台湾のキング

台湾の王

前回詐欺に欺されたアシェンのエピソードに登場したピーナッツ。

彼はアシェンの遠縁にあたる男だ。

高身長で人懐っこい。
でも、ちょっとズルいところもある。
少し憎めない男だ。

彼とは新竹にある小さな商店街で出会った。
小さな衣料品店を経営していた。

当時、私が取引していた日本の取引先の小売店のオーナーにとても
似ていたので親近感があった。



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「俺、台湾人は信用しないんだ。あいつら嘘つきばかりだからよ」

ピーナッツの口癖だった。



彼には夢を語り合い、夢に向けて行動を共にしていた仲間がいた。

小さくても良いから自分たちで店を経営しよう。
努力して儲かったら、もう少し大きな店、また儲かったら次の店を
オープンしよう。

毎晩毎晩、ピーナッツはその友人と夢を語り合っていた。

ようやく自分たちの予算に合う空き店舗が見つかり、内装工事を手
配。2人で初めての仕入にも行ったそうだ。

ようやく自分たちの夢が叶う。

高鳴る胸。
ピーナッツは眠る事が出来ず、友達に電話をして話をしようと枕元
にあった携帯を手に取ったときだった。。。

一緒に店を経営する友人からの着信。
「なんだよ、あいつも俺と同じ。。。眠れないんだな(笑)」
そう思いつつ電話を受けると

「ごめん、俺、やっぱ店、止めとくわ」
と挨拶もなくその友人が切り出した。

「えっ?冗談だろ?こんなときにやめろよ~。びっくりさせるなよ~」
とピーナッツが切り返す。

「いや。冗談でも何でも無い。俺、店なんてやらない」
いつもとは違い冷たい口調だった。

「冗談だろ?なぁ、冗談だよな?」
ピーナッツは何度も聞きかえす。

「いや。やらないったらやらないよ。だからこうして電話してんじゃん」
「やらないって。。。。お前。。。」

「悪いな。だって儲かりそうにないし、親にも止めろって言われちゃっ
 たんだよ。だから止める」
「なんだよそれ!俺たちの夢だったじゃないかよ!毎日毎日語り合った
 俺たちの夢だろ?」

「夢?まぁ、そうだけど。。。夢は夢でしかない。俺、就職することに
 なったんだ。会社ももう決まちゃった」
「決まちゃったって。。。」

「オヤジのコネでさ。明日から出勤なんだ。朝が早いからさ。もう電話
 切るよ」
「おっ!お前!待てよ! あの店、来週にはオープンだし。。。それに
 内装工事の代金や俺が支払って仕入れた商品の代金とか。。。お金の
 問題もあるだろ!」

「悪いな。全部、そっちでやってくれよ」
「なんだよそれ!内装工事の代金、幾らか知ってるはずだろ!俺1人に
 あの金額を負担させるのかよ!」

「だ~って、お前の店だろ?俺、もう関係ないもん」
「ふざけるなよ!ちょっとこれからでも話そうぜ!」

「これから?さっきも言ったように、俺、明日から会社員。オヤジのメ
 ンツもあるから遅刻なんて出来ない。もう寝るからさ」
「お前、自分のことばかり。。。!」

「じゃあな。商売の成功を祈るよ」
そう言って、ピーナッツの友人は電話を切り、その後音信不通になった
そうだ。

人前ではふんぞり返って威勢が良いピーナッツだが小心者。
未経験の店舗経営なんて、自分1人でやっていけるのか。。。
オープンに掛かった諸費用は親に事情を話し、半分ほど負担してもらっ
たそうだ。



スタートする前からピーナッツの心はズタズタだった。

そんな気持ちで店に立っていても仕事がうまくいくはずはない。

売上は伸びる事がなく、家賃を払うのが精一杯。

信じていた共の裏切りと商売の苦戦。

ピーナッツの心の中に大きな黒い影を落としてしまう。
やがてそれは「人間不信」へと発展してしまう。

ピーナッツは同胞である台湾人を信じる事が出来なくなっていた。

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そんなピーナッツとは

「俺は台湾人を信用しない。でも、日本人のお前は信じるよ」

「どうして?」

「お前は日本人だから」

そんな会話になったこともあった。

日本人でも悪い奴はたくさんいるのだけど。。。

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「今夜も店が終わったら飲みに行こうぜ!」

時々食事に誘ってくれるピーナッツ。

「今日はどうだった?売れた?」と聞くと

「ダメだ!ダメ ダメ ダメ!! この街の連中、俺のセンスが分らな
 いんだ。こんな連中相手に商売したくね~よ」

「おいおい、そんな大声で!歩いている人に聞こえてるぞ」
「関係ないね!」

いつもこんなことを言っている。
悪い奴ではない。。。。のだが情緒が安定していない。

そして売上が悪い日や人通りが少ない日は店で酒を飲んでしまう。
顔が赤く、目がトロンとしている店主。
こんな店で商品を買いたいなんて思う人はいないだろうに。。。

落ち込む時は物凄く落ち込んでしまうけど、調子に乗ると手が付けられ
ない。

そこが妙に魅力的でもあった。

英語の先生


ある日、その男はふらりと台湾の田舎町に現れた。

「英語の先生」
私の友人たちはみな、彼のことをそう呼んでいた。

「夏休みの長期休暇を利用して台湾を1周しています」
台北出身の彼はそう話していたそうだ。

長身でイケメン。
清潔感のある服装。

気取ったところは全くなく、誰とでも気さくに話をする。

教師という仕事柄、話し慣れているようで、楽しい話題を次々に
提供し、みんなを楽しませ、笑わせる。

アメリカやヨーロッパに行った話など、友人たちは興味深そう
に聴いていた。

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「英語の先生」は1日中、私の友人の店にいた。
私の友人、アシェンの店。

気さくなアシェン。
言葉使いはやや乱暴だけど誰にでも優しい。

アシェンは旅人である英語の先生が気に入り、まるで幼なじみかの
ように近い距離感で接していた。

「そうだ。お前、英語出来るんだよな?」
アシェンのいとこのピーナッツが私に話しかけてきた。

「あぁ。少しだけどね」
と答えるまもなく

「こいつさ、俺の友達の日本人なんだよ。英語が話せるんだ」
とピーナッツが大声で「英語の先生」に話しかけた。

「英語の先生」は私の方を笑顔を向け、片手をふわると持ち上げて
「 HELLO 」挨拶してくれた。

ちょっと話をしてみようかな?
そう思った私は椅子から立ち上がり、「英語の先生」に近づいた。

「いろいろな国へ旅をしたことがあるようですね。私も旅が好きで
 学生の頃は欧米を回ったりしたんですよ」
そう話しかけてみた。

「うん?へぇ~欧米諸国を旅したんだね。凄いなぁ」
英語の先生はそう答えてくれた。
答えてくれたけど、返事は素っ気なく、会話はそこで途切れてしま
った。

その後も何度か英語で話しかけたりしたけれど、「英語の先生」の
答えはいつも素っ気ないものばかりだった。

私にはあまり関心がない様子だった。
先生とは言え、彼も人間だ。
好き嫌いがあっても仕方ない。

そう思った私は「英語の先生」に話しかけるのを控えた。

「英語の先生」は人気者で、常に誰かから話しかけられたり、話し
かけたり。
彼の周りはいつも笑い声で溢れていた。

アシェンも嬉しかったのか、商売そっちのけで「英語の先生」との
時間を楽しんでいた。

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「おい、みんな。今晩時間あるだろ?英語の先生と一緒に晩飯食いに
 行こうゼ!」

ピーナッツが呼びかけた。

「いいね」
「行こう行こう!」
「あの鍋屋が美味しくて良いんじゃない?」

「お前も来いよ。時間あるだろ?」
ピーナッツが私を誘ってくれた。

「あぁ、いいよ」

英語の先生との微妙な距離感を感じつつも、みんなとの食事は楽しそう。
私も参加することにした。

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仕事が終わり、アシェンの店に集合。
英語の先生は1日中、アシェンの店に居たようだ。

「よし、鍋屋へ行くか!」
ピーナッツがみんなに店の場所を教える。

「乗れよ」
私はピーナッツのバイクの後ろに乗った。

英語の先生はアシェンのバイク。
アシェンはとても嬉しそうな顔をしていた。

合計10台ほどのバイクで鍋屋へ向かう。

排気ガスが気になるけど、暖かい空気をバイクで走る爽快感がそれを
忘れさせてくれた。


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鍋屋に到着。
丸いテーブルに10人ほどが座り。
2~3種の鍋とビールを注文。

到着早々、フルスロットルでビールを飲み始める仲間たち。

ノンストップで食い、飲む。
場の雰囲気も熱を帯びる。

喧嘩しているかのように冗談を言い合う。
ジャンケンで負けた方が一気飲み。
腕相撲。

笑いと大声が絶えない。

子供みたいな連中と過ごす時間は無条件で楽しかった。

数時間が経過したころ
「悪いね。そろそろ店を閉めたいんだけど」と鍋屋の主人。

「もうこんな時間かよ!」
「明日も仕事だしな。そろそろ帰ろう」
「会計会計!」

合計金額を割り勘。
台湾では経済力のある人間がその場の会計を引き受けるのが普通
だけど、みな同世代。
落ち始めていた経済を身に染みて感じている仲間達だ。

財布を取り出し。
お金をテーブルに載せているそのときだった。

「あれ?財布を忘れちゃったよ~」
と英語の先生。

「バッグに入れた筈なんだけどなぁ」
小さなバッグから中身を乗り出し、確認するも財布が出てこない。

「いいよいいよ。ここは俺が出しておくからさ」
アシェンが英語の先生の分のお金もテーブルに出した。

「悪い。今日だけ貸して。明日も店に行くからさ。その時にお金
 は返すよ」

「うん。それで良いよ」

「アシェン、男前!」
「アシェン、良かったな。良い友達が出来て!」

みんな、アシェンを祝福するかのような、ちょっと大袈裟な言葉
を掛ける。
照れながらも嬉しそうな顔をしているアシェン。

「よし、そろそろ解散だ!楽しかったな!明日も頑張ろうゼ!」
ピーナッツがそう呼びかけて、楽しい食事会が終了。
仲間たちはみな、バイクに乗って帰宅の途についた。

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翌日の夕方。
アシェンの店に行ってみた。

みんなが集まっていた。
いつものことだ。
でも、雰囲気が少し違っていた。

「どうしたの?」
「うん?う~ん。。。。英語の先生が現れないんだよ。。。」
とピーナッツ。

「本当?毎日来てたのにね。何かあったのかな?」
と私が聞くと

「俺たちも心配になって彼が宿泊していると言ってたホテルに行
 ったらさ、そんな人は宿泊してないって。。。」

「えっ?どういうこと???」

「多分、あいつ。。。英語の先生じゃない」
ピーナッツがそう言うと
「うん。違うな。もうこの街にはいないよ。きっと」
と別の仲間が続けた。

「じゃあ、アシェンが出した昨日の金は返ってこない?」
「無理だろう」
ピーナッツが悔しそうな顔をしながら、そう答えた。

アシェンは口を真一文字にして下を向いたままだった。
悔しそう。。。というよりは悲しそうな顔をしていた。

ピーナッツが
「今、こいつに聞いたら毎日昼夜の弁当。そしてジュースやお茶
 代もアシェンが出していたんだって」


「アシェン、馬鹿だからお金も貸してたらしいよ。たばこも買っ
 てあげたんだって!」
と別の友達が訴えるように大声を出した

「本当かよ?」
私が聞くとアシェンは小さく無言で頷いた。

「ったくよ~。人の気持ちをなんだと思ってるんだよ!」
ピーナッツが吐き捨てるようにそう叫んだ。

「金を返さないなんて。。。。アシェンの気持ちを考えろ
 っての!」
別の友達がそう続けた。

アシェンは少しサボり癖があるけれど、人には優しい奴だった。
そこをつけ込まれたのかも知れない。

重苦しい雰囲気がアシェンの店に満ちていた。


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数日後の新聞に
「詐欺師逮捕」という記事が新聞に掲載されていた。

顔写真も出ていた。
あの「英語の先生」だった。

台湾全土で詐欺を働いていたらしい。
「私は英語の先生だ」と名乗っては人に近づき、少額のお金を借りては
逃げるを繰り返していたようだ。

少額なので警察に相談する被害者は少なかったらしい。
欺された方は悪くはないのだが、欺されたという事実を受け入れがたい
し、何となく格好悪い。

そんな被害者の心理を分った上での犯罪手口。

これは私の推測だけど、あの「英語の先生」は英語が話せない。
私が英語で話しかけても返す事が出来なかった。
だから私には話しかけてこないし、微妙な距離を空けていたのではないか
と。

ある日突然現れた旅人。
そんな彼を受け入れ、食事やドリンクの世話をしたアシェン。
昼過ぎから夜まで店にいる旅人を帰すこともなく時間を過ごしたアシェン。

アシェンは彼の事を友達だと思い、これからもずっと付き合っていくもの
だと思っていたはずだ。

そんなアシェンの気持ちを足蹴にして、お金を欺し、時間を奪い、気にす
ることもなく街を逃げ出した「英語の先生」

アシェン、悔しかっただろうな。。。

アシェンはしばらくショックを受けていたけれど、すぐに本来の明るさを
取り戻した。

回数は少なくなったけど、今でも連絡を取り合っている。

お店は随分前に閉め、今では建築現場で重機の操縦をして
家族を養っている立派なお父さんになっている。




おわり




チケット

初めての海外旅行 アメリカ

生まれて初めての海外。
そして飛行機に乗るのも初めてだった。

バイトして溜めたお金でチケット買って
初めて訪れる場所で
どんな出会いがあるのか?

飛行場の雰囲気を味わってみたい気持ちが強過ぎ、夜のフライト
なのに昼に成田へ到着してしまったりもした。

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ちょっとテンパリ気味の私を乗せた飛行機は無事離陸。

目的地のニューヨークではなくLAに到着。

NY直行便よりもLA経由のルートの方が数万円安く手配が出来たからだ。

LAで1泊し、翌日NYへ!

とは言え、学生旅行だ。
LAからNYへの直行便は高いので、フェニックス経由でNYへ。

LAのカウンターでチケットを発行してもらう。

日本語ではフェニックスだけど英語ではフィネックスと聞こえた。
「フィネックスかぁ~格好良いな~」

海外に来た!
海外にいる!!

言葉の響きひとつだけでも気持ちが上がる!

搭乗口でチケットを見せて、意気揚々と飛行機へ乗り込む私。

「?」
目の前には小さなプロペラ機。。。。
「小っさいなぁ~」
思わずそう口走ってしまうくらい、小さな小さな飛行機だった。

機内は片側2列の客席。

「アメリカ人は飛行機をバスのように使うんだ」
アメリカ旅行の経験がある知人からはそう聞いていたけど、まさか
サイズまでバスと同じとは驚いた。

座席に座り10分もすると飛行機は滑走路へ。
徐々に加速しスピード上げ、小さなプロペラ機が空へ舞い上がる。

隣の座席に座っていたアメリカ人の女性は飛行機に乗るのが初め
てで、小さな声で「オーマイガ~」を連発。
目が合うと「ごめんね、飛行機って怖いね」と小さく笑った。

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機内では1度飲み物が出ただけ。
数時間で経由地であるフェニックス、いや、フィネックスに着陸。

よほど飛行機が怖かったのだろう、隣の女の子はシートベルトを外せ
なくなってしまい、私が手助けをした。

NY行きの飛行機のフライトまで約40分。
LAから乗ってきたプロペラ機を降り、すぐさまNY行き便へ乗り継ぎだ。

やや早足で空港内を移動する。

NY行きの飛行機へ乗り込むゲートを見つけた。
「あの飛行機かぁ。今度の便は普通の大きさだな」

ポケットに手を入れ、チケットを取り出す。。。あれ?

ポケットに入れたハズのチケットが。。。カバンにしまったんだっけな?
カバンの外側、内側のポケットを確認してもチケットがない。

上着やズボンのポケットに手を突っ込んでみるけど。。。ない。

ない。。。ないない。。。どこを探しても。。。。ない。

目の前が暗くなった。
飛行場の細かい情景など覚えていない。
それくらい必死だった。

「チケット。。。あれ?どうしちゃったんだ?」

焦っている間にもフライトの時間が刻々と迫ってくる。
「やばいな。搭乗口でチケットを落としたと説明すれば何とかなるも
 のなのかな?ダメ元で聞いてみるか」

ヒンヤリとした感覚が身体に広がる。

目的地のNYが。。。とても遠くに感じた。

どうしよう。
どうしよう。
どうすれば良いんだ。

冷静になれ。
冷静になって考えろ。

そう自分に言い聞かせがら、上着やズボン、バッグのポケットに片っ
端から手を突っ込む。

冷静になろうとすればするほど焦り出す私。
何度も何度もポケットの中に手を入れる、ポケットの内側を確認する。

ない。
ない。
チケットが。。。ない。

心が折れかけている時だった。

トントン。
誰かが私の肩を叩いた。

振り返ると小さなおじいちゃんだった。
清掃員なのだろう。
頭には帽子。
制服を着ていて手にはモップとバケツを持っていた。

「これ、あんたのだろ?」
その手にはチケットが。

チケットを手に取り印刷されている内容を確認。
私の名前と行き先が印刷されている。

「はい。私のチケットです!はぁ~、良かったぁ~~~。フライトの
 時間が迫っていて。。。ありがとぐおざいます!本当に助かりまし
 た!」

「ハッハッハッ!良かった良かった。アンタを追いかけてワシも急ぎ
 足で歩いたんじゃが。。。あんた足が速いなぁ。声を掛けてたんじ
 ゃが全然聞こえてないようだったしな」

「すみませんでした。チケットの事で頭が一杯だったので」

「ok ok。さぁ、そろそろ搭乗時間じゃろ。乗り遅れたら大変だ」

「はい。本当にありがとうございました!」

「若いの。気をつけてな。have a nice trip 」

「はい。ありがとうございます。おじいさん、いつまでもお元気で!」

私は何度も頭を下げながら搭乗客が機内に乗り込む列に向かった。
最後にもう1度振り返り、おじいさんに笑顔で手を振った。

おじいちゃんも笑顔で手を振ってくれた。

あのおじいちゃんがいなければどうなっていたのかな?

予約した飛行機に乗れたのか?

チケットを買い直さなければ行けなかったのか?

そうなった場合、学生旅行の私には大きな出費になり、約2ヶ月アメリ
カ旅行に大きな影響が出ていたかも知れない。


今でも飛行機のチケットを見る度に思い出す、ヒヤッとした旅の思い出。
そして優しい笑顔のおじいちゃん。

旅は良い。

おわり


チェンライラーメン

チェンライのラーメン屋台

約2年ほど働いた会社を辞め、いざ独立準備へ!
と、その前にタイへ旅行したくなったので、約4年振りに
タイへ飛んだ。

2回目の訪タイだった。

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バンコク到着の翌日、夜行バスに乗ってチェンマイへ。
数泊した後、更に北にあるチェンライヘ向かった。

小さな町。
目立った観光施設もない街だけど、静かでのんびりしてい
る。
特にやることはなく、朝夕街をぶらぶら。
日中はホテルのロビーにあるソファに寝転び、本を読む毎
日だった。

5日ほどの滞在。
当時はあまりタイ料理が好きではなく、昼はバスターミナ
ル近くにある麺料理の屋台、夜はホテルの前に出ているぶ
っかけご飯を食べていた。

どちたもタイ料理だけど、辛さはなく食べやすかった。

屋台の麺は何種類ある中から好きなものを選ぶ。

ローカル屋台なので日本語はもちろん、英語も通じない。
でも、そこは観光地。
写真と値段が書いてあるメニューを持ってきてくれる。

私は毎回、チャーシューが乗ったたまご麺をオーダーして
いた。

料理担当のおじさんはいつもニコニコ。
接客をしてくれる女の子達が3人ほど働いていて、彼女達
もニコニコしている。
とても雰囲気の良いお店だ。

私にメニューを持ってきてくれる子はいつも同じ女の子だ
った。

浅黒い肌に深い彫りの顔立ち。
髪の毛をポニーテールにして、笑顔で接客。
店内を忙しく走り回っていた。
額に写る汗がキラキラと輝いていた。

出来上がった麺を私のテーブルに運んでくると、何かを話
しかけてくるのだが、タイ語なので全く分らない。

笑顔で応えるしかないので微笑み返す。
その子は何かを話して仕事に戻っていく。

笑顔が素敵な働きもの。
そんな印象の子だった。


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毎日ぶらぶら、ごろごろしている間に
チェンライからチェンマイへ移動する日になった。

午後一番のバスに乗るために、バスターミナルへ。
着替えなどの入った大きめのバッグを担いで歩く。

チェンライ最後の食事は屋台のラーメンが良いな。
そう思った私は昼前にホテルをチェックアウトして、いつ
もの屋台へ向かった。


いつものようにおじさんがニコニコ笑顔で迎えてくれた。
そして。。。。あれ?今日に限ってあの子の姿が見えない。

店内にはニコニコおじさんと、2人の女の子たちの姿だけだった。

休みなのだろう。
毎日仕事じゃ疲れちゃうもんな。
最後だし、会ってサヨナラを伝えたかったけど仕方がない。

別の女の子がメニューを聞きにきてくれた。
いつもの麺料理を指さすと、その子がニコリと微笑んでくれた。

オーダーを受けた際、私の足下にある大きなバッグに気が
ついたようだった。

料理担当のおじさんにオーダーを伝えると、同僚の女の子
の肩を叩き、私を指さして、バッグを担ぐジェスチャーを
した。

話しかけられた女の子も驚いた表情で私の方へ視線を向け
てきた。

私はニコリと笑い、バイバイと手を振った。

数分後、出来上がったラーメンを運んできた女の子が走っ
って店を出ていった。

買い出しにでも行ったのかな?
店にはおじさんと女の子の2人だけになってしまった。
最終日なのにちょっと寂しいな。。。

そう思いながらラーメンをすすっていた、その時だった。

いつもの女の子が走って店にやってきたのだ。

大きなバッグを担ぐ私を見て街を出ることを察知した女の子が
彼女を呼びに行ってくれたらしい。

当時は携帯もなく、屋台なので電話もない。
走って伝えに行くしかなかったのだ。


息を切らしながらも笑顔で、私のテーブル近くまで来てくれた
女の子。

結構な距離を走ってきたのだろうか。
肩で息をしていた。

タイ語で何かを話しかけてきたけれど、さっぱり分らない。
「日本へ帰るのですか?」とでも聞いてきたのかな?

私は両手を広げて「マイカオチャイ」(分らない)と伝えた。

ニコニコするしかない2人。

長いような短いような時間が過ぎ去っていった。

チェンマイへ向かうバスの時間が迫ってきた。
そろそろバスターミナルへ行かなきゃ。

女の子に代金を手渡す。

「バイバイ」と言うと
「see you again. サヨナラ」と女の子が笑顔で小さく手を
振ってくれた。

その後ろでおじさんと他のスタッフさん達が笑顔で頷く。

屋台を出て何度か後ろを振り返ると、その度に女の子たちが
手を振ってくれた。

ターミナルへ向かいながら、タイ語を勉強しておくべきだっ
たかな?と思ったりもしたけれど、言葉が通じてしまったら
私はこの街に居続けてしまうかも知れない。


言葉も通じず、恋にも満たない思いだったけど、今でもたま
に思い出す。

元気にしてるかな?
きっと幸せな家庭を築いていることだろう。

北の街、チェンライでの思い出。


おわり

ムエタイ少年 タイ 

ムエタイ少年

長い付き合いになったタイ王国

最近では回数が減ったけど、多いときには年間で12回。
つまり毎月現地へ飛んでいた時期もある。

そんなタイに初めて訪れたのは大学2年生が終わった3月。

約1ヶ月掛けて、北のチェンライから南のプーケット、ピピ
島を巡る1人旅だった。

このエピソードはそんな1人旅の途中で立ち寄った街での話だ。


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カンチャナブリ。

あまり聞き慣れない街の名前だけど、戦中この街には日本軍が築いた
外国人捕虜収容所があったし、その収容所を舞台にした「戦場にかけ
る橋」という映画もあった。

バンコクから比較的近い土地なので、ツアーに組み込まれている場合
もある。

バンコクに住む人達も「あの街は暑いよ」と口にするくらい、気温が
高い街。


映画「戦場にかける橋」の舞台にもなった橋を見に1泊立ち寄ってみ
た。

実際の橋を見ると映画で見たような大きさはなく迫力に欠けたけど、
南国独特の景色は趣があった。

現地の人達や観光客がその橋を歩いて渡る。
時々蒸気機関車が警笛を鳴らして橋を渡る。

のどかな田舎町。
のんびりとした景色。

私も橋を渡り、写真撮影の為に訪れていた欧米人たちと旅の情報交換
をしながら、タイの田舎町での時間を楽しんだ。

大学を卒業して社会人になったら、こんな時間なんて取れないんだろ
うなぁ。
今のうちに楽しんでおかないと。
そんな事を思ったりもした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

夕方になる前に橋の見学を終えた私はホテルに帰ることにした。

旅行本を片手に地図を見ながらとぼとぼと田舎道を歩いていると、広
い原っぱに出くわした。

そして原っぱの中心にはやぐらが組まれていた。
やぐらの下にはリングが組まれており、数人のファイター達が練習を
していた。

ビシッ!
バシッ!
リングからはサンドバッグを叩く音、蹴る音。

エィッ!
シュツ!

サンドバッグを蹴るタイミングで選手達が発する独特の声も聞こえて
くる。

ムエタイ。

パンチとキックが中心の技術体系。
相手の首を掴んでの膝蹴りや一発で顔を切り裂く肘打ち。

タイの国技だ。

門も囲いもないやぐらの下。
練習は通行人に丸見えだけど、彼らの練習を見学している人はいない。
きっとこの街では当たり前の光景なんだろう。

格闘技好きな私は原っぱの中に入り、リングが組まれたやぐらに近づい
た。

「ハロー」と笑顔で手を上げると、何人かのファイターが笑顔で頷いて
くれた。

ムエタイファイター。
ファイターだけど、彼らはまだ幼い。
多分13~15歳くらいだっただろうか。

タイでは貧困家庭に生まれた子供がムエタイファイターになるケースが
多いと聞いていた。

目の前で練習している少年たちも、きっとそんな家庭に生まれたのだろ
う。

幼いファイターたちの中で、1人だけ技術の高い少年がいた。

キックやパンチ。
時折見せる肘も早くて鋭い。
無駄のない動きは美しい。

思わず彼の動きに見入ってしまった。

時折コーチらしき人が彼の指導をする。
真剣なまなざしでコーチの話を聞き、すぐにサンドバッグを叩き始める。

ひとつの事に集中する目。
当時私は大学生だったけど、大学生活をちんたらを過ごす毎日。
もうあんな目はしていないのだろうなぁ。。。

真剣にサンドバッグと向き合うムエタイ少年を見ながら、
「何とかしないとな」
「取り戻せるかな、あんな気持ち」

ついつい自分と比較してしまったりもした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

カーン!
練習終了を知らせるゴングが鳴った。


リング上に流れていた緊張感が溶け、コーチがにこやかに練習生たちに
声を掛ける。
冗談でも言っているのだろうか。
ケラケラと笑い出す少年たち。

鋭い動きを見せていた少年が私を見つけ笑顔を見せてくれた。
そして「リングに上がって一緒に練習しようよ」
そんなジェスチャーを見せて笑ってくれた。

私が首を横に振り「ノーノー」と言うと少年はケラケラと笑った。

そして少年と彼の友達が近寄ってきた。

「ねぇ、日本人?」
「そうだよ」

ムエタイ少年がややぎこちない英語で話しかけてきた。
少しだけ英語が話せるのだ。

私が日本人だと分ると少年とパートナーが顔を見合わせて笑った。

街で日本人を見かける事はあっても、話をするのは初めてとのことだ。

年齢は13歳。
学校には通わず、このジムでムエタイファイターとしてデビューする
ことを目標に練習している。

毎日の練習は厳しいけど、新しい技術を覚えるのは楽しい。
そしてデビューして有名になって、たくさんのお金を稼いで、家族を
楽にさせたい。
そう話していた。

13歳の少年が家族を楽にさせるために。。。
20歳を過ぎた私は日本でちんたらとした大学生活を送っているとい
うのに。。。偉いなぁ。

そう思いながら、日本にいる父と母の顔を思い浮かべた。

「将来はどんなファイターになりたいの?」
私が質問をすると

「早くバンコクのリングで戦えるファイターになりたい!」
ムエタイの殿堂、ルンピニーとラジャダムナン。
この2つのリングのどちらかでベルトを巻く事が出来れば、お金だけ
ではなく、名誉も手に入れることが出来る。
ムエタイファイターの目標となるリングだ。

少年の目は眩しいばかりに輝いていた。
夢を持っている人だけが放てる光。
褐色の肌からオーラのようなものが放たれていた。


「目標にしているファイターはいるの?」

「うん。ハルク・ホーガンさ!」

えっ???
ハルク。。。。ホーガン????

ホーガンはムエタイファイターじゃなくてプロレスラーじゃん!

大声で笑ってしまった。
真面目に答えた少年も釣られて笑っていた。

ハルク・ホーガンはアメリカのプロレスラー。
世界的な知名度を持ち、プロレスばかりではなく映画にも出演したり。
稼ぐ金額も半端ではなかった。

テレビで悪役レスラーをバッタバッタとなぎ倒すホーガンに憧れる。
違和感を感じたけど、まだ13歳の少年だ。
格好良いヒーローへの憧れが強いのだろう。

少年らしい姿に少しホッとした。

「じゃあ、そろそろホテルに戻るね。楽しかったよ。ありがとう」
「アリガト」
少年が日本語で応えてくれ、その他の少年たちと一緒にが笑顔で手を
振り見送ってくれた。

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良い出会いだったな。

観光地巡りもしたいけど、現地の人達と話がしたい。
ツアーではなく、街に住む人達と自然に出会い、触れあってみたい。

それが私の旅の目標でもあった。

原っぱを抜け出してしばらく歩いていると、ピッピッ!とバイクの警笛。
振り返るとバイクに乗ったムエタイ少年だった。

「ホテルどこ?」
「うん、このホテルなんだけどね。ここから歩いて10分くらいかな」

「良かったらバイクで送るよ。後ろに乗って」
「いいの?」
「うん。家の方角と一緒だし」

なぜか13歳がバイクに乗っていたのだけど、そのときは深く考えずに
彼の好意を受け入れ、バイクに乗せてもらった。

少年が運転するバイクに2人乗り。
しかも2人ともヘルメットなし。

風は生ぬるかったけど開放感があって楽しかった。
アジアだな!

カンチャナブリの風景を楽しんだ。

その時だった。
私たちの後ろから
ウ~ッ!という警告音

振り返ると白バイだった。

私たちが乗るバイクを楽々と追い越したところでスピードを緩めた白バイが
バイク停車するようジェスチャーで命令してきた。

バイクを止めると警官が近寄ってきて、少年に何かを話しかけている。

二人乗りしてたし、ヘルメットも被ってない。
ヘルメットは仕方ないにしても、少年は私を送る為に2人乗りをしてしまっ
たのだ。
私から警察官に事情を説明しなければ、ムエタイ少年に申し訳ない。

警察官に近づき、

「すみません、私は日本人なのですが。。。」と話し始めると警官が手で
話を遮った。

少年はかなり怒られていた。
何度も何度も頭を下げていた。

悪いことしちゃったなぁ~~。

罰金を取られるような事になったら、私が負担してあげよう。
そんな事も考えていたけど、警官は注意をしただけで立ち去ってしまった。

去って行く白バイを見ながら、少年は下を出して笑顔を見せてくれた。

「大丈夫だったの?」
「うん。良くあることさ。単なる嫌がらせ。さっ、ホテルへ急ごう」

警官の注意を受けた後にもかかわらず、私と少年はノーヘルで二人乗りの
ままホテルに到着。

「ありがとう」
「you are welcome。またタイに来る事があったら練習を見に来てね」
「うん。必ず」
そう答えながら、この先、タイへ来ることなんてあるのかな?と思った。

「バイバイ」
ムエタイ少年が笑顔のままバイクに乗って立ち去って行った。

少年の姿が見えなくなるまで、彼の後ろ姿を見送った。

あの少年。
ムエタイファイターとしてデビューしたのかな?

ファイターとして成功することが出来ていなくても、
幸せな暮らしを手に入れる事が出来ていると良いな。

カンチャナブリのムエタイ少年。

おわり





ニューオリンズ 僕の荷物はどこですか?

アメリカ南部の街
ニューオリンズ

ジャズの街としても有名で、観光エリアへ行くと
ストリートミュージシャンがあちらこちらで演奏を披露
していた。

好きな事をして生きている人たち。
足を止めて彼らの演奏を楽しむ観光客たち。
集う人々は皆笑顔。
歓声を上げたり、演奏に合わせて踊り出したり。

音楽と街。
そして人生を楽しんでいる。
底抜けに明るい街だ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

1日中、街を歩き。
夕飯を終えてバスターミナルへ戻る。

再び夜行バスに乗り、次の街へ向かう為だ。

ターミナル内にある案内所でバスの出発時間を確認。
一息付いているときだった。

「あのう~、すっ、すみません。日本人ですよね?」
と日本語で声を掛けられた。

振り返ると気の弱そうなメガネの男性が立っていた。
日本人だ。

「はい。そうですよ」
そう返事をすると、

「ちょっと良いですか?」

「は、はい。大丈夫ですよ。座って話しましょうか」

「あ、ありがとうございます」
おどおどとした表情で彼はベンチに腰を下ろす。

超弱気な感じ。
緊張しているのか、ベンチに浅く腰掛けていた。

何かトラブルにでも遭ったのかな?

「あのう。。。僕の。。。僕の荷物がないんです」

置き引きにでも遭ったのかな?

「荷物がないって。。。盗まれたの?」

「いえ。今朝、この街に到着してバスを降りた時、バス会社
 の人が近寄ってきたんです。。。。」

彼が言うには、そのバス会社の人は
「ようこそニューオリンズへ!」
と笑顔で話しかけてきたそうだ。

バス会社の人と名乗る男はは街の観光名所やお薦めのレスト
ランやバーの店名や場所を丁寧に話してくれたそうだ。

親しみのある笑顔と優しい物腰。
質の良いサービス。
日本人の彼は説明を聞いている間にバス会社の人への信用を
深めていった。

「この街には何日間の滞在予定ですか?」
と聞かれた彼は

「今日の夜には街を出ます。夜のバスで」
そう答えたそうだ。

「そうですか。1日だけとはちょっと残念ですが、1日だけで
 もこの町を心ゆくまでお楽しみ下さい。
 あっ、大きなお荷物があるのですね。お荷物を持ったままで
 の観光は大変でしょう。ターミナル内ではお荷物を預かるサ
 ーブスがございまして、私はその担当なんです。もし宜しけ
 れば、私がお預かりしますよ。こちらにチケットがあります。
 街を出る際、このチケットをカウンターへお持ち下さい」

と言って、その男性からチケットを受け取り、大きなバッグを
バス会社の人に預けた。
そしてニューオリンズへ出た。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

観光を終えてターミナルへ戻ってきた彼はサービスカウンター
へ行き、チケットを出した。。。。

「すみません。僕の荷物をお願いします」

しかし。。。

「何これ?」
サービスカウンターの担当からはつれない返事。

「こっ、これは僕の荷物を預かってくれたバス会社の人から貰
 ったチケットです。あなたの会社が荷物を預かってくれるっ
 て。。。」

「ウチはそんなサービスしてないよ。ほら、あそこに見えるコ
 インロッカー。荷物を預けるのはあそこだけだよ」

「えっ?じゃ、じゃあ、僕の荷物は。。。?」

「そんなこと、僕が知る訳ないじゃん。あんた、欺されたんだ
 よ。ったく、日本人はよく欺されるんだよなぁ~。それを俺
 たちに言われてもさ~」

「じゃあ、僕は。。。僕はどうすれば良いですか?」

「知らね~よ。警察にでも相談したら。ったく、こっちは忙し
 いの!」

対応してくれないばかりか話も聞いて貰えず。
警察への連絡もしてくれなかったそうだ。


彼がターミナルに到着した際、たまたま私を見かけたのを覚え
ていたので、、もしかすると同じような被害に合ってないか?
同じ男から声を掛けられなかったか?
そう思い、声を掛けてきたそうだ。

藁にもすがる思いだったのだろう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


荷物は出てこないだろう。
とは思ったけど、バス会社の人に話をしてみよう。

そう思った私は近くを歩いていたバスターミナルの警備員に話
しかけてみた。

「すみません」

黒人の警備員は笑顔で「何かご用でしょうか?」
とても丁寧は応対をしてくれた。

「実は。。。。」

一通りの説明を終えると
「恥ずかしいことにこの街で多発している事件なんですよ。
 我々も注意を呼びかけているのですが、被害は後を絶ちませ
 ん」

警備員は対応も良く、熱心に話を聞いてくれた。

「残念ですが荷物は出てこないでしょう。でも、警察に被害届
 を出しますか?」

「はっ、はい。荷物は。。。出てこないのでしょうけど。。。」

と気弱な青年。

そして私の方を向き
「大切なお時間を。。。ありがとうございました」
と言って深々と頭を下げてくれた。

「警察まで付き合おうか?」と言ったが
「いえ、僕のミスであなたの時間を奪う訳にはいきません。多少
 英語も出来るし大丈夫です。今夜のバスに乗るんですよね?」

「うん。本当に大丈夫?」

「はい」
少しだけ笑顔になった青年は
「お気を付けて。ありがとうございました」と私にお礼の言葉を
伝えてくれた。

「いいえ。お役に立てず申し訳ない」

「そんなことないですよ。久々に日本人と話せて良かったです。
 ありがとうございました」

そこで彼とは別れた。

幸い財布や飛行機のチケット、そしてパスポートは身に付けて
いたので、旅を続けること、そして日本へ帰ることは出来ると
話していた。

冷静に考えるとあり得ない話だ。でも英語で話しかけられて気
が動転したり、完全に理解しないまま相手のペースに乗ってしま
うと隙を突かれる事がある。

旅は楽しい。
でも、自分の身は自分で守るしかない。
リスクもあることを忘れてはいけない。
それが1人旅。


おわり



ヒューストン ドーナッツ

早朝、グレイハウンドのバスが街のターミナルへ到着した。

朝から夜まで街の観光を楽しみ、夕食を終えると
深夜バスに乗り込み、次の街へ移動する。

寝るのは移動中のバスの中。
そんな毎日を繰り返しながらニューヨークからLAへ向かっていた途中で
立ち寄った街
ヒューストンでの出来事だ。

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日曜日。

早朝ということもあり、街には人影も少なかった。

片手に持ったガイドブックを開く。
少し歩くと大きな公園があるようだった。

街の観光よりもゆっくり休みたい。

公園ならベンチがあるだろうし、芝生や広場があるはず。
どこか広い場所でで寝そべりたい。

そんな気持ちだった。

柔らかな3月の日差しが暖かく、絶好の昼寝日和だった。

テクテクと歩いて地図に載っている公園を目指して歩いた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

歩くこと約20分。
公園に到着。

緑が広がる綺麗な公園だった。

青い空。
太陽から降り注ぐ光と暖かさが
疲れた身体を優しく癒やしてくれた。

移動を繰り返す長旅で身体が疲れていたのだろう。
猛烈に眠かった。

朝だけど昼寝しよう。
財布やパスポートは盗まれないようズボンのポケットに入れて、空いて
いるベンチに横になる。

青空がまぶしかったので目を瞑る。
暖かい日差しが降り注ぎ、少しずつ身体から力が抜けていく。

うとうととしかけたそのときだった。

「こんにちは。お元気ですか?」
声を掛けられた。

目を開けると見知らぬ白人青年2人が立っていた。

「元気だよ。ありがとう」
と答え、ベンチに座り直した。

「日本人ですか?英語、話せるのですね?」
「あぁ、少しだけですけど。簡単な日常会話なら大丈夫ですよ」

地元の学生で日本やアジアの事でも勉強しているのかな?
そう思った。

「もし良かったら、ドーナッツ食べませんか?」
とドーナッツを勧めてくれた。

「えっ?いいの?」
お腹が空いていたので1個貰おうかな。。。と思ったけど。。。

いや、待てよ。。。食べた瞬間に「ハイ、100ドルです」なんて
詐欺みたいなことしてこないよな。。。。

不安が頭をよぎる。

まぁ、そうなったら走って逃げちゃえば良いかな?
でも、こいつらも足が速そうだなけど。

そのときはインチキだけど空手の型でも見せて威嚇するのも面白
いかも。

見た目は好青年で詐欺師独特の雰囲気は漂っていなかった。

「まぁ、大丈夫だろう。。。」
楽天的に考え、彼らの好意を受けることにした。
お腹も空いていたけど、あまりお金を使えないという懐事情もあった
のだ。

「ありがとう。少しお腹が空いてたんだ。1ついただきます」
「良かったら2~3個食べても大丈夫ですよ」

「1個で大丈夫。ありがとう」
そう言って、彼らからドーナッツを1個受け取った。

甘い甘いアメリカのドーナッツ。
1個で十分だ。

さて、彼らの反応は。。。
「ハイ、100ドルです」って言ってくるのかな?

ドーナツを一口食べ、彼らに視線を送る。。。

「じゃあ、僕たちはこれで! HAVE A NICE DAY 」

青年2人は笑顔で立ち去っていった。

なっ、なんて優しいんだ!
とてもフレンドリーだな~
背中に羽でも生えてるんじゃないのか?

ドーナッツをくれた2人の青年の後ろ姿を見送り感動に浸って
いた。。。。のだが。

次ぎに彼らが向かったのは同じ公園の敷地内にいた浮浪者。
そして同じくドーナッツを勧めていた。
それが終わると次の浮浪者へ。。。。

あれっ?
俺、浮浪者に間違われたんだ。。。。(笑)



おわり


NY滞在の思い出 チャイナタウンでスキンヘッド

チャイナタウンで坊主になる。

初めての海外旅行。
訪れたのはビッグアップル、ニューヨーク。

旅行と言うかショートステイ。
現地でアパートを借りて約1ヶ月ほど滞在した。

自由の女神や美術館への観光もしたけれど、普通の生活も
体験してみたかった。

現地に住み、仕事をしている人達と話をしてみたかった。

そんな動機でアメリカを訪れた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ニューヨーク滞在中。
日本ではやらないことにもトライしてみよう。

何でも良かった。
日本にいたら出来ないこと。


「まずは髪でも切りに行くか!」
当時は私にもまだ髪の毛があった。
(誰も聞いてないよ)

五番街近辺にあるオシャレなバーバーで。。。とも思ったけど
値段が高い。

学生旅行。
長期滞在する為にあまりお金は使えない。
なんとかならないかなぁ。。。

しばらく考えていた。。。。
「そうだ!チャイナタウン!」

到着して早々訪れたチャイナタウン。
ご飯を食べたけど、安価に済ませる事が出来たことを思い出した。

全体的に物価が安いのではないだろうか?

よし、チャイナタウンへ行ってみよう!

地下鉄に乗って数駅。
チャイナタウン近くの駅で下車して街をウロウロ。

予想に反し、歩いても歩いても床屋がなかなか見つからない。

裏路地に入ると日本の床屋さんの店頭に置いてある赤青白がクル
クル回るサインポールを発見。

「あった!床屋だ!」

ポールに近づくと雑居ビルの地下へ通じる階段があったので、そこ
を下ってみた。

鉄の扉が閉まっていた。
「あれ、営業してないのかな?」

そう思ったけど、せっかく見つけた床屋だ。
このまま引き返すのも勿体ない。

ドンドンドン!
と鉄の扉を叩く。。。中からは返事もなく、誰も出てこない。

よし、もう1度!
ドンドンドン!
カチャ。。。オッ!鍵を空ける音だ!

ギ~~~。
重そうな鉄の扉が開く。

「ハロー」
ちょっと場違いな笑顔で開いた扉の中をうかがうと、そこには
眠そうな顔をした女性が立っていた。

う~ん、どうみても営業中じゃないな。。。でも、ダメもとで
「髪、髪をカットして欲しいんだけど」

女性は目をこすりながら手を横に振る。
言葉が通じないのか?
今日は休みという意味なのか?

通じていないのなら。。と思い指をチョキの形にして、はさみ
のように動かしてみた。

相変わらずの無表情のまま、女性は手を横に振り、大きな鉄の扉
を閉めてしまった。

なんだあれ?

理由は分らないけど、髪を切る目的は果たせなかった。

もう少し歩いてみるか。
そう思い直してチャイナタウンをトボトボ歩く。

映画館ではジャッキー・チェンのポリスストーリーが上映されて
いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


しばらく歩いていると小さな床屋さんらしき店を発見。
中を見ると椅子に座ったお客さんをカットする人が仕事をしていた。

お~!
ようやく見つけたぞ!

少しドアを開けて

「お店、やってる?」と聞くと
「うん?ちょっと待ってて」と店の入口で少しの間待たされた。
おじさんは店の奥に入ってしまった。

しばらくすると、カットを担当していたおじおさんとメガネをかけた
30代の若いおじさんが出てきた。

「やぁ、何か用かい?」流暢な英語で話しかけてきた。
「はい。髪を切りたいんです」

「そうかい。君は。。。?」
「はい。日本人です」

「日本人の客なんて初めてだよ。珍しいね。さぁ、どうぞ」
メガネのおじさんは暖かく迎え入れてくれた。

どうやらカットをしていたおじさんは英語が出来なかったようだ。

椅子に座ると英語をメガネの話せるおじさんが
「さて、どんな髪型が良いのかな?五番街で流行っているような
 カットは出来ないからね」と笑顔で話しかけてきた。

髪型。。。どうしよう。
決めてないや。

せっかくかだら面白いことしてみよう。。。
30秒ほど考えてから
「頭の毛を短く。切るとと言うか。。。剃って欲しい」

スキンヘッドだ!
それしかないだろう!
なぜニューヨークでスキンヘッドだったのか?
それは私にも分らない。

「えっ?そっ、剃るの?本当に?」

メガネのおじさんが驚いていると、隣に座っているお客さんと彼を
カットしているおじさんが何やら中国語で騒ぎ出した。

「その子は何て言ってるんだ?」
多分、そんなやり取りをしていたのだと思う。

「ねっ君。英語は大丈夫なんだよね?今、剃るって言ったよね?」
メガネのおじさんが念を押すように聞いてきたので

「うん。剃る。スキンヘッドだよ」と答える。

「ちょっ、ちょっと待っててね」
そう言ってメガネのおじさんが店の奥にある扉を開けて出ていった。

しばらくして戻ってくると、おじさんの手にはホワイトボード。

「君、これで良いの?」
と私にホワイトボードを見せてくれた。

ボードには
「坊主」と書かれていた。

「イエス、イエス!これこれ!!」
と言いながら私は自分の頭に手を乗せてクルクルと動かす。

「変わった子だねぇ」
そう言ってメガネのおじさんがバリカンを手に持ち、髪の毛を短く
刈ってくれた。

その後、頭の表面にクリームを塗りたくり、カミソリで仕上げの作業
をしてくれた。

途中ちくちくしたのは、頭の皮膚がカミソリで切られたからだった。

ヘンテコリンな白い薬を出血箇所に塗ってくれて出来上がり。

わはははは!
スキンヘッドだ!

代金は5ドルほどだった。
安い!

「またおいで!」
メガネのおじさんが笑顔で送り出してくれた。

「サンキュー!謝謝!再見!」
私も笑顔で手を振った。

それにしても寒い。
外気をそのまま頭の皮膚で感じるのは初めて。
自分の手や指で逃避に触れるとヒヤッ!とした。

こんな感覚は初めてだ。

寒さで頭がやられるな。

アパートに帰る途中、雑貨屋でバンダナを1枚買って頭に巻いた。
少しだけ寒さを防ぐ事が出来た。

ここはニューヨーク。
ニューヨークの2月はとても寒かった。

あの床屋。
まだあるのかな?

もう1度行こうとしたけど、すっかり場所を忘れてしまい辿り着け
なかったっけなぁ~。

スキンヘッドをリクエストした変な日本人のこと。
覚えていてくれたらいいな。

おわり

深く残る言葉 アメリカで出会った素敵な2人



「君、日本人?ちょっと良いかな? もしよかったら少し話さないか?」

そう話しかけられたのがキッカケで、今も心に残る言葉と出会うことになった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ニューヨークからLAへ。
長距離バスを利用しての移動の途中に立ち寄った街。

それがどこの街だったのかはもう覚えていない。

朝、その街のバスターミナルへ到着し、バッグをロッカーに預けて街を
散策。

季節は初春。。。3月だっただろうか。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

街を散策しているうちに大きな公園にたどり着いた。

ベンチもあったけど、芝生の上で裸足になりたい。

春の暖かさを感じたい。

そう思い、公園内の芝生に座り、泥だらけのスニーカーを脱ぎ、ソックスを
放り投げた。

お金がなかった私は夜、長距離バスを利用し、バスの中で寝る毎日だったの
で、広場を見つけると身体を伸ばしたくなる。

天気も良かった。

昼寝をするでもなく、公園内をぼんやりと眺めていたとき、白人カップル
が近寄ってきて話しかけてきた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

アメリカ、特にニューヨークで話しかけてくるのは詐欺師が多かったけど、
毎日そんな連中を見ていたので、対処方も身に付いたし、なんとなく見分け
ることが出来る臭覚のようなものも発達していた。

この人達は大丈夫そうだな。
そう感じた。

「はい。日本から来ました。芝生の上で良いですか?」

「やはり日本人だったんだね。もちろん。ちょっとお邪魔するよ」

「アメリカ人?」と私が聞くと

「いや、フィンランドから。旅行中なんだ」

見た感じ30代後半のカップル。
女性は英語が苦手なようで、あまり積極的に会話には入ってこなかった。

「君は留学生?」

「いえ、ニューヨークに1ヶ月ほどいて、今はバスを乗り継いでLAに向
 かっている途中なんです」

「そうかぁ~。バス移動とは大変そうだね」

「今回はアメリカ旅行なのですか?」

「アメリカは1ヶ月ほど掛けて数都市巡る予定さ。あまり好きな国では
 ないと感じたよ」

「そうなんですね。帰国はいつなんですか?」

「決めてない」

決めてない?
どういうことなんだろう。

「今、世界1周旅行の途中なんだよ」

世界を1周する。

学生だった私には憧れの旅だ。

彼らの住む北欧の話。
これから行く予定の中国や日本の話。
世界を巡る彼らの話に引き込まれた。

日本の事も随分聞かれたけど、恥ずかしいことに「説明して」と言われ
ても自国文化の事を上手に説明出来なかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「世界旅行って2~3ヶ月掛けて回る予定なのですか?」
私が聞くと

「いや、2年。2年掛けて回るつもりだよ」

2年。
2年も旅行するのか!
いいなぁ~。


でも、話を聞いているうちに疑問が湧いてきた。

この2人は立派な大人だ。

仕事はどうするんだろう?
2年間、収入はどうするんだろう?

「あの~、ちょっと聞きたいことが。。。もし答えたくなかったら答え
 なくても良いのですけど。。。。仕事、仕事は何をされてるんですか
 ?」

「ん?仕事かぁ? 今はしてないよ」

仕事はしていない。
当時、日本で登場し始めていた派遣社員のようなライフスタイルなのだ
ろうか?

「してないんですか?」

「あぁ、してない。旅に出るまでは小さな建築事務所を経営していたん
 だよ」

倒産でもしてしまったのだろうか?
もしかして。。。夜逃げとか???

男性は話を続けてくれた。

「仕事は好きさ。一生懸命働いたよ。でもさ、旅に。。。旅に出たくな
 ったのさ。彼女とね」

そう言うと相手の女性にウィンクをしたフィンランド男性。
女性は嬉しそうな笑顔を浮かべ、青い空を見上げた。

「人生は1度切りだ。好きなときに好きなことをしていたいだろ?」

「はぁ。。。」

確かにそれはそうだ。
理想的だ。
でも、そんな生き方をしている大人を見た事がなかった。

「会社はどうしたの?」
私が質問をぶつけると。

「彼女と旅に出たかったから売却したのさ」

えっ?
会社。。。売っちゃったの???

「そのお陰で2年間、気ままに過ごせる時間と資金を手に入れた。
 会社なんてさ、国にもどったらまた作れば良いんだよ」

驚きのあまり言葉が出てこなかった。

「だっ、大丈夫なんですか?今後の人生設計とかって。。。」

「あぁ、大丈夫さ(笑)それよりも『今』を大切にしていたい。
 俺にとっては仕事よりも彼女と過ごす時間の方が大切なんだ。
 少なくとも『今』はね。だって俺たちの人生だよ。君にも君
 の人生があるじゃないか。そう思うだろ?」

かっ!
格好良い
格好良すぎるだろ!!

彼女と旅がしたかった。
それだけの理由で。。。会社を売却しちゃったなんて。。。

しかも帰国後にはまた会社を立ち上げて復活する自信があると
言い放つ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

彼らと話していたのは30分ほど。

話した街の名前も、彼らの名前さえ覚えていない。

でも、あの時彼から聞いた言葉は今でも覚えているし、私の人生に
深くて大きな印象を残している。

憧れる生き方ではあるものの、果たして自分が彼と全く同じ人生を
歩めるかと問われれば、答えはノーだ。

その必要もないだろう。

私は私なのだから。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

彼らとの会話から約10年後に、私は独立。
一時期は馬車馬のように働いていた時期があったけど、充実感や充足感を
感じることはなかった。

「こんな人生を歩む為に独立したんだっけな?」
そんな事を自分に問いかける日々が続いたある日、彼との会話がフ
ッと蘇った。

「君にも君の人生があるじゃないか」


旅先でのちょっとした会話だったけど、今も心に残る言葉との出会い。
彼らとの出会いは単なる偶然ではなく、必然だったのかな?

そんな風に思えてならない。


やはり旅はいい。


<おわり>