パーティ パーティ IN 台北 3


「お待たせしました。さぁ、会場に入りましょう」
スカイが先導してくれる。

台北の高級エリア。
日本でいえば東京の代官山っぽいエリアになるのだろうか?

入口で厳しいチェック。。。は全くなく、スカイが受付でIDカードを
受け取り、それを首から提げて会場へ。

エスカレーターに乗って2階へ上がる。
「まぁ~!来てくれたのね!」
レディMが大袈裟に手を広げ、満面の笑みで迎えてくれた。

そして走り寄ってきてハグ!
日本人の私はこういうのに慣れていない。

もちろん台湾人のほとんどがこんな欧米じみたことはしてこない

アメリカ人のヒースは自分の奥さんがこんなことをしても、別に腹を
立てたりはしない。

「分った分った!分ったからもうこの辺で」
何が分ったのかは分らないけど、私はそう言ってMを引きはがした。

スカイがニヤニヤしながら私の顔を見ていた。
私は舌を出して白目にしておどけた。

「嬉しいわ!本当に嬉しい」
「仕事が順調なようで、私も嬉しいよ、M」

「ありがとう。私のキャリアにとっても試金石になるビジネスになる
 わ」
「記者会見もあったんでしょ?」

「そうなのよ~。あなたを迎えに行こうと思っていたんだけど。。。
 昨夜、ジャッキーのマネージャーからいきなり電話があってね。ジ
 ャッキーがマスコミを呼んでしまったからって。。。」

そう言いながらもMは嬉しそうだった。

そりゃそうだろう。
大手のテレビや新聞がこぞって取材に来たのだろうから。

実際、翌日の新聞の芸能欄はジャッキーが1面を独占。
Mもしっかり写真に写っていた。
大きな宣伝になっただろう。

「そろそろパーティーを始めます。参加される方はIDカードが分るよ
 うにしておいて下さい!」
黒服の男がパーティ会場へ入るよう促す。

「さぁ、行きましょう!」
Mは私の手を引っ張ってグングン会場へと進んで行く。

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「ハロー」
「ようこそ」
「いらっしゃいませ」

会場内では華やかな女性たちがそう声を掛けてくれた。

綺麗な女性
可愛い女性
レベル高っ!

「みんなモデルやタレントのたまごたちよ。どう?台湾の女の子たち、
 可愛いでしょう?」
「それは知ってるけど。。。。ここにいる子たちはレベルが違うね」

会場内に参加者が集まると、場の空気が暖まる感じがした。

皆、楽しそうな顔をしている。

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「そろそろパーティを始めたいと思います」
司会者の黒服が進行する。

「本日の主催者であるジャッキーから皆様へご挨拶があります」
そう言って黒服が拍手をすると、会場内の参加者達も拍手を始めた。
ヒューヒュー!と口笛を鳴らすものもいた。

その拍手に迎えられ、スーツに身を包んだジャッキーが登場!
両手を挙げて、手を振る。
大袈裟なスマイルだけど、慣れているようだ。

会場内は大歓声だ!

「彼がジャッキーよ。台湾芸能界の大物のひとりよ」
Mが耳元に顔を寄せてそう言った。

格好良くもない、普通のおじさんにしか見えないけど。。。大物なんだ。

ジャッキーが挨拶をしているけど、中国語なので私にはサッパリ理解出来な
い。
さすがに芸能人
良く通る声をしている。

3分程度でジャッキーの挨拶が終わり、立食パーティが始まった。

「さぁ。料理をいただきましょう」
またMが私の手を引っ張る。

立食用のテーブルのひとつにはMの名札。
私たちの専用テーブルだ。
そこに料理を運び、ウェイターからワインを貰った。

「M、凄いね」
「ジャッキーとも良い話がまとまったのよ。コストは掛かるけど、それに見合
 た、いえ、それ以上のリターンがある契約になるわ」

Mは本当に嬉しそうだった。

そこへ
「本日はご参加いただき誠にありがとうござます」と1人の女性が挨拶に来た。

うわぁ!めちゃめちゃ可愛い!

「あら、こんばんは。この前、ジャッキーのオフィスで会ったわね」
「覚えていてくれたんですか!嬉しい!」
その子は両手を胸の前で合わせて、綺麗な歯を見せて喜んだ。

「今日はジャッキーのお手伝いで来ました。何かありましたら遠慮なくお申し
 付け下さいね」
「ありがとう。そうそう。この人、私の友達で日本人なのよ」
と私を紹介してくれたM

「え~!そうなんですか!初めまして。コンニチハ。。。でいいですか?」
妙な発音の日本語を交え、そう挨拶をしてくれた女の子。

「初めまして。日本人に見えないでしょう?」
私がそう言うと
「そ~んなことないですよ~。中国語が出来るのですね」
「簡単な会話だけ。深い話は出来ないです」

「すご~い!私なんて日本語も英語も出来ないのに~」
「日本語は難しいからね」

「高校生の頃、少しだけ勉強しましたけど。。。ギブアップしました」

笑顔がキラキラしていてる。

「私はこの辺にいますから、何かあったら声を掛けて下さいね!」
「ありがとう!」

笑顔で手を振り、軽く会釈をして彼女は他のテーブルにいる参加者へ挨拶を
しに行った。

「M、あの子、可愛いね~」
「フフフ。たまごとは言えモデルを目指している子ですもの」

「だよね~」
「そうだ。もし気に入った子がいたら、私に言ってちょうだい。あなたに紹
 介するから」

「え~!いいの?」
「問題ないは。でも勘違いしないでね。口説けるかどうかはあなたの腕次第
 。私はそこまで関与出来ないわ」Mは笑った。

そんな話をしていると
「コンニチハ」と男性の声。

「あらマイケル!」とMが笑顔で応える。
そしてハグ。

華奢な男の子だ。
Mと挨拶を交わした後
「初めまして。私はマイケルです。宜しくお願い致します」
と流暢な日本語で私に話しかけてきた。

「あれ?マイケル君、日本語が上手だね!」
「はい、勉強を少しだけしました」

「学校で?大学で専攻していたの?」
「いえ。。。あの~、私は日本の漫画、特にドラえもんが好きなんですけど、
 中国語ではなく、どうしても日本語で読んでみたくなってしまい、独学で
 勉強をしました」
そう言って照れくさそうに舌を向いた。

「独学でこんなに上手になるの?」
「私の日本語、大丈夫ですか?」

「大丈夫どころか、とても綺麗な日本語だよ」
「ありがとうございます。ちょっと緊張してますけど。。安心しました」

お世辞でも何でもなく、マイケルの日本語は本当に綺麗だった。

マイケルはジャッキーに面倒を見てもらい、最近デビューしたタレントだった。

「このマイケルもウチと契約を結んだのよ」とM。
「そうなの?」と私はマイケルを見た。

「はい。Mさん、とても親切で。。。いつもご飯をご馳走になっています」
マイケルもジャッキー同様、テレビに出演する際はMのブランドの服を着る
契約を結んだようだ。

「まだ全然有名ではない僕と契約してくれるなんて。。。とても嬉しかったで
 す。僕、頑張りますね」
マイケルが笑顔でMにそう話す。

マイケルをハグするM。

ビジネスの契約。
ではあるけれど、家族的な結びつきのような暖かさを感じる。
マイケルを抱きしめているMは、ちょっと歳の離れたお姉さんのようだった。

ちょっと感動。。。とその瞬間

突然、私の身体が宙に浮いた!

「うわぁ~!」
腰の辺りには浅黒い筋肉質の手が巻かれていた。

「おいおいおいおい!下ろしてくれよ!」
持ち上げられたままもがく私。がそう言うとス~と優しく下ろして
くれた。

着地した私が振り返るとタンクトップを着たマッチョな男が立っていた。
身長は190センチほど。
タンクトップから見える肩や腕がとても逞しい筋肉マン。

「あら!キングゴリラじゃない!」
私と筋肉マンを見て、Mが大声で笑った。

「キングゴリラ???」
「おぅ!オハヨウゴザイマス!」と妙な日本語で挨拶をしてくれたキングゴリ
ラ。

オイオイ、今は夜だよ!
心の中でそう思ったけど、面倒なので黙っていた。

Mが会話の橋渡しをしてくれる。
「彼はキングゴリラ。これから有名になるわよ。彼との契約もまとまったのよ」
「ハッハッハッ。M姐さん。今回はありがとう。仕事、バリバリやりますよ!」
ゴリラはまるで誓いを立てるかのように大きな声を出して、力こぶを作ってみ
せた。
腕の筋肉が隆起した。

「そして彼は。。。」と私を紹介しようとしたところ
「日本人ですよね!俺、日本人を持ち上げるのが大好きなんスヨ~」と言って
今度は両腕で力こぶを作ってみせた。

「凄い身体してるね~」
「毎日筋トレしてるよ。日本人、あんたも鍛えた方が良いんじゃネ?」

まさにゴリラだ。
マイケルのような繊細さ、知的な感じは全くない。
野生のゴリラの方がジェントルなんじゃないだろうか。。。

でも、顔は精悍。
野性味のある顔立ちで格好良かった。

台湾人にしか見えない私
イケメンで繊細で知的なマイケル
そして筋肉お化けのゴリラ

妙な3人で会話している不思議な空間だった。

オーバーなアクションと大きな声で笑いを取るゴリラ。
それを見てケラケラ笑いながら、私にも配慮してくれるマイケル。

会って10分もしていないのに、とても身近に感じる彼ら。
とても人懐っこい。

デビューしたての新人さんということもあるだろうけど、業界人でも
ない私につきっきりで話をしてくれていた。

場違いな雰囲気にアウェイ感を感じていた私にとっては心強い2人だ
った。

しかし、キングゴリラ。
会話の合間合間になぜか私を抱えて持ち上げる。
その度に周囲の人達から送られてくる視線。

モデル風の女性たちはケラケラと笑いながら、何かを話している。
「男っていつまで経っても子供よね~」なんて言われてるのかな?

つづく

パーティ パーティ IN 台北 2

パーティ当日

行く気がなかったのにも関わらず、うきうきしている自分。
レディMに貰ったTシャツ。。。全然似合ってない。
まぁ、いいや。気にしない、気にしない。

ピンポーン。
ホテルの部屋のチャイムが鳴る。

レディMが迎えに来てくれたんだ。
彼女にしては珍しく時間ぴったりだ。

仕事は出来るけど朝寝坊の常習犯で時間にルーズなMだった。

「は~い」
バッグを肩に掛け、ドアを開く。

「オハヨウゴザイマス!」
あれ?
Mじゃない。
立っていたのはMではなく、彼女の会社で働くスカイだった。


スケボーや自転車が大好きな今時の若者。
サーフィンの上手いと聞いた事がある。
見た目は厳つい兄ちゃんだけど、仕事が出来て仲間思い。
取引先からは絶大な信頼を受けているMの懐刀。


「あれ?スカイ?Mは?」
「すみません、今日のパーティに先駆けてマスコミ向けの記者会見
 を開く事になってしまい、今朝早くに台北へ行く事になってしま
 ったようなんです。ミーティングをしなければならないようで」

「そうなんだ。相変わらず忙しいね、Mは」
「はい。代わりに僕が車で台北まで送ります。もちろん、僕や他の
 スタッフ達もパーティには参加します。雑用ですけどね」

会社の大黒柱。
なのに全然偉そうにしていない。
スカイのこんなところが人から好かれるのだろうなぁ。

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スカイの運転する車に乗り、いざ台北へ。

「お昼、まだでしょ? これ、良かったら食べて下さい」
ハンバーガーとポテトだ。

「週末のこの時間、高速道路が混むと思うんです。そうなるとお昼を
 食べている余裕がないと思って。ハンバーガーですけど。。」

出来る男だ。

「ありがとう。いただきます」

スカイが買ってくれたハンバーガーとポテトを頬張りながら、スカイと
会話した。

「今日のパーティの主催者って台湾の芸能人なんでしょ?」
「そうですよ」

「有名なの? ジャッキー。。。チェンじゃないよね?」
「アッハッハッハ。違います違います。ジャーーキー・ワンですよ」

「やっぱりそうかぁ~。ヒースがジャッキー・チェンだって言うからさ 
 ぁ。。。そんな訳ないとは思いつつ、ちょっと期待しちゃったんだよ
 ね」
「ヒース、適当なところありますもんね。でも、ワンは台湾では超有名
 ですよ。テレビ番組、たくさん持ってますからね」

「へぇ~。そんな凄い人なんだ。スカイもその人のファン?」
「いやぁ、バラエティ番組のおじさんですからね。俺、あまり興味ない
 ですよ」

「そうなんだね~」
「でも、今日のパーティにはJDが来るかも知れないんですよ」

JD
台湾の歌手で反戦ソングなどのメッセージ性の強い歌を歌ったり、HIP
HOP調の歌を披露したり。当時の台湾では珍しい存在で、ストリート系の
若者を中心にカリスマ的な人気を博していた。
日本の有名ミュージシャンとも親交が深く、日本にもファンがいた。

「あのJDが?」
「はい。ワンとは仲が良いですからね。忙しいからスケジュール調整が
 出来るか分らないので、マスコミには発表していないのですけど。も
 しかすると。。です」

「へぇ~。それは凄いな!」
「JDのこと、知ってるんですか?」

「名前だけはね。日本にもファンがいるしさ」
「ですよね~。来たら写真撮ってもらおうと思ってて」

「良い記念になるね」
「はい。それにウチの会社とも契約が成立しそうなんですよ。ワンの仲
 介で。決まればウチのブランドの服を着てステージに立ってくれるか
 も知れません。とても光栄だし、そうなったら、ウチの会社ハネます
 よ」

「それは凄いなぁ」
Mの営業力。。。図々しさと言った方が良いのか。。は相当なものだ。

「パーティにはどんな人が来るのかな?アパレル業界の人が多いのかな 
 ぁ?」
「業界の人は少ないですよ。ライバル意識が強いので。Mは今、嫉妬の
 対象です」
そう言ってスカイは笑った。

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彗星のように現れ、瞬く間にビジネスを拡大したレディM。
長く業界にいる人達から見ると厄介な存在だろう。

しかしMにも過去がある。
街の小さなジーパン屋で来る日も来る日も悪戦苦闘。
口達者でコミュニケーション能力が高く、お客さん1人1人の顔と名前
を覚え、仕入から販売、諸々の管理まで全て1人でやりくりしていた。

資金繰りに困った際には親兄弟に頭を下げて、お金を貸してもらった事
もあるそうだ。

そんなMがある日、友達の紹介でヒースと出会い、人生が変わるキッカ
ケを手中に収めた。
そこからのMは更に頑張り、今の地位を手に入れた。

でも、そんな彼女の過去を知るものはごく僅かだ。

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「出席するのは芸能人がメインだと思います。ワンが面倒を見ている若
 い子たちなので、それほど有名な人は来ないですけどね」
「そんな場所に俺が行っても良いのかね?」

「はははは。大丈夫ですよ。あなたは日本人だから。それだけであの場
 にいる価値はあります」
「そんなもんかねぇ」

「はい。ここは台湾。自由がルールです。楽しみましょう」
「そうだね。ありがとう」

まだ若いのにスカイの言葉には物凄く説得力があった。

仕事や遊び。
台湾と日本の違い。
スカイの日本に対する印象などを聞いてみた。

「日本は全ての面でお手本になる国ですよ。商品のクオリティの高さ、
 仕事をする人の真面目さ。その他にも音楽や漫画、文化などもそう。
 僕たち台湾人の理想を実現しているワンダーランド、それが日本な
 んですよ」

多くの台湾人同様、スカイも日本が大好きなようだった。

「忙しいから無理かも知れないけど、日本にスキーやスノボをしに行
 きたいんですよね~。ウィンタースポーツ、台湾では出来ないから
 。雪、見てみたいなぁ」

そんな話が出た後に
「あとは日本の女の子。なんであんなに可愛いんですかね~?」
とスカイ。

「台湾の女の子もめちゃくちゃ可愛いじゃん」と私。
「いやぁ、そうですけど、日本には敵わないですよ~」

このセリフはスカイだけではなく、台湾女性からも良く聞く。

私たち日本人にとっては単なる日常でしかないことが、彼らにとって
は夢の宝庫。
理想郷。
それが日本なのだ。

「渋谷とか代官山でナンパしてみてぇ~~」
スカイは車を運転しながらそう言って笑った。

仕事も遊びも。
そして女の子に対しても。
興味のあること全て対して肉食系。
チャンスは待つより引き寄せる。

スカイはそんな男だった。

そうこうしている間に台北に到着。
思ったより渋滞はしていなかった。

スカイが運転する車は市内の高級エリアにある中規模な商業施設に到着。

3階建てのシンプルな作りの建物。
フロアー辺りの面積はそれほど広くなく。

カフェやアパレル関連のショップが5~6店舗、ここでの営業が決まっ
ているらしい。
その中にはMの取引先も含まれていた。
ショップは1Fと2F。
3Fはジャッキーのオフィス。
今夜のパーティは3Fで開かれる。


「車を駐車場へ入れてきますので、この辺で待っていて下さい。すぐに
 戻ります」
そう言ってスカイは近くにある駐車場へ向かった。

建物の前でスカイを待つ。

忙しく走り回るスタッフらしき人たち。
談笑するビジネスマン風の人たち。

彼らを取り囲むようにしてカメラを抱えているのはマスコミ関係者だろ
う。

活気が満ちあふれている。
新しい事が始まるこの場所への期待感が集まっている。
その熱気が伝わってきた。

つづく


パーティ パーティ IN 台北


「今週の土曜日。時間を空けておいて。約束よ」
そう言ってレディMはウィンクをした。

レディMは当時台湾で有名になりつつあった女性実業家。

手がけている事業が波に乗っていた彼女から、週末台北で
開かれるパーティに誘われた。。。と言うか、すでに私は参加
メンバーに加えられていた。強制参加ってやつだ。

パーティ会場は台北。
主催は現地で有名なあるタレントさんだった。

彼が所有する中規模な商業施設のオープニングに合わせて開か
れるパーティで、取材するマスコミなども大挙して押し寄せて
てくるそうだ。

レディMはその有名タレントと契約を交わし、彼がテレビ出演
する際にはMがアメリカから輸入しているブランドのスニーカ
ーを履いてもらうことになったらしい。

最初にMからパーティの話があった際には、あまり乗り気では
なかった。

「なぜ俺がそのパーティに?」と聞くと
「ウフフ。あなたが日本人だからよ」と言われた。

悪い人ではないけれど見栄っ張りなM。
自分には日本人の友達がいるというところを見せびらかしたい。
そんな思惑が伝わってきた。

「是非来たらいいよ」
そう言ってくれたのはMの旦那さんのヒース。
アメリカ人。

彼の尽力によってアメリカのアパレルブランドを台湾に輸入す
るビジネスを立ち上げ、台湾各地の有力な小売店との取引やデ
パートへの出店を進め、短期間で業績を上げていったM。

知的で冷静なヒースと天賦の商売人M。
夫婦であり最高のビジネスパートナーだった。

「ねぇ、ヒース。本当に俺が行っても大丈夫かのかい?」
「大丈夫だよ」

「本当に?」
「あぁもちろん!」

「どうしてそう言い切れるの?」
「ここは台湾。ノールールがルールだ。気楽に楽しめよ」

台湾に長く住み、Mと結婚して長いヒース。
中国語は話せないけど、台湾でどう生きて行くべきかは心得て
いた。

「Mはあんな調子だけど、決してお前を利用することばかりを
 考えている訳じゃない。会場に行けば台湾でも有名な連中が
 わんさかといる。そこで顔を売れば良いじゃないか。お金が
 掛かる訳じゃないしさ」

「それもそうかもしれないね」
ヒースのこの言葉で私もパーティへ参加する気持ちになってき
ていた。

「それにさ。名前を忘れたけど、あの施設の持ち主は相当なビ
 ッグネームだよ。多分、お前も知ってるんじゃないかな?」
「えっ?そんなに有名な人?だれだろう?名前、そいつの名前
 は?」

「う~ん、ちょっと待てよ~。。。何て言ったかなぁ。。。」
「思い出せない?こっちでは何て呼ばれてるの?」

「え~っと。。。確かジャッキー。。。そんな奴いたろ?」
ジャッキーという名の有名人。

「えぇ~!まさかジャッキー・チェン。。。じゃないよね?」
「ビンゴ!そいつだ。ジャッキー・チェンだ」

本当かよ!
小学生の頃に彼の映画「モンキーフィスト酔拳」を観た時の
衝撃が蘇る。
ジャッキーに。。。あのジャッキーに本当に会えるのか?

でも待てよ。
ジャッキー・チェンは台湾じゃなくて香港の俳優だ。
冷静に考えてみればジャッキー・チェンが台湾にいる訳がな
い。

ヒースの奴は少し適当なところがあった。

「ヒース。それ、本当にジャッキー・チェン?」
「本当だとも。。。確きっと。。。多分。。。」
そう言ってたばこをくわえて、私から視線を外した。

出た!
ヒースはいつもこんな調子だ。

「美味しい食べ物や酒も出るし。来いよ。どうせ暇してるん
 だろ?」
ヒースがこちらを振り返り、そう言った。

「まぁ、暇。。。だよね(笑)うん。行ってみるか」

Mが紙袋を抱えてやってきた。

「当日はこれを来て頂戴」

渡された紙袋の中にはTシャツが入っていた。
MがプロデュースしているブランドのTシャツだ。

オイオイ、俺みたいなおっさんがこんな若い子向けのブラン
ドなんてと思ったけど、Mのビジネスのお手伝いが出来れば
それはそれで良いかと思い、紙袋を受け取った。

「OK。必ず着て行くよ」
「当日の昼、あなたのホテルへ迎えに行くから、部屋で待っ
 てなさい」

ちょっと上から目線なM。
でも、面倒見が良く親切でもある。

「はいよ。楽しみに待ってるよ」
「あなたには絶対に損はさせないわ。私を信じて」
そう言ってMはまたウィンクをした。

Mのウィンクは嫌みがなくて自然だ。

たまには台北の街で楽しむか。
こんな機会は滅多にないだろう。
日本の友達への土産話にもなりそうだし。

万が一、つまらなかったら逃げ出しちゃえばいいや。
どうせ誰も気が付かないだろう。


つづく

台湾のキング 2

ある日のこと。
私は彼の商売が終わる頃に彼の店に行き、一緒に後片付けをした。


「へっへっへ。今日は結構儲かったんだよ」とピーナッツ。

「お~。良かったな!」

普段の倍ほどの売上があり、上機嫌のピーナッツだった。

「今日は飲むぞ~~~!お前も来いよ。付き合ってくれよ。もちろん
 俺の奢りだよ」
「おい、せっかく儲かったんだから、ちゃんと資金をプールしておけ
 よ」

「何言ってんだよ!こんな端金で俺が喜ぶと思ってるのかよ!俺はな
 もっともっと儲けるんだ。儲ける才能ってものがある。お前には分
 らいないだろうけどな(笑)凡人よ天才の誘いを断るなよ!」

1人気勢を上げていた。
よほど嬉しかったのだろう。

片付けが終わり、店の鍵を閉め、彼のバイクの後ろに乗る。

行き先はいつもの屋台だった。

安くて美味しい評判の屋台。
品数も多く、時々ピーナッツと一緒に食事する、私も好きな店だった。

上機嫌のピーナッツは普段より多くの料理をオーダーした。

そしてビールとウィスキーも。

「おいおいピーナッツ。こんなに食べられないだろう。俺たち2人だぞ」

「いいのいいの!今日は儲かったんだ。俺の奢りだよ。だったら文句な
 いだろ?」

ピーナッツは食事より酒。
私は酒より食事。

こんな2人だから相性も良かったのかも知れない。
しかし今日は料理が多すぎだ。料理担当の私の胃袋には収まり切らない
ぞ。

冷えてないビールの栓を抜き、氷の入ったグラスにドクドクとビールを
つぎ込ぐピーナッツ。
泡がグラスからダボダボと溢れる。
美意識の欠片もない。

「カンパイでしょ!」
大きな声でグラスを持ち上げるピーナッツ。

このフレーズがなぜか台湾人の間では浸透していた。

「はいよ」

まずは1杯。
ビールが苦手な私はここまで。
あとはコーラを注文だ。

そして食事。

サラダやエビや魚の海鮮料理。
チャーハン、餃子にステーキまで。

どれも美味しい。

むしゃむしゃと食べる私をビールを飲みながら楽しそうに見ているピ
ーナッツ。

「ビールはもういいや。ウィスキーを開けるぞ!」

すでに酔いが回っているピーナッツ。
普段と比べても飲むペースが早い早い。

「おい、明日も仕事だろ?店を開けるんだろ?もうその辺にしとけよ」
と私は注意した。

「何だと~。俺を誰だと思ってるんだ」
酔い始めたピーナッツ。

「ピーナッツだろ。弱虫ピーナッツ」
そんな風にしてピーナッツをからかう。

「弱虫だと~!俺はな、この台湾のキングだ!王様だぞ!!臆病者な
 んかじゃない!台湾にいる全ての人間が俺にひれ伏すんだぞ!」

「ハイハイ」
はた始まってしまった。

お調子者のピーナッツ。
酔うと胸を張る。口から出る台詞が芝居じみてくる。
段々手に負えなくなってくる。

普段より飲むペースが早いピーナッツ。
短時間の間でベロンベロンになってしまった。

「おい。そろそろ帰ろうぜ!」
ちょっとキツい口調で帰宅を促した。

「もう帰るのかよ~。付き合いが悪いな~日本人!」

「だって、もう夜中の12時だぞ」
「本当かよ?俺の時計はまだ10時だぞ」

「遅れてるんだろ、その時計。どうせ屋台で買ったコピー品だろ」
「そうかな。もう壊れちゃったのかな?」とピーナッツが腕時計と
睨めっこ。

ピーナッツの時計は合っていたけど、このまま深酒すると明日の仕事
に支障を来す。と言うか、ピーナッツは店を開けないかも知れない。

「オヤジ~!もう帰るから会計会計!幾ら~~?」

ピーナッツがそう言って椅子から立ち上がった。。。。ヨロけた!

危ないな、こりゃ!

「ピーナッツ。お前、大丈夫かよ?」

「大丈夫だ!俺を誰だと思ってるんだ。俺様は。。」
「はいはい。台湾のキングだろ。飲み過ぎだよ。タクシーで帰れ。
 俺は歩いて帰るよ」
私は店のおじさんにタクシーを呼んでもらおうとしたのだが。。。

「おい。帰るぞ!俺が送ってく。早く後ろの乗れよ!ノロノロ日本
 人!」

酔っ払ったピーナッツはすでにバイクのエンジンを掛けてしまって
いた。

「そんな危ないバイクに乗れるかよ!殺す気かよ!」と怒鳴りつけ
ると

ブーブーブーブー!!!!

屋台の店先でバイクのエンジンを吹かし始めるピーナッツ。
爆音と排気ガス。
店のオヤジや屋台に来ているお客さん達も不機嫌な顔でこちらを睨
みつけている。

「分った分った!お前のバイクに乗るからエンジン回すなよ!」

「分ればいいんだよ。さっさと俺の、台湾キングの俺様のバイクの
 後ろに乗れ!」

周囲の人達の表情など一切眼中にないピーナッツ。
満面の笑みだ。
そして寄っている。

「コケたら終わりだな。。。」
そう思いながらピーナッツのバイクの後ろに乗った。

走り始めるとユラユラしながらもゆっくりと進むバイク。
少しは気をつけて走っているのかな?

「さぁ、答えてみろ?俺様は誰だ?」
「はいはい。台湾のキングです」

そう答えると
「そうだ~俺様は台湾のキング!王様だ~~~!」
雄叫びを上げるピーナッツ。

酔った勢いでスピードが上がる。
そしてゆらゆらし始める。
怖っ!
俺、今夜死ぬのかな?

そんな私の気持ちなど微塵にも感じていないピーナッツは更にバイ
クを加速した。

「俺はキング!台湾のキングだ~~~!」
雄叫びを上げる台湾のキング。

と、その瞬間。

ウ~~~~~~。
赤色灯を回したパトカーが私たちの後ろからスピードを上げて迫っ
てきた。

「そこのバイク!止まりなさい!」
スピーカーで停止を呼びかけられた。

これはヤバいぞ!
酔っ払ったピーナッツ。
バイクを止めずに逃走するかも。。。。と思っていたら、ピーナッ
ツはバイクの速度を落とし、路肩に停車した。
案外従順だ。

パトカーからは厳つい警察官2人が降りてきた。

「お前、ヘルメットを取れ。うん?酒臭いぞ。バイクもふらふらし
 てたし。。。酒を飲んで酔っ払ったまま運転してたな?」

大きな身体から発する大きな声。
物凄いプレッシャーだった。

酔っているピーナッツ。
警官に楯突かなければ良いのだけど。。。

「すっ。。。すみません。酔ってます」
蚊の鳴くような小さな声で、ピーナッツがそう答えた。

「お前、かなり飲んでるだろ?」
「すみません。もう帰るところなんです。見逃して下さい」

「そうはいかないよ。俺たちは警察官だ」
「そっ、そこを何とかお願いしますよ。もうしません。もうしない
 から~」
半泣きだった。

さっきまで「台湾のキングだ!」と雄叫びを上げていた男の背中は
丸まっていた。
声、小っさ。。。。

「お前、これから警察署に行くぞ。」
強い口調。そして強引にピーナッツの腕を掴む警察官。

「ゴメンナサイ。ゴメンナサイ。もうしません、今日だけ。。今日
 だけは見逃して下さい」
ペコペコ頭を下げるピーナッツ。

おいおい、台湾の王様!

「そんな事出来る訳ないだろ。詳しい話は署で聞く。ほら、パトカ
 ーに乗れ!」
大声で命令する警察官。

「勘弁して下さい。お願いします。お願いします。もうしませんか」
台湾の王が。。。

「本当にごめんなさい。勘弁して下さい」
頭をペコペコ

「家に帰して下さい。もうしませんから」
何度も下げる

台湾のキングの。。。いやいやピーナッツの醜態をしばらく眺めてい
た私だったけど、あまりの情けなさに身体が動いた。

警察官に近寄り

「あのう~。私は彼の友達です。彼、酔っているので、私も同行し
 ます」
私が警察官にそう話しかけてみた。

「一緒に飲んでいた責任もありますし。。。」
私がそう付け加えると。

「あなたは日本人ですね。発音が台湾人のものではない」
「はい」
「お仕事でこちらへ?」
「はい。そうです」

台湾のパトカーに乗るのも良い思い出になりそうだ。
警察署には知人の警官も何人かいるし、事態収拾の為に親友のチェン
に連絡を取れば彼が警察署長に掛け合ってくれるだろう。

そんな事が頭を過ぎっていた。

「いや、あなたは結構です。お帰り下さい」
「えっ?でも!」

「歩いて帰れますか?タクシーを呼びましょうか?」
「いや、近くなので歩いて帰れるのですが、、、彼が心配なので私も」

「いや。あなたは帰りなさい」
厳しい口調の警察官が私をにらみつけた。
これは温情だ。これ以上刃向かうなよ。
そんなメッセージが読み取れた。

「はぁ。。。」私はそう答えるしかなかった。

泣き出しそうな顔の台湾キング。
「乗りたくない。乗りたくないです。パトカーになんて。。。」
「さぁ!乗りなさい!」

「嫌です。警察署になんて行かないです!」
「言う事を聞かないと逮捕だぞ!」
「も~~~。なんで飲んじゃったんだろ~~~」
泣き出す寸前だ。

可哀想なピーナッツ。
でも、可笑しかった。
気が付いたら笑いを堪えるのに必死になっていた。

台湾の王様が警官に捕まった途端に声が小さくなり、背中が丸まり、泣
き出しそうになっている。

抵抗虚しくパトカーに乗せられたピーナッツ。
ピーナッツのバイクはもう1人の警官が運転して警察署に行くようだ。

警官は私に敬礼し、ピーナッツを載せて警察署へ。。。


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ピーナッツはその日のうちに釈放された。

彼の父親の友人は警察関連に顔が利いたらしい。

酔っ払い運転程度なら「許してやって」の一言で何もなかったことになる
ようだ。

あの時のピーナッツの表情。
警察官とのやり取り。
その辺のコントよりよほど面白かったなぁ~。

今でも時々、あの時の事を思い出す。

台湾のキング
ピーナッツ。

元気にしてるかなぁ