「もう畑を止めようかな。。。」
今年の1月のある日の朝
いちごジャムを乗せたトーストを食べながら
母が突然そう口にした。
母の唯一の楽しみである畑仕事。
「もう体力がね。。。畑に歩いて行くのもちょっとね」
「唯一の楽しみなんだからもう少し考えてみれば?でも無理だ
と思うなら止めても良いと思うよ」と私。
「うん。そうだね。畑の契約まであと1カ月あるからもう少し
だけ考えてみるね」
寂しそうな表情に力の抜けた笑顔を浮かべて母はそう答えた。
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「もう少しだけ続けてみようかな」
「やっぱり止めようかな」
長年親しんできた畑を手放したくない気持ちと強く感じるよ
うになった体力の低下の間で母の決断は日々揺れ動いていた。
そしてある日の朝
「もう。。。止めよう。。。身体もキツしさ」
続けるも止めるも母の自由。
私は母の決断を受け入れるだけ。
母が止めると言うなら無理して続けさせる理由もない。
そう思っていた。
そんな私は自分でも意外な言葉を口にした。
「これまで頑張ってきたのに勿体ないな。もう少しだけ
やってみない?俺も手伝うからさ」
えっ?
今、私は何て言った?
俺も。。。手伝う???
なんで???
「本当かい?」
寂しそうにしていた母の顔に笑顔が宿った。
「う。。。うん。やったことないけど。。。面白そうだし」
と私は応えた。
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えっ?俺。。。畑やるの???
しかし一旦は口にしたこと。
母も再びやる気になっている。
冗談冗談。。なんて今更言えない。
それに冷静に考えてみると畑で野菜を育てるって案外
面白いんじゃないのかな?
そう思うようにもなっていた。
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今では週に数回母と畑で作業する。
母が疲れているときには私一人で畑に出る。
「きゅうりは明日辺り採れそうだけど茄子ももうちょっと
先になるかな」
「今年のジャガイモはどうだろうね」
「昨年失敗しちゃった大根。今年もう1度やってみようか
な」
畑を始めることで母と共通の話題も増えてきた。
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母の高齢化と体力の低下。
そこだけに焦点を当ててしまうとちょっとネガティブな現象だ
けど、現実は現実として受け止め、そこからどんな道を選択す
るのか?
母に取っては下り坂かも知れないけれど、転ばないよう、ゆっ
くりと道を下れるように支えてあげる。
家族だから。
そしてこの現実がもたらしてくれた畑で過ごす時間と経験は
思ったよりも豊かで楽しくもある。
全ては必然。
全ては学び。
今の自分には今の自分に丁度良いことしか起こらない。