キャンディ 3

新規事業を立ち上げ、店舗を確保し、アイコンになるスタッフ、キャンディ
の協力を得る事が出来た。

やや後手後手ではあるけれど、動き始めたMのビジネス。

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「はい。そうなんです。是非、御社の商品を台湾で販売させて欲しいんです」

Mからリクエストを受けて交渉を進めている女性衣料品ブランド。

当初は興味がないとの返答ばかりだったけど、何度もコンタクトを取りつづ
けているうちの担当者との会話もスムーズに出来るようになってきた。

そして
「分りました。再度上席に報告、検討させていただきます。台湾ですかぁ。
 実はアジア圏からの引き合いは初めてでしてね。社内にも詳しい者がいな
 いもので。。。」

「もしご都合が合うようでしたら、私がアテンドしますので是非視察にでも
 行ってみませんか?」
「ははは。そうですね。この場では返答出来ませんけど、食事も美味しそう 
 ですよね。その際には宜しくお願い致します」

「はい。是非案内させて下さい。美味しい店を知ってますので!」
「ありがとうございます。では、また後日連絡させていただきます」

「ありがとうございます!」
そう言って電話を切った。

すぐさま台湾のヒースにメールして状況報告。

今頃は店舗の内装工事が終わり、オープニングに向けて準備が進んでいる事
だろう。

Mからは日本のメーカーが製造する雑貨や玩具のオーダーがあった。
アイテム数が少ないのが気がかりだけど、格好だけは付くだろう。

そして女性衣料品ブランドが店内に並べば、店の印象ががらりと変わる。

胸が躍った。

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一方で気になることもあった。

ビジネスに関してキッチリとしてるヒースからの連絡が遅いのだ。

「タバコの吸いすぎで調子が悪いのかな?」

ヘビースモーカーで体重も増えつつあったヒース。
病院で薬を処方してもらっている事は知っていたので、少し心配だ。

Mのビジネスはヒースとの両輪じゃないと成立しない。

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待てど暮らせどヒースからの返事はない。
時々、Mの携帯へ電話を掛けると

「商品の件でしょう?分っているわ。すぐに追加のオーダーをするから
 もう少し待っていて」

毎回そう答える割にはなかなかオーダーが来ない。

そんなある日、ヒースからの返答が来た。
「先日、店をオープンさせることが出来た。かなりの評判だよ」

普段と比べるととても短いメールだった。

売れているのなら商品を追加しなくて良いのか?
そんなメールを折り返し送ったが、返事はなかった。

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別件で台湾へ行く用事もあり、日程をヒースにメールした。

「分った。待っている」
またも短いメールが返ってきただけ。

ビジネスは大丈夫なのか?

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台湾へ到着した私はすぐさまMの店がある街へ向けて、空港から焚くしーに
飛び乗った。

何かが起きているに違いない。。。
一体、どうなっているのだろう?

高速道路を飛ばして役1時間。
目的に付いた。

ホテルでチェックインを済ませて、身軽になってからMの店に向かうつもり
だったけど、すぐにでも確認したかった。Mの店は大丈夫なのかを。。。


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店の前は普段通りの人の多さ。

放課後、学校帰りの学生たちで賑わい始めていた。

いつもの景色に少し心が落ち着いた私は荷物を背負ったまま店に入る。

「いらっしゃいませ」
アルバイトらしく2人の女の子。
私の顔をみるなり、驚いたように目を大きく見開いた。

そして、そのうちの1人がレジにいる女性スタッフに声を掛けた。

キャンディ。。。。じゃない。。。ニッキーだ。

ニッキーはMの会社で営業を勤めている女性スタッフ。

なんで店舗にいるんだ?

「あれ・ニッキーじゃん!」

「あ~!お久しぶりです~!! あれ?今日からですか?」
「あぁ、そうだよ。Mから聞いてなかった?」

「はっ。。はい。。。何も。。。」
ニッキーはそう言ってうつむいた。
いつも元気なニッキーなのに。。。どうしたんだ?

ニッキーの態度が気になりながらも店内を見渡す。

2人のバイトはやる気なさそうにおしゃべりをしている。

表の通りにはたくさんの人が歩いているのに、店内にいるのはニ
ッキーとバイトの2人、そして私だけだった。

ヒースからのメールでは店の売上は上々。
店内には常にお客さんがいると報告があったけど、そんな雰囲気
は全くなかった。

そして気が付いた。
店には商品がほとんど。。。。ない。

「ねぇ、ニッキー。商品、商品は?」
「あっ。。。はい。。。もう売れてしまって。。。残っているの
 はこれだけなんです」

「これだけって。。。。Mには売上を報告してるんでしょう?」
「はい。。。報告は。。。しているんですけど。。。」

「俺のところにかMからのオーダーが来てないよ」
「えっ?そうなんですか?」

「そうだよ。最近、ヒースからの連絡もないしさ。一体、あいつ
 ら何を考えてるんだよなぁ」
そう冗談交じりに言いながら、ニッキーやバイトの2人に視線を
送った。

この異様な光景を信じたくはない。。。そんな心理が働いて冗談
っぽい口調になったのかも知れない。

「なぁ、ニッキー。状況を全部俺に話してくれないか?俺があい
 つらに話をしてオーダーを急がせるから。商品がこんなに少な
 いんじゃ、お客さんが来ても買うものがないもんね」
「そう。。。ですね」

それからニッキーが話し始めた内容は。。。

オープン当日と2日目。
街中の話題をさらうかのごとく多くの人が押し寄せた。
棚の商品が次々に売れていく。
ストックから商品を補充するのが大変で、Mの会社の社員が休日
返上でヘルプに来たほどだったという。

もちろん、Mもスタッフたちと共に接客販売に参加。
元々は街のジーパン屋で小売りをしていたM。
口達者で販売の仕事も大好きだ。

Mに心酔する若い女性たちも多く、多くのMファンが来店してく
れたようだった。

そしてキャンディ。
彼女も街では名の知れた人物。

彼女が移籍した店で何やら新しい事が始まる。
キャンディの友人やファンの期待感が口コミを通して街中に知れ
渡っていたので、店の中は人でごった返していた。

1週間もすると売り切れになる商品が出始めた。

キャンディやバイトたちが商品をリピートして追加して欲しいと
Mに連絡する。

売上を上げたい!

台湾では販売金額に対する歩合が発生する契約が多く、毎日少し
でも多くの売上を上げて、得られる給料を上げていきたい。

それがモチベーションとなる。

しかし。。。待てど暮らせど商品は入ってこない。

キャンディは何度も何度もMに電話を入れていたが、商品が追加さ
れることはなかった。。。

「私はMさんとあなたの間に何か問題があって関係がこじれ、それ
 で商品が入って来なくなったのだとばかり。。。じゃあ、Mさん
 との関係は特に問題ないんですね?」とニッキー。

「あぁ、何も問題はないよ。ただ、オーダーが来ないからさぁ」

そこで気が付いた。

キャンディの姿がないことに。

「ねぇニッキー。キャンディは?今日は休みなの?」
「キャンディですか。。。」

「うん。彼女、日本の服を売りたがってただろ?話を進めるのに時
 間が掛ってたんだけど、何とかなりそうなんだよ。今日は彼女に
 その話も報告したいと思ってたんだ。今日が休みなら構わない。
 明日にでもまた店に顔を出すからさ」

日本の服を売る為にMが引き抜いたキャンディ。
キャンディもMの熱意と仕事の内容に興味を持って、働いていた店
を辞めてまで移籍してくれている。

早く彼女に服を売ってもらいたい。
雑貨も好きと話していたけど、彼女が1番輝くのは衣料品を販売し
ているときだろう。

「キャンディは元気?早く会って話をしたいよ」

しかし。。。ニッキーから聞いた話は。。。。

つづく

キャンディ 2

日本から衣料品や雑貨を輸入して販売する計画を進めるM。

そのビジネスのアイコンとして街でも有名な女性をヘッドハンティング
しようとアクションを起こす。

Mとその女性と私はあるホテル内にあるレストランでランチをすること
に。

さて、Mはその女性を口説けるのか?
女性はMの猛烈なアタックに対してどうリアクションするのか?

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ランチセットのオーダを済ませると、にこやかな笑顔でMが話し出す。

「台湾には日本の商品を売る店はまだまだ少ない。しかも実は中国のコ
 ピー品を平気で並べている店がほとんど。私はそんな現状に風穴を開
 けたいのよ」

詳細を詰めるのは下手だけど、大きな構想を描き、語るのは得意なM。

確かに台湾の街を歩いていると「日本直輸入」をうたっている店を見か
けるけど、大体が偽物だったりする。
(2020年現在はそんなことはないですけど)

インターネットの普及により、台湾の消費者たちも直に日本の情報に
アクセス出来るようになり、身の回りで見かけるものや流通されている
ものが本物かどうか判断出来るようになりつつあった。

「日本から商品を輸入するのはコストが掛るし原価も高い。販売する商
 品の価格も上がってしまうけど、私には出来ると思うのよ。台湾人の
 購買意欲の高さってとてもポテンシャルを感じさせるのよ」

アクションを交え、くるくると表情を変えて構想を語るM。
相手を納得させてしまう迫力、そして「この人なら何かやってくれそう
だな」と感じさせる魅力を備えている。

ひと通り構想を話し終えたタイミングで料理が運ばれてきた。

「さぁ、難しい話はこれくらいにして、美味しい食事をいただきましょ
 う!」両手を胸の前で合わせたMが音頭を取る。

「いただきま~す」
お腹が減っていた私は料理に手を伸ばす。

「そうだ。まだ名前を聞いてなかったね」と私が切り出すと
「あっ、そうでしたね。申し遅れました、キャンディです」

「可愛らし名前だね。失礼かも知れないけど、あまり台湾人っぽくない
 顔立ちしてるよね」
「はい。父は台湾人ですが、母はタイ人なんです。もう離婚しちゃいま
 したけどね」そう言って笑顔を見せてくれたキャンディ。

台湾人とタイ人のハーフだった。
顔立ちから漂う南国情緒はその為だったのか。

これまでの生い立ちや楽しかったお客さんとのエピソード。
日本への憧れなど、初対面の割には思った以上に自分の事を話してくれ
たキャンディ。


場の空気が暖まったところでMがキャンディの仕事や収入に関する話を
し始めた。

「私はあなたが欲しい。私のビジネスを手伝って欲しい。あたなにはそ
 れが出来るのよ」とM
そんな事を突然言われて驚いた表情のキャンディ。
そりゃそうだろう。ちょっと引いてるようにも見えた。

「彼が日本から商品を送ってくれる。その辺にある偽物じゃない。本当
 の日本の商品よ。偽物と分っていながら渋々と商品を買っている人た
 ちへ本当に日本のデザインやクオリティを感じて欲しい。あなたなら
 それを伝える事が出来ると思うの。どうかしら?手伝って欲しいのよ
 」
そう言ってキャンディの手を握るM。

「私のことをそこまで。。。とても嬉しいです。ご期待に応えられるか
 どうか。。私にはその自信が。。。」
「大丈夫よ。あなたになら出来るわ。」
キリっとした表情になるM。

「それと。。。Mさんのお仕事には興味があります。その~~~」
何か聞きづらそうなキャンディ。

「お給料のことね? 今のお店からは幾ら貰ってるの?」
単刀直入にそう聞くMに対して、キャンディは指でテーブルをなぞるよ
うにして数字を書いた。

Mの右の眉が一瞬動いた。
そして
「分ったわ。心配しないで。少なくとも今のお給料より上の金額を払う
 ようにするわ。少し時間を貰える?勝手に決めるとヒースが怒るから
 」
と珍しくヒースを気遣うMだった。

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食事を終え、Mの運転する車でキャンディを送った。
車を降りて頭を下げ、笑顔を手を振り私たちを見送るキャンディ。
とても丁寧だ。

「どう口説けそう?」おT聞くと
「あの子、結構な給料を貰ってたわ。本当かどうかは分らないけど、小
 さな店の販売員としては破格のギャラよ。びっくりしちゃったわ」
険しい表情のM。

「そうなんだ!」

台湾の販売員。
全てではないけど、基本給プラス歩合が一般的。
キャンディにはフォンが付いているし、販売力がある。
当然、その仕事に見合った給料になっているはずだ。

「どうするの?諦める?」
「ヒースに相談する必要があるけど。。。彼女には販売員としての魅力
 以上に店のイメージを確立させるアイコンとしての役割を担ってもら
 えるわ。どうしても来て欲しい。ヒースを説得しないと」

アメリカ人のヒースは仕事が細かい。
そしてコストにうるさい男だった。

でも、結局Mが押し切るいつものパターンになるんだろうなぁ~

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そして数日後
「キャンディ、ウチに移籍してくれることになったわ」
Mからの電話。

「良かったね!」と答えた私だったが。。。

「ねぇ、M。商品。商品はどうするの?まだ何を売るのか、どんなお店
 にするのかが全く決まってないじゃん」

少しMのお尻を叩かないとさすがにマズイと感じた私はやや強い口調で
話した。

「そうねぇ~。あなたが日本から送ってくれたカタログに目を通してお
 くわ。あなた、明日帰国よね?じゃあ3日以内にオーダーをメールす
 るからすぐに手配して。例の衣料品店との交渉も継続して。私、あの
 ブランドの服を売りたいのよ。この台湾で」

Mからの依頼で日本のある女性服ブランドと交渉を始めていた私。
初めての仕事だったけど、楽しかった。
先方も初めて海外からのオファーを貰い、慎重ながらも興味を持ってい
てくれた。

帰国したら、また交渉再開。
胸が高鳴った。

つづく





キャンディ 1


「ねぇ。私、日本の服や雑貨を売る。そんな店にトライしようと思うの。
 あなた、強力しなさいよ。あなたも儲けられるかもよ」

そう言ってウィンクしたのはMだった。

本業はアパレル。
なので目の付け所は悪くない。

でも、彼女が手がけているのは男性向けブランド。
社員、スタッフを増員。
乗りに乗っているこの時期に、新しい事にトライしたい。

Mの気持ちは理解出来た。

「いいけど。。。女性向けの店を立ち上げるの?」
「ええ、そうよ。若い世代の女性に向けた事業を立ち上げるの」

Mの頭の中にはボヤ~としたイメージしかなかった。

横でMの話を聞いているヒースがオフィスの天井を見上げて両手を広げる。
賛成しかねるという意思表示だ。

「ワイフ。良く聞いてくれ。俺たちには若い女性向けのビジネスを展開す
 るノウハウなんてないだろう。マンパワーだって足りない。今、我々の
 ビジネスが順調だ。この事業1本で進むべきだ。新しいトライアルはも
 う少し先にすべきだよ」

「あなた、何を尻込みしてるのよ!私たちがモタモタしてたら、他の誰か
 が同じ事を始めてしまうわ!」
Mの言葉には焦りとトゲがあった。

いつも冷静で慎重なヒース。
指摘が的確だった分、Mは頭に来たのかも知れない。

「ワイフ、冷静になれって。現状では無理だよ」
「話にならないわね!」とバッグを肩に掛けて席を立つM。

「さぁ、行きましょう」
「行きましょうってどこへ?」
「店舗を探しに行くわよ。そして働いてくれるスタッフもね」
「いっ、今から?」
「そうよ。何をボヤッとしてるの。行くわよ」

私がヒースに視線を向ける。
ヒースはたばこに火を付けながら笑顔を見せる
「悪いな。一緒に行ってやってくれ」
そう言っているような感じがした。

巻き込まれた。。。

プライベートでは仲の良い夫婦で一緒に食事を作ったりもするけれど、
ビジネスではこうして時々意見が衝突する。
そして私は板挟みになる。

今回も最終的にはヒースが折れるんだろうなぁ~

そう思いながらMがエンジンを掛けた車に乗り込んだ。
そして街の繁華街へ向かった。

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当然のことだけど、その日は具体的な収獲はない。

でも、Mの仕事に対する情熱。。というか執着は物凄いものがあった。

良さそうな立地にある店を見つけると車を止めて、店に入る。

そして「ねぇ、この店、私に譲る気はない?」と躊躇なく話を切り出す
のだ。

営業している店にとっては何とも失礼な振る舞い。

あとで
「ねぇ、なんであんなことを聞くの?失礼なんじゃない?」と聞くと。
「経営なんて表から見るのと裏から見るのとでは全然違うわ。理由は
 様々だけど、閉店を考えてる、考え始めてるという人は多いのよ。
 特に浮き沈みの多い台湾ではね」

聞かなきゃ何の分らない。
聞くだけ、話をするのはタダだから。。。確かにそうかも知れない。

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数ヶ月後、再び台湾へ行く機会に恵まれた私。

Mから電話で連絡を受けた。

「人通りの多い場所にある物件があったわ。一緒に見に行かない。も
 っとも、もう押えちゃったんだけどね」とM。

「もう押えちゃったって。。。まだ何を売るかも決めてないのに?」
「えぇ、そうよ。ヒースはカンカンだけど。。。ウフフ」

ウフフじゃないだろう。。ヒースが怒るのも無理はない。

「スタッフとして来てくれそうな子も見つけたわよ。今日は彼女と軽
 く食事するの。だからあなたも来て」

私のスケジュールが勝手に埋まっていく。。。いつものことだけど。

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午前11時にMの車が私の宿泊しているホテルに到着。

「例の子とは12時から○○ホテルでランチするの。予約はしてある
 わ。その子、この街ではちょっと有名なスタッフなのよ」

「へぇ~。来てくれそうなの?」
「分らないわ。彼女が働いている店の売上は相当なもの。お客のほと
 んどが彼女に憧れていて、彼女のようになりたくて店に来る。お給
 料も良いでしょう。オーナーもそう簡単には手放さないと思うわ」

Mの車が止まる。
「ここよ」とM。

人通りのある店舗だった。
たまたま見つけた空き物件。
すぐに借り手が見つかってしまうと思ったので、即断即決。すぐに契 
約を交わしたそうだ。

常に人が歩いている。
「夕方から夜にかけては学生たちがたくさん買い物に来る通りよ。タ
 ーゲットドンピシャよ」

Mが展開しようとしている日本の衣料品や雑貨。
台湾の学生達は大好きだ。
ビジネスになるかも知れない。。。そう思った。

「来週から店舗の内装工事が始まるわ。ねぇ、日本から商品を送って 
 ね」
「えっ?送るって。。。何を売るのさ?ミーティングもしてないじゃ
 ん」

「大丈夫よ。何でも売ってみせるわ」自信満々のMだ。
向かうところ敵無しの快進撃を続けていたM。
そう言い切れるだけの自信と確信があったのだろう。

しかし。。。。
何でも良いから送ってってのは。。。ビジネスなのだろうか?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「車に乗って。スタッフとして迎える子とのランチに行くわよ」
「あっ、はいはい」

もう完全にMのペースだ。

意外と慎重なMが運転する車は市内にある外資系ホテルに到着した。

ホテル地下にある駐車場に車を止めて、エレベーターでロビーフロア
へ上がった。

エレベーターのドアが開く。
Mと2人でフロアに出た。
辺りを見回すM。
そして「ハ~イ!」と笑顔で大きな声。

ロビーにいた人達が一斉にこちらに視線を送る。
ひやぁ~、みんなこっちを見てるじゃん。
恥ずかしいしな~。。。

そして1人の女性が笑顔でこちらへ向かって歩いてきた。

「待った?ごめんね」とMが親しげに話しかける。
「いえ。それほどでも。」と笑顔の女性。

台湾人っぽくない彫りの深い顔。
目や鼻のパーツに南国情緒を感じてしまった。
綺麗だ。

「こちらが私の日本のパートナー。彼が日本から衣料品や雑貨を送
 ってくれるのよ」
「初めまして」と女性が静かな口調で挨拶をしてくれた。
「初めまして。よろしくね」と挨拶を返す私。

「さぁ、ご飯にしましょう」とM。
ホテル内にあるレストランへと向かった。

大人しいけど、笑顔を絶やさず、気品があって台湾人っぽくない顔
立ち。
立ち姿や歩き方も美しい。

きちっとしているけど、押しつけがましくなく自然な感じだ。

仕事も出来そうな感じだ。

これは女性からの支持もあるだろうなぁ~。

レストランのスタッフに案内され、我々3人は席に付いた。

果たして彼女はMの話を受け入れてくれるのか?
Mは彼女を口説けるのか?

楽しみになってきた。

つづく


パーティ パーティ IN 台北 出会った彼らのその後

台北のパーティで出会った芸能人や芸能人のたまごたち。

今も私の記憶の中が輝いている彼ら。

そんな彼らのその後。

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JD

台湾のスーパースター。

Mが電話でサイン入りのCDを私にプレゼントするよう無理なお願い
をされてしまっていた。

直接会う事は叶わなかったけれど、後日、本当にMのオフィスにサイ
ン入りのCDを送ってくれた。
あれだけのスーパースターだというのに、細やかな気遣いが出来る人。

youtubeで検索したら今年も新曲をリリースしているようだった。

たゆまぬ努力と周囲の人を大切にする心が彼の人気を支えているのだ
ろうと思う。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

マイケル

繊細で優しかったマイケル。

ある日、台北の街で再会した際には気軽に声をかけてくれた。
ファンに囲まれていたのに私に気が付いてくれた。
(まぁ、分かり易い顔してるので。。。)

「僕の事、覚えてますか?」なんて向こうから気さくに声をかけて
くれた。
「と言うか、俺の事覚えてるの?」と私が聞くと
「はい。だからこうして日本語で話しかけてます」と微笑んでくれ
た。

パーティで会った時の印象そのままだった。

芸能界ではあまり有名にはなれなかったようだけど、彼の性格なら
誰にでも好かれて、周囲の人も幸せに出来ているのではないかと思
う。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

キングゴリラ

パーティ会場では私を追いかけたり、持ち上げたり。
話も上手で私とマイケルを終始笑わせてくれたゴリラ。

その後、Mの尽力でストリートファッション系の雑誌のモデルに起
用されたり、テレビで見かけることもあった。

知名度はそこそこあったようだけど、生き残ることは出来なかった
ようだ。

台湾の友人達に聞いても「まぁまぁだったかな~」との声が多かっ
た。

今頃はどうしてるのかなぁ~。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

DJ POO

パーティの後、スカイやMのオフィスで働くスタッフ、マイケルや
私を誘って食事会に連れて行ってくれた。

会食中、独特の話術で場を楽しく盛り上げてくれていた。

後日、JDのサイン入りCDをMのオフィスまでわざわざ届けてく
れたのは彼だった。

その際も「元気?またご飯に行きましょう!」と気さくに声をかけ
てくれた。

当時はテレビで良く見かけたけれど、当時すでにアパレル事業にも
進出していたから、今頃は実業家になっているかも。

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スカイ

パーティから数年後に独立。

香港からブランド品を輸入し、台湾全土へ営業開始。
瞬く間に知名度抜群の経営者へ!

面倒見があって兄貴分的な存在のスカイ。
誰に聞いても「良い奴」「信頼してる」という声を評判だった。

忙しくなった後も、街で私の姿を見かけると必ず声をかけてくれた。

一緒に仕事をする話を持ちかけてくれたけど、日本の仕事が忙しく
なってしまい、夢は叶わず仕舞いだったけど、台湾では本当にお世
になった。

頼れる奴だった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ジャッキー・ワン

今でも台湾のスーパースター。
昨年(2019年4月)
母と台湾に行った際にも彼が出演しているテレビ番組がたくさん放
送されていた。

浮き沈みの激しい台湾芸能界で長く現役トップの座に君臨している
のだから、相当なやり手なのだろう。

握手した時の分厚い手と大袈裟な笑顔が今でも印象に残っている。

普通のおじさんっぽいけど、大物が放つオーラを感じさせた。
存在感ってあるものですね。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

そして、あの女の子。

Mの話では業界で有名になる為に知名度のある芸能人の愛人になる
子も多々いるそうだ。

彼女が本気でワンのことを好きだったのか、有名になる為のステッ
プとしてワンの愛人になることを選択したのか?

私には分らない。

その後、どうなったかも分らない。

たった1度の出会い。。。出会いというほどのものではないか。

もう顔も覚えていないけれど、世界のどこかで元気にしていて欲
しい。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Mとヒース。

彼らに関してはまた別の機会に書いてみたいと思っています。


尚、ここに登場する芸能人たちに関しては、現役で活躍されている
方々もいる関係上、仮名を使っています。

まぁ、向こうは私のブログなんて読むことはないでしょうけどね。

ありがとうございました。

おわり。





パーティ パーティ IN 台北 5


台湾の大物芸能人 ジャッキー・ワン主催のパーティ

業界関係者でもないのになぜかパーティに参加した私。

人懐っこい台湾の芸能人達との出会い。
そして彼らとの楽しい会話。

華やかな場での楽しい時間が過ぎていく。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ねぇ。可愛い子は見つかったの?」
POOとの軽い打ち合わせを終えたMが近づいてきて、私に話し
かけてきた。

あっ!
そうだった。
パーティに参加している女の子を紹介してくれるという約束
をしてたんだ。

マイケルやゴリラとの会話、そして台湾の大物芸能人のジャ
ッキーとの対面が続き、すっかり忘れていた。

華やかな場所にいるというのに、話したのは全員男。
そのウチのひとりは筋肉野郎のゴリラとは。。。

「M、本当に大丈夫なの?」
「フフフ。大丈夫よ。でも、誤解しないでね。あくまで引き
 合わせするだけよ」

「もっ、もちろん!」
台湾の芸能人やモデルさん、そのたまごたち。
可愛い女の子と話が出来るだけでも上出来だろう。

「会場を一巡りしてくれば良いじゃない。話してみたい子が
 いたら、私に声をかけてね」とMがウィンク。

ずば抜けた交渉能力。
そして不思議と人を引きつける魔力のようなものを持つM。

もしかすると、もしかするかもな。。。
などと妄想を始める私。

飲み物をお代りをする体で会場内を歩き始めた。

少し歩いただけなのに、綺麗な人や可愛い人がこんなにたく
さんいるなんて。。。

台湾女性の顔立ちが好きな私には楽園天国のような場だ。

少し会話が出来ればなんて話していた筈なのに、この中の誰
かと付き合う事になり、台北の街を歩いてる妄想が広がる。
馬鹿な私。

もう誰でも良いんじゃないか。。。そう思いながら会場内を
歩いているときだった。

1人の女性の姿が目に入った。

ストレートのロングヘア
つやつやの黒髪がライトに照らされていて美しい。
色白で円らな瞳。

会場内にいるタレントさんやモデルさん達のキラキラとした
雰囲気とは違う。。。夜空に浮かぶ満月のような静かな輝き
を放っている。

立食用のテーブルに1人。
テーブルの上には小さなお皿とティーカップが置かれていた。
優しい笑みを浮かべ、周囲に暖かい視線を送っていた。

誰と会話している訳でもないのに、とても楽しそう。

でも、ちょっと陰があると言うか。。。儚さを感じる。

「あんなに綺麗な人なのに、誰も話しかけたりしないんだな。
 高値の花。。。そんな存在なのかも知れないな」

そう思わせるような独特のオーラを発していた。

よし!あの子にしよう。

このまま話しかけても良いような気がするけど、成功の確率
を上げる為には、Mの強力が必要かも知れない。

そう思いMのいる場所へ引き返す私。

彼女を見つける前に「綺麗」「可愛い」と思った女性の事は
全て頭から消えていた。
それほどのインパクトがあった。

一直線にMの元に戻ってきた私に
「良い子が見つかったみたいね」とMが微笑んだ。

「うん。いたよ。見つけたよ!」
「あらあら。鼻息が荒すぎよ。落ち着いて。ちょっと一杯飲
 んで落ち着きなさい」とMがグラスを差し出した。

「う、うん。」
Mの差し出したグラスを受け取り、ゴクリ。。。うぇ~ウィ
スキーだ!ウーロン茶じゃないのかよ~~~!

「それで?どの子?私が連れてくるから」
「本当に大丈夫?」

「大丈夫よ。任せなさいって」
「う、うん」

「で?どの子?」
「あそこ。あのテーブルに1人でいる女の子」
と周囲に気付かれないように小さく指を差す。

私が指さす方向に視線を送るM。

「どれどれ?うん?」

そして次の瞬間だった。

Mは表情を変えず、私の方を顔を近づけた。
そして。。。
「あの子はダメよ」
とキッパリ。

えっ?
どうして?
なんでダメなの?

「えっ?どうして???紹介してくれる。誰でも紹介してく
 れるって言ったじゃん」

「あの子はだ~め。ダメなのよ」

「どうしてさ?」
「こっちに来なさい」Mが私の腕を引きながら歩き出す。
そして私を廊下へと連れ出した。

「なんでダメなのさ?」
「あの子は。。。特別なのよ。」

「もう彼氏がいるとか?」
「まぁ。。。そんなもんね」

「やっぱりそうかぁ~。あんなに綺麗なんだもんなぁ。彼氏
 くらいいるよなぁ~」
と言いつつ
「でもさ、話。話くらいはしても大丈夫だよね?」と諦めの
悪い私。

「だ~め」とMはつれない返事。

「話をするのもダメなの?」
「そうよ。話をするのもダメ。近づくことさえダメなの!」

そしてMは私の耳元に口を近づけ、こう囁いた。

「あの子。。。ジャッキーの愛人よ」

ガ~~~~ン!
ジャッキーの。。。あいじん。。。

あんなに可愛い女の子が普通のおじさんにしか見えないジャ
ッキーの愛人。。。。

力が抜けてしまった。。。。
なんであのオッサンが。。。
しかも奥さんではなくて愛人。。。。

「なんであの子がそんなことしてんのさ」
「知らないわよ。でも、彼女がジャッキーの愛人だという事は
 業界内では公然の秘密。だから誰も声をかけたりしないのよ
 」

「なんだよジャッキー!愛人ならこんなところに連れてくんな
 っての!」
と、なぜか半ギレした私。

「理由は分らないわ。それが彼女が選んだ道だわ。それはあな
 たには関係ないでしょ?」
「た、確かにそうなんだけど。。。なんだかぁ~」


「そうかぁ~。。。彼女を見た瞬間、身体に電流が走ってさ。
 Mに紹介を頼む前に話しかけちゃおうかな?なんて思っちゃ
 たんだよね~」
冗談めかしてMにそう伝えると、Mの表情が変わった。

「もしそんなことしたら、あなた日本には帰れなかったかも。
 台湾の海に捨てられていたかも知れないわよ」とM。

「まさか。話しかけたくらいで?」
「ジャッキーは台湾芸能界の大物よ。彼の顔に泥でも掛けてみ 
 なさい。大変なことになる」

「そんなものかね。。。。」

半信半疑だったけど、可能性がゼロではないのだろう。

再び会場内に戻った私。
マイケルやゴリラが迎えてくれた。

そしてまた、ゴリラのトークで笑いの渦が巻き起こり始めた。
ゴリラは顔が濃い分、表情が豊か。
トークが上手く彼の近くにいると本当に楽しい。

腹を抱えてゲラゲラと笑いながらも、ついつい横目であの子を
見てしまう私。

「あの子がねぇ。。。」

人にはそれぞれの生き方がある。
分ってはいるけれど。。。今ひとつ納得出来ない私がいた。


(おわり)

パーティ パーティ IN 台北 4


台湾人のような日本人、私
爽やか青年のマイケル
そして筋肉お化けのキングゴリラ

なぜか話のウマが合うこの3人組。

楽しく談笑をしている時だった。

「コンバンワ~~~!」
いきなり大きな声を出して現れたおじさん

おじさんの隣にはレディM。
おじさんは。。。あのジャッキーだった。

満面の笑みで
「ワタシハ ニホンゴ ゼンゼン デキマセ~ン!」
とこれまた大きな声を張り上げながら、人懐っこい笑顔で
右手を差し出してくれた。

私が右手を差し出すと、その手を強く握りしめながら
「今日はありがとう。お会い出来て光栄です」と挨拶をして
くれた。


マイケルとゴリラはやや緊張した面持ちになっていた。

「一緒に写真、いいですか?」とジャッキー。
とても気さくだ。

「いいんですか?」と私が聞くと
「もちろんですよ。あたなも私の友人だ」と笑顔のジャッキー。
社交辞令だろうけど、素直に嬉しかった。

「マイケル。私のカメラで撮影してくれる?」とMがカメラを
マイケルに渡し、ジャッキー、M、そして私の3人で写真に収ま
った。

「マイケル、ゴリラ。新しい契約がまとまりそうだから、A社の
 社長さんに挨拶しておいて。ほら、あそこのテーブルにいるだ
 ろ?」とジャッキー。

マイケルとゴリラは
「ジャッキーさん、ありがとうございます!」と深々と頭を下げ
て「挨拶が終わったら戻ってくるね」と私に声を掛けてA社社長
がいるテーブルへ早足で向かった。

ジャッキーは目を掛けている新人タレントを自分の番組に出演さ
せたり、スポンサー企業との橋渡しをしたり。。。みんなの兄貴
分のような存在でもあるのだろう。

駆け出しの新人さんたちにとってはとても心強い存在のはず。

「M。ごめん、他のスポンサーさんにも挨拶に行かないと」とジ
ャキー。
「気にしないで。お時間を割いてくれてありがとう」とMが返す。

「謝謝」と私が言うと、軽くハグしてくれたジャッキー。

売れっ子タレントでもありやり手のビジネスマンでもある。
そんな印象だった。

「ジャッキーの後押しがあれば、新人君たちも安心だね」と私が
Mに話をふると

「個性的な人やイケメンなんて掃いて捨てるほどいる。顔が良く
 て歌が上手い位じゃ誰の記憶にも残らないわ。台湾人は飽きっ
 ぽいしね」とM。

「そうだね。言われてみれば、確かにそうだよね。」


A社の社長さんや重役らしき人達に笑顔で頭を下げているマイケル
とゴリラを見ながら、「どこの世界でも生き残るのは大変だな」と
思った。

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「M、DJ POOさんがご挨拶したいと」
私とMが談笑している場所にスカイが早足で歩いてきた。
スカイの後ろには小太りな男性がこちらに笑顔で手を振っていた。

黒いティーシャツに黒い短パン。
スニーカーも黒だ。

長い髪を後ろでまとめ、両サイドは短く借り上げられている。
黒縁のメガネを掛けている。

体型の割に身だしなみに気をつけている。
程よく香水の香りも漂わせている。
きっとオシャレが好きな感じだ。

「M姐さん、こんばんは。記者会見、最高でした!」
完結にそつなくMを持ち上げる。
彼も相当なビジネスマンなのだろう。

DJ POO。
彼もMがスポンサーをしているタレントの1人だ。

「こちらはPOO。台湾ではちょっと有名なDJよ」
「姐さん、やめてくださいよ。私なんてまだまだ。。」と照れ臭そ
に笑うPOO。人懐っこい笑顔だ。

「彼は私の友人。このパーティの為に日本から来てくれたのよ」
出た!
Mの十八番!
嘘。。。とは言わないが、いつも大袈裟に話を膨らます。
私はたまたま他の用事で台湾を訪れていただけなのに。。。まった
く。

「へぇ~!そうなんですか!さすが姐さん、海外にも友達がいるん
 ですね!」

POOが私を見て右手を差し出す。
私も握り返す。

「コンバンハ。よろしく」
「ありがとう。よろしく」

挨拶を交わし合う。

「そうだ。姐さん、実はJDなんですけど。。。」

JD
台湾の大物ミュージシャンだ。

「今、新作のレコーディングが押してて、今夜は来れそうにないっ
 って。。。」

ジャッキーと親交があり、今夜のパーティに来る予定だったのだ。

「いいのよ。いいのよ。彼は今、台湾で一番の売れっ子。落ち着いた
 らまた台北で食事会でも開きましょう。そう伝えておいて」

「分りました。。。おっ?」
POOの携帯が鳴った。
「姐さん、そのJDから電話ですよ。もしもし。。。姐さん、今、俺の
 目の前にいる。ちょっと待ってて。はい姐さん」
POOが彼の携帯をMに渡す。

「元気にしてる?忙しそうじゃない?えつ?いいのよ~。今はあなた
 にとってとても大切な時期なんだから。えぇ?来週?大丈夫よ」

JDと携帯を通して会話をするM。
楽しそうでもあり、誇らしげでもあった。

声を少し大きめにしているのは周囲に自分の存在を誇示したかったの
だろう。隙が無い女性だ。

「そうそう。今夜のパーティに日本から私の友人が来ていてね。あな
 たの大ファンなのよ~」とMは私に視線を向けてウィンク。

おいおいおいおい。
JDの事は知ってるけど、別にファンじゃないんだけど。。。

横でスカイが吹き出すのを堪えている。

「本当?私の友達も喜ぶと思うわ~。あなた、本当に優しいわね。ウ
 ン、分ったわ。また連絡ちょうだい」
JDとの会話が終わったMがPOOに携帯を手渡し、私に顔を向けた。

「JDが自分のCDにサインを書いてくれるって。あなたへのギフトよ」
「あっ、ありがとう」

いつの満仁やらJDのファンに仕立てられた私。
CDなんて頼んでない。。。

要らないとも言えないし、喉から手が出るほど欲しくもない。
そしてそのCDはいつ届くのだろうか。。。?
微妙。。。


MとPOOがビジネスの話を始めた。

私はスカイに向かって
「JDのCD。もし届いたら、スカイにあげるよ。俺が貰っても価値が
 分らないからさ」

「いやっ!貰えないっすよ~」とスカイは目を大きく開いて両手を
私に向けて手を振った。

「このパーティの後、時間ありますか?」とスカイ。
「空いてるよ。何の予定も入れてない。何かあるの?」

「はい。POOさんから晩ご飯に誘われてて。なかなか行けない店なの
 で、台北の思い出になるんじゃないかと思って。超高級中国料理
 ですよ。僕も行ったことないですけど、超美味しいって評判です」

「行きたいけど。。。POOさんと面識ないしなぁ」
「さっき握手したじゃないですか。もう友達ですよ」とスカイが笑
う。

「さっき会ったばかりなのに悪いよなぁ。しかもPOOさんが誘ってく
れた訳でもないし」
「大丈夫っすよ!行きましょう。マイケルも来ますよ。」

いやいや、マイケルとも今夜初めて会ったばかりなんだけど。。。
まぁ、いいか。流れに身を任せてみよう。

台湾ではこうやって人脈を広げる。広がっていく。

芸能人ではないけれど、土産話にはなるだろう。

あちらこちらで笑顔と笑い声。
賑やかで華やかな台北でのパーティは続く。

つづく。