抑え、仕事に向かった。

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ある日のこと。

彼女からメッセージが入ってきた。

「週末を利用して実家に帰っていました。
 そう、竹南の実家です」

懐かしいなぁ~
台湾の暑い暑い夏を過ごした、あの小さな田舎町、竹南。
小さな路地や店、町外れにある廟が思い出された。

彼女と勉強したあの学校はまだ残っているのかな?
夏休みだったとは言え、勝手に校舎に侵入し、2人で勉強している
ところを見つかったりもしたなぁ。

続きを読む。

「それでね。
 見せたいものがあるの」

1通目のメッセージはそれで終わっていた。

うん?
なんだろう???

画面をスクロールしてみる。

「あっ!」
思わず声を上げてしまった私。

彼女の文章が続く。

「これ。覚えてますか? 
 あの夏、あなたが私に送ってくれた手紙です。
 確か、工場で妹たちに託してくれたんですよね?
 もう忘れてしまったかしら?」

突然姿を現さなくなった彼女が忘れられず、彼女の妹たちに託したあ
の手紙と手紙を入れた封筒が写っている写真。

私の文字。。。雑だなぁ。
今と変わらない(笑)

「この手紙、確かに受け取っていました。
 返事が出来なくてごめんなさい。
 恥ずかしかったし、どうしたら良いのか分らなくて。。。」

初めて受け取った外国人からの手紙。
当時高校生だった彼女には荷が大き過ぎたかも知れない。

「でもね。こうやっていまでも大切に保管してあります。
 嬉しかったの。
 本当にありがとう」

当時の手紙を未だに大切に残しておいてくれていた。

彼女から届いたメッセージを読み、画像を見ながら、暖まってい
く心を感じた。

「ありがとう」から始まる感謝の返事を彼女に送った。

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今でも彼女との連絡は続いている。

昨夏は生まれて初めての海外ひとり旅を経験した彼女。
行き先は仙台だった。

2人の子供も大きくなり、旦那さんからも1人旅の許可が出たそう
だ。

「次ぎは東京へ。。。東京へ行きたいと思っているの」
届いたメールには、そんなことも書き添えてあった。

「こっちも台北へ行く機会があったら連絡するね」

「うん、必ず」

「うん、必ず」

未だにこの約束は果たされていないけど、いつか必ず再会の日は来る。
そう信じている。

現地の友人知人たちとの交流を通し、台湾との縁、絆は続いていく。

台湾。
私にとっての第2の故郷。

台湾喜人伝 19話 南国美少女 後日譚 1

初めての台湾。
会社の仕事で訪れた田舎町にある小さな玩具工場。
そこで出会った南国美少女との思い出。

突然、目の前から消え、2度と現れる事はなかった彼女
のことは、時間が経過するうちに痛みは薄れ、美しい思
い出となって私の心の中に生きていた。

あれから随分時間が経過し、私も仕事でもプライベート
でも様々な経験、体験を積んできた。


世の中にインターネットが登場し、その技術や環境が急
速に広まり、更に変化を遂げていた。

SNS。
登録すれば無料すぐに使う事が出来、友達と繋がる、
ネット上のコミュニティに参加したり、ゲームで遊べる
便利なものが登場した。

知人の間でも広まり、海外の友達から次々と友達申請の
連絡が入ってきていた


そんな環境が普及している中、ある取引先でバイトして
いる仲の良い女性達が学生時代の元彼を検索。思い切っ
て友達申請をしたら連絡が来た話や懐かしさのあまり関
係が修復した話などで盛り上がっていた。

そんな活用方法もあるのだな。

とは言え、会いたい人が特にいる訳でも。。。。いた。

あの子。
南国美少女だ。

幸い台湾では結婚しても女性は姓を変わらない。
検索は可能かも知れない。

時流に乗って、もしかすると彼女もSNSを使っている
可能性がある。

スマホでSNSを開き、彼女の名前を入れて検索。

すぐに名前に適合する人のアカウントが画面に現れた。
ヒットした!

なんとなくではあるが、当時の面影が残っている。
多分、このアカウントは彼女のものだ。


今では結婚し旦那さんと2人の子供と友に台北に住んで
いた。

写真がたくさんアップされていた。


画面を眺めているうちに懐かしい思い出が次々と思い出
されてくる。

彼女のこと。
サイさん一家のこと
小さな工場で出会ったパートのおばさん達。

みんな、元気にしてるかなぁ~



友達申請してみよう。
躊躇なく申請ボタンをタップした。

まだ私の事を覚えておいてくれているだろうか?
驚かせてしまうかな?
怖がられてしまうかな?
すっかり忘れ去られているかも知れない。

当時、私の事が嫌いになって工場に来なくなったのだ
としたら。。。迷惑だったかな。。。
いや、何か事情があった筈だ。。。。


様々な思いが胸に去来した。
でも、もうクリックしてしまった後だ。

申請を受けてくれれば嬉しい。
申請が受けてもらえないならそれまでの話。

SNSにはメッセージ機能もある。
どうせならメッセージを送ってみよう。

「こんにちは。
 SNSであなたの名前を検索しました。
 随分前の事になりますが、私は台湾の竹南にある小さな
 工場でクリスマスツリーを。。。。。」

と初めてにしては長いメッセージを送った。


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1日。
3日。
1週間
1ヶ月。。。。

しかし。。。申請が受理されることはなかった。

忘れられているのか?
警戒されているのか?

私の存在や言動が彼女には不快で、工場に来なくなってしま
ったのか。。。。。?
だとしたら、何をしてしまったのだろうか。。。。?

結婚もしているし、外国人の男からの友達申請なんて受けな
いよな~。

残念だけど仕方がない。

画面に映る彼女と彼女の家族の幸せそうな笑顔。
子供の成長を綴る記事。
作った料理の写真を毎日更新している。
料理が好きなんだなぁ~。

連絡を取りたかったけど仕方がない。
時は流れてしまっている。

でも、元気でいてくれた。

彼女は確実に存在し、そして今も台湾で生きていてくれている。

それが分かっただけで十分だった。

元気に過ごしているのが分っただけで十分じゃないか。
そう思う事にした。
そうするしかなかった。




つづく

台湾喜人伝 18話 麗しの台湾美女 2

台湾のとある街で見かけた美女。

何度かすれ違う間に軽く頭を下げてくれるようになっていた。

ある日、意を決してその女性に話しかける事に成功。

心に火が灯った私は次なる行動に出る為、あの男に相談を持ち
かけることに。

その男とはもちろん。。。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ねぇねぇねぇねぇ!」

私はその男の店に入るなり、1人で騒ぎ立てた。

「お~!何だよ今日はやけにやかましいじゃん」

デビットだ。

この男、とにかく顔が広い。
もしかするとあの女性の事も知っているかも知れない。
そしてこの男なら、必ず私をヘルプしてくれるに違いない。

「デビット。お願いがあるんだよ」

「どっ?どうしたんだよ? 珍しいじゃん」

「うん」

「で?何?」

「う~ん」

「どうしたんだよ?何?出来る事なら何でも手伝うよ」
さすがデビット。
心強い存在だ。

「あのさ、○○通りにある△△という店。。。知ってる?」

「お~知ってるよ。あの店のオーナー、メチャクチャ可愛い
 んだよ」

「やっぱり!やっぱりそう思う?」

「おう。街でも有名な子だからね」

お~、やっぱりそうなのか!
あれだけ可愛いんだから当然だよな~

「最近さ、その子とよく道ですれ違うようになってさ。。」

「うん。それで?」

「さっき、話しかけちゃったよ」

「えっ?いきなり?」

「まぁ、軽く会釈するようにはなっていたんだけどさ。さっ
 き、思い切って話しかけちゃったよ」

「わはははは!そうなんだ!スゲェ~な。さすが日本男児だ!」

「あの子、本当に綺麗だよな」

「うん。台湾美人。日本人はああいう感じ好きだよな。ビビア
 ン・スーだろ?」

「うん。ビビアンを嫌いな日本人はいないはずだ。俺も好きだ」

「はははは!正直だな」

「デビットはあの子の事知ってる?」

「お~、もちろん知ってるよ」

「あの子を食事とかに誘えないかなぁ?」

「相談って。。。。あの子に惚れちゃった?」

「う、うん。だって可愛いんだもん」

「わはははは!」
デビットが大声で笑う。
そして
「食事には誘えると思うよ。でも。。。」

「でも?」

「本当にあの子に惚れちゃった?」

「うん。間違いない」

「そうかぁ~。みんな好きになっちゃうんだよなぁ~」

私の同意しつつもデビットの顔が曇る。。。
なんだなんだ?

「彼女、訳あり? あっ、彼氏がいる?もしかして既婚者?」

「う~ん、言ってもいいのかなぁ。。。」

「なんだよ。話せよ。気になるじゃん!」

「そうだな。話すべきだな」
隣にはリサが話を聞いているが、視線を外している。

やはり彼氏がいるのか?旦那がいるのか?

「あの子には彼氏がいるよ。しかも関係は良好だよ。残念だ
 けど」

「やっぱりそうか~。そりゃそうだよなぁ~」
山の頂上で1人浮かれていた私は一気に谷底へ落とされたよう
な気持ちになってしまった。

馬鹿な男だ。
たった1度話しかけ、たまたま彼女が相手をしてくれただけな
のに。。。いろいろ想像してしまう単純さ。

あんな美人さんのことだ。相当なイケメン君と付き合っている
のだろうな~と勝手な想像が膨らむ。

「彼氏。。。うん、彼氏がいる。彼氏。。。女だけどな」

「えっ~~~~。女?彼氏は女? 彼氏は女って。。?」

「うん。彼女はTだ」

台湾では女性の同性愛者をTと呼ぶ。
語源はTOM BOY から来ていると聞いた事がある。
日本ではあまりピンとこない単語。

ガ~~~~~ン。

頭の中で大きな大きな鐘が鳴り出した、爆音が耳の中で鳴り止
まない。

同性愛者を蔑視はしていない。
全くない。
でも、想像して欲しい。
自分が好きになった相手が。。。。


そう話すとリサが店に置いてあるパソコンを立ち上げ、キー
ボードを素早く叩く。

そしてディスプレイを私に向けた。

当時スタートしたばかりの某SNSサイト。
画面には彼女のページが表示されていた。

リサが見せてくれた画面にはあの子と彼女の「彼氏」が笑顔
で仲良くハグしている写真が写っていた。

現実を。。。。。現実を受け入れなければ。。。いけない。。

「残念だけどさ。これが現実」とデビット。

珍しくリサが口を開いた。
リサによれば、以前は男性と付き合っていたことがあるのだが、
前の彼氏が酷いDV男。
毎晩暴力を振るわれているうちに男性不信に陥ってしまったと
聞いた事があるそうだ。

当たり前だけど台湾にもDV男がいるんだなぁ~。
くっそ~、そいつが暴力なんて振るわなければ。。。
呆然としながら画面を眺め続けた。

喜びもつかの間とは正にこのことだった。

「何人もの男がアタックしたけど、彼女の心を変える事は出来
 なかったんだ」とデビット。

「そっ。。。そうなのかぁ」

まるでシャボン玉のように。。。アッという間に弾けてしまっ
た私の恋心。。。。

そして翌日には私の恋話は街中に広まっていた。

デビットのやつ。。。。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

数年後、デビットから連絡が来た。

「あの子、結婚したよ。相手は男だよ」

「へぇ~。そうなんだ」

男性不信、男性恐怖症からは解放されたんだな。
良かった。

「元気で幸せに暮らしていてくれれば。。。今はそれでいいよ。
 連絡してくれてありがとう」
とデビットに返信したあとしばらくの間、彼女と交わした会話を
思い出した。

彼女と話をしたのはあの1度きり。
ほんの数回のやりとりだけ。

こんな話をしていると、また台湾へ戻りたくなる。

おわり

台湾喜人伝 17話 麗しの台湾美女 1

衝撃が走った。

身体が震えた。

私が最初にその女性を見たとき。
心の底から「美しい」と思った。

麗しき人よ。。。。


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人が横一列で3人並ぶのがやっとの路を通り、いつものように
デビットが待つ店に向かって歩いていた。

私の視線の先に1人の女性が立っていた。

ティースタンドでお茶を買っていた1人の女性。
まるで光の羽を身に纏っているかのような、圧倒的な美しさだ
った。

お茶を受け取った女性が私の方へ歩いてくる。

胸の鼓動が鳴り出した。

ほっそりとした華奢な身体。
長い黒髪。
大きな目。

当時日本でも人気があった台湾出身の芸能人、ビビアン・スー
をもう少し大人にしたような雰囲気だった。

「いかん。。。。視線を外せ。。。」
そう思うえば思うほど、視線が動かなくなる。
多分歩き方も不自然になっていただろう。

「いいや。もう見とれてしまえ!」
どうでも良い覚悟を決めた。

私の視線に気が付いた女性も視線を返してくれた。
そしてすれ違いざまに少し微笑んでくれた。

「お~!可愛いなぁ~~!」

勝手に舞い上がる私。
単純である。

振り返り、彼女の後ろ姿を見送る。
少し歩いた彼女は小さな店に入って行った。。。。
彼女の横顔を隠す長い黒髪が揺れていた。
本当に美しかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


不思議なもので、その日以降、その女性とすれ違う事が多く
なった。

すれ違う時は小さな笑みを浮かべ、ペコリと頭を下げてくれる。
私も笑顔で頭を下げる。

挨拶は交わさず、視線を合わせて頭を下げるだけ。

手にはいつもお茶を持っている。

そのお茶はあの日、私が初めて彼女を見かけた日と同じティー
スタンドで買っていた。
そしてそのティースタンドのオーナーは私の知人だった。

ティースタンドの前まで行くとカウンターに近づく私。

「ねぇねぇねぇ!」
と私はティースタントの若いオーナーになれなれしく声を掛けた。

「なんだよ~。まだ台湾にいるのかよ~。さっさと日本に帰れよ」

笑顔でいつもこんなことを言うオーナーとは結構中が良い。

「今、この今にも潰れそうな店でお茶を買った人なんだけどさ」

「お前!大繁盛してる店に向かって何だよ!(笑)うん?あの子
 のこと?」

「そうそうそうそう!知ってる子?」

「う~ん、毎日この時間に俺の店でお茶を買ってくれるから、顔
 くらいは知ってるよ。あの子も俺に惚れてるんだろうな」

かなりのイケメンで、このオーナー目当てにお茶を買いに来る子
は多いのは事実だ。しかし、今の発言だけは認められない。


「軽い会話を交わす程度で深くは知らないよ。ほら、あそこの小
 さな店。。あの店を経営してる子だよ」

この小さな路には若い子たちが経営する小さな店が多数並んでい
た。
あの女性はそのうちの1軒を経営している女性オーナーだった。

「小さな店だけど固定客が付いてるからね。大儲けまではしてな
 いと思うけど、日々の暮らしには困らない程度に稼いでいるん
 じゃないかな?」

「へ~」
彼女が経営する小さな店を見つめながら、オーナーの話を聞いて
いた私に

「あ~。お前!まさか。惚れたんだろう?止めとけ止めとけ!あ
 んな綺麗な子、俺以外に誰が口説けるんだよ」

そんなことを口にしても嫌みが全くないくらいのイケメンだ。
そこは認めるしかない。

「いや。彼女は日本に来たい筈だ。日本人の俺にも意外とチャン
 スはあるかも知れないぞ!」

それを聞きいていたイケメンオーナーが
「お前、馬鹿だろ!」と笑う。

いつもこんな感じだった。
でも、今日は心の大部分をあの女性の笑顔が占めていて、オーナ
ーとのやり取りも、心、ここにあらず。
そんな感じだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

その後もその女性とは毎日道ですれ違う事が多くなった。

ティースタンドの近くやスーパーマーケットでも会う。

いつも笑顔で頭を下げてくれる。

声を。。。聴いてみたい。
会話を交わしてみたい。

そう思った私はある日、声を掛けてみることにした。

ティースタンド近くの道を歩いていると、いつものようにお茶の
入った紙製カップを持った彼女が歩いてきた。

「どうする。。。どうする。。。明日でもいいかな。。明日の方が
 良いかな。。。?」

すぐに逃げ道を作りたくなる自信のない私だ。

「逃げちゃだめだ。。。逃げちゃだめだ。。。」あるアニメの台詞
が頭を過ぎる。

「え~い!もう話しかけちゃえ!」

瞬間的に決意を固め、声を掛けてみた。

「おはよう!」

いつもは軽く頭を下げるだけで通り過ぎていた私が声を掛けたので、
一瞬彼女が驚いた表情を見せた。

すぐに笑顔になり「おはようございます」と挨拶を返してくれた。

「はぁ~良かった~~~」心が緩む。緊張が取れる。

「いつもあの店でお茶を買ってるの?」

「はい。そうですよ」

「そうなんだ」会話が続かない。。。

「俺、日本人なんだけどさ」
とどうでもよい会話を切り出す。

「はい。知ってますよ」

「えぇ?そうなの?知ってるの?」

「はい。もちろんですよ」

「どうして?」

「どうしてって。。。あなた、この界隈では少し有名ですから」

この見た目と変な発音の中国語を話すからだろうか。。。確かに道
を歩いていると知らない人から日本語で挨拶されたり、話しかけら
れたりすることが多かった。

「そうなんだ!俺、ちょっとした有名人なんだね」

「はい」ニコニコしている。

かっ、可愛いなぁ~~

「私はほら、あそこにある小さなお店を経営してるんです」
彼女が細くて長い指をさした先には彼女が経営する小さな店があっ
た。

「うん。知ってるよ」

「えっ?知ってるんですか?」

「はい、あなたはこの界隈では少し有名人ですから」

と先ほど彼女が発した言葉と同じ台詞を返した。

「ははははは」
「ははははは」

なんか和んでる。
少し距離は縮まったかな?

「楽しい人なのですね。そう噂では聞いてましたけど」

「ははは。みんな、俺の悪口ばかり話してるんでしょ?」

「そんなことないですよ」

「そうかなぁ~~?まぁ、でも君を信じることにしよう」

「はははは」
「はははは」

口元を隠しながら笑う彼女は。。。とても美しかった。

「そろそろ店を開けなくちゃ。。。ごめんなさい。行き
 ますね」

えっ?もう行ってしまうの?と思いながら

「う、うん。ありがとう。ごめんね、急いでたんじゃな
 い?」

「いいえ。大丈夫ですよ」

「良かった。楽しかった。ありがとう」

「私も。ありがとうございます」

手を振り、彼女は小さなお店に向かった。

うん。
話しかけてみて良かった。
しっかし可愛いなぁ~~

短い時間だったけど、少し距離が縮まった。

もっと仲良くなりたい。
はてさて、何か良い方法はないものか?
ヘルプしてくれる人はいないかな。。。?

いた!

あの男だ!


つづく





台湾喜人伝 16話 デビット 6

プノンペンにある衣料品卸市場。

ドーム状の建物の中には小さな衣料品問屋が無数に並ぶ。

そのスペースの一角にコーヒースタンドをオープンさせる
べく動き出したデビットと彼の仲間達。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ここにコーヒー豆を入れたケースを並べよう」

「椅子を数脚置くのはどうかな?」

集まったデビットと彼の仲間たちがその場で店の間取り案
を出し合う。

真剣で熱く、そして楽しげだ。

「ハロー」
一人の中年女性がデビット達に声を掛けた。

「オ~、ハロ~~~!元気だった?」
デビットが振り向き、笑顔で挨拶を返す。

そして「この女性がこのスペースのオーナーさん。こちらは僕
の友達。日本人です」
と軽く紹介してくれた。

「へぇ~!日本人ですか!初めまして。日本人とお話しするの
 は初めてよ」

「ありがとうございます。お会い出来て嬉しいです」

中華系なのだろう。
彼女も中国語を話していた。

彼女の話ではここは半国営のマーケット。
最近、ここを借りていた問屋さんが撤退し、新しい借り主を探
していたところ、デビット達がコンタクトしてきたとのこと。

オーナーを交えてコーヒースタンドの話を進めるデビットたち。
賑やかだ。

と、そこへ制服を着た男たち数人が現れ、女性オーナーに声を
掛ける。

盛り上がっていた会話が一気に冷める。
カンボジアの言葉を多少理解出来るデビットの顔が曇り出す。

何があったのだろう???

言葉は分からないけど、どこか冷たい命令口調の男達。

彼らが立ち去ったあと、「くっそ~!」とデビット。

デビットに近寄って
「どうした。何か問題か?」と聞くと

「うん。あいつらここを管理している役人なんだけど、この
 建物内は物販専用のスペースだから、飲食系の出店は出来 
 ないって言われちゃったよ。良い案なんだけどな~」

悔しそうだった。

スペースの権利を持つ女性が
「ごめんなさい。もっと慎重に調べるべきだったわ」とデビッ
トたちに謝っていた。

「いいよ。大丈夫。この近辺に出店出来るかも知れないし。ま
 た儲け話が思い浮かんだら相談します」

デビットそう返事をして、私たちは市場を後にした。

数分前まで希望に充ち満ちていた彼らから笑顔が消えていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

カンボジア滞在中、プノンペンからシェムリアップへバスで移
動し、アンコールワット観光に出かけたりしているうちに、帰
国日前日になっていた。

デビットに食事に誘われ、プノンペン最後の晩餐に出かけた。

訪れたのは最近オープンしたシンガポール人経営のレストラン
だった。

「デビット、ありがとう。素晴らしい滞在になったよ」

「お礼なんて要らないよ。俺も久々に心の底から楽しめたよ。
 次はいつ来る?」

「ははは、今夜帰るってのももう次の話かよ。まだ分からない
 な。でも、また来るよ」

「おう。いつでも連絡してくれよ。待ってる。」

カンボジアというアウェーの地で人脈を広げつつあるデビット。
台湾に居た頃も豪快だったけど、彼にはこの東南アジアの新興
国での生活の方が合っているようだった。

そこで私は聞いてみた。

「もう台湾へは戻らないの?」

「あぁ。もう台湾には隙間がないよ。窮屈なだけだよ。俺は戻
 らない」

「そうか。ご両親も理解はしてくれてるの?」

「うん。この前の旧正月、両親をこっちへ呼んで俺の仕事を見 
 てもらったんだ。俺、一人っ子だから親の事は心配だけどさ。
 俺の人生だから台湾には戻らないって伝えたんだ」

誰かの為にではなく自分の為に生きる。
自分の人生だから。

「じゃあさ、リサはどうするの?今のまま数ヶ月に1度、台湾
 に帰国した時に会うスタイルでいくの?」

デビットの恋人、リサの事が頭に浮かび、デビットに聞いてみ
た。

「う~ん。。。。。」

あれ?
言葉にしづらそうだな。
どうしたんだろう。

「俺さ、こっちの女性と付き合い始めちゃったんだ」

「えっ。。。。?そうだったんだ」

「しかもさ、もう子供もいるんだよ」

「え~~~~~!?子供がいるの???」

「うん」
下を向くデビット。

「おいおいおい本当かよ」

「そうなんだ」

「その話はリサにはしたんだよな?」

「した。。。。いや、出来なくて黙ってた。しばらくは
 二叉してたんだ」

海外で働く男にはありがちな出来事だ。

「ある日さ。リサをこっちに呼んだんだ」

「ちょ、ちょっと待って。その時はすでに。。。?」

「うん。こっちの女性との付き合い始め、すでに子供も生まれ
 てた」

「それは伝えられなかったの?」

「うん。出来なかった。。。」

デビットは視線を下に向けたままだった。

「出来なかったって。。。」
私は言葉を失った。

「でもさ、女の勘って凄いよ。台湾に帰国したリサからメール
 が来てさ、別れようって言われた。。。多分、察したんだと
 思う」

「その女性に合わせたりはしてないんだろ?」

「うん。話さえもしていないよ。でも、分かったみたいだった」

しばらく沈黙が続いた。。。。

「こっちの女性とは?」

「結婚はしていないし、一緒に生活もしていないよ。でも、子供
 がいるからね。面倒を見なくちゃ」

「プノンペンに住んで人?」

「あぁ。ほら、先日のパーティの日にさ。お菓子を買いに行った
 店、覚えてる?」

「あの小さな駄菓子屋さん?」

「そう。あの店で働いてる子がそうなんだよ」

「えっ?そうだったの?」

「うん。そして手を振っていた子供。あれが俺の坊主だよ」

驚きのあまり返答に窮した。

デビットが続ける。

「俺もそんな気はなかったんだよ。でもさ、こっちの女性って優し
 くてさ。食事を作ってくれたり掃除や洗濯も好きみたいでさ。台
 湾の女性もいいけど、台湾の子は外で仕事するのが好きじゃん。
 あまり家事はしてくれない。台湾にいる時はそれが普通だと思っ
 たんだけどさ。。。こっちの人と接するようになると、あぁ。。
 いいな~って思えてきちゃってさ」

確かに台湾女性は家にいるよりも外で働く事を希望する子が多い。
家にいる時間が少ない分、食事は屋台で買って帰ったりする習慣が
ある。

カンボジアの女性は台湾の女性より家庭的らしい。
デビットはそこに惹かれたようだった。

「じゃあ、リサとは。。。?」

「うん。会ってない。というか。。。会ってくれないよね。何度か
 電話やメールをしたけどさ。。。。あ~、リサ。。。良い女だっ
 たなぁ~。。。」

リサの事が忘れられず、今でも彼女の事を想い続けている様子。

「カンボジアでは今の家庭。台湾に帰国したらリサ。これが理想だ
 ったんだけどさ~。リサの事は今でも好きだよ。。。でもさ、も
 うどうにもならないだろ。。。俺、馬鹿な事しちゃったかな?」

真面目な顔で話すデビット。

「う~ん、でも、あのカンボジア人女性の事は好きなんだろ?」

「うん。好きだよ。でもなぁ~~。。。話しをしていて楽しいのは
 やっぱりリサなんだよ。俺、しくじったかな。。。リサ、もう会
 ってくれないよな~。。。」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

デビットの側にはいつもリサがいた。
私が彼らに出会った時からいつも2人は寄り添っていた。

一緒に笑い
一緒に仕事して
一緒に食事して

いつも2人は一緒だった。
2人の間には誰も入り込む事は出来ない。。。そんな確かな絆が
あったはず。

それが今では。。。。。

私がカンボジアを訪れてから1年半が経過した。

デビットからは時々ラインで連絡が来るけど、リサの話はしなくな
っている。

SNSでつながっているリサとは時々連絡を取り合っているけれど、デ
ビットと別れた事、今はデビットに対してどう思っているのかを聞い
た事はない。

確実なのは2人とも元気でそれぞれの人生を歩み始めているというこ
とだけ。

時々、また3人で会える日が来ないなか?
なんて思ったりするけれど。。。難しいかな。


おわり



台湾喜人伝 15話 デビット 5

カンボジアのプノンペンで再会したデビット。

彼が現地で知り合った仲間を呼び、私の歓迎会を開いてくれた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

台湾、香港、シンガポールに中国。

様々な国に住む中華系の若者なちが集まった。

しかし時間の経過と共に酒が進み、恐怖のゲームが始まった。

ジャンケンのようなゲームで負けた人間はビールを一気飲みしなけ
ればならない。

まぁ、このくらいのゲームは日本人もやるかも知れない。

怖いのは酔いが回ってからだ。

一気飲みしたあと、みんなに持ち上げられ、プールの中に放り込ま
れるのだ。

放り込む方も放り込まれた方も大笑いしているが、1歩間違えたら
大惨事だ。

酒の一気飲みだけでもキツいのに、プールに投げられたらたまった
ものではないな。。。どうにかこの場を去らなければ。。。

辺りを見渡すとプールサイドから離れたところで女性4人と日本語
を話すフランス人が食事をしていた。

「あっちに逃げよう。。。」

気付かれないようにそ~っと場を離れる私。

酔っ払ってゲームに興じている連中は誰1人として気が付いていな
い。

無事に脱出し、女性達が食事しているテーブルへたどり着いた。

「こんばんは。お腹空いちゃった」と話しかけると

「ここ、空いてるから座って」と1人の女性が椅子を指さす。

「ありがとう」と会釈をして席に付く。

「お口に合うか分からないけど食べてみる?」と別の女性が鍋を勧
めてくれた。

見るからに辛そうな赤いスープ。
四川料理のようだった。

「これ、四川料理?」と聞くと
「そうですよ。良く分かりましたね」と鍋を勧めてくれた女性が答
えた。

席に座るよう勧めてくれた人は台湾人で、そのほかは全員中国人だ
った。

最初は遠慮しがちな、差し障りのない会話だったけど、徐々に場が
温まる。

台湾の女性は台湾での仕事に行き詰まりを感じ、思い切ってカンボ
ジアにある台湾企業で働くことにしたそうだ。

中国の女性たちは家族全員でカンボジアでビジネスを立ち上げる為
に来ていた。

四川鍋を勧めてくれた女性が
「ねぇ。聞いてもいい? どうして日本人は中国人の事が嫌いなの?」

「正直、あまり良い印象はないからね。でも、そっちも日本人の事
 は嫌いでしょ?」
と聞きかえした。

「う~ん。私の父母の世代まではそうかも。でも、私たちの世代は全
 く違う印象を持っているわ。もう何度も日本へ行ったけど、サービ
 ス業のレベルは高いし、みなさん、とても親切。とても勉強になっ
 ているのよ」

意外な話だった。

「今、私と同世代の中国人は日本から学べというスタンスで仕事をし
 ている人がとても多いし、これからも増えていくわ」

今まで口を開かなかった女性も
「私なんて去年、日本に5回も行っちゃった(笑)全てが最高よ」

時代が移り代わり、世代交代が進めば、新しい価値観が生まれる。

中国の新世代はとても好意的に私たちを見ているのだな。。。
意外で新鮮な驚きだった。


「お~~~い!飲んでるかい!!!」
ベロベロに酔っ払ったデビットだった。

大声で女性達1人ひとりに声をかけ、場を和ませていく。
さすがデビットだ。

そして私の横に来たデビットが
「今、仲間たちと投資するビジネスの話があるんだけど、明日、そ
 の物件を見に行くんだけど、良かったら一緒に行かない?」

「いいの?部外者の俺が同行しちゃって?」

「ダイジョウブ ダイジョウブ ゼンゼンダイジョウブ」

滅多にない機会だ。
「是非、同行させてよ」

「オウ!オッケーラ」

どうやら完全に酔っている訳ではないようだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

翌朝、デビットと朝食を済ませると
「ちょっと待ってて。今日はuberで移動してみよう」
デビットがスマホを操作。

迎えに来る車から5分後に到着するとの返答があったようだ。

カンボジアでもuberが広まっていた。

新しい仕事として現地でのuberの仕事に就く人が増え、車の需要も右肩
上がりだそうだ。

デビットのオンボロ日本車をアメリカから輸入した業者にも会ったのだ
が、社員が2週間交代でアメリカへ渡り、現地で実物を見て車を購入、
コンテナに積んでカンボジアへの輸出業務をしているとのこと。

需要が増えているので、アメリカでの車の確保が大変になっていると話
していた。

迎えにきた車に乗り込み20分ほど。

大きな衣料品の卸市場へ到着した。

大きなドーム状の建物の中に無数の小さな衣料品卸業者が軒を連ねてい
だ。

「この建物の中にこれだけの業者がいて、たくさんの仕入業者が来るの
 に、コーヒースタンドが一件もないんだよ」とデビット。

小さな5坪くらいのスペースが空いたとの情報があり、そこを改装して
コーヒーを売る店にしようという計画らしい。

「小さな店だから投資額は少額だよ。でも、俺たちはよそ者だし、この
 土地でのビジネスに慣れている訳じゃない。だから、こうした小さな
 ビジネスをたくさん経験して、仲間との協力関係を強化して、徐々に
 大きなビジネスにトライしたいと思ってるんだよ」

そう話すデビットの横で、店のサイズを測る業者が仕事を始めていた。

「彼も台湾人。こっちで頑張ってるんだよ」とデビット。
デザイン事務所と大工を兼業しているそうだ。
無口で黙々と仕事をしている。

もう1人の中華系も到着。
彼も台湾人で日本語を少し話せる。

「デビットが先陣を切って話を進めてくれるんだ。僕の家族は台湾でカ 
 フェを展開しているんだけど、僕は新天地でビジネスにトライしたい
 と思ってね。経営ノウハウやマシンの供給ルートはあるから、プノン
 ペンでコーヒー関連のビジネスを展開してる。始まったばかりだから
 、この先の事は全く分からないけど、カンボジアには台湾にはない成
 長や進歩が感じられる。この国に賭けてみようと思ってるんだ」

そう話す彼の瞳は輝いていた。

すでに市内にある大手銀行数店舗と銀行内にコーヒーマシンを置く契約
を締結させたそうだ。

デビットはもちろん、デビットの仲間たちも活き活きとしている。
身体から生命力が飛び散っている。

現場で話を聞き、意見交換しているデビット。
とても逞しく見えた。


つづく

台湾喜人伝 14話 デビット 4

カンボジア プノンペンで再会したデビット。

現地のでの仕事は安定し、海外に住みたいという夢を実現
させ、表情や動作、話し方から自信が溢れていた。

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デビットが運転する車に乗り込むと

「腹減った~。美味しいレストランがあるから行ってみよう」
とデビットが行きつけのレストランへ案内してくれた。

プノンペン市内の高級住宅街にあるカンボジアとタイ料理の
お店だ。

ちょっと、いや、かなりの高級店。
そんな店構えだ。

外壁はコンクリートの打ちっ放し。
店内内装もシンプルだが、楽器や家具などが飾られいる落ち
着いた店。

料理はタイのガパオライスやガイヤーンなど、私の好きなも
のをオーダーしてくれた。

タイの料理屋に比べるとどの皿も大盛りだった。

食事が済むと再びデビットの車に乗り込む。

「今日は疲れただろ?マッサージを受けに行こう」次は同じ
エリアにあるマッサージ屋へ連れて行ってくれた。

いつも私が利用している屋台のようなマッサージ屋ではなく、
スパのような高級店。
内装がとても素晴らしい。

しかし値段はタイの屋台マッサージ屋と大差なかった。
あんなにゴージャスなのに。。。人件費がタイより更に安い
という事なのだろうか?

プノンペン滞在中は毎晩このお店に通った。

食事もマッサージ屋も全てデビットが支払ってくれた。

1度位、支払いを任せて欲しいんだけどなぁ。。。

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翌日からデビットが仕事の合間と仕事が終わった後、市内観光
に連れ出してくれた。

デビットの管理するマンションの前には小学校と中学校がある。
朝はたくさんの子供達が学校に登校している。

歩いて登校する子もいれば、バイクに乗って。。。あれ???
バイク?
乗ってるのは子供。
中学生くらいの女の子が小学生の男の子を後ろに乗せて、バイ
クを運転している。

「はははは。プノンペンはまだ市内の公共交通網が発達してな 
 いからね。学校付近の子は歩きだけど、学校から離れた場所
 に住んでいる子たちはバイク登校が認められてる。免許?さ
 ぁ?どうなんだろう?
 でも、子供がバイクを運転しているからって警察に逮捕され
 たりはしてないから、多分、国も公認なんじゃないかな?」

とデビットが説明してくれた。
本当かどうかは分からないけど。。。。

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プノンペン市内のカフェ。

バンコクやホーチミン同様。
格好良いカフェが何軒もあるそうだ。

露店にもコーヒースタンドがたくさんあり、味も店によって様々
だそうだ。

本格的なカフェから露店。
本物志向のコーヒーと異常に甘いコーヒーまで。
選択肢も様々だ。

デビットが現地で知り合った台湾人の友達も台湾からエスプレッ
ソマシーンをカンボジアに輸入販売していて、順調に業績を伸ば
しているとのことだ。

デビットがランチの後に必ず連れて行ってくれたカフェは本格的
なコーヒーを楽しめる店で、現地の大学生やハイソな人達でいつ
も満員。
満員だけど、テーブル同士の距離があるので圧迫感は感じなかっ
た。

私が訪れた2018年にはスターバックスが現地に上陸。
すでにタイのカフェチェーンが進出しており、これから激しいカ
フェ戦争が繰り広げられるのであろう。

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夜になるとデビットのバイクの後ろに乗って、プノンペン市内を
2人乗りで疾走した。

市内にはカジノ付きの大型ホテルが何軒もあり、中国系のゲスト
で賑わっていた。

車も増えているとのことだけど、夕涼みがてらバイクで街を徘徊
する人達が多かった。

日本人居住区へも足を伸ばした。

「酒。日本酒飲もうよ」とデビット。

オイオイ、あんたバイクの運転手だろう?

「ダイジョウブダ~。警察に捕まったら賄賂を渡せば問題なし」

やはり東南アジア。
役所や警察には現金が有効なようだ。

と思っていたら、数日後。
デビットが車を運転中に信号無視。
交差点に立っていた警官に車を止められた。

すかさずデビットが現金を渡す。。。。
「金じゃない!免許証を見せろ!」と怒鳴られた。
賄賂は効かなかった。

日本人が多く住むエリアには多くの和食屋、寿司屋、拉麺屋を
見かけた。

私たちはデビットが見つけた1件の日本酒バーへ立ち寄った。

「こんばんは~」
店内へ入ると普通の日本語で出迎えてくれた男性2人。

2人の日本人スタッフさんが仕切る日本酒バーだった。

彼らがオーナーという訳ではなく、日本のIT企業が経営する日本
酒バーだった。

日本での本業もカンボジアでの事業も儲かっているので、現地で
飲食業をスタートさせている。
そのうちの1店舗だとのこと。

日本でも貴重なお酒を飲めるので、現地駐在員や地元のハイソさ
んたちで賑わっていた。

「店を開けて3年目ですけど、日本の方と台湾の方が一緒に来ら
 れたのは初めてです」
と言われた。

「どっちも台湾人だと思ったでしょ?」と聞くと
「いやいや、そんなことないですよ~」と答えたスタッフさんの
顔は引きつっていた。

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ある夜。
デビットが私の為にパーティーを開いてくれることになった。

デビットはウィスキーやワイン、日本酒も買い集める。
「仲間の彼女達も来るんだ。彼女達の為にお菓子も用意しよう」と
いう事で、1軒の駄菓子屋さんに寄った。

女性1人が経営するボロボロの店舗だった。
デビットのマンションからも近く、デビットも良く利用していると
のことだった。

隣国タイのようなコンビニはまだ無く、露店はもちろん、こうした
小規模な雑貨屋がまだ商売をしていける隙間があるようだ。

二言三言、デビットはその女性店主と会話を交わしていると、店の
2階から5~6歳の男の子が大声でデビットと女性に何かを叫んだ。

女性オーナーの子供だろう。

デビットが子供に向かって手を振り、私たちは車に乗り込んだ。

こちらに住んでいる間にカンボジアの言葉を覚え、地元の人達とも
すぐに仲良くなってしまう。

こういう点は天才的だと思う。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

そしてパーティーが始まる。

彼の管理するマンション屋上を貸し切りにして、現地で親しくなっ
た友人達も集まってくれた。

台湾、香港、マレーシア、シンガポール、そして中国。
なぜか日本語を話すフランス人も混じっていた。

誰とでもすぐに仲良くなるデビット。

プノンペン市内にある公園でバスケットを楽しんでいる中華系に
片っ端から話しかけ、チームを作り、週に何度か公園でバスケを
して遊ぶ。

噂を聞きつけた他の中国系も集まり、今では結構な人脈に育てあ
げていた。

新しくプノンペンに店を開く中華系の人がいれば、デビットは仲間
を引き連れて食事に行く。

経営が安定するまで、そして新しく現地に来た中華系の仕事や生活
を少しでも支えられれば。

信用出来る人物だと認められれば、彼らの絆は深まり、投資や出資
など、関係を次の段階へ発展させていくのだそうだ。


国同士は問題を抱えていたり、つばぜり合いを展開していても、
俺たちは同じ言葉を使う同胞だ。

生まれた国を後にして新天地へ乗り込んでいる。
ここで生きていく。
これからも生きていく
助け合うのは当然だろう。

彼らからはそんな連帯感が伝わってきた。



つづく


台湾喜人伝 13話 デビット 3

デビットとリサ。

私のかけがえのない友達だ。

回数は減ってしまったけど、今でも連絡は取り合っている。

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「もう、面白くないんだよ。この街」
デビットはふてくされていた。

黙って聞いているリサ。

2人のビジネスは新竹ではなかなか定着せず、徐々に下降線を辿って
いく。

新竹は海にも近く、サーファーもある程度は存在しているのだが、彼
らは普段着にはあまり気を使わない。

短パンとティーシャツ。
別に有名ブランドである必要はない。
そう考えている人が多かった。

ブランド好きな台湾人の間でもサーフブランドは今ひとつピンと来な
いカテゴリー。
サーフィンがマイナースポーツのひとつでしかない。

どうせブランド品を買うなら誰もが知っている有名ブランドを買う。
そんな意識が一般的だった。



そして。。。。

「もう台北に戻る」
デビットが切り出した。

「店は閉めるの?」

「うん」
「台北で同じような店を?」

「いや。もう店はいいや。就職するよ」
「そうか。。。。」

残念だったけど、店を開けていても訪れるお客は少ない。
サイドビジネスで展開している中古カメラ販売も月に1台か2台を売
る程度になってしまっていた。

「リサはどうするの?」と聞くと
「彼が台北に戻るなら。私も台北に戻る」と笑った。

2人の実家は台北にあり、しばらく実家に世話になりながら、将来の
事を考えていくのだろう。


「結婚はしないの?もう付き合いも長いんだろ?」と今後の事を聞い
てみると

「俺たちはこの関係がベストなんだ。結婚もしないし、子供もいらな
 い。だよな?」
デビットがリサに確認を取るように話を振る。

「うん。結婚は私たちのスタイルじゃない。彼と毎日、自由気ままな
 生活、楽しく生きられればそれで十分」
とリサが答えた。

「そうか」
恋愛と結婚は別もの。
恋愛のゴールが結婚という概念には私も違和感を持っている。

当事者のデビットとリサが選ぶことだ。

自分たちにとって必要なものとそうでないもの。
彼らにはそれが分かっている。

「普通はさ」なんて言葉に振り回されず、自分たちを理解し、居心地
のよい生活を選んで生きている。

周囲がとやかく言う問題ではないのだ。


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数ヶ月後、2人は店を閉め、実家のある台北へ戻った。

デビットは台北市内にオフィスを構える不動産屋へ就職。

「台湾は退屈だ」と常々口にしていたデビットはその不動産会社の支店
があるカンボジアのプノンペンで仕事をすることに。

リサは実家に居候。
どうやら裕福な家の娘さんだったらしく、仕事をする必要はないそうだ。

3ヶ月に1度、デビットは台湾へ帰ってくる。
そしてリサと会い、1週間ほど一緒に過ごす。

私もデビットの帰国に合わせて台湾に飛び、彼らとの旧交を温めたりす
ることもあった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「カンボジアに来ない?」

ある日、デビットから連絡が入った。

「カンボジアかぁ~」
行きたいと思っていたけど、機会のないまま時間だけが経過していた。

プノンペンからアンコールワットのあるシェムリアップへ足を伸ばすのも
悪くないかな?

マイレージも溜まってるし、1週間くらいの予定を立ててみるか。

即決した。

成田からのチケットを買い、デビットが待つカンボジアへひとっ飛び。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


予定より早く空港に到着。
タイのバンコクほど乗降客がいないカンボジアの飛行場。
入国審査もすぐに終わり、待ち合わせ場所である空港入口でデビットを
待つ。

そして。。。。
「お~い!」
デビットだ!

うん?
かなり太っている!

「お~!元気だったかよ」と手を差し出すと
「ダイジョウブダ~」と例の変な日本語で手を握り返してきた。
数年ぶりの再会。

日本や台湾以外の国で会うのは初めてだ。

「太ったな~!」とデビットのお腹を軽く叩くと
「うん。こっちの飯、美味くてさ」と笑う大食いデビット。

「車、向こうに止めてあるからさ。とりあえず泊まる場所へ案内するよ」
「ありがとう」

ホテルはデビットが知り合いの所へ案内してくれるとのことで予約はして
来なかった。

空港の駐車場に止めてある古い日本車を指先したデビット。
「これ、買っちゃったよ」とニコニコしている。

日本大好きな彼はアメリカにルートを持つ現地輸入ディーラーにお願いし
アメリカで古い日本車を見つけてもらい、輸入してもらったのだ。

カンボジアはアメリカと同じ左ハンドル。
アメリカから輸入するのは手続きも簡単だったそうだ。

しっかしボロボロだ。
走るのかな?
エアコンは効くのかな?
途中でエンスト。。。車を押すなんてことは勘弁だ。

ちょっとだけ不安に思ったりもしたけど、意外と車は普通に走ってくれた。
妙な音がしていたけど。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

空港から30ほど走ると住宅街。

古い家と新竹の高層マンションが入り交じる街並み。
背の高い木々。
強い日差し。

タイとはまた違う東南アジア感。
この感じ、好きだなぁ~!


そして大きなマンションに到着。

ここがデビットの管理する物件。

部屋数は300ほどあり、住宅としてはもちろん、出張者向けに短期契約
を結べるようにもなっていた。

1階にはセキュリティと受付。
屋上にはプールとジム、そしてカフェが併設されている。

「こっちでは中流って感じの物件だよ」とデビット。
そして
「部屋、空いてるからさ。ここに泊まれば良いよ」

デビットもこのマンションに住んでいるとのことで、何か問題があればすぐ
にデビットと連絡が付く。

「お~。部屋も綺麗だし。いいね。1泊幾ら?」
「お金なんて要らないよ~。フリー。フリーだよ」

「タダって訳にはいかないだろう。会社の持ち物だろうし」
「実は俺の会社、カンボジアから撤退しちゃってさ」

「えっ?今はどうなってるの?」
「会社にコミッションを払ってはいるけど、この物件は俺が管理しているん 
 だよ。だから、どうにでもなる。友達から宿泊料なんて取れないよ」と笑
うデビット。

相変わらずだな~。

「もう少しで仕事も終わる。最上階のカフェで飯でも食べようぜ」
デビットはそう言うと私の荷物を持って部屋へ案内してくれた。

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案内してもらった部屋は広く、家具は完備され、wifiも飛んでいて快適な
環境だった。

また高層階にある部屋からの展望は朝も夜も美しかった。

「仕事は順調なの?」
デビットの仕事の事を聞いてみた。

「うん。お陰様で300室のうち80%以上がが稼働しててね。カンボジア
 を視察する台湾企業など大口の契約もあるし、収入は安定してる。もう台
 湾へは戻れないよ」

デビットは誇らしげに語った。

会社へのコミッションの支払いはあるものの、月収としては日本円で約30
万円。カンボジアで月収30万円の生活だ。

しかもオフィス、自分の部屋、友人を招くゲストルームは全て無料。

収入が多くコストは少ない。ある意味理想的な生活を送る事が出来ていた。

「ちょっと外を見に行こう。イオンモールもあるし、いろいろ見せたいもの
 もあるからさ」

そうデビットに促され、再びオンボロの輸入日本車に乗り込み、プノンペン
の街へ繰り出した。



つづく

台湾喜人伝 12話 デビット 2

2011年3月11日

私たち日本人にとっては忘れることの出来ない日

東日本大震災が発生した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

震災翌日から台湾、タイ、ベトナムの友人や取引先から私や
私の家族の安否を確認するメールやラインが続々と入り出す。

海外でも大きく報道されていたようだ。

彼らの暖かい気持ちのこもった言葉に励まされた事は今でも
忘れない。

たくさんのメッセージの中にはデビットからのものも含まれ
ていた。

毎日ように「大丈夫か?」とのメッセージが入る。

海外の友達全員が日本の地理に詳しくはないので、私の住ん
でいるエリアがどこで、震災した東北にあるのか離れている
のか?
そんな確認も多かった。

そして。。。。原子力発電所。

海外、特に台湾では原子力発電所の被害とその影響に関して
連日トップで報道されていた。

「日本は放射能汚染が広がる」
「もう日本は終わってしまうのではないか?」

現地のニュースを見ながら、そう思った台湾の友人達も多か
ったようだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

日本での仕事が止まったまま数週間が経ったころ、デビットか
ら電話があった。

「本当に大丈夫なのか?日本の政府は原発の事を管理出来てな
 いって報道されてるけど」

「うん。いろいろと報道されているけど、俺たち日本人にもよ
 く状況は分からないんだよ」と答えると

「仕事は?仕事はどうなの?」心配そうなデビットの声。

「しばらくはこのままだね。被災地でもないから国からの援助
 は期待出来ない。まぁ、貯金がない訳じゃないから、しばら
 くは食っていけるけど。。。」

天災で長期間に渡って仕事が止まるなんて初めての経験だった
し、世の中は自粛ムードが広がり、一体いつから仕事が正常化
するのかなんて全く見えなかった。

「もしさ、もし、日本に住めなくなったらさ、台湾に来いよ」

「えっ?台湾に?」

「俺の家に住めばいいんだよ。リサも心配してるし、俺たちが
 面倒見るよ!」

デビットの力強い声が伝わってきた。

「面倒見るって。。。」言葉が出なかった。

「だって放射の汚染が広がったら、仕事どころじゃないだろ?」
「まぁ、そうだけどさ」

「俺の家に住むのに抵抗あるなら、俺がマンションかアパート
 を借りるからさ」

「いや、そんな。。。悪いよ」

「ダイジョウブダ~」デビットの変な発音の日本語が出て、ちょ
っと笑ってしまった。

「ハハハハ」
「ハハハハ」

「でもこれ、冗談でもなんでもないよ。すまないなんて思わない
 でくれ。困ってるんだったら甘えてくれ。俺たち、友達だろ」

もう涙が出そうだった。

そしてデビットの話は更に続く。

「仕事。台湾に来たら仕事も必要だろ?小さな店で良かったら、
 俺の名義で契約するから、何でも好きなもの並べて商売すれば
 いいよ。台湾人は日本のものが大好きだしさ」

デビットは住む場所の心配どころか、私が台湾へ行った際の仕事
の事まで心配してくれていたのだ。

「飛行機は飛んでるし、放射能も台湾までは来ないだろ。もし時
 間に余裕があるなら、また新竹に遊びに来いよ。そして俺の家
 に泊まって、今後の話をしようぜ」

先行きの見えない状況にイライラしていた私は、デビットが待つ
台湾へ飛んでみることにした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

新竹に到着し、デビットの店に向かう。

良くお邪魔していたデビットの小さなサーフショップへ行くと、
私の姿を確認したリサが椅子から立ち上がり、大きく手を振って
くれた。

満面の笑顔で再会を喜んでくれ「元気だった。も~心配してたよ~」
と軽く肩を叩いた。

「お~!待ってたよ~!」
続いてデビットが店の奥から出てきて私を思いきり抱きしめた。
う~ん、男に抱きしめられるのはなぁ~と思いながらも、私も彼を
抱きしめた。

台湾では日本の状況を事細かに報道されており、デビット達は私と
ほぼ同等の情報を持っていた。

デビットの友達が買ってきてくれたお茶を飲みながら、しばらく話
をしていると、デビットが立ち上がった。

「行こう」
「うん?どこへ?」

「まぁ、いいから。リサも行こう。おい、ちょっと店番頼むよ」
とデビットは彼の友人に店番を頼む。

私とデビット、そしてリサの3人で新竹の道を歩いた。

久々に会う人たちが「お~!大丈夫だったの?良かった!」などと
気さくに声をかけてきてくれた。

笑顔で応対する私の姿を見て、デビットとリサも嬉しそうだった。

しばらく歩くと
「ここ」とデビットが小さな古い雑居ビルの前で足を止めた。

「うん?なに?」と私が聞くと。

「これ、店舗なんだよ。中、見てみる?」
そう言ってデビットはポケットから鍵を取り出してシャッターを持ち
上げた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ガラガラガラガラ。。。

やや重いシャッターを持ち上げると小さな店舗スペースが見えてきた。

外側も古いけど中もクタクタだ。

「オンボロだな~」と私が言うと
「ハハハハハ。仕方ないよ。相当古い物件だからさ。でも改装するよ。
 俺が金出すから心配しなくていいよ」

デビットが私の為に見つけてくれた店舗物件だったのだ。

「改装費。安くないだろ」と私が言うと
「日本の安全が確保されて、お前が帰国したら俺が2店舗目として使
 うからさ。俺に対する投資でもある。だから、心配しなくていいよ」

なんて奴なんだ。。。。

「上も見て見る?」
「上?」

確かに2階、3階もあるようだった。

店の裏側に階段があり、そこから2階へ上がった。

ドアを開けると小さな居住スペース。水道と台所も付いていた。

「もし、俺の家に住むのに抵抗があるようなら、ここに住めば良いよ」

「えっ?」

デビットの家に長期間住む事に遠慮がちな態度を見せていた私の為に
住む場所まで見つけてくれていた。

「契約するとしたらどうすれば良い?」
と私が聞くと

「ここの大家さん、俺の知り合いのおばさんなんだ。それに。。。」
「それに?」

「もう、借りちゃったんだ」
「借りちゃったの?契約しちゃったの???」
驚く私を見て大笑いするデビット。

笑い事じゃないだろう。

「今、商売も少し良い状況でさ。この雑居ビルを丸々契約しちゃった
 んだよ」

「でも、俺、台湾に来るかまだ決めてないぞ」
「ははははは!どっちでもダイジョウブダ~」
また出た、デビットの変な日本語。

「この部屋は誰かに又貸ししても良いし、下の店舗スペースは倉庫と
 して使っても構わないって大家さんからも言われたしさ」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

台湾人は友達と認めた相手とは徹底的に付き合う。
幸せも楽しさも苦しみさえも共有する。

結局、その後、日本での仕事が順調に回復し、デビットのお世話にな
ることはなかった。

彼との友情は震災後を機に更に深まった。

そして今でも連絡を取り合っている。

つづく










台湾喜人伝 11話 デビット 1


「俺たち、どうやって知り合って、なんでこんなに仲良くなった
 だっけ?」」
「う~ん、覚えてないなぁ。。。」

私とデビットはいつもこの会話をして大笑いする。

出会ったのは2008年辺りだったような記憶がある。
でも、共通の知人はいない。

それが毎晩食事を共にし、夜中まで話し込む仲になっていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

デビット

豪放磊落で大食い。
バスケやサーフィン、日本の漫画やアニメも大好き。
友達からのお願いやお誘いはほぼ断らない。

身体が大きく、明るい性格なので、彼の周りにはいつも人がいて、
笑いが絶えなかった。

台北出身だが大学進学を機に新竹に住むようになり、卒業後も新竹
に残っていた。

彼は新竹でサーフブランドの衣料品を売る小さな店を経営していた。

自身もサーファーだ。

売っているのはアメリカの有名サーフブランド品。
なぜ彼が有名ブランド品の取り扱いを出来ているのか不思議だった。

「代理店と契約してるの?」と聞いたことがあった。

「いや。違うよ。俺の友達の親類が中国で大きな工場を経営してて
 さ。アメリカの大手ブランドから受注して商品を生産してるんだ。
 俺はその工場から商品を送ってもらってる。ブランドの連中には
 内緒でね」と笑っていた。

ブランド会社も馬鹿ではない。

工場からの横流しが発覚すると別の工場での生産に切り替える。

しかし切り替えた新規の工場が元の工場の親類だったりする事が多
く、工場からは安定した商品供給という名の横流しが継続するのだ
そうだ。

本物の商品をアウトレット価格で売っていたが、新竹の人達の間で
はサーフブランドは定着しておらず、彼のビジネスは苦戦していた。

「売れないよ。でも、俺はこれが好きだからさ」
いつもそう話していたデビット。

そうは言っても店の家賃や光熱費を支払っていかなければならない。
困った時はどうするのか聞いたところ

「小さな商売だけどさ、時々日本に行くんだ。日本のフリマに行く
 と古い日本製カメラのボディが20個で500円位で売られてて
 さぁ。あんなの直せるからね。台湾には日本製の古いカメラを使
 いたい連中が多い。俺は壊れたカメラを直して、彼らに売ってる
 んだ。1台1万円位売れるんだよ」

20個500円で購入したカメラを1台1万円で売る。
凄い利益率だ。

しかし素人のデビットが修理したカメラってちゃんと作動するのだ
ろうか。。。。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

彼にはリサという彼女がいた。
大学の同級生。
出会ってすぐに意気投合、付き合いが始まり、すぐに同棲生活をスタ
ート。

普段は物静かだがコーヒーと椅子の話をしている時は身振り手振りが
大きくなり、まるで別人になる。

デビットを信頼し、いつも側にいるが、デビットの遊びに関してはつ
べこべ言わない。

デビットが他の女性の話をしている時でも、横でニコニコしながら話
を聞いている。
「どうせ私からは離れない」そんな余裕を感じさせた。

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「次ぎ、台湾に来るときは俺の家に泊まりなよ」
デビットがそう切り出してきた。

しかし彼はリサと同棲中だ。

「いや、いいよ。リサに悪いだろ」
と私が答えると

「そうよ。私たちの家、部屋が空いてるから、そこに着替えとか置いて
 いっちゃってもいいのよ」
とリサが好意的に勧めてくれる。

台湾人と仲良くなると大体家に泊まれと言われるのだが、同棲中のカッ
プルの家に居候するのもなぁ~と考えてしまったけど、彼らのご厚意に
甘えることにした。

「もしよかったら、ホテルをキャンセルして今夜からウチに泊まれば」
「えっ?今夜?」

はっ、早いなぁ~

「大丈夫なの?」
「ダイジョウブ、ダイジョウブ、ゼンゼンダイジョウブダ~」
大学で1年間日本語を専攻したデビットは少しだけ日本語のフレーズを
知っていた。

「じゃあ、ホテルをチェックアウトして今夜からお世話になるよ」
「オッケー。チョットマッテテ」
そう言い残し、デビットはバイクでどこかへ行ってしまった。

デビットが不在の間、リサと話をしているとデビットが戻ってきた。

「はい、これ」
デビットの手の平には鍵があった。

「何これ?」
「ウチの家の合い鍵だよ。俺たちがいない時でも勝手に家に入って構
 わないし、腹が減ってたら冷蔵庫のものを食べちゃって良いからね」

仲が良いとは言え、外国人の私に合い鍵。。。まぁ、それだけ信頼さ
れているということなのかな。

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大食いデビット。
台湾人は男性も女性も比較的よく食べる。

しかしデビットはその枠を越えている。
都市伝説レベルの大食いだ。

普段のお昼はマクドナルドでビッグマック2個とチーズバーガーや
その他のバーガー類、計4つとポテトを食べている。

そんな彼には時々更に大食いになる時がある。

以前、台湾の焼き肉食べ放題へ行ったときのこと。

時間無制限のお店で、3時間も焼き肉を食べ続けていた。

「はぁ~食った、食った!」
彼のお腹はぽっこりと膨らんでいた。

とにかく肉だけを食べていた。
ご飯や野菜は絶対に食べない。

「だって焼き肉を食べに来たんだからさ」
そう言ってデビットは笑っていた。
それはそうだけど。。。


そんな彼が日本に来た際、都内にあるイタリアンレストランへ行き、
90分の食べ放題コースをオーダーしたことがあるそうだ。

一つの皿にパスタを山のように盛り付ける。
その時点でお店側から「本当にそんなに食べる事が出来るのか?」と
聞かれたらしいのだが、いとも簡単に完食し、次の皿、そして完食、
また次の皿。。。

そんなことを繰り返していると、店のオーナーさんが出てきて「ノー
ノー!ストップストップ!」と英語で言われた。

「まだ40分しか経ってないのになぜ?」と聞くと
「こんなに食われたら店はたまったもんじゃない。お金は要らないか
 ら返って下さい。お願いします」と頭を下げられてしまったそうだ。

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こんなデビットとの絆が深まる出来事があった。

まだ記憶には新しい「あの日」の事は絶対に忘れることは出来ない。

つづく