カンボジアのプノンペンで再会したデビット。
彼が現地で知り合った仲間を呼び、私の歓迎会を開いてくれた。
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台湾、香港、シンガポールに中国。
様々な国に住む中華系の若者なちが集まった。
しかし時間の経過と共に酒が進み、恐怖のゲームが始まった。
ジャンケンのようなゲームで負けた人間はビールを一気飲みしなけ
ればならない。
まぁ、このくらいのゲームは日本人もやるかも知れない。
怖いのは酔いが回ってからだ。
一気飲みしたあと、みんなに持ち上げられ、プールの中に放り込ま
れるのだ。
放り込む方も放り込まれた方も大笑いしているが、1歩間違えたら
大惨事だ。
酒の一気飲みだけでもキツいのに、プールに投げられたらたまった
ものではないな。。。どうにかこの場を去らなければ。。。
辺りを見渡すとプールサイドから離れたところで女性4人と日本語
を話すフランス人が食事をしていた。
「あっちに逃げよう。。。」
気付かれないようにそ~っと場を離れる私。
酔っ払ってゲームに興じている連中は誰1人として気が付いていな
い。
無事に脱出し、女性達が食事しているテーブルへたどり着いた。
「こんばんは。お腹空いちゃった」と話しかけると
「ここ、空いてるから座って」と1人の女性が椅子を指さす。
「ありがとう」と会釈をして席に付く。
「お口に合うか分からないけど食べてみる?」と別の女性が鍋を勧
めてくれた。
見るからに辛そうな赤いスープ。
四川料理のようだった。
「これ、四川料理?」と聞くと
「そうですよ。良く分かりましたね」と鍋を勧めてくれた女性が答
えた。
席に座るよう勧めてくれた人は台湾人で、そのほかは全員中国人だ
った。
最初は遠慮しがちな、差し障りのない会話だったけど、徐々に場が
温まる。
台湾の女性は台湾での仕事に行き詰まりを感じ、思い切ってカンボ
ジアにある台湾企業で働くことにしたそうだ。
中国の女性たちは家族全員でカンボジアでビジネスを立ち上げる為
に来ていた。
四川鍋を勧めてくれた女性が
「ねぇ。聞いてもいい? どうして日本人は中国人の事が嫌いなの?」
「正直、あまり良い印象はないからね。でも、そっちも日本人の事
は嫌いでしょ?」
と聞きかえした。
「う~ん。私の父母の世代まではそうかも。でも、私たちの世代は全
く違う印象を持っているわ。もう何度も日本へ行ったけど、サービ
ス業のレベルは高いし、みなさん、とても親切。とても勉強になっ
ているのよ」
意外な話だった。
「今、私と同世代の中国人は日本から学べというスタンスで仕事をし
ている人がとても多いし、これからも増えていくわ」
今まで口を開かなかった女性も
「私なんて去年、日本に5回も行っちゃった(笑)全てが最高よ」
時代が移り代わり、世代交代が進めば、新しい価値観が生まれる。
中国の新世代はとても好意的に私たちを見ているのだな。。。
意外で新鮮な驚きだった。
「お~~~い!飲んでるかい!!!」
ベロベロに酔っ払ったデビットだった。
大声で女性達1人ひとりに声をかけ、場を和ませていく。
さすがデビットだ。
そして私の横に来たデビットが
「今、仲間たちと投資するビジネスの話があるんだけど、明日、そ
の物件を見に行くんだけど、良かったら一緒に行かない?」
「いいの?部外者の俺が同行しちゃって?」
「ダイジョウブ ダイジョウブ ゼンゼンダイジョウブ」
滅多にない機会だ。
「是非、同行させてよ」
「オウ!オッケーラ」
どうやら完全に酔っている訳ではないようだった。
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翌朝、デビットと朝食を済ませると
「ちょっと待ってて。今日はuberで移動してみよう」
デビットがスマホを操作。
迎えに来る車から5分後に到着するとの返答があったようだ。
カンボジアでもuberが広まっていた。
新しい仕事として現地でのuberの仕事に就く人が増え、車の需要も右肩
上がりだそうだ。
デビットのオンボロ日本車をアメリカから輸入した業者にも会ったのだ
が、社員が2週間交代でアメリカへ渡り、現地で実物を見て車を購入、
コンテナに積んでカンボジアへの輸出業務をしているとのこと。
需要が増えているので、アメリカでの車の確保が大変になっていると話
していた。
迎えにきた車に乗り込み20分ほど。
大きな衣料品の卸市場へ到着した。
大きなドーム状の建物の中に無数の小さな衣料品卸業者が軒を連ねてい
だ。
「この建物の中にこれだけの業者がいて、たくさんの仕入業者が来るの
に、コーヒースタンドが一件もないんだよ」とデビット。
小さな5坪くらいのスペースが空いたとの情報があり、そこを改装して
コーヒーを売る店にしようという計画らしい。
「小さな店だから投資額は少額だよ。でも、俺たちはよそ者だし、この
土地でのビジネスに慣れている訳じゃない。だから、こうした小さな
ビジネスをたくさん経験して、仲間との協力関係を強化して、徐々に
大きなビジネスにトライしたいと思ってるんだよ」
そう話すデビットの横で、店のサイズを測る業者が仕事を始めていた。
「彼も台湾人。こっちで頑張ってるんだよ」とデビット。
デザイン事務所と大工を兼業しているそうだ。
無口で黙々と仕事をしている。
もう1人の中華系も到着。
彼も台湾人で日本語を少し話せる。
「デビットが先陣を切って話を進めてくれるんだ。僕の家族は台湾でカ
フェを展開しているんだけど、僕は新天地でビジネスにトライしたい
と思ってね。経営ノウハウやマシンの供給ルートはあるから、プノン
ペンでコーヒー関連のビジネスを展開してる。始まったばかりだから
、この先の事は全く分からないけど、カンボジアには台湾にはない成
長や進歩が感じられる。この国に賭けてみようと思ってるんだ」
そう話す彼の瞳は輝いていた。
すでに市内にある大手銀行数店舗と銀行内にコーヒーマシンを置く契約
を締結させたそうだ。
デビットはもちろん、デビットの仲間たちも活き活きとしている。
身体から生命力が飛び散っている。
現場で話を聞き、意見交換しているデビット。
とても逞しく見えた。
つづく
台湾喜人伝 14話 デビット 4
カンボジア プノンペンで再会したデビット。
現地のでの仕事は安定し、海外に住みたいという夢を実現
させ、表情や動作、話し方から自信が溢れていた。
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デビットが運転する車に乗り込むと
「腹減った~。美味しいレストランがあるから行ってみよう」
とデビットが行きつけのレストランへ案内してくれた。
プノンペン市内の高級住宅街にあるカンボジアとタイ料理の
お店だ。
ちょっと、いや、かなりの高級店。
そんな店構えだ。
外壁はコンクリートの打ちっ放し。
店内内装もシンプルだが、楽器や家具などが飾られいる落ち
着いた店。
料理はタイのガパオライスやガイヤーンなど、私の好きなも
のをオーダーしてくれた。
タイの料理屋に比べるとどの皿も大盛りだった。
食事が済むと再びデビットの車に乗り込む。
「今日は疲れただろ?マッサージを受けに行こう」次は同じ
エリアにあるマッサージ屋へ連れて行ってくれた。
いつも私が利用している屋台のようなマッサージ屋ではなく、
スパのような高級店。
内装がとても素晴らしい。
しかし値段はタイの屋台マッサージ屋と大差なかった。
あんなにゴージャスなのに。。。人件費がタイより更に安い
という事なのだろうか?
プノンペン滞在中は毎晩このお店に通った。
食事もマッサージ屋も全てデビットが支払ってくれた。
1度位、支払いを任せて欲しいんだけどなぁ。。。
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翌日からデビットが仕事の合間と仕事が終わった後、市内観光
に連れ出してくれた。
デビットの管理するマンションの前には小学校と中学校がある。
朝はたくさんの子供達が学校に登校している。
歩いて登校する子もいれば、バイクに乗って。。。あれ???
バイク?
乗ってるのは子供。
中学生くらいの女の子が小学生の男の子を後ろに乗せて、バイ
クを運転している。
「はははは。プノンペンはまだ市内の公共交通網が発達してな
いからね。学校付近の子は歩きだけど、学校から離れた場所
に住んでいる子たちはバイク登校が認められてる。免許?さ
ぁ?どうなんだろう?
でも、子供がバイクを運転しているからって警察に逮捕され
たりはしてないから、多分、国も公認なんじゃないかな?」
とデビットが説明してくれた。
本当かどうかは分からないけど。。。。
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プノンペン市内のカフェ。
バンコクやホーチミン同様。
格好良いカフェが何軒もあるそうだ。
露店にもコーヒースタンドがたくさんあり、味も店によって様々
だそうだ。
本格的なカフェから露店。
本物志向のコーヒーと異常に甘いコーヒーまで。
選択肢も様々だ。
デビットが現地で知り合った台湾人の友達も台湾からエスプレッ
ソマシーンをカンボジアに輸入販売していて、順調に業績を伸ば
しているとのことだ。
デビットがランチの後に必ず連れて行ってくれたカフェは本格的
なコーヒーを楽しめる店で、現地の大学生やハイソな人達でいつ
も満員。
満員だけど、テーブル同士の距離があるので圧迫感は感じなかっ
た。
私が訪れた2018年にはスターバックスが現地に上陸。
すでにタイのカフェチェーンが進出しており、これから激しいカ
フェ戦争が繰り広げられるのであろう。
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夜になるとデビットのバイクの後ろに乗って、プノンペン市内を
2人乗りで疾走した。
市内にはカジノ付きの大型ホテルが何軒もあり、中国系のゲスト
で賑わっていた。
車も増えているとのことだけど、夕涼みがてらバイクで街を徘徊
する人達が多かった。
日本人居住区へも足を伸ばした。
「酒。日本酒飲もうよ」とデビット。
オイオイ、あんたバイクの運転手だろう?
「ダイジョウブダ~。警察に捕まったら賄賂を渡せば問題なし」
やはり東南アジア。
役所や警察には現金が有効なようだ。
と思っていたら、数日後。
デビットが車を運転中に信号無視。
交差点に立っていた警官に車を止められた。
すかさずデビットが現金を渡す。。。。
「金じゃない!免許証を見せろ!」と怒鳴られた。
賄賂は効かなかった。
日本人が多く住むエリアには多くの和食屋、寿司屋、拉麺屋を
見かけた。
私たちはデビットが見つけた1件の日本酒バーへ立ち寄った。
「こんばんは~」
店内へ入ると普通の日本語で出迎えてくれた男性2人。
2人の日本人スタッフさんが仕切る日本酒バーだった。
彼らがオーナーという訳ではなく、日本のIT企業が経営する日本
酒バーだった。
日本での本業もカンボジアでの事業も儲かっているので、現地で
飲食業をスタートさせている。
そのうちの1店舗だとのこと。
日本でも貴重なお酒を飲めるので、現地駐在員や地元のハイソさ
んたちで賑わっていた。
「店を開けて3年目ですけど、日本の方と台湾の方が一緒に来ら
れたのは初めてです」
と言われた。
「どっちも台湾人だと思ったでしょ?」と聞くと
「いやいや、そんなことないですよ~」と答えたスタッフさんの
顔は引きつっていた。
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ある夜。
デビットが私の為にパーティーを開いてくれることになった。
デビットはウィスキーやワイン、日本酒も買い集める。
「仲間の彼女達も来るんだ。彼女達の為にお菓子も用意しよう」と
いう事で、1軒の駄菓子屋さんに寄った。
女性1人が経営するボロボロの店舗だった。
デビットのマンションからも近く、デビットも良く利用していると
のことだった。
隣国タイのようなコンビニはまだ無く、露店はもちろん、こうした
小規模な雑貨屋がまだ商売をしていける隙間があるようだ。
二言三言、デビットはその女性店主と会話を交わしていると、店の
2階から5~6歳の男の子が大声でデビットと女性に何かを叫んだ。
女性オーナーの子供だろう。
デビットが子供に向かって手を振り、私たちは車に乗り込んだ。
こちらに住んでいる間にカンボジアの言葉を覚え、地元の人達とも
すぐに仲良くなってしまう。
こういう点は天才的だと思う。
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そしてパーティーが始まる。
彼の管理するマンション屋上を貸し切りにして、現地で親しくなっ
た友人達も集まってくれた。
台湾、香港、マレーシア、シンガポール、そして中国。
なぜか日本語を話すフランス人も混じっていた。
誰とでもすぐに仲良くなるデビット。
プノンペン市内にある公園でバスケットを楽しんでいる中華系に
片っ端から話しかけ、チームを作り、週に何度か公園でバスケを
して遊ぶ。
噂を聞きつけた他の中国系も集まり、今では結構な人脈に育てあ
げていた。
新しくプノンペンに店を開く中華系の人がいれば、デビットは仲間
を引き連れて食事に行く。
経営が安定するまで、そして新しく現地に来た中華系の仕事や生活
を少しでも支えられれば。
信用出来る人物だと認められれば、彼らの絆は深まり、投資や出資
など、関係を次の段階へ発展させていくのだそうだ。
国同士は問題を抱えていたり、つばぜり合いを展開していても、
俺たちは同じ言葉を使う同胞だ。
生まれた国を後にして新天地へ乗り込んでいる。
ここで生きていく。
これからも生きていく
助け合うのは当然だろう。
彼らからはそんな連帯感が伝わってきた。
つづく
台湾喜人伝 13話 デビット 3
デビットとリサ。
私のかけがえのない友達だ。
回数は減ってしまったけど、今でも連絡は取り合っている。
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「もう、面白くないんだよ。この街」
デビットはふてくされていた。
黙って聞いているリサ。
2人のビジネスは新竹ではなかなか定着せず、徐々に下降線を辿って
いく。
新竹は海にも近く、サーファーもある程度は存在しているのだが、彼
らは普段着にはあまり気を使わない。
短パンとティーシャツ。
別に有名ブランドである必要はない。
そう考えている人が多かった。
ブランド好きな台湾人の間でもサーフブランドは今ひとつピンと来な
いカテゴリー。
サーフィンがマイナースポーツのひとつでしかない。
どうせブランド品を買うなら誰もが知っている有名ブランドを買う。
そんな意識が一般的だった。
そして。。。。
「もう台北に戻る」
デビットが切り出した。
「店は閉めるの?」
「うん」
「台北で同じような店を?」
「いや。もう店はいいや。就職するよ」
「そうか。。。。」
残念だったけど、店を開けていても訪れるお客は少ない。
サイドビジネスで展開している中古カメラ販売も月に1台か2台を売
る程度になってしまっていた。
「リサはどうするの?」と聞くと
「彼が台北に戻るなら。私も台北に戻る」と笑った。
2人の実家は台北にあり、しばらく実家に世話になりながら、将来の
事を考えていくのだろう。
「結婚はしないの?もう付き合いも長いんだろ?」と今後の事を聞い
てみると
「俺たちはこの関係がベストなんだ。結婚もしないし、子供もいらな
い。だよな?」
デビットがリサに確認を取るように話を振る。
「うん。結婚は私たちのスタイルじゃない。彼と毎日、自由気ままな
生活、楽しく生きられればそれで十分」
とリサが答えた。
「そうか」
恋愛と結婚は別もの。
恋愛のゴールが結婚という概念には私も違和感を持っている。
当事者のデビットとリサが選ぶことだ。
自分たちにとって必要なものとそうでないもの。
彼らにはそれが分かっている。
「普通はさ」なんて言葉に振り回されず、自分たちを理解し、居心地
のよい生活を選んで生きている。
周囲がとやかく言う問題ではないのだ。
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数ヶ月後、2人は店を閉め、実家のある台北へ戻った。
デビットは台北市内にオフィスを構える不動産屋へ就職。
「台湾は退屈だ」と常々口にしていたデビットはその不動産会社の支店
があるカンボジアのプノンペンで仕事をすることに。
リサは実家に居候。
どうやら裕福な家の娘さんだったらしく、仕事をする必要はないそうだ。
3ヶ月に1度、デビットは台湾へ帰ってくる。
そしてリサと会い、1週間ほど一緒に過ごす。
私もデビットの帰国に合わせて台湾に飛び、彼らとの旧交を温めたりす
ることもあった。
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「カンボジアに来ない?」
ある日、デビットから連絡が入った。
「カンボジアかぁ~」
行きたいと思っていたけど、機会のないまま時間だけが経過していた。
プノンペンからアンコールワットのあるシェムリアップへ足を伸ばすのも
悪くないかな?
マイレージも溜まってるし、1週間くらいの予定を立ててみるか。
即決した。
成田からのチケットを買い、デビットが待つカンボジアへひとっ飛び。
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予定より早く空港に到着。
タイのバンコクほど乗降客がいないカンボジアの飛行場。
入国審査もすぐに終わり、待ち合わせ場所である空港入口でデビットを
待つ。
そして。。。。
「お~い!」
デビットだ!
うん?
かなり太っている!
「お~!元気だったかよ」と手を差し出すと
「ダイジョウブダ~」と例の変な日本語で手を握り返してきた。
数年ぶりの再会。
日本や台湾以外の国で会うのは初めてだ。
「太ったな~!」とデビットのお腹を軽く叩くと
「うん。こっちの飯、美味くてさ」と笑う大食いデビット。
「車、向こうに止めてあるからさ。とりあえず泊まる場所へ案内するよ」
「ありがとう」
ホテルはデビットが知り合いの所へ案内してくれるとのことで予約はして
来なかった。
空港の駐車場に止めてある古い日本車を指先したデビット。
「これ、買っちゃったよ」とニコニコしている。
日本大好きな彼はアメリカにルートを持つ現地輸入ディーラーにお願いし
アメリカで古い日本車を見つけてもらい、輸入してもらったのだ。
カンボジアはアメリカと同じ左ハンドル。
アメリカから輸入するのは手続きも簡単だったそうだ。
しっかしボロボロだ。
走るのかな?
エアコンは効くのかな?
途中でエンスト。。。車を押すなんてことは勘弁だ。
ちょっとだけ不安に思ったりもしたけど、意外と車は普通に走ってくれた。
妙な音がしていたけど。
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空港から30ほど走ると住宅街。
古い家と新竹の高層マンションが入り交じる街並み。
背の高い木々。
強い日差し。
タイとはまた違う東南アジア感。
この感じ、好きだなぁ~!
そして大きなマンションに到着。
ここがデビットの管理する物件。
部屋数は300ほどあり、住宅としてはもちろん、出張者向けに短期契約
を結べるようにもなっていた。
1階にはセキュリティと受付。
屋上にはプールとジム、そしてカフェが併設されている。
「こっちでは中流って感じの物件だよ」とデビット。
そして
「部屋、空いてるからさ。ここに泊まれば良いよ」
デビットもこのマンションに住んでいるとのことで、何か問題があればすぐ
にデビットと連絡が付く。
「お~。部屋も綺麗だし。いいね。1泊幾ら?」
「お金なんて要らないよ~。フリー。フリーだよ」
「タダって訳にはいかないだろう。会社の持ち物だろうし」
「実は俺の会社、カンボジアから撤退しちゃってさ」
「えっ?今はどうなってるの?」
「会社にコミッションを払ってはいるけど、この物件は俺が管理しているん
だよ。だから、どうにでもなる。友達から宿泊料なんて取れないよ」と笑
うデビット。
相変わらずだな~。
「もう少しで仕事も終わる。最上階のカフェで飯でも食べようぜ」
デビットはそう言うと私の荷物を持って部屋へ案内してくれた。
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案内してもらった部屋は広く、家具は完備され、wifiも飛んでいて快適な
環境だった。
また高層階にある部屋からの展望は朝も夜も美しかった。
「仕事は順調なの?」
デビットの仕事の事を聞いてみた。
「うん。お陰様で300室のうち80%以上がが稼働しててね。カンボジア
を視察する台湾企業など大口の契約もあるし、収入は安定してる。もう台
湾へは戻れないよ」
デビットは誇らしげに語った。
会社へのコミッションの支払いはあるものの、月収としては日本円で約30
万円。カンボジアで月収30万円の生活だ。
しかもオフィス、自分の部屋、友人を招くゲストルームは全て無料。
収入が多くコストは少ない。ある意味理想的な生活を送る事が出来ていた。
「ちょっと外を見に行こう。イオンモールもあるし、いろいろ見せたいもの
もあるからさ」
そうデビットに促され、再びオンボロの輸入日本車に乗り込み、プノンペン
の街へ繰り出した。
つづく
台湾喜人伝 12話 デビット 2
2011年3月11日
私たち日本人にとっては忘れることの出来ない日
東日本大震災が発生した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
震災翌日から台湾、タイ、ベトナムの友人や取引先から私や
私の家族の安否を確認するメールやラインが続々と入り出す。
海外でも大きく報道されていたようだ。
彼らの暖かい気持ちのこもった言葉に励まされた事は今でも
忘れない。
たくさんのメッセージの中にはデビットからのものも含まれ
ていた。
毎日ように「大丈夫か?」とのメッセージが入る。
海外の友達全員が日本の地理に詳しくはないので、私の住ん
でいるエリアがどこで、震災した東北にあるのか離れている
のか?
そんな確認も多かった。
そして。。。。原子力発電所。
海外、特に台湾では原子力発電所の被害とその影響に関して
連日トップで報道されていた。
「日本は放射能汚染が広がる」
「もう日本は終わってしまうのではないか?」
現地のニュースを見ながら、そう思った台湾の友人達も多か
ったようだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
日本での仕事が止まったまま数週間が経ったころ、デビットか
ら電話があった。
「本当に大丈夫なのか?日本の政府は原発の事を管理出来てな
いって報道されてるけど」
「うん。いろいろと報道されているけど、俺たち日本人にもよ
く状況は分からないんだよ」と答えると
「仕事は?仕事はどうなの?」心配そうなデビットの声。
「しばらくはこのままだね。被災地でもないから国からの援助
は期待出来ない。まぁ、貯金がない訳じゃないから、しばら
くは食っていけるけど。。。」
天災で長期間に渡って仕事が止まるなんて初めての経験だった
し、世の中は自粛ムードが広がり、一体いつから仕事が正常化
するのかなんて全く見えなかった。
「もしさ、もし、日本に住めなくなったらさ、台湾に来いよ」
「えっ?台湾に?」
「俺の家に住めばいいんだよ。リサも心配してるし、俺たちが
面倒見るよ!」
デビットの力強い声が伝わってきた。
「面倒見るって。。。」言葉が出なかった。
「だって放射の汚染が広がったら、仕事どころじゃないだろ?」
「まぁ、そうだけどさ」
「俺の家に住むのに抵抗あるなら、俺がマンションかアパート
を借りるからさ」
「いや、そんな。。。悪いよ」
「ダイジョウブダ~」デビットの変な発音の日本語が出て、ちょ
っと笑ってしまった。
「ハハハハ」
「ハハハハ」
「でもこれ、冗談でもなんでもないよ。すまないなんて思わない
でくれ。困ってるんだったら甘えてくれ。俺たち、友達だろ」
もう涙が出そうだった。
そしてデビットの話は更に続く。
「仕事。台湾に来たら仕事も必要だろ?小さな店で良かったら、
俺の名義で契約するから、何でも好きなもの並べて商売すれば
いいよ。台湾人は日本のものが大好きだしさ」
デビットは住む場所の心配どころか、私が台湾へ行った際の仕事
の事まで心配してくれていたのだ。
「飛行機は飛んでるし、放射能も台湾までは来ないだろ。もし時
間に余裕があるなら、また新竹に遊びに来いよ。そして俺の家
に泊まって、今後の話をしようぜ」
先行きの見えない状況にイライラしていた私は、デビットが待つ
台湾へ飛んでみることにした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
新竹に到着し、デビットの店に向かう。
良くお邪魔していたデビットの小さなサーフショップへ行くと、
私の姿を確認したリサが椅子から立ち上がり、大きく手を振って
くれた。
満面の笑顔で再会を喜んでくれ「元気だった。も~心配してたよ~」
と軽く肩を叩いた。
「お~!待ってたよ~!」
続いてデビットが店の奥から出てきて私を思いきり抱きしめた。
う~ん、男に抱きしめられるのはなぁ~と思いながらも、私も彼を
抱きしめた。
台湾では日本の状況を事細かに報道されており、デビット達は私と
ほぼ同等の情報を持っていた。
デビットの友達が買ってきてくれたお茶を飲みながら、しばらく話
をしていると、デビットが立ち上がった。
「行こう」
「うん?どこへ?」
「まぁ、いいから。リサも行こう。おい、ちょっと店番頼むよ」
とデビットは彼の友人に店番を頼む。
私とデビット、そしてリサの3人で新竹の道を歩いた。
久々に会う人たちが「お~!大丈夫だったの?良かった!」などと
気さくに声をかけてきてくれた。
笑顔で応対する私の姿を見て、デビットとリサも嬉しそうだった。
しばらく歩くと
「ここ」とデビットが小さな古い雑居ビルの前で足を止めた。
「うん?なに?」と私が聞くと。
「これ、店舗なんだよ。中、見てみる?」
そう言ってデビットはポケットから鍵を取り出してシャッターを持ち
上げた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ガラガラガラガラ。。。
やや重いシャッターを持ち上げると小さな店舗スペースが見えてきた。
外側も古いけど中もクタクタだ。
「オンボロだな~」と私が言うと
「ハハハハハ。仕方ないよ。相当古い物件だからさ。でも改装するよ。
俺が金出すから心配しなくていいよ」
デビットが私の為に見つけてくれた店舗物件だったのだ。
「改装費。安くないだろ」と私が言うと
「日本の安全が確保されて、お前が帰国したら俺が2店舗目として使
うからさ。俺に対する投資でもある。だから、心配しなくていいよ」
なんて奴なんだ。。。。
「上も見て見る?」
「上?」
確かに2階、3階もあるようだった。
店の裏側に階段があり、そこから2階へ上がった。
ドアを開けると小さな居住スペース。水道と台所も付いていた。
「もし、俺の家に住むのに抵抗があるようなら、ここに住めば良いよ」
「えっ?」
デビットの家に長期間住む事に遠慮がちな態度を見せていた私の為に
住む場所まで見つけてくれていた。
「契約するとしたらどうすれば良い?」
と私が聞くと
「ここの大家さん、俺の知り合いのおばさんなんだ。それに。。。」
「それに?」
「もう、借りちゃったんだ」
「借りちゃったの?契約しちゃったの???」
驚く私を見て大笑いするデビット。
笑い事じゃないだろう。
「今、商売も少し良い状況でさ。この雑居ビルを丸々契約しちゃった
んだよ」
「でも、俺、台湾に来るかまだ決めてないぞ」
「ははははは!どっちでもダイジョウブダ~」
また出た、デビットの変な日本語。
「この部屋は誰かに又貸ししても良いし、下の店舗スペースは倉庫と
して使っても構わないって大家さんからも言われたしさ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
台湾人は友達と認めた相手とは徹底的に付き合う。
幸せも楽しさも苦しみさえも共有する。
結局、その後、日本での仕事が順調に回復し、デビットのお世話にな
ることはなかった。
彼との友情は震災後を機に更に深まった。
そして今でも連絡を取り合っている。
つづく
台湾喜人伝 11話 デビット 1
「俺たち、どうやって知り合って、なんでこんなに仲良くなった
だっけ?」」
「う~ん、覚えてないなぁ。。。」
私とデビットはいつもこの会話をして大笑いする。
出会ったのは2008年辺りだったような記憶がある。
でも、共通の知人はいない。
それが毎晩食事を共にし、夜中まで話し込む仲になっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
デビット
豪放磊落で大食い。
バスケやサーフィン、日本の漫画やアニメも大好き。
友達からのお願いやお誘いはほぼ断らない。
身体が大きく、明るい性格なので、彼の周りにはいつも人がいて、
笑いが絶えなかった。
台北出身だが大学進学を機に新竹に住むようになり、卒業後も新竹
に残っていた。
彼は新竹でサーフブランドの衣料品を売る小さな店を経営していた。
自身もサーファーだ。
売っているのはアメリカの有名サーフブランド品。
なぜ彼が有名ブランド品の取り扱いを出来ているのか不思議だった。
「代理店と契約してるの?」と聞いたことがあった。
「いや。違うよ。俺の友達の親類が中国で大きな工場を経営してて
さ。アメリカの大手ブランドから受注して商品を生産してるんだ。
俺はその工場から商品を送ってもらってる。ブランドの連中には
内緒でね」と笑っていた。
ブランド会社も馬鹿ではない。
工場からの横流しが発覚すると別の工場での生産に切り替える。
しかし切り替えた新規の工場が元の工場の親類だったりする事が多
く、工場からは安定した商品供給という名の横流しが継続するのだ
そうだ。
本物の商品をアウトレット価格で売っていたが、新竹の人達の間で
はサーフブランドは定着しておらず、彼のビジネスは苦戦していた。
「売れないよ。でも、俺はこれが好きだからさ」
いつもそう話していたデビット。
そうは言っても店の家賃や光熱費を支払っていかなければならない。
困った時はどうするのか聞いたところ
「小さな商売だけどさ、時々日本に行くんだ。日本のフリマに行く
と古い日本製カメラのボディが20個で500円位で売られてて
さぁ。あんなの直せるからね。台湾には日本製の古いカメラを使
いたい連中が多い。俺は壊れたカメラを直して、彼らに売ってる
んだ。1台1万円位売れるんだよ」
20個500円で購入したカメラを1台1万円で売る。
凄い利益率だ。
しかし素人のデビットが修理したカメラってちゃんと作動するのだ
ろうか。。。。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
彼にはリサという彼女がいた。
大学の同級生。
出会ってすぐに意気投合、付き合いが始まり、すぐに同棲生活をスタ
ート。
普段は物静かだがコーヒーと椅子の話をしている時は身振り手振りが
大きくなり、まるで別人になる。
デビットを信頼し、いつも側にいるが、デビットの遊びに関してはつ
べこべ言わない。
デビットが他の女性の話をしている時でも、横でニコニコしながら話
を聞いている。
「どうせ私からは離れない」そんな余裕を感じさせた。
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「次ぎ、台湾に来るときは俺の家に泊まりなよ」
デビットがそう切り出してきた。
しかし彼はリサと同棲中だ。
「いや、いいよ。リサに悪いだろ」
と私が答えると
「そうよ。私たちの家、部屋が空いてるから、そこに着替えとか置いて
いっちゃってもいいのよ」
とリサが好意的に勧めてくれる。
台湾人と仲良くなると大体家に泊まれと言われるのだが、同棲中のカッ
プルの家に居候するのもなぁ~と考えてしまったけど、彼らのご厚意に
甘えることにした。
「もしよかったら、ホテルをキャンセルして今夜からウチに泊まれば」
「えっ?今夜?」
はっ、早いなぁ~
「大丈夫なの?」
「ダイジョウブ、ダイジョウブ、ゼンゼンダイジョウブダ~」
大学で1年間日本語を専攻したデビットは少しだけ日本語のフレーズを
知っていた。
「じゃあ、ホテルをチェックアウトして今夜からお世話になるよ」
「オッケー。チョットマッテテ」
そう言い残し、デビットはバイクでどこかへ行ってしまった。
デビットが不在の間、リサと話をしているとデビットが戻ってきた。
「はい、これ」
デビットの手の平には鍵があった。
「何これ?」
「ウチの家の合い鍵だよ。俺たちがいない時でも勝手に家に入って構
わないし、腹が減ってたら冷蔵庫のものを食べちゃって良いからね」
仲が良いとは言え、外国人の私に合い鍵。。。まぁ、それだけ信頼さ
れているということなのかな。
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大食いデビット。
台湾人は男性も女性も比較的よく食べる。
しかしデビットはその枠を越えている。
都市伝説レベルの大食いだ。
普段のお昼はマクドナルドでビッグマック2個とチーズバーガーや
その他のバーガー類、計4つとポテトを食べている。
そんな彼には時々更に大食いになる時がある。
以前、台湾の焼き肉食べ放題へ行ったときのこと。
時間無制限のお店で、3時間も焼き肉を食べ続けていた。
「はぁ~食った、食った!」
彼のお腹はぽっこりと膨らんでいた。
とにかく肉だけを食べていた。
ご飯や野菜は絶対に食べない。
「だって焼き肉を食べに来たんだからさ」
そう言ってデビットは笑っていた。
それはそうだけど。。。
そんな彼が日本に来た際、都内にあるイタリアンレストランへ行き、
90分の食べ放題コースをオーダーしたことがあるそうだ。
一つの皿にパスタを山のように盛り付ける。
その時点でお店側から「本当にそんなに食べる事が出来るのか?」と
聞かれたらしいのだが、いとも簡単に完食し、次の皿、そして完食、
また次の皿。。。
そんなことを繰り返していると、店のオーナーさんが出てきて「ノー
ノー!ストップストップ!」と英語で言われた。
「まだ40分しか経ってないのになぜ?」と聞くと
「こんなに食われたら店はたまったもんじゃない。お金は要らないか
ら返って下さい。お願いします」と頭を下げられてしまったそうだ。
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こんなデビットとの絆が深まる出来事があった。
まだ記憶には新しい「あの日」の事は絶対に忘れることは出来ない。
つづく
台湾喜人伝 10話 サイレントアサシン
「アウチ!」
旧正月。
街のあちらこちらで爆竹の炸裂音が鳴り響く中、1人のアメリカ人が
お尻を手で押えて座り込んで。
苦痛に歪む顔。
「どうしたの?ねぇ!あなた!大丈夫?」
台湾人の女性が引きつった表情でアメリカ人の腕や背中をさすっていた。
爆竹の炸裂音が街の空気を切り裂くように響き渡っている。
まるで戦場のようだった。
お尻からゆっくり手を離し、自分の顔に近づけると手の平には血が付い
ていた。
「オーマイガ~ッ」
うめくように言葉を発したのはジョージ。
彼を介抱しているのは台湾人でジョージの奥さん。
2人は台湾で出会い、ジョージが台湾に移住し2人でアメリカから衣料
品を輸入販売する会社を経営していた。
ローカルなものが主流の台湾マーケットにアメリカのブランド品を輸入
していた彼らのビジネスは当時の若者達の支持を受け、急速にマーケッ
トを拡大していた。
そんな彼らに放たれた1本の矢。
一体誰が。。。。
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「あいつら。。。気に入らね~な」
「そうだそうだ。ここはアメリカじゃねぇ~。台湾なんだよ!」
屋台のような料理屋で台湾料理を喰らいながら不満をぶちまけている男達
がいた。
「あいつらが来てからというもの、俺たち台湾人のビジネスに影響が出て
いる。みんなも知っている阿山、あいつ、来月で店を閉めるらしいぜ」
「それもジョージのせいだ。あいつさえいなけりゃ。。ケッ!」
「大体あの女はよ~。なんで台湾人なのにアメリカ人と結婚して、アメ
リカ人の応援をしてるんだよな~」
「そうだそうだ!」
この男達。
地元ローカルで生まれ、育ち、ビジネスをしている連中だった。
普段はにこやかな台湾人もいざ競争相手やよそ者に対してはかなり手厳
しい。
時には異常なほどの競争心。。。いや、憎しみを持ってしまう場合もあ
る。
仲の良かった友人たちが同じようなビジネスを立ち上げ、その後疎遠に
なり、敵対していく過程を何度も見てきた。
そして、彼らを怒らせると怖い。
ビールを煽りながら大声で気勢を上げる男達に混じって、1人の男が黙
って彼らの会話を聞いていた。
そして。。。。事件は起きてしまった。
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事件当日。
台湾の旧正月。
台湾の爆竹は日本のそれとは比べものにならないくらいの火薬の量だ。
爆竹そのものの大きさも炸裂したときの音も、日本のものとは比べもの
にならないくらい格段に大きい。
1発ずつ鳴らすのではなく、大量の爆竹を1度に慣らす。
まるで爆弾のようだ。
耳を押えてないと鼓膜が麻痺する。
少し離れた距離に居ても、爆発の際の衝撃が皮膚に突き刺さるように
痛い。
ジョージも妻と家族を連れ、あちらこちらで鳴り響く爆竹の轟音に耳を
塞ぎながら街歩き。
例年同様、騒々しい台湾の旧正月を楽しんでいた。
1人の男に後をつけられていることも知らずに。。。。
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屋台が連なる道。
幅が広くないので人々の距離が近い。
うまく前進出来ず、かといって後戻りも出来ず。
ジョージたちは人の流れに身を任せてゆっくりと歩き、時々立ち止まっては
屋台をのぞき込んだりしていた。
やや人の流れが動き出したときだった。
1人の男が静かにジョージとの距離を縮める。
上着のポケットから手を取り出す。
手にはアイスピックが握られていた。
サクッ!
その男の手に握られたアイスピックがジョージのお尻に食い込んだ。
「アウチ!」
お尻を押え座り込む込むジョージ。
驚く彼の妻。
そして人の流れに紛れてその場を無言で立ち去る男。
爆竹と人混みの中。
座り込んだジョージに気が付いた人は少なかった。。。。
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その男はチェンの家にいた。
私の友人、チェンの家だ。
チェンは友人を誘い、お酒を飲みながらポーカーゲームを楽しんでいた。
旧正月、家族や友人が集まりギャンブルを楽しむ。
中華系社会では一般的な過ごし方だ。
「あ~~~。あ~~~~。」
その男が突然声を上げる。
そしてポケットからアイスピックを取り出す。
彼の手に握られているアイスピックを見たチェン達は静まり返った。
この男が何かをしたらしい。。。
不慣れな手話でチェンがその男に話を聞く。
「さっき、ジョージを刺してきた。懲らしめてやったんだ」
愕然とするチェン。
「刺してきたって。。。。まさか殺したりはしてないだろうな?」
チェンが手話での聞き取りを続ける。
「殺したりはしない。お尻を刺してやったんだ。天誅だよ」
男は自慢げに手話で答えていた。
「な。。。なんて事を。。。」
チェンは力を失い天井を見上げた。
刺した箇所から命には別状はないと思った。
しかし。。。。今頃警察が捜査を始めているのではないか。。。
大変なことになる。。。
チェンの予感は的中した。
それはそうだ。
この男は人を刺してしまっているのだから。
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通報を受け動き出した地元警察。
その警察の動きは元教え子を通してチェンの耳にも入ってきた。
「あのジョージが刺されちゃったんですよ~。びっくりです。犯人ですが?
まだ捕まっていないんです。人が多すぎて逆に目撃者がいないと言うか。。
旧正月で賑わってますし。。。犯人というか目撃者を探すのに苦労していま
すよ」
「そうなんだ。旧正月なのに物騒だね。じゃあ、ハッピーチャイニーズニュー
イヤー!」
チェンはそう言って電話を切った。
旧正月を祝うどころではない。
何とかしなければ。。。
チェンは携帯を持ち、電話を掛ける。
「はい。もしもし」
「こんばんは。チェンです。」
相手は警察署長だった。
あの派手な飲み会でお金を店に支払わずに済ませてしまった。。。あの署長
だ。
チェンは事情を説明した。
犯人の事も素直に話をした。
そして。。。
「よし分かった、俺が何とかするよ」
と署長が答えて電話を切った。
翌日。。。捜査は打ち切られた。。。。犯人不明のまま。
公には犯人捜しは続いていたけれど、捜査は打ち切られていたのだ。
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ジョージを刺した男。
サイレントアサシン。
正体はアーピーのお父さんだった。
あの日の屋台での食事会にアーピーのお父さんもいた。
話す事が出来ないお父さん。
いつも身振り手振りで「あ~~~。う~~~」と言うだけだった。
しかし人の会話は理解出来る。。。らしい。
仲間たちと酒を飲みながら、怒りをぶちまける飲み仲間達の話を聞いていた。
腹を立てている仲間たちを見ているうちに怒りが湧いてきたようだ。
そして。。。ジョージを刺してしまった。
アーピーのお父さんの仕事には何の関係もないジョージ。
そのジョージを刺してしまったのだ。
なんとも理不尽な出来事。
チェンは「勘弁してくれ」というような表情で私に話をしてくれた。
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アーピーのお父さん
ちょっと変わった人だけど、私が台湾に行くと家に招待してくれ、小さな中国式
茶器でお茶を入れてくれる。
「美味しい!」と言ってお茶を飲む私の姿を見ては、私を指さし嬉しそうな笑顔
で親指を上に上げるお父さん。
短気で喧嘩っ早い雰囲気があったけど。。。。まさかアイスピックで。。。
職を転々としていたお父さんをチェンが仲介。市内の公立高校で用務員としての
職を得た。
しかし1年も経たずして学校と喧嘩。
チェンもお父さんに対して腹を立てていて、それ以来会っていないという。
おわり。
台湾喜人伝 9話 イエローの結婚 4
イエローの彼女の夢を叶える為、日本の取引先オーナーが台湾にやって
きた。
オーナーさんとイエローたちとの会談が明日という段階になって突然イ
エローからの申し出によって、夢を見据えたミーティングが吹き飛んで
しまった。
イエローは理由を話せないという。。。
一体、何があったのだろう?
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婚約を破棄したのはイエローの方だった。
イエローと言うより、イエローのお母さんだった。
2人のコミュニケーションが上手く行ってないような雰囲気は感じていた。
店で2人が一緒になるとイエローのお母さんはややキツい口調で彼女に接
していたし、彼女の顔からは笑顔が消えていたから。
ちょっと相性が悪いのかな?
でも結婚して一緒に住む訳じゃないし。
そう楽観的に思っていたのだが。。。
友人の話では以前からお母さんは2人の交際に反対していた。
その理由は。。。。占い。
生年月日や血液型。
占いでは相性が最悪だったそうだ。
台湾人の間では占いが広く信じられていた。
会社の採用試験の際に社長との相性で採用不採用が決まる事もあると聞い
た事はあった。
それは結婚にも当てはまる。
でも。。。。
イエローと彼女はもう6年も付き合っている。
相性が悪かったらとっくに別れていただろうに。。。
1度は納得、了承していたお母さんが土壇場になってテーブルをひっくり
返してしまったのだった。
どうしてもお母さんの中で納得出来ないものがあったのだろう。
でも。。。でもなぁ。。。
結婚は当人同士の問題なんだと思うんだけど。。。
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イエローとはその後何回か会う機会はあったけど、婚約破棄に関して私から
何かを聞くような事はしなかった。
まだイエローの心に傷として残っていたら、乾ききっていない傷に触れる事
なんて出来なかった。
ある日、イエローから食事に誘われてランチを共にした。
「あの日は本当にすみませんでした。。。」
イエローが口を開いた。
事の経緯を話してくれた。
私が聞いていた通りの展開だった。
「それでどうなの?もう彼女の事は忘れられたの?」
「はい。。。。実は最近まで彼女とは会っていたんです。。。親に内緒で。」
「そうだったの?よりを戻してまた付き合う気があるの?」
「僕はそう思っていたんですけど。。。ダメになりました」とイエロー。
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イエローと彼女は婚約破棄後も時々会って食事をしていた。
楽しかった。
でも、以前とは何かが違っていたそうだ。
イエローが切り出した。
「俺たち、もう1回やり直さないか?もちろん結婚を前提にしてさ」
「でも、御母様が。。。御母様の決めた事を覆すなんて無理でしょう?」
「そんな事ないさ。俺が。。。俺がお袋を説得するからさ。もう1度、君と
やり直したいんだ。俺には君が必要なんだって今更ながら気がついたんだ
よ!」
「嬉しい。。。。けど、もう私たち。。。。終わりにしないと。。。」
「なんで?なんでだよ?俺たち絶対にやり直せるよ!お袋は俺が説得する。
俺の人生には君が必要なんだって。俺の人生は俺のものだって。お袋には
そう言うからさ!」
この言葉を聞いて彼女の心を取り戻せる。
そう思っていたイエローだったが。。。。
「じゃあ、なんであの時、そう言ってくれなかったの。。。なんで御母様の
話を聞いて、黙って頷いてしまったの? 私。。。私、悲しかった。。」
そう言って彼女は席を立ち、レストランから出て行ってしまった。
イエローは追いかけられなかった。。。
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それからというもの、イエローは生きる気力を失った。
店を建て直さなければいけないのに心、ここにあらず。
仲間と会えばそれなりに楽しかったけど、どこか無気力だった。
夜、店を閉めると真っ直ぐ家には戻らず、バイクで街を放ろうする。
行き先もなく、ただバイクに乗って無為に時間を過ごしていた。
そんな日々が続いていたある日のこと。
「あっ!」
イエローは彼女の姿を見かけてしまった。
バイクを止め、彼女が通りを歩いているのを見つめていた。
「挨拶くらいしてみようかな。。。うん、ちょっと声を掛けてみよう」
そう思い、バイクを走らそうとした瞬間だった。
道に止めてあった黒いドイツ車から1人の男が下りて、彼女に向かって
手を振った。
笑顔で手を振り返す彼女の姿。
「もう終わったんだ。彼女はもう新しい人生を歩み始めている。そう思
ったんですよ。ショックだったけど、俺も新しい人生を歩み始めない
とって」
そうイエローは寂しげな笑顔を浮かべていた。
イエローの恋は終わりを告げた。
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その後、イエローの彼女とは1度だけ電話で話をした。
日本からわざわざ足を運んでくれたオーナーさんへ謝っておいて欲しいこと。
私に迷惑を掛けてしまったことを謝ってくれた。
そしてイエローとの別れ。。。本当に辛かったことを話してくれた。
話を聞いている私も辛かった。
新しい彼氏が出来た事も話してくれた。
今はどこで何をしているのかは分からないけど、幸せになっていて欲しい。
イエロー。
彼女と別れて1年後。
通っていた歯医者で歯科技工士として勤務していた女性と付き合う事になり、
その子と1年半の交際を経て結婚。
店の経営が傾き、家庭を守る為に店を閉め、今ではサラリーマンとして日々
頑張っている。
そして2人の子供に恵まれている。
今でも時々連絡をくれるイエロー。
相変わらず良い奴だ。
幸せな家庭を守るお父さんになったイエロー。
頑張れ!
イエロー!