リュックサック

揺れる電車内で吊革にっつかまる私。
背後には私に背を向けて2人の女性が立っていた。
女性の背中にはリュックサック。
電車が揺れる度に私の背中に当たる。
私にぶつかっているのは分かっているはずなのにリュックを降ろすこともなく謝るでもなく2人で話に熱中してる。

そんなときに思い出した話がありました。
どこで聞いたのかネットの記事だったのか?
誰から聞いたのかは忘れてしまいましたがとても印象に残っている話です。
ちょっと脚色してしまいますけど書いてみたいと思います。
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あるときある路線で取引先に向かう途中の男性サラリーマン。
奥さんと子供2人の家庭を守る真面目で曲がったことが大嫌いな人。正義感は人一倍強い。

そんな男性の背後にはリュックを背負った女性が背中合わせで立っている。
背には大きなリュックサック。
年齢は20代後半だろうか・・・

ガタンゴトンと電車が揺れる度にその女性が背負うリュックが男性の背中に当たる。
強い当たりではないものの電車が揺れる度に背中に当たるので気になって仕方がない。
「ったく・・・さっきから当たってるんじゃ!いい加減気付
 けや!」と頭の中で何度もこのセリフを繰り返している。

しかし彼は社会人。
家庭を守る善き父でもある。
こんなところでキレても仕方ないだろう。
イライラしながらも冷静であろうと何度も何度も思ってはいるのだが。。。

ガタン!
リュックが当たる。
ゴトン!
リュックが当たる。

その度にイライラは募り怒りの炎がふつふつと湧き上がる。
もう一人の自分がイライラを抑えるよう必死で語りかけるがその声はリュックが当たる度に小さくなっていく・・・

「まもなく〇〇駅に到着します」
車内アナウンスが聴こえてくる。

「もう少し・・・もう少し我慢しようぜ。電車を降りればこ
 のリュックの女性とはもう2度と会うことはない。なぁ
 もう少しだけ我慢しようぜ・・・」と語りかける冷静であろうとする自分。

「いや。こういう自分勝手な人をのさばらせて良いわけがな
 いだろう。この女性がリュックを背負って電車で移動する
 度に俺のような不愉快な思いをする人が出る。一言言って
 やらないと。こいつは不快感を生み出す社会悪なんだ」
と感情の矢に火を付けようとするもう一人の自分。

心の中でせめぎ合う2人の自分。
しかし電車が揺れる度に冷静な自分はイライラした自分に押し切られつつある。

ガタン!
またリュックが当たる。
「こっ・・こいつ~」
「やめろ・・・もうすぐ駅だ!」

ガタン!
またリュックが当たる。
「おい、やめ。。。」
「も~~~~気が付いているはずだろうが~~~っ!」
フツフツと湧き上がっていた怒りが頂点へ・・・

電車が駅に停車しドアが開いた瞬間に男性はキレた。
「おい、あんた。なんだよ背中のリュック。ず~っと俺に当たってるんだよ!電車の中でリュックはお腹に抱えるのが常識だろ。あんたそんなことも知らないで電車に乗ってんの?
どこでどんな教育を受けてきたんだ?あ~?親の顔見せてみろよコラ~」

男性は大きな声で女性を怒鳴りつけ睨みつけた。
あまりの声の大きさに周囲の目が集まったのを感じた。

「ふざけろよ!コラァ」
開いたドアに移動しながら男性は最後の一撃を食らわせた。
女性は恐怖のあまり首を縮め背中を丸めて罵声の嵐が去るのを待っているかのようだった。

「とうとう言ってやったぜ。すっきりしただろう?そう、
 それでいいだよ。よくやったよお前は!」
怒りの感情を後押しした自分がそう語りかけてくる。
それでもまだ怒りの炎を完全鎮火していなかった。
残り火の炎がまた大きくなってきたのだ。

そして「よし最後の一撃を食らわせてやるよ」
怒りの炎に心を奪われた男性はもう止まらない。

プラットフォームから車内にいる女性に中指を立て・・!
その瞬間、男性の目に映ったのは・・・
お腹の大きな妊婦さんだった。

「あの女性だ・・・俺の・・・俺の背中にリュックをぶつけ        ていた女性だ・・・」

女性は吊革につかまり泣いていた。
怖かったのだろう。全身を震えさせていた。

「俺は・・・俺は何てことを・・・取返しのつかないことを 
 してしまった・・・」
怒りの炎は一瞬にして消えた。
下っ腹から肛門の辺りがひんやりとしてきて手足が震えだす。

駅で呆然と立ち尽くす男性。
すでにドアが閉まり電車がゆっくりと走り始めていた。

「ごっ・・・ごめんなさい・・妊婦さんだなんて知らなかっ
 たから・・・なんで言ってくれなかったの・・・知ってい
 ればあんなこと言わなかったのに・・・ねぇなんで言って
 くれなかたの・・・ごめんなさい。本当に・・ごめんなさ
 い」
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背中にリュックが当たっているので男性は背中にだけ注意が向いていた。
仕方ないことなのかも知れないけど一度口に出した言葉は元には戻らない。行為も消すことはできない。

一時的にスッキリすることは出来たけど良心の呵責はいつまでも続く・・・生き地獄である。

自分には自分の状況がある。
それと同じく相手にも相手の状況がある。

喜怒哀楽
どの感情でも一旦包まれると冷静な判断が出来なくなる。

感情に飲み込まれず一旦深呼吸して冷静になってみる。
特に怒りの感情には要注意だ。
一旦放った矢は相手を突きさし突き抜けやがて自分に戻ってくる。
悔恨の気持ちは長く心に留まり自分を苦しめる。
「私はダメな人間だ」そんな十字架を背負って生きることになる。
そんな人生、避けたいものです。

読んでいただきありがとうございました。

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