台湾喜人伝 20話 南国美少女 後日譚 2

社会人1年目。
入社後40日目。

突然命じられた台湾出張。

出張先は台北ではなく、田舎町の竹南という小さな町。
当時はマクドナルドさえない小さな町だった。

言葉も通じないまま悪戦苦闘の連続だった現地工場での仕事。

その工場にバイトとして働きに来ていた当時高校生の女の子。

英語が堪能で、私の通訳を務めてくれ、勤務の後は私に中国
語を教えてくれた。

仲良くなったものの、ある日突然工場に来なくなり。
仕事が終わった私は日本へ帰国。

サヨナラも言えず再会も出来ないまま時は流れ、私の中で
彼女は思い出になっていた

時は流れ世界はネットで繋がった。

コンタクトを取ってみよう。

あるSNSで彼女らしき女性を見つけ、友達申請をしたものの、
申請が受理されることはなく、何の音沙汰もないまま月日は
流れていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ある朝のことだ。

スマホに電源を入れる。
SNSを開く。

国内や海外の友人達がアップした記事を読んだり、届いて
いるメッセージを読み返信したりしながら朝食を摂ってい
た。。。その時だった。

『○○さんがあなたの友達申請を受理しました』との通知が入
ってきた。

申請を受理してくれた人の名前を確認する。

あっ!
思わず声が出てしまった。

あの子だ。
あの子が申請を受理してくれたのだ!

申請をしてから半年近くが経過していたので、私も申請を
したことを忘れていた。

そして彼女のアカウントへ行き、最近の記事を読んでみよ
うかなと思っていると、1通のメールが届いた。

送り主を確認すると彼女からのものだった。

ドキドキした。
嬉しかった。
早速メールを開く。

「お久しぶりです。
 もう、びっくりしましたよ。

 返事が遅れてごめんなさい。
 私、知らない人からの申請は受けないし、DMも開かない
 ことにしてたから。。。。

 さっき溜まったDMを整理しようと思って確認していたら
 日本人からのメールがあって。。。普通だったらその場
 でゴミ箱に入れるんだけど、あれ?っと思ったの。この
 DMは開いた方が良いって(笑)」

 私の名前、覚えていてくれたのですね。
 ありがとうございます。
 本当に嬉しい。

 あれから何年経ったのでしょうかね。

 私はあのあと、台北の大学へ進学。
 卒業後は台北にある会社に就職しました。

 ほどなく今の旦那さんと知り合い、結婚。
 もう知っていると思うけど、今では2児の母をしていま
 す」

綺麗な英文だ。
工場にバイトに来ていたら頃から独学の割に綺麗な発音だ
った彼女。
語学が好きだと話していたっけな。
きっと多くの努力も重ねてきたのだろう。

当時の暑い暑い竹南での日々が蘇ってくる。。。。

続きを読む。

「今、私は日本語の勉強をしているんですよ。
 まだ子供レベルの挨拶と平仮名の読み書きしか出来ない
 から、日本語でメールを送ったりはしないでね(笑)」

当時、私に中国語を教えてくれていた子が日本語を学んで
いるのか~

「私たち家族は日本が大好きで、家族で大阪や九州へ行っ
 たこともあるんですよ。みなさん、親切で食べ物も美味
 しくて。。。とても好きな。。。大好きな国です」

「あなたはあれから何度か台湾へいらしているようですね。
 竹南のサイ社長とも会われていたようですね。
 懐かしい。」

「もし台北へ来る事があったら是非、連絡を下さい。
 私たち家族でご馳走しますよ。」

台湾人の特有の人懐っこさだ。

「これからは時々、DMを送りますね。
 お互いの近況報告をしましょう。
 
 ありがとうございます。
 また会う日まで。」

返事をしてくれた。
覚えていてくれていた。

そしてこれからも連絡を取り合う事が出来る。

飛び上がりそうな気持ちを抑え、仕事に向かった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ある日のこと。

彼女からメッセージが入ってきた。

「週末を利用して実家に帰っていました。
 そう、竹南の実家です」

懐かしいなぁ~
台湾の暑い暑い夏を過ごした、あの小さな田舎町、竹南。
小さな路地や店、町外れにある廟が思い出された。

彼女と勉強したあの学校はまだ残っているのかな?
夏休みだったとは言え、勝手に校舎に侵入し、2人で勉強している
ところを見つかったりもしたなぁ。

続きを読む。

「それでね。
 見せたいものがあるの」

1通目のメッセージはそれで終わっていた。

うん?
なんだろう???

画面をスクロールしてみる。

「あっ!」
思わず声を上げてしまった私。

彼女の文章が続く。

「これ。覚えてますか? 
 あの夏、あなたが私に送ってくれた手紙です。
 確か、工場で妹たちに託してくれたんですよね?
 もう忘れてしまったかしら?」

突然姿を現さなくなった彼女が忘れられず、彼女の妹たちに託したあ
の手紙と手紙を入れた封筒が写っている写真。

私の文字。。。雑だなぁ。
今と変わらない(笑)

「この手紙、確かに受け取っていました。
 返事が出来なくてごめんなさい。
 恥ずかしかったし、どうしたら良いのか分らなくて。。。」

初めて受け取った外国人からの手紙。
当時高校生だった彼女には荷が大き過ぎたかも知れない。

「でもね。こうやっていまでも大切に保管してあります。
 嬉しかったの。
 本当にありがとう」

当時の手紙を未だに大切に残しておいてくれていた。

彼女から届いたメッセージを読み、画像を見ながら、暖まってい
く心を感じた。

「ありがとう」から始まる感謝の返事を彼女に送った。

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今でも彼女との連絡は続いている。

昨夏は生まれて初めての海外ひとり旅を経験した彼女。
行き先は仙台だった。

2人の子供も大きくなり、旦那さんからも1人旅の許可が出たそう
だ。

「次ぎは東京へ。。。東京へ行きたいと思っているの」
届いたメールには、そんなことも書き添えてあった。

「こっちも台北へ行く機会があったら連絡するね」

「うん、必ず」

「うん、必ず」

未だにこの約束は果たされていないけど、いつか必ず再会の日は来る。
そう信じている。

現地の友人知人たちとの交流を通し、台湾との縁、絆は続いていく。

台湾。
私にとっての第2の故郷。

台湾喜人伝 19話 南国美少女 後日譚 1

初めての台湾。
会社の仕事で訪れた田舎町にある小さな玩具工場。
そこで出会った南国美少女との思い出。

突然、目の前から消え、2度と現れる事はなかった彼女
のことは、時間が経過するうちに痛みは薄れ、美しい思
い出となって私の心の中に生きていた。

あれから随分時間が経過し、私も仕事でもプライベート
でも様々な経験、体験を積んできた。


世の中にインターネットが登場し、その技術や環境が急
速に広まり、更に変化を遂げていた。

SNS。
登録すれば無料すぐに使う事が出来、友達と繋がる、
ネット上のコミュニティに参加したり、ゲームで遊べる
便利なものが登場した。

知人の間でも広まり、海外の友達から次々と友達申請の
連絡が入ってきていた


そんな環境が普及している中、ある取引先でバイトして
いる仲の良い女性達が学生時代の元彼を検索。思い切っ
て友達申請をしたら連絡が来た話や懐かしさのあまり関
係が修復した話などで盛り上がっていた。

そんな活用方法もあるのだな。

とは言え、会いたい人が特にいる訳でも。。。。いた。

あの子。
南国美少女だ。

幸い台湾では結婚しても女性は姓を変わらない。
検索は可能かも知れない。

時流に乗って、もしかすると彼女もSNSを使っている
可能性がある。

スマホでSNSを開き、彼女の名前を入れて検索。

すぐに名前に適合する人のアカウントが画面に現れた。
ヒットした!

なんとなくではあるが、当時の面影が残っている。
多分、このアカウントは彼女のものだ。


今では結婚し旦那さんと2人の子供と友に台北に住んで
いた。

写真がたくさんアップされていた。


画面を眺めているうちに懐かしい思い出が次々と思い出
されてくる。

彼女のこと。
サイさん一家のこと
小さな工場で出会ったパートのおばさん達。

みんな、元気にしてるかなぁ~



友達申請してみよう。
躊躇なく申請ボタンをタップした。

まだ私の事を覚えておいてくれているだろうか?
驚かせてしまうかな?
怖がられてしまうかな?
すっかり忘れ去られているかも知れない。

当時、私の事が嫌いになって工場に来なくなったのだ
としたら。。。迷惑だったかな。。。
いや、何か事情があった筈だ。。。。


様々な思いが胸に去来した。
でも、もうクリックしてしまった後だ。

申請を受けてくれれば嬉しい。
申請が受けてもらえないならそれまでの話。

SNSにはメッセージ機能もある。
どうせならメッセージを送ってみよう。

「こんにちは。
 SNSであなたの名前を検索しました。
 随分前の事になりますが、私は台湾の竹南にある小さな
 工場でクリスマスツリーを。。。。。」

と初めてにしては長いメッセージを送った。


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1日。
3日。
1週間
1ヶ月。。。。

しかし。。。申請が受理されることはなかった。

忘れられているのか?
警戒されているのか?

私の存在や言動が彼女には不快で、工場に来なくなってしま
ったのか。。。。。?
だとしたら、何をしてしまったのだろうか。。。。?

結婚もしているし、外国人の男からの友達申請なんて受けな
いよな~。

残念だけど仕方がない。

画面に映る彼女と彼女の家族の幸せそうな笑顔。
子供の成長を綴る記事。
作った料理の写真を毎日更新している。
料理が好きなんだなぁ~。

連絡を取りたかったけど仕方がない。
時は流れてしまっている。

でも、元気でいてくれた。

彼女は確実に存在し、そして今も台湾で生きていてくれている。

それが分かっただけで十分だった。

元気に過ごしているのが分っただけで十分じゃないか。
そう思う事にした。
そうするしかなかった。




つづく

台湾喜人伝 18話 麗しの台湾美女 2

台湾のとある街で見かけた美女。

何度かすれ違う間に軽く頭を下げてくれるようになっていた。

ある日、意を決してその女性に話しかける事に成功。

心に火が灯った私は次なる行動に出る為、あの男に相談を持ち
かけることに。

その男とはもちろん。。。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ねぇねぇねぇねぇ!」

私はその男の店に入るなり、1人で騒ぎ立てた。

「お~!何だよ今日はやけにやかましいじゃん」

デビットだ。

この男、とにかく顔が広い。
もしかするとあの女性の事も知っているかも知れない。
そしてこの男なら、必ず私をヘルプしてくれるに違いない。

「デビット。お願いがあるんだよ」

「どっ?どうしたんだよ? 珍しいじゃん」

「うん」

「で?何?」

「う~ん」

「どうしたんだよ?何?出来る事なら何でも手伝うよ」
さすがデビット。
心強い存在だ。

「あのさ、○○通りにある△△という店。。。知ってる?」

「お~知ってるよ。あの店のオーナー、メチャクチャ可愛い
 んだよ」

「やっぱり!やっぱりそう思う?」

「おう。街でも有名な子だからね」

お~、やっぱりそうなのか!
あれだけ可愛いんだから当然だよな~

「最近さ、その子とよく道ですれ違うようになってさ。。」

「うん。それで?」

「さっき、話しかけちゃったよ」

「えっ?いきなり?」

「まぁ、軽く会釈するようにはなっていたんだけどさ。さっ
 き、思い切って話しかけちゃったよ」

「わはははは!そうなんだ!スゲェ~な。さすが日本男児だ!」

「あの子、本当に綺麗だよな」

「うん。台湾美人。日本人はああいう感じ好きだよな。ビビア
 ン・スーだろ?」

「うん。ビビアンを嫌いな日本人はいないはずだ。俺も好きだ」

「はははは!正直だな」

「デビットはあの子の事知ってる?」

「お~、もちろん知ってるよ」

「あの子を食事とかに誘えないかなぁ?」

「相談って。。。。あの子に惚れちゃった?」

「う、うん。だって可愛いんだもん」

「わはははは!」
デビットが大声で笑う。
そして
「食事には誘えると思うよ。でも。。。」

「でも?」

「本当にあの子に惚れちゃった?」

「うん。間違いない」

「そうかぁ~。みんな好きになっちゃうんだよなぁ~」

私の同意しつつもデビットの顔が曇る。。。
なんだなんだ?

「彼女、訳あり? あっ、彼氏がいる?もしかして既婚者?」

「う~ん、言ってもいいのかなぁ。。。」

「なんだよ。話せよ。気になるじゃん!」

「そうだな。話すべきだな」
隣にはリサが話を聞いているが、視線を外している。

やはり彼氏がいるのか?旦那がいるのか?

「あの子には彼氏がいるよ。しかも関係は良好だよ。残念だ
 けど」

「やっぱりそうか~。そりゃそうだよなぁ~」
山の頂上で1人浮かれていた私は一気に谷底へ落とされたよう
な気持ちになってしまった。

馬鹿な男だ。
たった1度話しかけ、たまたま彼女が相手をしてくれただけな
のに。。。いろいろ想像してしまう単純さ。

あんな美人さんのことだ。相当なイケメン君と付き合っている
のだろうな~と勝手な想像が膨らむ。

「彼氏。。。うん、彼氏がいる。彼氏。。。女だけどな」

「えっ~~~~。女?彼氏は女? 彼氏は女って。。?」

「うん。彼女はTだ」

台湾では女性の同性愛者をTと呼ぶ。
語源はTOM BOY から来ていると聞いた事がある。
日本ではあまりピンとこない単語。

ガ~~~~~ン。

頭の中で大きな大きな鐘が鳴り出した、爆音が耳の中で鳴り止
まない。

同性愛者を蔑視はしていない。
全くない。
でも、想像して欲しい。
自分が好きになった相手が。。。。


そう話すとリサが店に置いてあるパソコンを立ち上げ、キー
ボードを素早く叩く。

そしてディスプレイを私に向けた。

当時スタートしたばかりの某SNSサイト。
画面には彼女のページが表示されていた。

リサが見せてくれた画面にはあの子と彼女の「彼氏」が笑顔
で仲良くハグしている写真が写っていた。

現実を。。。。。現実を受け入れなければ。。。いけない。。

「残念だけどさ。これが現実」とデビット。

珍しくリサが口を開いた。
リサによれば、以前は男性と付き合っていたことがあるのだが、
前の彼氏が酷いDV男。
毎晩暴力を振るわれているうちに男性不信に陥ってしまったと
聞いた事があるそうだ。

当たり前だけど台湾にもDV男がいるんだなぁ~。
くっそ~、そいつが暴力なんて振るわなければ。。。
呆然としながら画面を眺め続けた。

喜びもつかの間とは正にこのことだった。

「何人もの男がアタックしたけど、彼女の心を変える事は出来
 なかったんだ」とデビット。

「そっ。。。そうなのかぁ」

まるでシャボン玉のように。。。アッという間に弾けてしまっ
た私の恋心。。。。

そして翌日には私の恋話は街中に広まっていた。

デビットのやつ。。。。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

数年後、デビットから連絡が来た。

「あの子、結婚したよ。相手は男だよ」

「へぇ~。そうなんだ」

男性不信、男性恐怖症からは解放されたんだな。
良かった。

「元気で幸せに暮らしていてくれれば。。。今はそれでいいよ。
 連絡してくれてありがとう」
とデビットに返信したあとしばらくの間、彼女と交わした会話を
思い出した。

彼女と話をしたのはあの1度きり。
ほんの数回のやりとりだけ。

こんな話をしていると、また台湾へ戻りたくなる。

おわり

台湾喜人伝 17話 麗しの台湾美女 1

衝撃が走った。

身体が震えた。

私が最初にその女性を見たとき。
心の底から「美しい」と思った。

麗しき人よ。。。。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


人が横一列で3人並ぶのがやっとの路を通り、いつものように
デビットが待つ店に向かって歩いていた。

私の視線の先に1人の女性が立っていた。

ティースタンドでお茶を買っていた1人の女性。
まるで光の羽を身に纏っているかのような、圧倒的な美しさだ
った。

お茶を受け取った女性が私の方へ歩いてくる。

胸の鼓動が鳴り出した。

ほっそりとした華奢な身体。
長い黒髪。
大きな目。

当時日本でも人気があった台湾出身の芸能人、ビビアン・スー
をもう少し大人にしたような雰囲気だった。

「いかん。。。。視線を外せ。。。」
そう思うえば思うほど、視線が動かなくなる。
多分歩き方も不自然になっていただろう。

「いいや。もう見とれてしまえ!」
どうでも良い覚悟を決めた。

私の視線に気が付いた女性も視線を返してくれた。
そしてすれ違いざまに少し微笑んでくれた。

「お~!可愛いなぁ~~!」

勝手に舞い上がる私。
単純である。

振り返り、彼女の後ろ姿を見送る。
少し歩いた彼女は小さな店に入って行った。。。。
彼女の横顔を隠す長い黒髪が揺れていた。
本当に美しかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


不思議なもので、その日以降、その女性とすれ違う事が多く
なった。

すれ違う時は小さな笑みを浮かべ、ペコリと頭を下げてくれる。
私も笑顔で頭を下げる。

挨拶は交わさず、視線を合わせて頭を下げるだけ。

手にはいつもお茶を持っている。

そのお茶はあの日、私が初めて彼女を見かけた日と同じティー
スタンドで買っていた。
そしてそのティースタンドのオーナーは私の知人だった。

ティースタンドの前まで行くとカウンターに近づく私。

「ねぇねぇねぇ!」
と私はティースタントの若いオーナーになれなれしく声を掛けた。

「なんだよ~。まだ台湾にいるのかよ~。さっさと日本に帰れよ」

笑顔でいつもこんなことを言うオーナーとは結構中が良い。

「今、この今にも潰れそうな店でお茶を買った人なんだけどさ」

「お前!大繁盛してる店に向かって何だよ!(笑)うん?あの子
 のこと?」

「そうそうそうそう!知ってる子?」

「う~ん、毎日この時間に俺の店でお茶を買ってくれるから、顔
 くらいは知ってるよ。あの子も俺に惚れてるんだろうな」

かなりのイケメンで、このオーナー目当てにお茶を買いに来る子
は多いのは事実だ。しかし、今の発言だけは認められない。


「軽い会話を交わす程度で深くは知らないよ。ほら、あそこの小
 さな店。。あの店を経営してる子だよ」

この小さな路には若い子たちが経営する小さな店が多数並んでい
た。
あの女性はそのうちの1軒を経営している女性オーナーだった。

「小さな店だけど固定客が付いてるからね。大儲けまではしてな
 いと思うけど、日々の暮らしには困らない程度に稼いでいるん
 じゃないかな?」

「へ~」
彼女が経営する小さな店を見つめながら、オーナーの話を聞いて
いた私に

「あ~。お前!まさか。惚れたんだろう?止めとけ止めとけ!あ
 んな綺麗な子、俺以外に誰が口説けるんだよ」

そんなことを口にしても嫌みが全くないくらいのイケメンだ。
そこは認めるしかない。

「いや。彼女は日本に来たい筈だ。日本人の俺にも意外とチャン
 スはあるかも知れないぞ!」

それを聞きいていたイケメンオーナーが
「お前、馬鹿だろ!」と笑う。

いつもこんな感じだった。
でも、今日は心の大部分をあの女性の笑顔が占めていて、オーナ
ーとのやり取りも、心、ここにあらず。
そんな感じだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

その後もその女性とは毎日道ですれ違う事が多くなった。

ティースタンドの近くやスーパーマーケットでも会う。

いつも笑顔で頭を下げてくれる。

声を。。。聴いてみたい。
会話を交わしてみたい。

そう思った私はある日、声を掛けてみることにした。

ティースタンド近くの道を歩いていると、いつものようにお茶の
入った紙製カップを持った彼女が歩いてきた。

「どうする。。。どうする。。。明日でもいいかな。。明日の方が
 良いかな。。。?」

すぐに逃げ道を作りたくなる自信のない私だ。

「逃げちゃだめだ。。。逃げちゃだめだ。。。」あるアニメの台詞
が頭を過ぎる。

「え~い!もう話しかけちゃえ!」

瞬間的に決意を固め、声を掛けてみた。

「おはよう!」

いつもは軽く頭を下げるだけで通り過ぎていた私が声を掛けたので、
一瞬彼女が驚いた表情を見せた。

すぐに笑顔になり「おはようございます」と挨拶を返してくれた。

「はぁ~良かった~~~」心が緩む。緊張が取れる。

「いつもあの店でお茶を買ってるの?」

「はい。そうですよ」

「そうなんだ」会話が続かない。。。

「俺、日本人なんだけどさ」
とどうでもよい会話を切り出す。

「はい。知ってますよ」

「えぇ?そうなの?知ってるの?」

「はい。もちろんですよ」

「どうして?」

「どうしてって。。。あなた、この界隈では少し有名ですから」

この見た目と変な発音の中国語を話すからだろうか。。。確かに道
を歩いていると知らない人から日本語で挨拶されたり、話しかけら
れたりすることが多かった。

「そうなんだ!俺、ちょっとした有名人なんだね」

「はい」ニコニコしている。

かっ、可愛いなぁ~~

「私はほら、あそこにある小さなお店を経営してるんです」
彼女が細くて長い指をさした先には彼女が経営する小さな店があっ
た。

「うん。知ってるよ」

「えっ?知ってるんですか?」

「はい、あなたはこの界隈では少し有名人ですから」

と先ほど彼女が発した言葉と同じ台詞を返した。

「ははははは」
「ははははは」

なんか和んでる。
少し距離は縮まったかな?

「楽しい人なのですね。そう噂では聞いてましたけど」

「ははは。みんな、俺の悪口ばかり話してるんでしょ?」

「そんなことないですよ」

「そうかなぁ~~?まぁ、でも君を信じることにしよう」

「はははは」
「はははは」

口元を隠しながら笑う彼女は。。。とても美しかった。

「そろそろ店を開けなくちゃ。。。ごめんなさい。行き
 ますね」

えっ?もう行ってしまうの?と思いながら

「う、うん。ありがとう。ごめんね、急いでたんじゃな
 い?」

「いいえ。大丈夫ですよ」

「良かった。楽しかった。ありがとう」

「私も。ありがとうございます」

手を振り、彼女は小さなお店に向かった。

うん。
話しかけてみて良かった。
しっかし可愛いなぁ~~

短い時間だったけど、少し距離が縮まった。

もっと仲良くなりたい。
はてさて、何か良い方法はないものか?
ヘルプしてくれる人はいないかな。。。?

いた!

あの男だ!


つづく





ヨガ日記 2020/06/09

ヨガ日記  2020/06/09

 身体をねじる

 身体のストレッチ効果はもちろん、内臓をマッサージする効果がある

 意外な事に内臓は固まりやすいそうだ。

 身体をねじることにより内臓をマッサージする

 ほぐれた内臓は機能を回復、体内に溜まった毒素を排出するなど、デ
 
 トックス効果も期待出来る

台湾喜人伝 16話 デビット 6

プノンペンにある衣料品卸市場。

ドーム状の建物の中には小さな衣料品問屋が無数に並ぶ。

そのスペースの一角にコーヒースタンドをオープンさせる
べく動き出したデビットと彼の仲間達。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ここにコーヒー豆を入れたケースを並べよう」

「椅子を数脚置くのはどうかな?」

集まったデビットと彼の仲間たちがその場で店の間取り案
を出し合う。

真剣で熱く、そして楽しげだ。

「ハロー」
一人の中年女性がデビット達に声を掛けた。

「オ~、ハロ~~~!元気だった?」
デビットが振り向き、笑顔で挨拶を返す。

そして「この女性がこのスペースのオーナーさん。こちらは僕
の友達。日本人です」
と軽く紹介してくれた。

「へぇ~!日本人ですか!初めまして。日本人とお話しするの
 は初めてよ」

「ありがとうございます。お会い出来て嬉しいです」

中華系なのだろう。
彼女も中国語を話していた。

彼女の話ではここは半国営のマーケット。
最近、ここを借りていた問屋さんが撤退し、新しい借り主を探
していたところ、デビット達がコンタクトしてきたとのこと。

オーナーを交えてコーヒースタンドの話を進めるデビットたち。
賑やかだ。

と、そこへ制服を着た男たち数人が現れ、女性オーナーに声を
掛ける。

盛り上がっていた会話が一気に冷める。
カンボジアの言葉を多少理解出来るデビットの顔が曇り出す。

何があったのだろう???

言葉は分からないけど、どこか冷たい命令口調の男達。

彼らが立ち去ったあと、「くっそ~!」とデビット。

デビットに近寄って
「どうした。何か問題か?」と聞くと

「うん。あいつらここを管理している役人なんだけど、この
 建物内は物販専用のスペースだから、飲食系の出店は出来 
 ないって言われちゃったよ。良い案なんだけどな~」

悔しそうだった。

スペースの権利を持つ女性が
「ごめんなさい。もっと慎重に調べるべきだったわ」とデビッ
トたちに謝っていた。

「いいよ。大丈夫。この近辺に出店出来るかも知れないし。ま
 た儲け話が思い浮かんだら相談します」

デビットそう返事をして、私たちは市場を後にした。

数分前まで希望に充ち満ちていた彼らから笑顔が消えていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

カンボジア滞在中、プノンペンからシェムリアップへバスで移
動し、アンコールワット観光に出かけたりしているうちに、帰
国日前日になっていた。

デビットに食事に誘われ、プノンペン最後の晩餐に出かけた。

訪れたのは最近オープンしたシンガポール人経営のレストラン
だった。

「デビット、ありがとう。素晴らしい滞在になったよ」

「お礼なんて要らないよ。俺も久々に心の底から楽しめたよ。
 次はいつ来る?」

「ははは、今夜帰るってのももう次の話かよ。まだ分からない
 な。でも、また来るよ」

「おう。いつでも連絡してくれよ。待ってる。」

カンボジアというアウェーの地で人脈を広げつつあるデビット。
台湾に居た頃も豪快だったけど、彼にはこの東南アジアの新興
国での生活の方が合っているようだった。

そこで私は聞いてみた。

「もう台湾へは戻らないの?」

「あぁ。もう台湾には隙間がないよ。窮屈なだけだよ。俺は戻
 らない」

「そうか。ご両親も理解はしてくれてるの?」

「うん。この前の旧正月、両親をこっちへ呼んで俺の仕事を見 
 てもらったんだ。俺、一人っ子だから親の事は心配だけどさ。
 俺の人生だから台湾には戻らないって伝えたんだ」

誰かの為にではなく自分の為に生きる。
自分の人生だから。

「じゃあさ、リサはどうするの?今のまま数ヶ月に1度、台湾
 に帰国した時に会うスタイルでいくの?」

デビットの恋人、リサの事が頭に浮かび、デビットに聞いてみ
た。

「う~ん。。。。。」

あれ?
言葉にしづらそうだな。
どうしたんだろう。

「俺さ、こっちの女性と付き合い始めちゃったんだ」

「えっ。。。。?そうだったんだ」

「しかもさ、もう子供もいるんだよ」

「え~~~~~!?子供がいるの???」

「うん」
下を向くデビット。

「おいおいおい本当かよ」

「そうなんだ」

「その話はリサにはしたんだよな?」

「した。。。。いや、出来なくて黙ってた。しばらくは
 二叉してたんだ」

海外で働く男にはありがちな出来事だ。

「ある日さ。リサをこっちに呼んだんだ」

「ちょ、ちょっと待って。その時はすでに。。。?」

「うん。こっちの女性との付き合い始め、すでに子供も生まれ
 てた」

「それは伝えられなかったの?」

「うん。出来なかった。。。」

デビットは視線を下に向けたままだった。

「出来なかったって。。。」
私は言葉を失った。

「でもさ、女の勘って凄いよ。台湾に帰国したリサからメール
 が来てさ、別れようって言われた。。。多分、察したんだと
 思う」

「その女性に合わせたりはしてないんだろ?」

「うん。話さえもしていないよ。でも、分かったみたいだった」

しばらく沈黙が続いた。。。。

「こっちの女性とは?」

「結婚はしていないし、一緒に生活もしていないよ。でも、子供
 がいるからね。面倒を見なくちゃ」

「プノンペンに住んで人?」

「あぁ。ほら、先日のパーティの日にさ。お菓子を買いに行った
 店、覚えてる?」

「あの小さな駄菓子屋さん?」

「そう。あの店で働いてる子がそうなんだよ」

「えっ?そうだったの?」

「うん。そして手を振っていた子供。あれが俺の坊主だよ」

驚きのあまり返答に窮した。

デビットが続ける。

「俺もそんな気はなかったんだよ。でもさ、こっちの女性って優し
 くてさ。食事を作ってくれたり掃除や洗濯も好きみたいでさ。台
 湾の女性もいいけど、台湾の子は外で仕事するのが好きじゃん。
 あまり家事はしてくれない。台湾にいる時はそれが普通だと思っ
 たんだけどさ。。。こっちの人と接するようになると、あぁ。。
 いいな~って思えてきちゃってさ」

確かに台湾女性は家にいるよりも外で働く事を希望する子が多い。
家にいる時間が少ない分、食事は屋台で買って帰ったりする習慣が
ある。

カンボジアの女性は台湾の女性より家庭的らしい。
デビットはそこに惹かれたようだった。

「じゃあ、リサとは。。。?」

「うん。会ってない。というか。。。会ってくれないよね。何度か
 電話やメールをしたけどさ。。。。あ~、リサ。。。良い女だっ
 たなぁ~。。。」

リサの事が忘れられず、今でも彼女の事を想い続けている様子。

「カンボジアでは今の家庭。台湾に帰国したらリサ。これが理想だ
 ったんだけどさ~。リサの事は今でも好きだよ。。。でもさ、も
 うどうにもならないだろ。。。俺、馬鹿な事しちゃったかな?」

真面目な顔で話すデビット。

「う~ん、でも、あのカンボジア人女性の事は好きなんだろ?」

「うん。好きだよ。でもなぁ~~。。。話しをしていて楽しいのは
 やっぱりリサなんだよ。俺、しくじったかな。。。リサ、もう会
 ってくれないよな~。。。」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

デビットの側にはいつもリサがいた。
私が彼らに出会った時からいつも2人は寄り添っていた。

一緒に笑い
一緒に仕事して
一緒に食事して

いつも2人は一緒だった。
2人の間には誰も入り込む事は出来ない。。。そんな確かな絆が
あったはず。

それが今では。。。。。

私がカンボジアを訪れてから1年半が経過した。

デビットからは時々ラインで連絡が来るけど、リサの話はしなくな
っている。

SNSでつながっているリサとは時々連絡を取り合っているけれど、デ
ビットと別れた事、今はデビットに対してどう思っているのかを聞い
た事はない。

確実なのは2人とも元気でそれぞれの人生を歩み始めているというこ
とだけ。

時々、また3人で会える日が来ないなか?
なんて思ったりするけれど。。。難しいかな。


おわり