日々是好日 体調を崩している母との暮らし

朝、母が突然泣き出した。。。

「どうしたの?」
仕事の手を止め母に近づき顔を覗き込みながらそう聞いた。

「身体がこんな風になちゃって。。。もう元に戻らないよ。。。」
そう言って両手で涙を拭いている。
子供のように泣く母を見てまるで言葉が出なかった。
気休めの言葉をかける雰囲気ではなかったから。。。

「こんな風になってしまってたくさんの人に迷惑をかけてしまって
 。。。お前も仕事出来なじゃないか」
泣きながら声を震わせて、絞り出すかのように。
言葉にするのがとても辛そうだったけど言葉にせずにはいられない。
そんな悲しくて苦しい母の心の響きが感じられた。

6月に体調を崩して以降、特に病気になったわけでもなく各種検査
の結果も悪くはない。
でも身体と心のどこかで何かが上手くかみ合っていないのだろう。

良くなったと思えば調子を崩す。
そんな毎日の連続で次第に母のメンタルはとても不安定になってし
まった。

この日はお腹の調子が悪く、朝からトイレに行く回数が多かった。
私が自宅療養する中、自分で整腸剤を買いに薬局まで行けるのか自
信がなく、ご近所に住む友達に買い物のお願いをした電話を切った
直後に母は泣き出した。

元気なころの自分と比べてしまい、今の自分が本当に情けなく思っ
てしまったのだろう。

私は母の肩に手を置いた。
その手で背中をさすりながら
「家族だろ。申し訳ないなんて思わなくて良いんだよ。大体、迷惑
 だなんて思ってないんだからさ」
私がそう言うと

「だって畑や家事やら。。。やらなくて良いことまでやらせてしま
 って。。。」
「何言ってんだよ。畑も料理も意外と楽しんでるよ。お母さんが畑
 を解約しようって言ったときに続けたいって言ったのは俺だよ。
 迷惑どころか感謝してるよ。こんなことにならなければあんなに
 楽しいことには巡りあえてなかったんだからさ」

手で涙を拭き椅子に座った母。
私に対する申し訳ないという気持ちの全てが払しょく出来た顔はし
ていなかったけど少し気持ちが落ち着いた様子。

「もちろん元気にはなって欲しいけど無理はしないで欲しい。検査
 での結果は良かったんだからそこは自信もって良いと思うよ」

もっと言いたいことや伝えたいことはあったけど、あれこれ1度に
全てを話してしまう状況ではないと思った。

母が何か言葉を発したらゆっくりと聞く。
そんな姿勢で言葉を待ったけど、母は下を向いたままだった。

年齢を重ねれば誰しも身体のどこかの機能が落ちてくる。
検査には出なくても全体としてのバランスを崩したり、身体の不調
がメンタルに影響してしまうこともあるのだろう。

健康体で普通に暮らしている人には見えてこない世界。
見た目は普通で検査をしても分からないから説明するのが難しく、
サボっているとか怠けているとか言われて傷ついている人も少なく
ないのだろう。

仕事が出来ないからという理由だけで自分を攻めたりしない方が良
いとは言うけれど本人は簡単に「うん、そうだね」とは言いだせな
いだろうし。

でも覚えておいて欲しい。
居てくれるだけで誰かの支えにもなるし、あなたの存在のお陰で頑
張れる人もいる。
本当に有り難いのだ。

事実私は母のお陰でこうして毎日元気に過ごすことが出来ている。
母が体調を崩したことがきっかけで畑や料理という素晴らしい時間
の過ごし方とも出会えた。

そして覚えておきたい。
世の中には心のバランスの喪失などで苦しんでいく人がいることを

社会の構造が変化し、これまでの診断方法では結論付けられない心
の悩みが生じていることを。

理解は出来ない。
しようとしてもとても困難だ。
理解していないのに「分かるよ」なんて言えないし。

でも言葉はなくても側にいたり手を握るなどの軽いコミュニケーシ
ョンで伝えられることもある。

専門家にまかせることも選択肢のひとつだろう。
無理して全てを抱え込み過ぎた果てに自分も身体を壊しメンタルバ
ランスを崩し大切な人の面倒を見ることが出来なくなってしまうこ
ともあると思う。
そうなる前に専門機関に連絡しプロに話を聞いてもらうことも必要
だと思う。

抱え込ませないこと。
抱え込まないこと。

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2か月前には部屋に籠りきりだった母が台所に立つようになり、近
所を散歩するようにもなってきた。

涼しくなってきてからは散歩の回数を増やし、少し遠回りして歩く
ようにもなってきた。
誰にも言われることなく自分でそうしている。

ゆっくりとだけどバランスを、今取れるバランスを取り戻そうとし
ているのが伝わってくる。

「今日は3回散歩したね」
「この料理美味しいじゃん」
「お腹の調子は大丈夫?」

私も母の神経を触らない範囲で話しかける機会を増やしている。
「前は出来たのに」
腹が立っても本人を傷つけるような言葉は口にしない。
時々イラッとして強い口調で言ってしまうこともあるけれど、言
葉にするその手前で冷静に自分に対処する。

軽はずみで口にした言葉が相手にとっては一生の傷になることも
あるので家族であろうと気を付けたい。

妹も毎朝電話をかけてくることを欠かさない。
時々喧嘩してるけどそれくらいで丁度良いのだろう。

家族だから出来ること。
日頃思っていてもいざ実践すると難しいこともあるけれど、家族
はみんなで年齢を重ねていく。

自分しか見えない頃があったけど、今は母の様子や顔の表情を見
ながらお互いにとって丁度良い距離感を計りつつ生活しています


日々是好日。

読んでいただきありがとうございました。






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