早朝、グレイハウンドのバスが街のターミナルへ到着した。
朝から夜まで街の観光を楽しみ、夕食を終えると
深夜バスに乗り込み、次の街へ移動する。
寝るのは移動中のバスの中。
そんな毎日を繰り返しながらニューヨークからLAへ向かっていた途中で
立ち寄った街
ヒューストンでの出来事だ。
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日曜日。
早朝ということもあり、街には人影も少なかった。
片手に持ったガイドブックを開く。
少し歩くと大きな公園があるようだった。
街の観光よりもゆっくり休みたい。
公園ならベンチがあるだろうし、芝生や広場があるはず。
どこか広い場所でで寝そべりたい。
そんな気持ちだった。
柔らかな3月の日差しが暖かく、絶好の昼寝日和だった。
テクテクと歩いて地図に載っている公園を目指して歩いた。
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歩くこと約20分。
公園に到着。
緑が広がる綺麗な公園だった。
青い空。
太陽から降り注ぐ光と暖かさが
疲れた身体を優しく癒やしてくれた。
移動を繰り返す長旅で身体が疲れていたのだろう。
猛烈に眠かった。
朝だけど昼寝しよう。
財布やパスポートは盗まれないようズボンのポケットに入れて、空いて
いるベンチに横になる。
青空がまぶしかったので目を瞑る。
暖かい日差しが降り注ぎ、少しずつ身体から力が抜けていく。
うとうととしかけたそのときだった。
「こんにちは。お元気ですか?」
声を掛けられた。
目を開けると見知らぬ白人青年2人が立っていた。
「元気だよ。ありがとう」
と答え、ベンチに座り直した。
「日本人ですか?英語、話せるのですね?」
「あぁ、少しだけですけど。簡単な日常会話なら大丈夫ですよ」
地元の学生で日本やアジアの事でも勉強しているのかな?
そう思った。
「もし良かったら、ドーナッツ食べませんか?」
とドーナッツを勧めてくれた。
「えっ?いいの?」
お腹が空いていたので1個貰おうかな。。。と思ったけど。。。
いや、待てよ。。。食べた瞬間に「ハイ、100ドルです」なんて
詐欺みたいなことしてこないよな。。。。
不安が頭をよぎる。
まぁ、そうなったら走って逃げちゃえば良いかな?
でも、こいつらも足が速そうだなけど。
そのときはインチキだけど空手の型でも見せて威嚇するのも面白
いかも。
見た目は好青年で詐欺師独特の雰囲気は漂っていなかった。
「まぁ、大丈夫だろう。。。」
楽天的に考え、彼らの好意を受けることにした。
お腹も空いていたけど、あまりお金を使えないという懐事情もあった
のだ。
「ありがとう。少しお腹が空いてたんだ。1ついただきます」
「良かったら2~3個食べても大丈夫ですよ」
「1個で大丈夫。ありがとう」
そう言って、彼らからドーナッツを1個受け取った。
甘い甘いアメリカのドーナッツ。
1個で十分だ。
さて、彼らの反応は。。。
「ハイ、100ドルです」って言ってくるのかな?
ドーナツを一口食べ、彼らに視線を送る。。。
「じゃあ、僕たちはこれで! HAVE A NICE DAY 」
青年2人は笑顔で立ち去っていった。
なっ、なんて優しいんだ!
とてもフレンドリーだな~
背中に羽でも生えてるんじゃないのか?
ドーナッツをくれた2人の青年の後ろ姿を見送り感動に浸って
いた。。。。のだが。
次ぎに彼らが向かったのは同じ公園の敷地内にいた浮浪者。
そして同じくドーナッツを勧めていた。
それが終わると次の浮浪者へ。。。。
あれっ?
俺、浮浪者に間違われたんだ。。。。(笑)
おわり
NY滞在の思い出 チャイナタウンでスキンヘッド
チャイナタウンで坊主になる。
初めての海外旅行。
訪れたのはビッグアップル、ニューヨーク。
旅行と言うかショートステイ。
現地でアパートを借りて約1ヶ月ほど滞在した。
自由の女神や美術館への観光もしたけれど、普通の生活も
体験してみたかった。
現地に住み、仕事をしている人達と話をしてみたかった。
そんな動機でアメリカを訪れた。
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ニューヨーク滞在中。
日本ではやらないことにもトライしてみよう。
何でも良かった。
日本にいたら出来ないこと。
「まずは髪でも切りに行くか!」
当時は私にもまだ髪の毛があった。
(誰も聞いてないよ)
五番街近辺にあるオシャレなバーバーで。。。とも思ったけど
値段が高い。
学生旅行。
長期滞在する為にあまりお金は使えない。
なんとかならないかなぁ。。。
しばらく考えていた。。。。
「そうだ!チャイナタウン!」
到着して早々訪れたチャイナタウン。
ご飯を食べたけど、安価に済ませる事が出来たことを思い出した。
全体的に物価が安いのではないだろうか?
よし、チャイナタウンへ行ってみよう!
地下鉄に乗って数駅。
チャイナタウン近くの駅で下車して街をウロウロ。
予想に反し、歩いても歩いても床屋がなかなか見つからない。
裏路地に入ると日本の床屋さんの店頭に置いてある赤青白がクル
クル回るサインポールを発見。
「あった!床屋だ!」
ポールに近づくと雑居ビルの地下へ通じる階段があったので、そこ
を下ってみた。
鉄の扉が閉まっていた。
「あれ、営業してないのかな?」
そう思ったけど、せっかく見つけた床屋だ。
このまま引き返すのも勿体ない。
ドンドンドン!
と鉄の扉を叩く。。。中からは返事もなく、誰も出てこない。
よし、もう1度!
ドンドンドン!
カチャ。。。オッ!鍵を空ける音だ!
ギ~~~。
重そうな鉄の扉が開く。
「ハロー」
ちょっと場違いな笑顔で開いた扉の中をうかがうと、そこには
眠そうな顔をした女性が立っていた。
う~ん、どうみても営業中じゃないな。。。でも、ダメもとで
「髪、髪をカットして欲しいんだけど」
女性は目をこすりながら手を横に振る。
言葉が通じないのか?
今日は休みという意味なのか?
通じていないのなら。。と思い指をチョキの形にして、はさみ
のように動かしてみた。
相変わらずの無表情のまま、女性は手を横に振り、大きな鉄の扉
を閉めてしまった。
なんだあれ?
理由は分らないけど、髪を切る目的は果たせなかった。
もう少し歩いてみるか。
そう思い直してチャイナタウンをトボトボ歩く。
映画館ではジャッキー・チェンのポリスストーリーが上映されて
いた。
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しばらく歩いていると小さな床屋さんらしき店を発見。
中を見ると椅子に座ったお客さんをカットする人が仕事をしていた。
お~!
ようやく見つけたぞ!
少しドアを開けて
「お店、やってる?」と聞くと
「うん?ちょっと待ってて」と店の入口で少しの間待たされた。
おじさんは店の奥に入ってしまった。
しばらくすると、カットを担当していたおじおさんとメガネをかけた
30代の若いおじさんが出てきた。
「やぁ、何か用かい?」流暢な英語で話しかけてきた。
「はい。髪を切りたいんです」
「そうかい。君は。。。?」
「はい。日本人です」
「日本人の客なんて初めてだよ。珍しいね。さぁ、どうぞ」
メガネのおじさんは暖かく迎え入れてくれた。
どうやらカットをしていたおじさんは英語が出来なかったようだ。
椅子に座ると英語をメガネの話せるおじさんが
「さて、どんな髪型が良いのかな?五番街で流行っているような
カットは出来ないからね」と笑顔で話しかけてきた。
髪型。。。どうしよう。
決めてないや。
せっかくかだら面白いことしてみよう。。。
30秒ほど考えてから
「頭の毛を短く。切るとと言うか。。。剃って欲しい」
スキンヘッドだ!
それしかないだろう!
なぜニューヨークでスキンヘッドだったのか?
それは私にも分らない。
「えっ?そっ、剃るの?本当に?」
メガネのおじさんが驚いていると、隣に座っているお客さんと彼を
カットしているおじさんが何やら中国語で騒ぎ出した。
「その子は何て言ってるんだ?」
多分、そんなやり取りをしていたのだと思う。
「ねっ君。英語は大丈夫なんだよね?今、剃るって言ったよね?」
メガネのおじさんが念を押すように聞いてきたので
「うん。剃る。スキンヘッドだよ」と答える。
「ちょっ、ちょっと待っててね」
そう言ってメガネのおじさんが店の奥にある扉を開けて出ていった。
しばらくして戻ってくると、おじさんの手にはホワイトボード。
「君、これで良いの?」
と私にホワイトボードを見せてくれた。
ボードには
「坊主」と書かれていた。
「イエス、イエス!これこれ!!」
と言いながら私は自分の頭に手を乗せてクルクルと動かす。
「変わった子だねぇ」
そう言ってメガネのおじさんがバリカンを手に持ち、髪の毛を短く
刈ってくれた。
その後、頭の表面にクリームを塗りたくり、カミソリで仕上げの作業
をしてくれた。
途中ちくちくしたのは、頭の皮膚がカミソリで切られたからだった。
ヘンテコリンな白い薬を出血箇所に塗ってくれて出来上がり。
わはははは!
スキンヘッドだ!
代金は5ドルほどだった。
安い!
「またおいで!」
メガネのおじさんが笑顔で送り出してくれた。
「サンキュー!謝謝!再見!」
私も笑顔で手を振った。
それにしても寒い。
外気をそのまま頭の皮膚で感じるのは初めて。
自分の手や指で逃避に触れるとヒヤッ!とした。
こんな感覚は初めてだ。
寒さで頭がやられるな。
アパートに帰る途中、雑貨屋でバンダナを1枚買って頭に巻いた。
少しだけ寒さを防ぐ事が出来た。
ここはニューヨーク。
ニューヨークの2月はとても寒かった。
あの床屋。
まだあるのかな?
もう1度行こうとしたけど、すっかり場所を忘れてしまい辿り着け
なかったっけなぁ~。
スキンヘッドをリクエストした変な日本人のこと。
覚えていてくれたらいいな。
おわり
深く残る言葉 アメリカで出会った素敵な2人
「君、日本人?ちょっと良いかな? もしよかったら少し話さないか?」
そう話しかけられたのがキッカケで、今も心に残る言葉と出会うことになった。
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ニューヨークからLAへ。
長距離バスを利用しての移動の途中に立ち寄った街。
それがどこの街だったのかはもう覚えていない。
朝、その街のバスターミナルへ到着し、バッグをロッカーに預けて街を
散策。
季節は初春。。。3月だっただろうか。
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街を散策しているうちに大きな公園にたどり着いた。
ベンチもあったけど、芝生の上で裸足になりたい。
春の暖かさを感じたい。
そう思い、公園内の芝生に座り、泥だらけのスニーカーを脱ぎ、ソックスを
放り投げた。
お金がなかった私は夜、長距離バスを利用し、バスの中で寝る毎日だったの
で、広場を見つけると身体を伸ばしたくなる。
天気も良かった。
昼寝をするでもなく、公園内をぼんやりと眺めていたとき、白人カップル
が近寄ってきて話しかけてきた。
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アメリカ、特にニューヨークで話しかけてくるのは詐欺師が多かったけど、
毎日そんな連中を見ていたので、対処方も身に付いたし、なんとなく見分け
ることが出来る臭覚のようなものも発達していた。
この人達は大丈夫そうだな。
そう感じた。
「はい。日本から来ました。芝生の上で良いですか?」
「やはり日本人だったんだね。もちろん。ちょっとお邪魔するよ」
「アメリカ人?」と私が聞くと
「いや、フィンランドから。旅行中なんだ」
見た感じ30代後半のカップル。
女性は英語が苦手なようで、あまり積極的に会話には入ってこなかった。
「君は留学生?」
「いえ、ニューヨークに1ヶ月ほどいて、今はバスを乗り継いでLAに向
かっている途中なんです」
「そうかぁ~。バス移動とは大変そうだね」
「今回はアメリカ旅行なのですか?」
「アメリカは1ヶ月ほど掛けて数都市巡る予定さ。あまり好きな国では
ないと感じたよ」
「そうなんですね。帰国はいつなんですか?」
「決めてない」
決めてない?
どういうことなんだろう。
「今、世界1周旅行の途中なんだよ」
世界を1周する。
学生だった私には憧れの旅だ。
彼らの住む北欧の話。
これから行く予定の中国や日本の話。
世界を巡る彼らの話に引き込まれた。
日本の事も随分聞かれたけど、恥ずかしいことに「説明して」と言われ
ても自国文化の事を上手に説明出来なかった。
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「世界旅行って2~3ヶ月掛けて回る予定なのですか?」
私が聞くと
「いや、2年。2年掛けて回るつもりだよ」
2年。
2年も旅行するのか!
いいなぁ~。
でも、話を聞いているうちに疑問が湧いてきた。
この2人は立派な大人だ。
仕事はどうするんだろう?
2年間、収入はどうするんだろう?
「あの~、ちょっと聞きたいことが。。。もし答えたくなかったら答え
なくても良いのですけど。。。。仕事、仕事は何をされてるんですか
?」
「ん?仕事かぁ? 今はしてないよ」
仕事はしていない。
当時、日本で登場し始めていた派遣社員のようなライフスタイルなのだ
ろうか?
「してないんですか?」
「あぁ、してない。旅に出るまでは小さな建築事務所を経営していたん
だよ」
倒産でもしてしまったのだろうか?
もしかして。。。夜逃げとか???
男性は話を続けてくれた。
「仕事は好きさ。一生懸命働いたよ。でもさ、旅に。。。旅に出たくな
ったのさ。彼女とね」
そう言うと相手の女性にウィンクをしたフィンランド男性。
女性は嬉しそうな笑顔を浮かべ、青い空を見上げた。
「人生は1度切りだ。好きなときに好きなことをしていたいだろ?」
「はぁ。。。」
確かにそれはそうだ。
理想的だ。
でも、そんな生き方をしている大人を見た事がなかった。
「会社はどうしたの?」
私が質問をぶつけると。
「彼女と旅に出たかったから売却したのさ」
えっ?
会社。。。売っちゃったの???
「そのお陰で2年間、気ままに過ごせる時間と資金を手に入れた。
会社なんてさ、国にもどったらまた作れば良いんだよ」
驚きのあまり言葉が出てこなかった。
「だっ、大丈夫なんですか?今後の人生設計とかって。。。」
「あぁ、大丈夫さ(笑)それよりも『今』を大切にしていたい。
俺にとっては仕事よりも彼女と過ごす時間の方が大切なんだ。
少なくとも『今』はね。だって俺たちの人生だよ。君にも君
の人生があるじゃないか。そう思うだろ?」
かっ!
格好良い
格好良すぎるだろ!!
彼女と旅がしたかった。
それだけの理由で。。。会社を売却しちゃったなんて。。。
しかも帰国後にはまた会社を立ち上げて復活する自信があると
言い放つ。
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彼らと話していたのは30分ほど。
話した街の名前も、彼らの名前さえ覚えていない。
でも、あの時彼から聞いた言葉は今でも覚えているし、私の人生に
深くて大きな印象を残している。
憧れる生き方ではあるものの、果たして自分が彼と全く同じ人生を
歩めるかと問われれば、答えはノーだ。
その必要もないだろう。
私は私なのだから。
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彼らとの会話から約10年後に、私は独立。
一時期は馬車馬のように働いていた時期があったけど、充実感や充足感を
感じることはなかった。
「こんな人生を歩む為に独立したんだっけな?」
そんな事を自分に問いかける日々が続いたある日、彼との会話がフ
ッと蘇った。
「君にも君の人生があるじゃないか」
旅先でのちょっとした会話だったけど、今も心に残る言葉との出会い。
彼らとの出会いは単なる偶然ではなく、必然だったのかな?
そんな風に思えてならない。
やはり旅はいい。
<おわり>