言葉が通じない
仕事の契約書なし
日本人はただ1人
上司はすでに次の訪問先のタイへ向かってしまった。
台北オフィスの人たちも良い人だけど責任を取ってくれそう
にもない。
工場の人達は台湾語で冗談を交わしながら、どんどん仕事を
進めてしまう。
真面目に仕事したら馬鹿を見そうだな~
全身から力が抜けていくのを感じた。
こんなの仕事じゃない。
仕事になる訳ない。
俺の責任でもない。。。。
思考が良くない方へ、良くない方へ引っ張られていく。。。
「ドウゾ」
工場のサイ社長だ。
手にスイカを持ってニコニコしている。
「謝謝」
疲れた。
スイカでも食べて今後の事を考えるか。。。
すぐに帰国して会社へ行き、辞表を叩き付けてやる!
工場の外にある椅子に座りながらスイカを食べる。
蝉の声がけたたましい。
目を開けてはいるけれど、何を見ているわけでもない。
工場の周辺はたんぼだらけ。
ときどき吹いてくる風はややひんやりとして
いて心地良い。
台湾、いいな~
仕事はこんな状況だけど、もう少しここ、この田舎町で
過ごしていたいな~
日差しの厳しい空を見上げながら、そんな事を考えてい
た。。。
しばらくすると。。。
いや待てよ。。。帰国して退社する前に、この仕事だけ
ちゃんとやってみよう。
会社の為とかじゃない。
もう少しここで、この街にいたい。
本社が仕事をしないのだから、俺には関係ない。
俺は俺の好きなこと。
この街にもう少しこの街で過ごしたい。
仕事は最後までやり抜く。
その見返りとして飛行機のチケットと滞在費は会社持ち
それでいいや!
会社からは宿泊費その他に掛かるお金を貰ってきている
んだし、上司からは「その金、全部使って良いよ。台湾
で人脈作るくらいの気持ちでやってくれ」と言われた。
手持ちの金がなくなるまで台湾にいよう!
数分前まで辞表の書き方を考えていたのに、何故かとて
つもないエネルギーが湧いてきた。
気持ちに火がついた私は食べ終わったスイカの皮をバケ
ツの中にたたき込み、再び工場に中へ向かった。
つづく