台湾の思い出 聞いてないことばかりだけど 出張という名の一人旅 5

言葉が通じない
仕事の契約書なし
日本人はただ1人

上司はすでに次の訪問先のタイへ向かってしまった。

台北オフィスの人たちも良い人だけど責任を取ってくれそう
にもない。

工場の人達は台湾語で冗談を交わしながら、どんどん仕事を
進めてしまう。

真面目に仕事したら馬鹿を見そうだな~

全身から力が抜けていくのを感じた。

こんなの仕事じゃない。
仕事になる訳ない。
俺の責任でもない。。。。

思考が良くない方へ、良くない方へ引っ張られていく。。。

「ドウゾ」

工場のサイ社長だ。

手にスイカを持ってニコニコしている。

「謝謝」

疲れた。
スイカでも食べて今後の事を考えるか。。。
すぐに帰国して会社へ行き、辞表を叩き付けてやる!

工場の外にある椅子に座りながらスイカを食べる。
蝉の声がけたたましい。
目を開けてはいるけれど、何を見ているわけでもない。

工場の周辺はたんぼだらけ。
ときどき吹いてくる風はややひんやりとして
いて心地良い。

台湾、いいな~
仕事はこんな状況だけど、もう少しここ、この田舎町で
過ごしていたいな~

日差しの厳しい空を見上げながら、そんな事を考えてい
た。。。

しばらくすると。。。
いや待てよ。。。帰国して退社する前に、この仕事だけ
ちゃんとやってみよう。

会社の為とかじゃない。
もう少しここで、この街にいたい。

本社が仕事をしないのだから、俺には関係ない。
俺は俺の好きなこと。
この街にもう少しこの街で過ごしたい。

仕事は最後までやり抜く。
その見返りとして飛行機のチケットと滞在費は会社持ち

それでいいや!

会社からは宿泊費その他に掛かるお金を貰ってきている
んだし、上司からは「その金、全部使って良いよ。台湾
で人脈作るくらいの気持ちでやってくれ」と言われた。

手持ちの金がなくなるまで台湾にいよう!

数分前まで辞表の書き方を考えていたのに、何故かとて
つもないエネルギーが湧いてきた。

気持ちに火がついた私は食べ終わったスイカの皮をバケ
ツの中にたたき込み、再び工場に中へ向かった。

つづく

台湾の思い出 聞いてないよの連続2 出張という名の一人旅

日本語が通じない
英語もダメ。。。

どうしようかなぁ~
明日から商品の生産を始めないといけないのに。。。。
と思いながら、ふと工場のラインを見ると。。。

作り始めている!
ゴーサインを出す前に。。。作り始めている!!!

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生産するのはクリスマスツリー。
納品先は某大手コンビニエンスストア。

台湾に来る前、国内部の課長から呼び出され、
「ウチの会社はコンビニとの取引が全体の60%以上なんだ。
不良品率が高ければ今後の取引に影響が出る。
だから頼んだぞ!」
こう言われた。
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そうだ、マニュアルくらいは作ってあるハズだ。
1度生産を止めてもらい、良品と不良品の違い程度は確認しよう。

と思ったけど。。。どうやって伝えれば良いんだろう。。。

困った顔をしていると工場のサイ社長が何を言っている。

でも、何を言っているのか分からない。。。

サイ社長はしばらく考えたあと、近くにあったペンと紙を取り上げ
て、何かを書き、私に見せてくれた。

打電話台北公司?

なんとなく。。。なんとなくだけど、台北のオフィスに電話するか?
と聞いてくれているようだ。

「yes yes , thank you 」

台北オフィスに連絡して、私の話を通訳してサイ社長に伝えてもらお
う!

事務所に戻り、台北オフィスに電話した。

プー
プー
呼び出し音が数回なったあと、「ウェイ」(もしもし)と聞き覚えのある声。
社長のテイさんだ。
テイさんは日本語も流暢なので話が早いと思い、現場で起きている状況
を伝えた。

「はい、私からサイ社長に伝えてみましょう」

助かった~

ソファに腰を下ろし、訳の分からない中国語のやり取りを聞きながら一
安心。

サイ社長が受話器を渡してくれた。

しかし。。。テイ社長からは伝えられたのは。。。。

「もう生産は始まっているし、細かな事は聞いていない。今更そんな事
を言われても困る。工場には工場の予定があると言ってます。」

エ~~~ッ!

「じゃあ、マニュアル。生産に関するマニュアルがあるか聞いてもらえ
ます?」

「いやぁ、そんなものはないですよ。大体君の上司は台湾に来ても仕事
しないよ。そんな話しなんてしている訳ない。実際、私も聞いてない
ですしね」

結局、契約書や生産マニュアルなど、仕事に必要な書類が存在しない事
を知るだけだった。。。

サイ社長に「電話日本 ok ?」と書いた紙を渡すと「ドウゾ」と言って
くれたので、日本の会社に電話して状況説明をした。

国内部の課長からは「やはりそうかぁ~。いや、昨年もその工場に生産を
依頼したのだが、結構な不良品が出てしまった。だから今年はそうならな
いよう話をしてたんだけどなぁ~」

話をしただけで具体的なアクションは起こしてなかった。。。という事だ
った。。。。

こんなんで仕事になるの。。。?
これって仕事なの。。。。。。?

つづく

台湾の思い出  聞いてないよの連続  出張という名の一人旅 3

「 hello every one ! 」

笑顔を作り、大きな声で挨拶

シ~ン。。。。

あれ?
返事がない。。。
返事がないどころか笑顔すらなく、ただ黙ってこちらを見ているだけ。

しばらく見つめ合ったまま静寂が続く。
そして、何事もなかったかのごとく仕事を再開する現地の人々。。。

「ドウゾ」
工場の社長サイさんが私を誘導し、工場隣にある自宅へ案内してくれた。

大きな広い家。
さぞかし儲かっているのだろう。

大広間に通され、大きなソファーに座るよう促された。

外の暑さとは違い、ひんやりとした室内。

「ドウゾ」
サイさんがテレビをつけてくれた。

「ドウゾ」
次いでお茶を出してくれた。

小さな器で出された中国茶がとても美味しかった。

サイさんがテレビのリモコンでチャンネルを次々と変えていく。

突然、画面からは日本語が聞こえてきた。
サイさんが画面を指さし、笑顔でうなずく。
多分、「このチャンネルでいいですか?」と聞いてくれている。

「 ok ok」
笑顔で答える。

リモコンを手渡してくれ、「好きなチャンネルに変えて良いよ」と言って
くれている(のだと思う)

ソファに横たわりながらお茶を飲み、テレビを見る。
のんびりしててアジア感満載。。。。いやいやいやいや、俺、仕事に来た
んだよ。

サイさんと話がしたい。
工場に英語を話せる人がいるハズだと思い、サイさんに「english english」と
話しかけるが、サイさんは両手を広げるだけ。
うわぁ、englishさえも通じない。

工場の方へ指を指し、仕事場に行きたい意思表示をしてみたら、サイさんが
立ち上がった。

2人で工場へ戻る。

再びスタッフさん達の元へ歩み寄り、「誰か英語が話せる人はいませんか?」
と聞いてみるも、相変わらず笑顔はなく、こちらを見つめるだけ。

出張を命じられた際、専務が「英語は話せますよね?なら大丈夫」なんて会話、あれは一体何だったのだろう。。。

そうだ、台北オフィスのテイ社長が「現場には日本語を話す女性がいますから、
安心して下さいね」と言われたな。

そこで「日本語が話せる人はいますか?」と聞いてみた。

大きな身体のあばさんが小さく手を上げた。
良かった~。
仕事が出来る。

そのあばさんに日本語で話しかける。
あまり上手ではないけど、会話は成立する。

以前、日本人と結婚し日本に住んでいたのだが、その後離婚。
台湾に戻ってきたらしい。

「僕の言う事を翻訳して下さい」
「はい、大丈夫」

まずはサイさんに仕事の状況や今後の予定、問題点があれば話して欲しいと
あばさんに伝えた。。。。だが、おばさんの日本語能力はかなり低下してし
まっており、全然通訳出来ないのだ。

挨拶や天気の話などは問題ないのだが、仕事の事やちょっと難しい話になると全く会話が成立しなくなってしまう。

英語が通じない。
日本語が通じない。

これ、どうやって仕事すれば良いの????

つづく

台湾へ 初めの1歩 出張という名の一人旅 2

台湾の田舎町 竹南

さて、いよいよ工場へ!
と思ったその矢先、

「台北から通う? それともこの町に住む?」と上司

上司曰く、竹南は何もない町。
こんな町にいたら気分転換も出来ない。台北から通った方が良い。

しかし、台北からは電車で1時間半。
台湾に来てまで長距離通勤なんてしたくなかった。
それに竹南という田舎町。
どこか懐かしくて、のんびりとしていて。。。気に入ってしまったのだ。

「この町に住みたいです。ダメですか?」と聞くと

「君がそうしたいならそうしなさい。じゃあホテルを探そうか」

台北オフィス社長のテイさんが工場社長のサイさんに良いホテルがないか
聞いてくれた。

が、田舎過ぎてホテルがない。

ちょっと歩いてみようということになり、散歩がてら町を歩いてみた。

駅前でさえ質素で、周辺に繁華街さえない。

ただ、ホテルとは言えないけど宿泊施設の看板が数軒目に入った。
旅社だ。

オンボロな建物。
昼だというのに怪しい雰囲気が漂っている。
夜はかなり危なそうだ。

「こんなところしかないよ。やはり台北から通った方が。。。」という
上司に
「いや、ここで十分ですよ」と私。

「本当?まぁ、君がそう言うなら。。。ちょっと部屋だけ見てみよう。
判断はそれから私が下します」と上司もなかなか了解してくれない。

旅社のひとつに入り、部屋を見せてもらった。

小さな部屋で冷蔵庫、エアコンにテレビがある。
シャワーとトイレはあるけど、分かれていない。

お~、面白そうだ~
ここ、ここでいい!
もうここに住むことにした!

そう思った瞬間、上司から「ダメ、危ないよ。会社として君をここに住まわす
事は出来ません」

が~ん!
せっかくアジアに来たというのに。。。

台北から通いかよ~と気持ちが萎えそうになった。

そのとき、工場社長のサイさんが何かを思いだしたように話し始めた。

どうやらホテルが1軒あるのを思い出したらしい。
旅社ではなくホテル。
それもとても綺麗なホテル。

綺麗なホテルじゃ面白くないけど、この町に住めるならそれでもいいかな。

上司に「そのホテルを見て、もしダメなら台北から通います。判断をお願い
します」と伝え、そのホテルを見に行くことに。

汚い旅社から数ブロック先にそのホテルはあった。

駅からも近い。

10階建てのビルの9階と10階がホテルになっていた。
8階から下は全てオフィス。

立地も悪くない。
エレベーターでエントランスのある9階へ向かう。

エレベーターのドアが開くと受付の女性が2人立っていた。

宿泊費は1泊5千円ほど。

どうやら日本でいうラブホテルなのだけど、綺麗だし、毎日掃除もしてくれる。

上司からも了解を得られた。

寝床が決まり、いよいよ工場へ!

そのとき上司が「あっ、時間がなくなった。我々は台北に戻らなくてはいけないんだけど、一人で大丈夫だよね?」

「はい。でも、私は工場で何をすれば良いのですか?仕事の内容をまだ聞いてないのですが。。。」

「朝起きたら工場に行き、彼等が作る商品の品質管理。それだけだから出来るよね?」

いやいやいやいや、出来るけど、何をどう管理するのか?現地工場との取り決めなどはないのか?

上司に聞いたところ、
そんなものはない。
昨年もこの工場に発注して問題なかったから仕事は簡単だよ。
そんな答えだった。。。。

これって仕事って言えるの????

上司と台北オフィスの人達は車に乗り込み、台北へ戻ってしまった。

残された私と工場の社長サイさん。

優しい笑顔で車に乗るよううながすサイさん。

「謝謝」と唯一しっている中国語で答え、サイさんの車に乗る。

ホテルからは車で約5分。

田んぼに囲まれた小さな工場に到着。

よっしゃ~、いよいよ仕事だ!

サイさんの案内で工場の扉を開ける。

天井からはプロペラのような送風機がクルクル回り、ラジオからは中国語
(台湾語だった)の放送が流れている。

私とサイさんが到着するのを見て、工場で働く人達がこちらに視線を送って
くる。

彼等と働くことになるのだから、まずは仲良くなろう!

普段より大きな声で「hello every one ! 」と笑顔で手を挙げた。

つづく

台湾へ  初めの1歩  出張という名の一人旅

「来週から台湾へ行ってもらいます」

会社入社後、約1ヶ月後に専務から伝えられた海外出張。

学生時代に海外旅行に目覚め、海外で働ける仕事を探していた。
そんな私にとって入社早々にして巡ってきたチャンス。

「ありがとうございます! 期間はどれくらいですか?」

「仕事が終わるまでです」と専務

仕事が終わるまで。。。ってどれくらいなんだろう?
まぁ、いいか。
海外で仕事が出来る。

「あなたは英語、大丈夫でしたよね?」と専務

「はい。専門的な会話は出来ませんけど」
英語、勉強しておいて良かった。
芸は身を助けるのだ。

台湾の事は地理的な位置や中国と独立問題で揉めている程度の知識しかなかったので、会社近くの本屋で関連本を買い込んだ。

「では桃園飛行場(台湾の国際空港)であなたの上司と待ち合わせて、台北市内のオフィスへ向かって下さい。翌日、上司が仕事場へ案内してくれますので」と専務から事務的に伝えられた。

海外旅行の経験がそこそこあったので、飛行場から台北のオフィスなんて住所さえ教えてくれれば自分で行けるのになぁ~と思ったけど、リムジンを手配してくれたと言うし、経験として乗っておくのも良いだろう。

人事部から渡されたチケットを手に、当時は羽田空港にある中華航空専門のターミナルへ。

新入社員なのに何故かビジネスクラスのチケットだった。
同族経営の会社で経費の使い方でめちゃめちゃだったのだ。

現地時間の昼過ぎに空港へ到着。
入国審査を済ませてゲートを抜けると私の名前が書いてあるボードを持ったおじいさんが立っていた。
おじいさんの元に駆け寄り、名前を告げると「私はテイです。よろしく」と優しい笑顔。

台北オフィスの社長さんだった。

後ろには当時の上司が立っていて、握手で迎えてくれた。
この上司か台湾、香港、タイ、フィリピンを常に飛び回っていたので、日本では会う機会がなく、飛行場で会うのが初対面だった。

大きな黒塗りのリムジンに乗り、台北のオフィスへ直行。

高速を降りて街中を走るとコンクリートむき出しの、やや古ぼけた建物。
漢字だらけの看板。
南国独特の日差し。

異国間満載。
もうそれだけでテンションが上がる。

オフィスに到着。
さて、打ち合わせでも、と思いペンやノートを取り出したその時、
「もう遅いので仕事は明日。さぁ、ご飯を食べに行きましょう」とテイさん。

拍子抜けしたけど、時刻は17時。

オフィス近くにある寿司屋で料理を楽しみ、酒を飲まされ、酔っ払ってタクシーに乗せられホテルへ。。。。

こんなんでいいのかな。。。?
と思いつつ、まぁ、アジアだしねと変に自分を納得させて眠りについた。

翌日、張り切ってオフィスへ。
8時に全員が揃い、台北から約1時間半ほど車で南下。
竹南という田舎町にある工場へ向かう。

そこにある工場で商品品質管理をするのが仕事だと伝えられた。
あれ、台北勤務じゃなかったのね。。まぁ、どこだろうが海外で働ければ良かったので、どこでも問題はなかった。

竹南に到着すると工場ではなくレストランへ。
そこで現地工場の社長さんと待ち合わせしているとのこと。

店に入ると大人しくて優しそうなおじさんがニコニコしながら近寄ってきた。
「○○○○○。。。」と早口で巻くし立て、私の手をギュッと握る。

初めて聞くリアルな中国語だった。
「この方は社長のサイさんです」
台北オフィス勤務のワンさん(女性)が英語で通訳してくれた。

丸くてクルクル回るテーブルに座り、台湾料理を楽しむ。
初めて見る台湾料理が次々と運ばれてくる。
美味しい!
どれも美味しい!

私の上司は中国語が話せたので、現地の方々と談笑。
理解出来ない私はひたすら台湾料理を食べていた。

台湾料理、美味い!
これがその後、私に遅い掛かる悲劇、いや喜劇の始まりでもあった。

美味しい食事が終わり、工場社長のサイさんがお会計を済ませた。

さて、いよいよ工場へ!
一体どんな場所で働くのだろうか?

ワクワクしながら店の外の駐車場へ向かった。

つづく