母に捧げるマッサージ

体調を崩した母。
日が経つに連れ少しずつ崩したバランスを取り戻しつつある。

病院での診察検査を通し、今のところ特定箇所に問題はないとの
結果を目にしたものの自身が感じる不安定な感覚や不安。
これまで生きてきた中で経験したことのなかった感覚が生まれ、
それが不安へと繋がってしまったのかも知れない。

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神経科で診察を受けた際に医師からは
「特に問題はないのですが首や肩の周りがやや固まっているね。
 少しもみほぐしたりすれば眩暈は軽くなる可能性がありますよ
」とアドバイスがあった。

月1で開催している「マルマヨガの会」ではインストラクターさ
んから自分で自分の身体を癒すセルフマッサージを習う時間があ
る。

また通っているヨガスタジオでも首や肩のツボやそのケアの仕方
を習うこともある。

この際だからヨガで学んだことを実践してみようと思い、母に
「マッサージしてみる?」と聞いたところ、「うん。やってみよ
うか」との答えが返ってきた。

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マッサージとは言っても素人の私には大したことが出来るわけでも
なく、母の身体を優しく触ったりなでたり、マルマというツボのよ
うな箇所に触れたりするだけだ。

素人の私がするマッサージでもほどほど心地よいようで、5分しな
いうちに母は寝落ちしてしまう。

毎晩欠かさず母が寝る前に20~30分かけてマッサージをしてい
る。

少しは効果があるようで首にあった違和感がなくなり眩暈はしなく
なったそうだ。

今までのように排泄が毎日上手くできなくなっていたようだけど、
胃腸につながるマルマに触れていたからだろうか、今では毎日排泄
が出来るようにもなっている。
ただ、排泄の時間は一定ではなく朝早くだったり朝10時ころだっ
たりとまちまち。
でも、数日便秘が続き気持ちが焦っていたころと比べたら気持ちが
安定しているからだろうか表情も落ち着いてきた。

体調の改善はもちろん、会話する機会も増えてきた。

一時は口を開くことが極端に減り、話をしても声がとても小さく聞
きとるのが大変だったけど、今は自分から話をするようになってき
た。

笑うこともそう。
病院に通っているころは笑うこともなくなり、こちらが話しかけて
もうんともすんとも言わなくなっていた母が笑うようになってきた

笑うだけの心のゆとりを取り戻したのだなと感じるし、私自身も母
の笑い声を聞いて安心できる。

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まだ完全に体調を崩すまえの状態に戻った訳ではなく、自分に対す
る不安や体調体力に対する不安感は残ったままのようだ。

でも、この1カ月で表情が明るくなり、散歩に出かけるようになっ
たり、台所仕事をするようにもなってきた。
私が畑に行くときも体調が良ければ「一緒に行ってみようかな」と
自分から言いだす機会も増えてきた。
畑に行けば一心不乱に働いている。
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自分の母親に触れる機会なんて子供のころ以来だろうか?
マッサージを始めた当初は恥ずかしさもあったけど、マッサージを
しながら母の手足や指先に触れると、この手で毎日欠かさず料理を
作ってくれたのだな、とか仕事先でもこの足で踏ん張って仕事して
家計を助け、私や妹を育ててくれたのだな、なんてことが思い浮か
ぶようにもなってきた。

毎日20~30分のマッサージだけではとてもじゃないけどお返し
出来ないくらいの恩を感じる。

マルマヨガのインストラクターさんからは
「マッサージって相手はもちろんだけどしている本人も癒されるん
 ですよ」と話していたけど、母にマッサージをすることで母に対
する感謝の想いはもちろん、すでに亡くなっている父への感謝も深
まったように感じる。
父の遺影に対して頭を下げる機会が増えてきました。

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もし大切な人が身体の不調を訴えていたり、疲れた様子を見せてい
たら是非マッサージをしてあげてみてください。

マッサージをしながら今日の出来事を聞いたり体調を尋ねたりして
みてください。


おわり

逍遥 週末散歩

逍遥
散歩よりも少し長い時間歩くこと
大地を踏みしめ風を感じながら歩数に囚われることなく、時間
にも囚われることなく。。。ただただ歩く。
心地良さとともに大いなる恵みに出会えることもある逍遥。
週末ちょっと遠回りしてみませんか?

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週末
時間に余裕があるときは少し長めの散歩をしています。

90~120分かけて子供の頃に歩いた通学路や田んぼの畦道、
小さな沼の周囲や公園をゆっくりと歩ています。

週末のルーティンという訳でもなく、健康の為などの目的がある
わけでもなく、ただ歩きたいから歩いています。

雨が降っている日は歩かないし、用事がある日も歩きません。
ただ歩きたいから歩く。
散歩にたくさんの理由はいらないでしょう。

季節ごとの風。
その日の風向き。

田んぼの畦道を歩くと土の匂いが楽しめます。
晴れている日と雨が降った後では違い匂いがします。

空を流れていく雲。
ゆっくりと形を変えて流れていく雲があれば
遠くで悠然と構えているような入道雲もある。

用水路には季節ごとにカモやシラサギなどの鳥たちの姿がありま
す。

五感を通し
身体を通し
100%手つかずの自然というわけではないけど、そこには確か
な自然からの恵みが感じられます。

水を張ったたんぼ 水面に映る空と雲

川沿いにある沼地
ここではたくさんの生き物が暮らしています。
鳥、カエルや虫たち。
ザリガニ釣りを楽しむ親子連れの姿も見かけます。

背の高い葦や菖蒲が群生していて風のある日はとても心地よい音が
耳に届きます。

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沼地の裏手には小さな公園があります。
一面芝生が広がっていて、私はここを裸足で歩くのが大好きです。

足の裏で感じる芝やクローバーなどの植物の感触。
芝は少しチクチク。。痛くはないですけどね。
クローバーはとても柔らかく優しい感触が楽しめます。

シロツメクサの花には仕事中の蜂たちがいるので、彼らを踏まない
よう進路を小まめに変更します。
自然は人間だけのものではないので上手にシェアしていきたいです
ね。
無暗に刺激すると刺されて痛い思いをすつかも知れませんし。

裸足で大地と触れる。
アーシングやグラウンディングとも呼ばれ、身体の内面にある毒素
を外へ排出する効果があるとも言われているそうです。

足の裏にはたくさんの神経やツボがあるので、受け取る信号も様々
です。

詳しい知識がなくても足裏で感じる心地よさに身を委ねるだけでも
相当な癒しに繋がると思います。

公園だけあって滑り台で遊ぶ子供たちやバドミントンやサッカーを
楽しんでいるお役連れがいます。

私は空いているスペースを見つけて軽くヨガをします。
好きなポーズ。
苦手なポーズ。
習ったことの復習をしたりもします。

普段は綺麗なスタジオで練習をしていますが、外でするヨガは格別
です。

綺麗な空気をいただきながら、黙々淡々とポーズを取ります。
ポーズによっては視線を空へ、流れていく雲を見送りながらしばら
くの間姿勢をキープします。

時間を決めてはいませんが20~40分ヨガを楽しみます。
時には1時間を超えてしまうこともあります。

人はいますが視線は気にならない。
競うこともなく、人に見せつける為にするのでもなく。
じっくりと自分、そして自分の今、自分の内側と繋がるツール。
それはヨガである。
通っているスタジオの先生たちから習うヨガの定義。
私もそう思うし信じています。

外ヨガはその状況に自分を連れて行ってくれるとても良い環境だと
感じています。

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夏になると蚊が飛び始めるので中止してますが、瞑想をしたりもし
ます。

風の音
自分が呼吸する音。
子供たちの笑い声。
耳に届く音や身体を優しく包んでくれるような風の強弱や向きを感
じているうちに徐々に自分の内側へ集中していきます。

瞑想は10~20分ほど。
冬は冷たい風にさらされるので長い時間は出来ませんが、ヨガで火照
った身体から発する熱と柔らかな日差しに守られての瞑想もまた心地
良いものです。

瞑想が終われば靴を履いて再び歩き出します。
ここから家に戻ることになります。

芝生で瞑想中の私 変な人がいる!なんて通報されたことはありません。

公園から自宅までは歩いて20分ほど。
田んぼや草木、花や田んぼ、畑を眺めながらゆったりと歩いて終了
です。

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普段気を付けてはいても、または気が付かない間にストレスを感じ
ているものです。
それが蓄積してしまうと身体や心に何かの症状が出たり、バランス
を崩してしまったり。
元通りになるには大変な時間がかかったりもしますよね。

仕事から離れ、身近な人(家族や友人)からさえも離れ、一人で過
ごす贅沢な時間。

自然に触れ、自然を感じる。
身体を動かす。

散歩にある程度自分の心を修復してくれる癒しの効果がとてもある
と感じています。

またそれだけにとどまらず、仕事の事や人間関係、抱えている課題
や悩みに対する答えがちょっとした瞬間に解決する、または解決の
糸口、ヒントを運んでくれる効果もあるようです。

散歩している間はそれらを求めたりはしていないのですが、心が整
うと今の自分にとって最適な答えが降ってくる。

そんな体験を多々しています。

ネットで調べると「逍遥」なるワードと出会い、かつての哲学者や
科学者、文芸家なども「逍遥」する時間を大切にしていたというこ
とが書いてありました。

私は単なる暇人ですけど(笑)
少し時間をかけて歩くこと。
それを習慣にすることには何か大きな意味があるのかも知れません
ね。
その答えを時間をかけて、自分の身体を通して見出していく。
そんな楽しさが週末散歩にはあります。

いきなり遠くまで歩くのは大変だと思います。
20~30分。
家の近所を何週か回ることからでも始めてみては如何でしょうか。

良い習慣は良い習慣を連れてくる。
あるインド人から贈ってもらった素敵な言葉です。

週末散歩。
お勧めします。

おわり

仕事で出会った愉快な人たち 1 P ?

「メシ食った?」
そう唐突に聞いてきたのは当時取引していた
ディスカウントチェーンのバイヤー森川さん。

口調は乱暴でややとっつき難いので取引先や同じ会社の同僚部下たち
からは煙たがられていた。

そんな森川さんはなぜか私には良くしてくれる。

好き勝手なことばかり言うけど言っただけの仕事はする。
責任も取る。
そんな彼の仕事ぶりが私は好きだった。

「いえ。まだです。奢ってくれるんですか?」
と私が答えると
「バカヤロウ~。中華でいいか?」と森川さん。
「ありがとうございます!」

森川さん行きつけの中華料理屋さんでお昼をごちそうになる。
食事に誘われたのは初めてだった。

後で他の社員さんに言われたのですが森川さんが誰かとお昼を
食べることはまずないそうで、私を食事に誘っているやり取り
を聞いて驚いたそうです。

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「ちょっと頼みたいことがあるんだけどさ。やってくれる?」
森川さんの話はいつも唐突だ。
「えっと。。。何をすれば良いのか。。。?」

「バカヤロウ。これから話すんだよ」
ニヤケながらおどける森川さん。

バカヤロウ。
商談中に何度も出てくるこのフレーズ。
好きな言葉ではないけれど森川さんに言われるとなぜか嬉しい。

「お陰様でウチを始め系列店の売上が良くてさ。嬉しい反面、仕
 入額も増えてきてる。ここらでそろそろウチも始めたいんだ」
「海外からの直輸入ですか?」と私が言うと
「お~。分かってんじゃん!そう。海外仕入」と森川さんは椅子
の背もたれに寄りかかって腕を組む。誇らしげだ。

「そこでだ。ロクな仕事にありつけてないお前に香港の事を調べ
 て欲しいんだよ。お前、怪しいから知り合いとかいるだろう?
 香港に」
「森川さん、怪しいって。。。まぁ、台湾に行って台湾語で話し
 かけられたりしますけど」
そう答えると森川さんは大きな口をあけてワッハッハ!と大笑い
した。

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サラリーマン時代にお世話になった取引先の社長数名が香港にオ
フィスを構えていたので彼らに連絡し、話を伝える。

仕事をするかどうかは話の内容次第ということで何とか会っても
らえることになった。

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香港へ飛ぶ当日。
森川さんとは羽田空港で待ち合わせ。

「俺、初めてなんだよ。海外!面白そうだなぁ」
森川さんはパスポートを手にして本当に嬉しそうな表情をしてい
た。

会社として初めての海外仕入というプレッシャーもあっただろう
けど、数日間とは言え職場から離れ海外へ飛ぶという高揚感も感
じていたのではないかと思う。
良い仕事をしている男の顔。
イケメンとは程遠いけど格好良い。
人の表情って素直だ。

ときおり冗談を挟みながら打ち合わせをしていると搭乗を促すア
ナウンスが流れてきた。

「行きましょうか?」
「おぅ!」
「飛行機、大丈夫ですか?」
「バカヤロウ。俺には怖いもんなんてねぇ~んだよ!」
笑顔の森川さん。
本当にわくわくしている。
バカヤロウの響きもいつもと違うな、そう感じた。

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飛行機が羽田を飛び立ちしばらくすると香港への入国書類が配られ
た。

香港は私も初めてだったが海外旅行の経験は多く、書類の書き込み
には慣れていた。

森川さんは初めての海外。
英語も話せない。
にしてはスラスラと書類に書き込んでいる様子。

「森川さん。分からないところがあったら聞いてくださいね」
「バカヤロウ。こんなの赤ん坊にだって書けるだろう。馬鹿にしや
 がって」
私に目もくれず書類に書き込む森川さん。

しばらくすると。
「よっしゃ~」
ペンを置いて伸びをする森川さん。
そして
「これでいいんだろう?ほれ。チェックしてくれ」
森川さんは書き込んだ書類を私に手渡す。

森川さんの手から書類を受け取り目を通す。

名前は。。。お~スペルも間違えずに書き込んである。
次は性別。。。ん????

性別欄
男性であればM
女性であればF
のはずなのに。。。。

森川さんの書類に書き込まれているのはP
P?
Pってなんだ?

「もっ、森川さん。ここなんですけど~」
「なんだよ。間違えなんてないだろうに。どこだよ」
森川さんが顔を寄せてくる。

「なんでPなんですか?Pってなんですか?ここ、男の場合は
 Mなんですけど。。」
「誰が決めたんだよ。俺はPだよ。Pでいいんだよ。バカヤロ
 ウ」

誰が決めたんだよはこっちのセリフと言いたかった。

「Pって一体どこから出てきたんですか?」
笑ながら森川さんにツッコミを入れる。
でも本人はボケてないからツッコミになっていないのかな?

「るせ~な~。Mでいいんだろう?Mで!ったくよ~」
ニヤケながらMと書き込む森川さん。

近くで二人のやり取りを聞いていた乗客数名が笑っていた。

森川さんがなぜPと書き込んだ理由は。。。
一応説明してくれたけどここには書けなない理由だった。

バカヤロウはあんただよ、森川さん!
私は心の中でそう思った。

Pと書いたまま書類を出したらどうなっていたかな?
そんなことを想像したりもしたけど、それでは性格悪すぎる。

その後の商談で時々「P」の話題を持ち出すと、森川さんは
必ずバカヤロウと言いながら大笑い。
「誰にも言うなよ。俺にも立場ってものがあるんだからよ」

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今では取引をしていないけど風の噂では出世して社長の片腕に
なったと聞いている。

面倒臭いけどとてもお世話になって森川さん。
今でも元気に仕事してるかな?

(おわり)

真夜中に母の体調急変したときの話

「ちょっと胸が苦しくて。。。」
母の声に目を覚ます。
時計を見たら午前2時。

「大丈夫? 救急車を呼んだ方がいい?」
そう私が聞くと
「そこまで苦しくないんだよ。ただ不安だから医者に診て欲しい」

我慢強い母が夜中に起き出して医者に行きたいと言う。
「じゃあ車に乗って行こう。それで大丈夫かな?」
「うん。。。悪いね。こんな時間に。。」

それじゃあ近くの病院へ出発!
という訳にはいかない。

特に大きな持病のない母親。
かかりつけの病院があると言っても小さなクリニック。
こんな真夜中には開いていない。

スマホをタップし市内や近くの病院で夜間応対していくれそうな
病院を幾つかピックアップし電話をかける。

「はい〇〇病院です。どうしましたか?」
意外と電話は繋がるものだな。
そう思うと安心した。
母の状況をゆっくりと出来るだけ詳細に伝えようとした。

けど、他人の病状というか状況を電話で伝えるのって思った以上に
難しい。

母は「胸がちょっと苦しい」と繰り返す。
「今日は時々めまいもしたんだよ」と付け加えてくる。

電話の向こう側の医者に母の話すことをそのまま伝えてはいるもの
の、果たして伝えている症状がひとつの病気に繋がるものなのか?
こんな説明で医者が判断する材料になるのか?
そんなことが頭に浮かび始める。

「そうですね~。ちょっと今、ウチでは人員的に余裕がないんです
 よ。すみませんが他の病院を当たってみてもらえますか?夜間対
 応している病院さんを幾つかお伝えしますので」

その方が市内及び近郊にある病院名数件を教えてくれた。

「ご丁寧にありがとうございます」
そう伝えると
「いいえ。お役に立てず本当に申し訳ありません」
若そうな声の主はそう言って電話を切った。

意外と夜間でも対応してくれる病院がありそうだな。

先ほどの声の主が教えてくれた病院へ間髪入れずに電話をしてみる。
「次は受け入れてくれるだろう」
その目論見は甘かった。。。甘すぎた。。。

次に電話をかけた病院のその次の病院も
「余裕がない」との理由で受け入れをしてもらえない。

再びスマホで病院を検索し、ちょっと離れているけどとても評価の
高い病院を見つけたのでそこへ電話する。

「はい〇〇病院です。どうしましたか?」
母の状況を伝える。

「そうですか~。受け入れたいのは山々なのですが。。。今、医者の
 数が。。。」
ここもだ。。。

「お母さま、今はどのような感じですか?」
そう聞かれたので母の方を振り返り
「どう?」と母に確認するように聞くと
「うん。さっきと変わらない感じ」
幸いと言うべきか状況は悪くはなっていなかった。

「もしよろしければの話なのですが、医者を派遣してくれるサービス
 を提供している企業もありますので、そちらをご利用されるのも手
 だと思いますよ。ただ費用が掛かってしまうのですけど。一応連絡
 先をお伝えしましょうか?」

母の状態は悪化していないとは言え、このまま病院への連絡を続けて
いても状況を打破するのは難しいと感じ始めていたので、「お願いし
ます」と伝え、会社名と連絡先を聞いた。

どこかで何度か聞いたことのある企業名だった。
さっそくスマホをタップし電話をかけてみる

「もしもし〇〇ドクターです。どうされましたか?」
専用オペレーターらしき女性の声。

私が答えやすいよう的確な質問をしてくれる。
マニュアルがあるのだろうけどこちらが不安感を覚えないようゆっく
りと落ち着いた声だ。

一通り質問に答えたあとに
「それではこれから近くにいるドクターと連絡を取ります。そのドク
 ターから直接ご連絡を差し上げる場合もございます。ご連絡先をお
 願い出来ますでしょうか?」

家とスマホ、両方の電話番号を伝えると
「ありがとうございます。ではしばらくお待ちいただけますでしょう
 か?」
そう言って電話が切れた。

10分ほど経過したころだった。
スマホに着信が入る。

「はいもしもし」
「〇〇ドクターに登録している〇〇と申します。〇〇さんのお電話で
 間違いないでしょうか?」
「はい。そうです。ありがとうございます」

幾つか母の状況に関する質問があったのち
「めまいなのですが、以前から同じ症状がありましたか?」
「いえ。数年に1度くらいはありましたが。。。今日も1度だけのよ
 うなのですけど」
「そうですか。。めまいがあるとなると脳に問題がある可能性がござ
 います」

脳に問題がある可能性。。。
全く予期していなかった医師の言葉に下腹がヒヤリとした。

「脳。。。ですか?」
「はい。でもあくまでも可能性があるという話でして。。。」
「はい」
「脳を調べるとなるとそれなりの機材が必要になります。派遣の我々
 ではその設備を持っているものが。。。申し訳ありません」

「そ、そうですか。。。」
「お母さまのご様子は如何ですか?」

母の顔を見ると少し辛そうだった。
「大丈夫?」
「う~ん、、、ちょっと苦しい。。」
と辛そうな表情。

時計を見ると午前3時を少し回っていた。
母が苦しいと訴えてから1時間も経過してしまっていた。

状況を医師に伝えると
「即救急車を呼んで下さい。その方が良いと思います。申し訳ありま
 せん。。。何のお役にも立てず。。。」

私はお礼を伝え電話を切り、119番をタップした。

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私も母も今まで大病を患ったこともなく病院、特に今回のように急患
に近い状況に陥った経験がなかったので、少々甘く考え過ぎていたの
かも知れない。

夜間でも開いている病院があり夜間対応とうたっていても現状ではそ
の場にいる医師の数が足りなかったり、専門技師が不在だったり。
重篤な方や緊急を要する方もいる。

いきなり病院へ連れて行っても果たして診察してくれたのか?
その可能性はとても低かったように思う。

ネットでも繋がる派遣型医療サービスも症状によっては専門機材が必
要な場合があり、100%対応してもらえる訳ではないことも知るこ
とが出来た。

そしてコンタクトや説明に時間を要している間に病状が悪化してしま
う場合もある。

軽い症状でいきなり救急車を呼んでしまうのもどうか?と思ったりも
したけど、状況が良くない方へ進行してしまっていると気付いたら迷
わず救急車を呼んだ方が良い。
そう感じた経験でした。

あくまで私の経験であり、私の経験が100%全てのケースに充ては
まるものではないことはご了承下さい。

丁寧な対応をしてくれた医師、看護師、救急隊員の方々本当にありが
とうございました。

おわり


バンコク高架鉄道 BTS バンコクの想い出

10年近く前
母とタイのバンコクを訪れたときの思い出

仕入先のあるエリアへ向かう為、ホテルを出発。
気温は高いけど日本より湿気が少なく気持ちの良い暑さ。
青い空に白い雲が浮かんでいる。
南国の首都 バンコクで見るこの空が好きだ。

ホテルからゆっくり歩いて駅へと向かう。
舗装はされているもののところどころ路面が窪んでいたり
穴が開いていたり。
ベビーカーを押している家族連れが苦労している場面をよ
く見かける

「足元が悪いから気を付けてね」と母に言葉を掛けながら
駅を目指す。
心地良い暑さ。。。とは言え暑い。
すでにうっすらと汗ばんできた。
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移動に使うのはBTS
人気の韓国ボーカルユニットではなく高架鉄道。
バンコク市内の主要なエリアを結ぶインフラで渋滞を避け
目的地に移動できるのでとても重宝している。

バンコク滞在時は乗らない日はないくらい利用しています。

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バンコク到着日に購入したパスを使い駅プラットフォーム
へと移動して電車の到着を待つ。

高架鉄道というだけあり高い場所を走る電車。
駅プラットフォームからバンコク市内を高い場所から眺める
ことが出来ます。
ときおり吹いてくる風が心地よい。

「暑いけど風が涼しくて気持ち良いね~」
母もこのバンコクが大好き。
もう何回か訪れているので新鮮な気持ちというより帰ってき
た。。。そんな感覚で滞在を楽しんでくれている。

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「みんな元気にしてるかな?」
現地仕入先で働くスタッフたちとの再会を楽しみにしている
母と会話をしている間に電車が到着する。

運行本数は多いのでそれほど待つことなく乗車移動出来る。

アナウンスのあと、ほどなくして車両が駅に滑り込んでくる。

ドアが開くと車両の中からはキンキンに冷えた冷気がプラッ
トフォームに流れ出してくる。
この瞬間がまた気持ち良い。

駅で降りる人をやり過ごす。
気の早い現地人や外国人の中には降りる人がいなくなるのを
待つことなく座席を目掛けて車内へ入ってしまう人もいるが
外国にいるからなのかあまり気にならない。

「足元に気を付けてね」
母の肩に手を置いて車内へ入る。

車内は満員ではないものの座る座席は空いてなかった。
移動距離は短いけど母には休憩がてら椅子に座って欲しかっ
たけど空いてないなら仕方ない。

「すぐに着くから大丈夫だよね?」
そう母に確認するように聞くと
「うん、ここから3つ目でしょ?」と母。
何度も何度もこのBTSに乗り移動をしているので移動先まで
何駅なのかや良く使う駅名などは覚えている。

車窓の外を流れていくバンコク市内の景色を母と二人で眺め
ているとBTSがゆっくりと動き始めた。

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車両が動き始めてすぐ
視線を車内に向けたときだった。
褐色の肌を黒いTシャツと黒いデニムパンツで固めた若者集
団が車内の一部の座席を占領しているのが視線に入った。

車内で悪さをしているのではないけれど彼らが醸し出す危険
な雰囲気に車内にいる乗客たちも少し引き気味だ。

彼らに対して悪い感情は持ってはいなかったけど、なんとな
く視線を外すことを忘れてしまっていた。。そのときだった

「!」
その極悪集団の一人と目が合ってしまったのだ!

私と視線が合った若者が隣に座っている仲間の肩を叩いて、
何かを伝える。
肩を叩かれた仲間もこちらに視線を送り、何か蔑むような視
線をこちらに向けたと思ったら、すぐに視線を戻し、仲間に
何かを告げている。

2人の会話が耳に入ったのだろう。
その他の仲間たちも一斉にこちらを睨みつけている。

向こうは7人。。。
こちらには母親がいる。。。

絡まれたらどうしようかな。。。
一人くらいは倒せるかも知れないけど囲まれたら一巻の終わ
りだろう。。。

車内にいる人たちは気付いているのかいないのか全く無関心。

リーダー格の男が立ち上がると他のメンバーたちも席を立つ。

これは。。。参ったな。。。
やるならあのリーダー格の奴に一撃見舞うしかないだろう。
でも、問題はその後だ。
仲間たちがビビッてくれればよいのだけど。。。
ここはタイ。
国技であるムエタイを習っているなんてこともあるかも。。
そう思いながら拳を握る。

いつでも。。。来い!

と思った瞬間

極悪軍団のリーダー格の男は指先を揃えた優し気な手を自分た
ちが座っていた座席へ向ける。

顔は。。。笑ってない。

けど座って下さいという意味のようだけど。。。
リーダー格の男が再度座席に向けられた。

やっぱり座って下さいということのようだ。
でもやっぱり笑顔はない。
微笑みの国タイランドなのに。。。

母に「座って下さいって席を空けてくれたよ」と言うと
「優しい人たちだね」と言いなが座席の方へ歩いていく。
鈍感なのか肝が座っているのか?
母はこういうときにビビらない。

「揺れるから気を付けて」と声をかけると
「うん」と歩きながら返事をする。
もう座席にしか意識が向いていないかのようだ。

座席に近くに来たとき
「ありがとう」と母が若者たちに日本語で声をかける。

彼らの表情は変わることはなかったけど、小さくお辞儀を返し
てくれた。

タイでは日本が大人気。
ありがとうが感謝を意味する言葉ということは大半の人が知っ
ている。

さりげない。。。というか変わりづらい優しさだったけど、と
ても有り難く、また心が温かくなったのを今でも忘れない。

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タイに限らず東南アジアではお年寄りや高齢者にはとても優し
い。

妊婦さんや大きな荷物を抱えている女性には声を掛け、席を譲
る姿をよく見かける。

昔は日本でも同じ光景をよく見かけた。
と話す人も多い。
でも。。。でも昔話で終わらせていいのかな?

これからの日本でも同じ光景をたくさん見かけることが出来る
ようになれたらな。

経済や技術の分野ではやや落ち着いてきた感のある日本だけど
人がのびのびと、そして優しく心地よく過ごせるような国にな
ると良いなぁ~

そんな日本がめちゃくちゃ格好良くて大好きだ!と言ってくれ
る外国人が増え、この国に生まれて良かったと胸を張って言え
る人が一人でも増えてくれたらいいな。


(おわり)