イエローの彼女を紹介され、彼らとの交流を深めていく。
結婚する約束を交わした2人。
反面、イエローの店は経営難。
店の地下倉庫には商品が山のように積まれていた。
それでもイエローの彼女は気丈にイエローを支えていくと
話してくれた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「メイクや美容に関する店を持ちたい」
そう話していたイエローの彼女。
少しでもお手伝いが出来ればと思い、日本の取引先オーナーさんへ
メールを打った。
数日後、オーナーさんかた届いたメールはとても好意的な内容だっ
だ。
「その台湾の女の子、就業ビザさえ揃えられればウチで勉強しても
らっても構わないよ。言葉の壁はあるだろうけど、もし、本当に
それだけの気持ちがあるなら、ウチは全力で応援させてもらうか
らさ。遠慮なく何でも相談してよ」
そして。
「台湾のマーケット。ちょっと興味があるんだよ。美容部員を連れ
て台湾に視察に行きたいんだけど、その子と会えるかな?話をし
てみた」
話が一気に前進していく。
台湾視察の予定を聞き、すぐさまイエローと彼女へ連絡した。
「ありがとうございます!彼女、とても喜んでます。ちょっ!ちょ
っと待って下さいね(笑)」
「もしもし、私です!」
イエローの彼女だ。
イエローから受話器を取り上げて話し始めたようだ。
「ありがとうございます!ありがとうございます!ありがとうござ
います!! こんなに早く話を進めていただけるなんて。。。夢
のようです」
「うん。私も展開に早さに驚いてるんだよ。喜んでくれて嬉しいよ」
「私。頑張ります!こんなチャンス。。。同じ夢を見ている台湾女
性は多いと思うけど、実際にこんなチャンスに恵まれる人は人握
りでしょうから。。。本当に嬉しい。ありがとうございます」
飛び上がって喜んでいる彼女の姿が目に浮かんだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
取引先オーナーと彼の店で働く美容部員さんが台湾に飛ぶ前々日、
私は台湾に入国を済ませていた。
台北で2~3の用事があり、それを済ませておきたかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
知人の店を回り用事を済ませ、午後からはホテルでのんびりと過ごし
ていた。
今日の夜にはオーナーさん達が台湾に入国する。
もう飛行機には乗った頃だな。
そして明日、イエローと彼の彼女たちと会う。
場所はイエロー達が住む中壢だ。
オーナーさんたちは台北以外にも地方都市を見てみたいと話してくれ
ていた。
明日が楽しみだな。
来台するオーナーさん達との晩ご飯を想像しながらベッドで横になっ
ていると携帯が鳴った。
イエローからだった。
イエローも彼女も明日が待ちきれないんだな。
携帯の通話をオンにした。
「もしもしイエロー!元気?いよいよ明日だね」
そう話しかけると
「はい。。。。。」
イエローの声のトーンが低い。
「どうしたんだよ~。イエローらしくないじゃん」
「はい。。。。。」
何か。。。。あったに違いない。
「どうしたイエロー。話してくれ。何かあったのかい?」
「実は。。。明日のミーティング。。。無かった事にしてもらえません
か?」
耳を疑った。
イエロー、何を今更。。。
もうオーナーさん達は台湾に着いている頃だよ。。。
「一体どうしたんだよ。もうオーナーさん達、台湾に来ちゃってるよ。
今更、予定を変更するなんて不可能だよ」
正直、腹が立った。
オーナーさん達の好意を踏みにじってしまうじゃないか!
オーナーさん達の旅費や時間をどう償えば良いんだよ!
しかし、今は冷静にイエローと話をしよう。理由を聞かなければオーナ
ーさん達へ説明も出来ない。
「イエロー。話してくれ。何があったんだ?」
「すみません、本当にすみません。。。。今は。。。今は理由を話せま
せん。本当に。。。ごめんなさい」
ご両親に何かあったのか?
だったら話せる筈だ。
となると。。。彼女との間に何かあったのか?
「落ち着いたら必ず連絡をします。日本から来てくれたオーナーさん達
へも謝っておいて下さい。本当に。。。本当にごめんなさい。。」
「分かった。オーナーさん達へは謝っておくよ。必ず連絡してくれよ」
「はい。分かりました。すみません。。。」
電話を切った。
次の瞬間、また携帯が鳴った。
オーナーさんからだった。
ホテルへのチェックインが終わったとのこと。
すぐに迎えに行きますと伝え、電話を切り、オーナーさんたちが宿泊す
るホテルへ向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ホテルロビーでオーナーさんと久々の対面。
「お~!元気だった。久々じゃない!」
「あ、ありがとうございます」
これから明日のミーティングが無くなったと伝えなければならない。
気が重い。。。
「実は。。。。」
理由が分からないまま、ミーティングが無くなった事を伝え、謝罪した。
とんでもなく怒られるだろう。
信用もがた落ち。
信頼関係にもヒビが入るだろう。
そう覚悟していた。
「そうかぁ~。仕方ないね。いいよ。気にしなくていいよ。こういう事
って運とタイミング。今回は会っても上手く行かないってことだと思
よ。明日はスタッフと台北市内の店を見学するからさ」
全身から力が抜けそうになった。
「すみませんでした。せっかく台湾まで来ていただいたのに。。。」
「いいの。いいの。気にしなくていいよ。今夜は美味しいもの食べよう
よ!」
オーナーは笑顔でそう言ってくれた。
気持ちの大きな人で良かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌日の朝。
携帯が鳴った。
イエローと共通の友人からだった。
「聞いた?イエローのこと?」
「いやぁ~、本当は今日、彼らに会う予定だったんだけど、昨夜急に電話
で。。。」
経緯を説明した。
「そうだったんですね~。すぐそちらにも連絡があると思いますが。。実
は彼らの婚約が破綻しました」
えっ?
婚約破綻???
あれほど仲が良かったのに。。。。
彼女は仕事を辞めてまでイエローの店で働いていたのに。。。
あの在庫の山を見てもなお、イエローを手伝いたいと話していた彼女。
その彼女との婚約が破綻した。。。。。
「どういう事?全然意味が分からないよ」
「う~ん、イエローとは親友なので私の口から話すのは気が進まないので
すが。。。実はこんなことが。。。」
台湾喜人伝 7話 イエローの結婚 2
台湾の中壢で出会ったイエローと彼女。
デパートで日本の化粧品販売をしていた彼女が仕事を辞め、
イエローの経営する店で働き始めた。
結婚へ向け、夢を共有する2人。
とても幸せそうだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最初はややぎこちなさがあったイエローの彼女も徐々にイエローの店
での仕事に慣れてきていた。
ストリートウェアの店なので来店客はちょっと厳つい人が多いけど、
慣れると優しい人が多くて、女性に優しくて気さくだ。
彼女もそんな彼らから認められ、お客さんが連れてくる彼らの彼女た
ちと仲良くなり、彼女なりに居場所を築きつつあった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
イエローと彼女が働く店に、イエローのご両親が来ることがあった。
ご両親は私を見つけると笑顔で話しかけてきてくれる。
お父さんはイエローにはちょっと厳しい口調だけど、彼女には優しか
った。
お母さんはイエローには優しく、彼女には厳しいとまではいかないけ
ど、いつも真面目な顔つきを崩さなかった。
お母さんの話を真面目な顔で聞いていた彼女。
旦那を支える奥さんの仕事。
イエローのクセや考え方などを話しているのかな?
そんな雰囲気だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ある日、イエローの店を訪れると
「すっ、すみません、台北に用事が出来てしまって。。。。2~3時
間で戻るので、待っててくれませんか?晩ご飯、一緒に食べたいか
ら」イエローが申し訳なさそうな顔で切り出した。
「大丈夫だけど、仕事を優先して。ご飯は次回でもいいし」
「いえ、絶対に戻ってきますので!必ず。。。必ず待ってて下さいね
。すみません、行ってきます!」
そう言い残し、イエローは店から駆け出して行った。
「すみません。イエロー、バタバタしちゃってて。。。」彼女が近づ
きながら話しかけてきた。
「こんにちは。大丈夫だよ。俺、暇人だからね」と答えると彼女が笑
ってくれた。
その日は雨。
来店客が少なく、彼女と話している時間が多かった。
時間が経つに連れ、少し真面目な話もするようになっていった。
「俺から聞いて良いのか分からないけど、結婚の話は進んでるの?」
私が聞くと
「はっ、はい。少しずつですけど。。。」と彼女。
私から視線を外し、少しうつむき加減でそう答えた彼女。
こちらから聞くような話じゃなかったかな。。。ちょっと後悔した。
「実は。。。。ちょっと聞いてもらいたい話があるんです」
彼女の目がいつになく真剣だった。
「どうしたの?心配事?」
「はい。これから話すこと。イエローには内緒にしてくれますか?
そう約束してくれますか?」
切実な表情だった。
「うん。イエローにも誰にも話さないよ。約束する」
「ありがとうございます」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
彼女から聞いた話は少しショックな内容だった。
どうやらお店の経営が上手く行ってないようだった。
固定客に支えられてはいるものの、ストリートウェアというマーケッ
トは客層が限られている
。
毎日同じ人が来て、話をして帰る。
お店は賑やかな反面、売上が伸びていかない。
流行廃りも激しい。
学生の顧客は学校を卒業すると環境が変わり、来店する機会が減る、
なくなる。
ブランド品なので仕入れ値が高く、少しでも商品が売れ残るとすぐに
利益を圧迫する。
中でも問題なのはスニーカー。
色やサイズを豊富に揃えておかないとお客さんのニーズに応えられな
い。ストリートウェアの店なので貴重なスニーカーを並べる必要があ
るそうなのだが、そういう商品は普通のルートでは入荷しないので、
特殊なロートから高値で仕入れているという。
「この店の下。倉庫になっているのですけど、見ていただいても良い
ですか?」
店の問題点を話してくれたあと、私を店の地下にある倉庫まで案内し
てくれた。
そこで見たもの。。。。恐ろしい数の在庫だった。
スニーカーの箱が山のように積み上げられていた。。。
こんなにたくさんの在庫!
イエローの店だけで売れる訳がない。。。。。
「こっ。。。これは。。。」
「そうなんです。一生懸命に仕入れてもすぐに売れ筋が変わる。新し
い商品が出ると昨日まで人気があった商品が売れなくなる。利益が
少ないのに。。。。」
「イエローには何か言ったの?」
「はい。時々話をするのですけど。。。彼、スニーカーが大好きで。
。。。売れなくてもスニーカーに囲まれて生きていたいって。。」
彼女の話は続いた。
「今日、台北へ向かったのも仕入先と話し合いをするのが目的なんで
す。支払いが。。。月末の支払いが無理そうで。。。支払いを少し
先延ばし出来ないかの相談に行ってるんです。。。」
「そっ、そうなの?」
イエローからは店の経営は順調だと聞いていたけど。。。。実情とは
違うようだ。。。
堅実な仕事をしているイメージしかなかったので、実情とのギャップ
に驚かされた。
「店の維持費や給料などは大丈夫なの?」
「はい。この店はイエローのお父様の物件なので、今は家賃をゼロに
してもらいました。イエローは給料を取れてません。私は給料なん
て要らないと言ったのですが、自分は我慢して私に給料を払ってく
れてます。。。」
「何とかしないとね。俺からも話をしようか?」
「いえ、大丈夫です。私と彼で何とかしますので。。。私、彼の仕事
は良く分からないけど、彼を支えたいんです。ごめんなさい。。こ
んな話を。。。ありがとうございました」
「うん。いいんだけど。。。本当に大丈夫?俺から少し話をしてみて
もいいよ」
「はい。もう大丈夫です!だから、今聞いた話、見たことは忘れてく
ださいね」
笑顔を見せてくれたけど。。。。眉間に不安な気持ちが表れていた。
台湾人はメンツに拘る。
お金に苦しい思いをしていても見栄を張る。
イエローはギャンブルやバー、クラブ通いはしてなかったけど、若い
常連客が来ると飲み物をおごったり、ご飯に連れ出したりはしていた。
毎日ではないようだったけど、多分、そういう経費もボディブローの
ように経営を圧迫していったのだろう。
ストリートウェアに限らず、ビジネスで成功している同年代の経営者
達が連日のようにパーティーを開き、その様子をSNSにアップしていた
時代だ。
そんな彼らに憧れを抱いたり、目標にしたりする人達も多かったよう
に思う。
それにしても彼女は凄いな。
こんな現実を目の当たりにしても、まだイエローを支えていきたいな
んて。。。俺だったらサッサと逃げてしまうだろう。。。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そしてその日、彼女が自分の「夢」を語ってくれた。
結婚生活が落ち着き、イエローのビジネスが難局を乗り越えたら、自
分の店をオープンさせる夢。
日本の商品に触れていたので、日本の品質の素晴らしさを知っていた
し、何度か訪れた事のある日本のサービスの質の高さも経験していた。
有名ではなくても質の良い日本の化粧品を販売したり、来店客にメイ
クを教えたり。
小さくても良いのでそんな店をオープンしたいと話してくれた。
私が当時取引していた日本のオーナーさんでエステサロンを経営され
ている方がいた。
彼の話をすると「もし良かったら、私をその店に案内してくれません
か?」と目を輝かせた彼女。
「もちろんだよ!実現すると良いね」
「はい。はい!実現させます!絶対に!」
素敵な笑顔を見せてくれた。
つづく
台湾喜人伝 6話 イエローの結婚 1
私の親友 イエロー
名字が「黄」
だからみんなからイエローと呼ばれている。
台湾の中壢(ちゅうれき)という街に暮らす、私の友人の
紹介で出会ったイエロー。
無類のスニーカー好きで、日本のストリートウェアが大好き。
当時は日本でも裏原(うらはら)という言葉が流行のキーワード
だったりして、裏原宿発信のストリートウェアが香港や台湾でも
取り上げられ、一部の若者たちに熱狂的な支持を得ていた。
彼もAPEやNEIGHBERHOODなどの裏原ブランドに身を固めていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「初めまして」
ちょっといかつい兄ちゃん風の外見だが、話し方はとても優しく、
笑顔が似合う。
とても丁寧な言葉使いで、年上の私をいつも立ててくれる。
出会った当初は中壢になる日系デパートでアルバイトをしていた
イエロー。
「アルバイトなんだね」と私が聞くと
「はい。今は資金を貯めてます」
「何か始めるの?」
「はい。自分で店を持つのが夢なんです。ストリートウェアの。俺、
スニーカーも好きだし、そういう店を出すので仕入資金を貯めて
るんです」
「へぇ~。そうなんだ。目処は付いてるの?」
「はい。父が婦人服屋をやっているのですが、そろそろ引退を考え
ていて。。。その店舗を改装して自分の店にします。家賃は少し
安いのですが、駅から少し遠いのがちょっと。。でも、オープン
したら必ず来て下さいね!」
「ありがとう。必ず行くよ」
そう約束して別れた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
約束したからには必ず行く。
知人からイエローが店をオープンしたと聞いた私は店に顔を出した。
「ハロー!」
私が店の奥、レジ付近にいたイエローの手を振ると、驚いたような
表情を見せたイエロー。
「ほっ、本当に来てくれたんですね!嬉しいなぁ。日本人って本当
に約束を守るんですね~。父からよく日本人の話を聞いてました
けど、本当だった!」
う~ん、約束を守らない人もたくさんいるけどなぁ~
まぁ、いいか。
親日家の台湾
日本や日本人に対するイメージはとても良い。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その後、彼の店に行く機会が増えた。
イエローとは世間話から始まり、ビジネスの悩みや相談をされる機会
が増えてきた。
旅行代理店を経営しているイエローのお姉さんには台湾からタイへの
チケットを手配してもらったりすることもあった。
ご両親とも仲良くさせていただいた。
お父さんはかつて婦人用衣料品店を切り盛りされていた経験があり、
温和で優しい方。
日本の政治にとても興味があるようだった。
お母さんは韓国の血が流れる方で遠い親類たちは韓国に住んでいると
話されていた。
話好きで面倒見が良く、会う度にとても優しくしてくれた。
ちょっと気が強そうだったけど。
イエロー一家との距離がどんどん近くなっていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そんなある日
「今度、紹介したい人がいるんです。会ってもらえますか?」
とイエローから電話があった。
「もちろん、イエローの知り合いだったら大歓迎だよ」
私はそう答えた。
それから数ヶ月後。
イエローの店に行くと、見知らぬ女性が店にいた。
いたというか、働いていた。
新しいスタッフさんかな?
イエローとその女性が一緒に手を振りながら近寄ってきた。
「こんにちは」
「こんにちは」
「元気そうですね」イエローが丁寧に声を掛けてくれる。
「ありがとう。そちらの女性は?」
「はい。いつか話したのを覚えてますか?紹介したい人がいる
って」
「もちろん覚えてるよ。その方がそうなの?
「はい。僕の彼女です。お店で僕の仕事を手伝ってくれる事に
なりました」
「へ~。2人で店を!いいね!」
「はい。僕も嬉しいです」と言ってイエローは笑顔で彼女に顔
を向けた。彼女も笑顔。2人で見つめ合う。
彼女は英語が堪能だった。
地元中壢にある日系デパート内で日本ブランドの化粧品販売員
として長く働いていた。
そのキャリアを物語るようにメイクや髪型が決まっていた。
格好良い「デキる女」という感じだった。
そして気さくで面倒見が良い。
「お腹空いてないですか?」
「何か飲みますか?」
少々お節介な台湾人らしく、何も要らないよと答えても「ちょ
っと待ってて!」と言っては外に飛び出し、飲み物を買ってき
てしまう。
見かけによらず「ひとりコント」のような事が大好きで、自身
が経験した面白いエピソードなどを身振り手振りを交えて、面
白おかしく話してくれる。
ゲラゲラ笑う、私を見るのが好きだと良く言っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「実は。。。結婚しようと思ってて。。。」
イエローと彼女、そして私の3人で食事している時に聞かされた。
イエローの横に座る彼女も笑顔でウンウンとうなずいていた。
照れるイエロー。
笑顔の彼女。
2人とも本当に幸せそうだ。
聞けば交際はもう6年。
彼女はお年頃でもある。
とっても仲が良さそうだし、良いタイミングなのではないか?と
思った。
「いいじゃない!だからイエローの店で働き出したの?」
「はい。もっと彼の仕事を手伝いたいから、日々男性服やスニー
カーの勉強もしています。まだ慣れないけど」
とはにかんでイエローを見る彼女。
幸せオーラが出まくっている。
「イエロー、じゃあ仕事は順調なんだね?」
「はい。お陰様で」
イエローは胸を張った。
「式の日取りなどはまだですが、決まったら来てくれますか?」
「もとりんだよ。2人の門出を祝福したいよ」
イエローと彼女はとてもよろこんでくれた。
つづく
台湾喜人伝 5話 チェンの教え子 アーピー 3
アーピーの大学入試試験当日のエピソードのつづき。
散々だった英語の面接。
ペアレンツの発音が出来ず、パパ、ママと叫んでしまったアーピー。
落ちたな、これは。。。
チェンはそう思ったそうだ。
チェンばかりではない.
アーピーの両親、そしてアーピーの彼女も
同じように思っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「なんだよ~。意味は合ってるじゃんかよ~」
アーピーが話し出す。
「も~、あんたって子は! 真面目にやりなさい!真面目に!」
アーピーのお母さんがアーピーを叱る。
「真面目にやってんじゃんかよ~~~」
アーピーが口を尖らせて反論する。
「午前中の学科はどうだったんだ?」チェンが聞く。
「う~ん。。。分からない」適当な返事をするアーピー。
「あんたって子は!」
アーピーのお母さんが手を上げて、アーピーを叩こうとした。
慌ててチェンが静止する。
試験会場でコントのようなやり取りをしているのはアーピーの家族
だけだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「そろそろ体育の試験です。受験生は体育着に着替えて校庭に集合
して下さい」
アナウンスが流れた。
入試試験最後の科目は体育。
日本ではあまり聞かないが、台湾の大学、主に私立大学などでは体育
実習が試験に含まれているケースもあるらしい。
「よっし!行ってくらぁ!」
気合いを入れるアーピーを見ていると益々不安になる。
体育着に着替える為、校舎へ向かうアーピーの後ろ姿。
頼りない。。。
着替えが終わり他の受験生たちに混じってアーピーが登場。
ヒョロヒョロでがに股。
格好悪い。
一同の不安を余所にアーピーーはニッコリ笑ってピースサイン。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
体育の試験は長距離走。
2キロのマラソン。
長距離とはいえ2キロだ。
いくらアーピーでも走りきれる。
最悪ビリでも良い。
最後まで一生懸命走る姿を見せて欲しい。
実の子供のようにアーピーを可愛がっているチェンの気持ちが
届くと良いのだが。。。。。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
パ~ン!
乾いたピストルが鳴り響き、受験生達が走り出す。
ずる賢いアーピーは受験生集団の最前列に紛れ込んでいた。
もう何でも良い。走ってくれ、走りきってくれ!
チェンは心からそう叫んでいた。
先頭集団に紛れ、良いポジションでスタートを切れたアーピー。
両腕を大きく振り、がに股で走るアーピー。
必死な顔で走る、走る、走る。
校庭を1周した後、大学周辺を走るコース。
アーピーは徐々に順位を落としつつも、まだ戦闘集団に食い
ついている。
受験生たちが次々と校門から出ていく。
頑張れ!
頑張れ!
頑張れ!
チェンやアーピーの家族達が応援する。
「あの子。。。。大丈夫かしら。。。」
アーピーのお母さんが心配そうに呟く。
「体育が得意という訳ではないけど、大丈夫。最後まで走り切って
くれると思いますよ」とチェンが言葉を掛ける。
「なら良いんだけど。。。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
しばらくすると校舎周辺のコースを走り終えた生徒達が校庭に戻り
出す。
最後は再び校庭を1周するのだ。
アーピーが先頭集団にいるはずはない。。。そう思いつつもちょっ
とだけ期待していた。
でも、、、やはり先頭集団にアーピーの姿を見つける事が出来なか
った。
先頭集団がゴールする後を他の受験生達が続々と校庭を1周して
ゴールしていく。
どこをどう探してもアーピーの姿がない。
「あの子は?ウチの子は?ねぇチェン、ウチの子は?」
アーピーのお母さんが焦り出す。
「え~と~」チェンも焦り出す。
いない。。。
どこにもいない。。。
先頭集団にいたはずのアーピーの姿が確認出来ない。
すでに参加した受験生の半分以上がゴールしていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
待てど暮らせどアーピーの姿が確認出来ない。
2キロのマラソンだ。
それほど長い時間が経過していた訳ではない。。。ハズなのだが、
アーピーを待っているみんなにとってはとてつもなく長い時間に感じた。
「え~、そろそろ試験を終わりにします。皆さんは校舎へ戻り着替えを
して下さい」
面接官が試験の終わりを告げた。
「ちょっと待って下さい!」
チェンが手を上げて面接官へ向かって走り出し。
アーピーの家族がそれに続く。
「ウチの子が。。。ウチの子がまだ。。。まだ帰ってきてません」
チェンが走りながら面接官に訴えるように叫んだ。
「えぇ?まだ??? そんなはずでは。。。」
面接官も驚いたようだ。
「2キロのコースです。こんなに時間が掛かるはずは。。。」
と面接官。
もしかして。。。
走っている間にお腹が痛くなったのか?
足を挫いたのではないか?
まさか。。。車に。。。いやいや、そんなこと想像したくもない。
「体育教員がいます。彼にコースを確認してもらうよう頼んでみます」
面接官が体育の教員に声を掛け、事情を説明し始めたその時。。。。
「ウチの子が!ウチの子が帰ってきた!」
アーピーのお母さんが校門を指さして叫んだ。
一同、アーピーのお母さんが指さす校門へ顔を向けた。
帰ってきた!
アーピーが帰ってきた!!
なぜか歩いている。
しかもヘトヘトになっていて歩くのが精一杯の様子。
交通事故に巻き込まれた訳ではなかった。
生きて帰ってきてくれた!
チェンやアーピーの家族がゴール付近へ移動して、アーピーのゴールを
待つ。
へとへとになりながらがに股で1歩1歩歩くアーピー。
右へ寄ったり左へ寄ったり。
やはり腹痛なのだろうか?
チェンはその様子を見て心配になった。
「もう少しでゴールよ!頑張って!」
アーピーの彼女が声を限りに叫び出す。
「そうよ、アーピー!頑張って!」お母さんもたまらず叫びだしていた。
よろよろしながらようやくアーピーがゴール。
そして倒れ込む!
「最後まで頑張ったな!」チェンが駆け寄り、声を掛ける。
「心配したんだから!」彼女がアーピーを介抱するように抱きかかえる。
「一体、何があったんだね?身体の調子でも悪くなったのかね?」
面接官が駆け寄り、心配そうにアーピーに声をかけた。
「こっ。。。こっ。。。。こんな。。。長い。。。距離。。走れるわけ
ないじゃんかよ!」
アーピーが振り絞るような声で返答した。
2キロである。
普段、運動していないとは言え、18歳の少年が2キロを完走出来ない。
しかもふらふらになりながら歩いてゴール。。。
前代未聞の出来事に面接官も言葉を失っていた。
落ちたな。。。。これは。
倒れてもがに股で倒れているアーピーを見下ろしながら、チェンが再び
その思いを強くした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
しかし、結果は合格。
事実、アーピーは大学生になったのだ。
「そんな事ってあるの?」
私が聞くと
「アハハハハハ。アーピーの大学は適当なんだよ。アーピーの家庭が入
学金を払う意思を見せたから合格になったんだよ。大学もビジネス。
少しでも売上、そして利益を上げていかないと経営が傾く。台湾では
少子化が問題になっているくらい、子供が少ないからさ」
「そっ、そんな理由で。。。。合格。。。。試験の意味が。。。ない」
愕然とした。
4年後、無事に大学を卒業したアーピーは地元にあるスーパーに就職し
た。
そして昨年(2019年4月)久々に台湾へ行き、チェンからアーピー
のその後の話を聞いた。
数年前、無事に結婚。
相手は当時から付き合っていた可愛い彼女だ。
小さな赤ちゃんも授かっているそうだ。
アーピーが結婚。
アーピーがお父さん。。。。
人生って不思議だ。
台湾喜人伝 4話 チェンの教え子 アーピー 2
台湾の親友チェンと彼の元教え子のアーピー。
今回はアーピーの大学試験日に何が起こったのかを書こうと
思う。
新竹にある大学の終始試験日。
当事者のアーピーと彼の両親。
そしてなぜかチェンとアーピーの彼女も一緒に試験会場にいた。
チェンとアーピーの両親は心配で仕方がない。
「あんた、本当に大丈夫なの?」
アーピーのお母さんが心配で何度もアーピーに話しかける。
「気まってんだろっ!こんなの楽勝なんだよ!」
いつものようにアーピーの強がり炸裂。
でも、挙動が不審でたばこに火を付けてばかり。
一目で緊張しているのが分かったそうだ。
「受験生のみなさん、指定のクラス、席にお座り下さい。15分後
にテストが始まります」
アナウンスが流れ、受験生たちは校舎内へ移動していく。
「頑張るんだよ」
「頑張って!」
「緊張するなよ」
チェンやアーピーのお母さん、アーピーの彼女が声援を送る。
「大丈夫だって言ってんだろ!俺様を誰だと思ってるんだよ!」
粋がるアーピー。
でも、顔が明らかに引きつっている。
「あ~。あ~。」
アーピーのお父さんだ。
お父さんは口が不自由だった。
大学の校舎を指さし「早く校舎に入れ」と言っていたのだろう。
「分かってよ!行きゃあいいんだろ?行ってやるよ!楽勝だって
~の!」
と口だけは威勢の良いアーピー。
途中なんども振り返り、なかなか校舎へ入らない。
「早くしないと試験が始まりますよ!」
大学の職員に促され、渋々と校舎へ向かうアーピー。
校舎に入る前、まだみんなの方を振り返った。
だっ、大丈夫なのだろうか???
不安でしかない。
みんな同じ気持ちだった。。。。
学科試験は3教科。
午前中で終わり、アーピーが校舎から出てきた。
ややがに股で虚勢を張っているのが伝わってくる。
「どうだったの?」
不安で仕方がないアーピーのお母さんが口を開いた。
「楽勝だよ、あんな低レベルな試験。大したことないな、大学
なんてさ」
うそぶいているけど、顔は緊張したままだ。
午後は面接と体育。
面接は英語で行われるという。
アーピーにはハードルが高い。
英語で質問されて、ちゃんと答えられるのだろうか?
話を聞いて驚いたのだが、この大学の面接試験。
子供と一緒に親も入室を許可される。
もちろん答えを言うことは禁止されている。
「次の方、どうぞ」
大学職員がアーピーを教室へ入るよう促す。
「ハイヨ~」
「この馬鹿息子、なんですかその答え方は!」アーピーのお母さん
が注意する。
「お静かに願います!」
大学職員に注意されてしまった。
アーピーががに股で教室に入り、面接官と向かい合って席に付く。
その姿を少し離れたところからアーピーの両親となぜかチェンが見
届ける。
英語での面接。
午前中の試験だってほとんど回答出来ていないだろうに。。。これ
は拷問でしかない。。。チェンはそう思ったそうだ。
面接が始まった。
「あなたの名前は何ですか?」
「どこから来ましたか?」
思ったよりもかなりレベルの低い質問。
「あ~」
「う~」
自分の名前と住んでいる街の名前だけは何とか答える事が出来たアー
ピー。
徐々に質問のレベルが上がり出す。
そして当然のごとく、全く答えられないアーピー。
「あ~」
「う~」
を繰り返すばかり。
「君、焦らなくても良いんだからね。ゆっくり考えて、ゆっくり答え
なさい」
そう言われて更に焦り出すアーピー。
「あ~」「う~」さえも出なくなってきた。
「きっ、君。。。」今度は面接官が焦りだしている。
「よっ、よし、ちょっと内容を変えようかな。緊張して普段の力が発
輝出来てないんだね」
優しい面接官!
「私に続いて言ってみて、ペアレンツ(Parents)。ハイ、どうぞ」
もはや面接ではなくなっている。。。。
「ペッ、ペッ、ペッ。。。」
焦るアーピー。
口が全然回らなくなっている。
「きっ、君、焦らなくて良いんだからね。ゆっくり、ゆ~~くりで大
丈夫だよ」
想定外の展開に試験管も対処に困り始めた。
「ペアレンツ」
「ペッ、ペッ、ペッ」
「ペアレンツ」
「ペッ、ペッ、ペッ」
「ペアレンツ」
「ペッ、ペッ、ペッ」
エンドレスなやり取りが続く。
「ペアレンツ。焦らないで。どうぞ」
「ペッ、ペッ、ペッ。。。。。」
ダメだこりゃ!!!
一同がそう思った瞬間
「パパ、ママ!」
ヘッ????
パパ、ママ????
意味は合っている。
けど面接官が聞きたかったのはそれじゃない。
緊張と焦りで口が回らなくなったアーピー。
言いやすくて意味は合っているパパ、ママと叫んだのだ!
「そ、そうだね。意味は合ってるね。よろしい。これで面接
試験を終わりにします」
笑顔の面接官。
完全に終わった。。。。
一同、肩を落として教室を後にした。
つづく
台湾嬉人伝 3話 チェンの教え子 アーピー 1
初めて台湾を訪れたときに出会ったチェン。
彼との交流はその後も続いていた。
チェンに会う為に台湾へ行く度に、彼の友達や仲間、そして
教え子達との出会いがあった。
今回は彼の元教え子の1人であるアーピーのエピソード。
チェンは心優しい公立学校の教師の顔を持ちながら、学校には
内緒で室内デザインのオフィスを経営していた。
公務員の副業はもちろん禁止されている。
多分、仲の良い教師の何人かは彼が副業を持っていることが知
っていた。
そして学校にバレないようサポートしていたと思う。
経営しているオフィスの景気は良く、順調に売上を伸ばしてい
たので、他の教師と比較すると収入面ではかなりの余裕があっ
た。
しかし物欲のないチェン。
余ったお金は彼流のやり方で社会還元していた。
担任するクラスで学費や給食費の納付に苦労している家庭に対
して、彼がそれらの納付を全て引き受けていた。
学校には内緒のようだった。
毎年1~2人の生徒を選び、親に会い、補助する価値があると
思った家庭に対して補助の申し出をしていた。
また卒業後、性格的に既存の社会に馴染まない子供を自分のオ
フィスで働かせ、経験を積んだ後、知人の会社などへの就職を
斡旋してもいた。
もちろんコミッションなどは受け取らず。
一緒にいて楽しいのはもちろん、私は彼の献身的な態度と行動
に対して尊敬の念を抱いていた。
そんなチェンの教え子の1人、アーピー。
ヒョロヒョロで頼りなく、喧嘩の強い友達と一緒の時は威勢が
良く、1人だとおどおどしている。まるで漫画から出てきたよ
うな弱虫君。
口が悪く生意気だけど、なぜか人気者。
彼と最初に出会ったのは彼が高校2年のころ。
チェンが開催する私の歓迎会にちょっと年上のアーシーと
一緒に参加していた。
飲み会の席で高校生なのに酒を飲み、たばこを吸う。
チェンはそんなアーピーの姿を見せて、特に注意する素振りも
見せなかったし、気にもしていない様子だった。
やがて高校を卒業し大学へ進学。
車の免許を取り、大好きな日本車を乗り回すようになっていた。
あの車はどうやって買ったのか???
彼の過程はチェンが補助をしていたはずなのだが。。。
その大好きな日本車で私を空港に迎えに来てくれたり、新竹市
内の移動の際は必ず運転手として活躍してくれたり。
チェンが私と過ごす時は、アーピーが運転手としてサポートし
てくれていた。
チェンの頼み事なら何でも引き受けていた。
チェンや相棒のアーシーと一緒にいるのが本当に楽しそうだっ
た。
彼にとっての居場所だったのだろう。
頼りにはならないけど愛嬌があり、どこか憎めない。
チェンが買い物をする際には必ず側にいて、会計はチェン任せ。
チェンもそんなアーピーが可愛いようで、食事をおごったり、
服を買ってあげたりしていた。
適当で弱虫で中行きなアーピにはすっごく可愛い彼女がいる。
性格が良くしっかりものの女の子がなぜ。。。なぜアーピーの
彼女なんだろう?
男と女は分からないものだ。
チェンと行動する時はいつもアーピーが運転を担当してくれる。
でも、ちょくちょく道を間違えるし、一方通行を逆走する。
対向車からクラクションを鳴らされることはしょっちゅうだった。
そして致命的な問題が。。。。
彼は車のバックが出来ないのだ。
前進したりカーブを曲がる事は出来るのだかバックが出来ない。
車を駐車する際はいつもチェンに運転を代わってもらう。
「も~~~」とチェンが言いながら運転を代わるのが面白かった。
日本より遙かに短時間で免許が取れるらしいけど、バックが出来な
いアーピーはどうやって試験に受かったのだろうか?
そしてこんなエピソードもある。
私が日本から来ている日本人だと言うことは当然知っているのだ
が、日本がどこにあるのかは知らない。
チェンが世界地図を広げ、「日本はどこ?」と聞いた事があるそ
うなのだが、オーストラリアを指さしたそうだ。
チェンは笑いが止まらなかったそうだ。
そして飲み会の席では必ずその話をする。
集まったみんなは大爆笑。
だって台湾のすぐ近くには沖縄があり、そこはすでに日本。
ほとんどの台湾人はそんなことは知っていて当然なのに。。。
そんな彼は大学生。
一体どうやって大学生になれたのか???
1度チェンに聞いてみたことがある。
「チェン、アーピーなんだけど大学生だよね?」
「うん、そうだよ」
「こう言っては何だけど、彼の。。。。」
「はははは。頭が悪いって言いたいんでしょ?」
直球だなぁ~
「彼の入試試験の際、彼の両親が心配だと言うので私も一緒に大学
まで行ったんだよ。そのときに話をしようか」
チェンが笑いを堪えながら話してくれた。
台湾嬉人伝 2話 歓迎会 2
久々に訪れた台湾。
そしてチェンとの再会。
その夜に開かれた私の歓迎会は街の警察署に勤務する
警官達の集まりだった。
大声を張り上げながら歌う警察官たち。
肩を組み、左右に揺れながら台湾の古い歌を歌って
盛り上がっている。
ウィスキーなども用意されていたけど、ほとんどの人が
ビールを飲む。
台湾ビールが人気。
当時はビールをトマトジュースで割る飲み方が流行って
いた。
「これを飲むとゲップが出ないから」とチェンは話して
いたけど本当なのかな?
飲んでも飲んでも、飲み干しても。。。。ビールが次から
次へと運ばれてくる。
顔色ひとつ変えずに飲み続けている者。
べろんべろんになっている者。
大声で冗談を言い合っている。
賑やかな場だ。
「日本朋友!」とガラスのコップとトマトジュースで割っ
たビールが入ったピッチャーを持ってくる警官達。
仲良くしたいけど、そんなに飲めない!
「カンパイデショウ!」(乾杯という日本語を知っている台湾人は多い)
と誰かが私の肩を叩く。
振り返るとチェンの元教え子だ。
「無理だよ。飲めないよ。」と日本語で言いながら、両手
を彼の前に尽きだし、飲めないアピールをした。
「カンパイデショウ!ダイジョウブ ダイジョウブ!」
さっきまでキリッとした表情だったのに。。。。完全に酔
ッ払っている。
全くの別人になっている。
怖っ!
仕方ないなぁ。。。と彼が手に持つグラスを受け取り、ビ
ールを一杯飲み干す。
「一気!一気!一気!」彼が騒ぎ始めた。
逃げる私、追いかけてくる彼。
警官達は大爆笑だ。
最後は捕まり、2杯一気させられた。
ったくも~~~。
2時間ほどが経過したとき、署長が手を叩き、何か大声で
叫んだ。
警察官達は歌うのを止め、騒ぐのを止め、署長の言葉に耳
を傾けた。。。相変わらず大音量のカラオケは流れたまま
だった。
「はぁ~、ようやく終わるみたい」とチェン。
楽しくて嬉しいけど、大音量が鼓膜を襲い、大声での会話。
普段は飲まないビールを飲まされて、ちょっと疲れていた。
「疲れたんじゃない?」とチェンが聞いてきた。
「そうだね~。でも、嬉しかったよ。初対面の人ばかりだ
けど、こんなに盛大な飲み会を開いてくれて。」
チェンが笑顔を見せた。
再び署長が大声を出すと、いままで部屋でお酒をついでい
た女性スタッフが部屋から出ていった。
チェンが「ママを呼びに行ったんだよ」と通訳してくれた。
会計だ。
台湾では客人には絶対にお金を払わせない。
ほとんどの歓迎会ではチェンが支払いをしている。
今回もチェンが財布を手に取った。
これだけの大人数が飲みっぱなし。
たくさんの空き缶が部屋のあちらこちらに転がっている。
一体、代金は幾らになるのだろう。
いつもいつも会計してくれるチェンに申し訳ない気がして
きた。
突然、警察署長が大声でチェンに何かを言っている。
チェンが何かを言い返す。
喧嘩ではなく、この場の支払いをどちらが持つかの押し問答
のようだった。
台湾では割り勘の習慣はなく、その場にいる年長者や裕福な
者が支払いを受け持つ。
メンツがあるので支払いを渋ることはなく、気前よく財布か
らお金を出す。
何回かのやり取りのあと、チェンが「謝謝」と言って財布を
仕舞った。
「今夜は署長が場を仕切ったから払わなくていいって言うん
だよ」チェンが申し訳なさそうな表情をした。
私も署長とは面識がないのになぁ~。
私も申し訳なくなってきた。
部屋のドアが開いた。
店のママさん登場した。
綺麗な黒いドレスと束ねた髪。
とても雰囲気のある人だった。
署長の横に座る。
署長が大きな声で周囲に聞こえるよう何かを話し出した。
他の警察官たちは黙って署長の言葉を聞いている。
ママもこくりこくりと何度か頷いていた。
「 OK !」
と話を切り上げた署長が立ち上がる。
頭を下げるママ。
署長が部屋を出る。
他の警察官達も後に続く。
あれ?
支払いは????
もしかすると今夜はツケにして、後でママが警察署に行って
集金するのかな?
そんな私に向かいチェンがこちらに顔を向けながら話し始めた。
「お金、払わないみたいだ」
えっ?
お金を払わない????
あれだけ飲んだビール代を。。。払わない????
どういう事なんだ????
「払わないの? どうして?」
と私が聞くとチェンが会話の内容を話してくれた。
台湾の飲み屋さん、特にちょっと高級な飲み屋さんは地元の極道
につけ込まれたり絡まれたりすることが多いそうだ。
それを避ける為に極道者のボスに月々お金を払ったり、接待した
り結構な手間とコストが掛かる。
詳しくは知らないが、以前の日本も同じような習慣があったのだ
ろうか?
でも、「この店は警察署長が通う店」との評判が広がると、極道
達は店に来ない。
要は「俺がこの店を守っている。その俺が支払いをする必要があ
るのかい?」とのやり取りをしていたようだ。。。。
なんともエゲツない。
台湾では
極道は「黒道」
警察は「白道」
と呼ばれ、どちらも同じようなものだと皮肉交じりに語られる事
がある。
「ここは台湾。こういうもんなんだよ」とチェンが申し訳なさそ
うな表情を浮かべた。
2人で店を出ると署長を始め、他の警官達が我々を待っていた。
「謝謝」と私がお礼を言うと笑顔を見せた署長。
お迎えのパトカーが来ていた。
「チェン、送ろうか?」と署長が声を掛けると
「いえ、車があるので大丈夫です」とチェンが答えた。
普通に答えているけど、チェンも相当飲んでいた。
教師が酔っ払い運転。。。
「そうか。じゃあお先にな。日本朋友!再見!!」と署長が別れ
の挨拶をしてくれた。
「再見 台湾朋友!」と答えると「ワッハッハツ!」と大声で署
長が笑っいながら迎えのパトカーに乗り込んだ。
周囲にいた警官達が「この日本人、署長相手に冗談言ったぞ」み
たいな顔をしていた。
署長を乗せたパトカーがゆっくりと走り出す。
我々全員でそのパトカーを見送った。
プライベートな飲み会なのに送り迎えはパトカー。。。。
ちょっと乗ってみたかったかも。
と、突然後ろから「ダイジョウブデスカ!」と背中を叩かれた。
「痛っ?」と振り返るとチェンの元教え子がいた。
相当に酔っていて、足下がふらついている。
しかも声がデカい!
力も強い!
大丈夫ですかって、お前が大丈夫じゃないじゃんか!
元教え子がチェンを会話を交わし、敬礼をした。
1人では歩けない状態だ。
仲間のバイク。。。これも警察のバイク。。が彼の近くに止まり、
仲間の警官が彼をバイクの後部座席に座らせた。
飲み過ぎて身体がグニャングニャンで危ない。
「ダイジョウデスカ!」
この台詞を何回も繰り返している。
もう行け行け!
とチェンが促すと、彼をバイクの乗せた同僚がチェンに挨拶をす
る。
彼もかなり酔っているけど大丈夫なのかな?
まぁ、チェンの元教え子よりは飲んでないから。。。大丈夫な訳
ないな。。。
べろんべろんに酔った警察官を乗せたバイクが走り出す。
しかもヘルメットを被ってない。
警察に捕まったらどうするんだろう?
酔っ払い2人を乗せたバイクが走り去って行く。
「チェン、あの2人、大丈夫かな?ちゃんと家に帰れるか心配だ
よ」と言うと、チェンが笑い出した。
「なんで笑ってるの?」
「ははははは。彼ら、これから出勤だよ。夜勤担当なんだってさ」
はっ???
仕事に。。。。ならんだろう。。。。
今では台湾の道路交通法が厳しくなり、ヘルメットを被らないと
すぐに逮捕されてしまうけど、当時の台湾は大らかだった。
でも、交通事故が多かったので、たくさんの命も失われていた。
チェンの教え子であり、私の友達だった人も亡くなっている。
それ以来、チェンと彼の友人知人たちは酔っ払い運転をしなくな
った。
台湾喜人伝 1話 歓迎会 1
初めての海外出張で訪れた台湾。
初めて訪れた台湾。
現地の人々と触れ合い、すっかり台湾が好きになってしまった私。
会社を退職した後も、多い時で年に数回、今は数年に1度は現地を
訪れている。
今では台北その他の街にも友達が出来、1度の訪問で全ての友達に
会うのが不可能になっている。
今回はサイ社長の息子、ベイビーが通っていた専門学校で教員とし
て働いていたチェンとその仲間とのエピソードだ。
会社を辞めた後も、チェンには時々電話をしたりして友情を深めて
いた。
「こっちこっち!」
新竹駅前のロータリーに車を止めたチェンが大きく手を振っていた。
「お~!久しぶり~!元気そうだね」
「うん、お陰様で」と笑顔を見せるチェン。
「とりあえず車に乗って。ウチへ行こう」
「ありがとう」
チェンが運転するボロボロのBMWに乗って、新竹駅からチェンの家へ。
チェンは専門学校をから公立高校の教師になっていた。
そして学校には内緒で内装デザインのオフィスを開いていた。
公立高校の教師なので公務員。
台湾でも公務員の兼業は禁止されているのだが、これまでのところ公
になることもなく、仕事を両立しているそうだ。
久々の再会。
あれこれ話をしている間にチェンの家に到着。
「今回も泊まっていってね」
「うん。ありがとう。いつも悪いね」
チェンは古い一軒家を購入。
内装は彼自身でデザイン設計し、仲間の大工たちに仕事を依頼してい
てこの家をリノベーション。材料は自分の仕入ルートを活用し、内装
に使う備品や装飾品はタイで買い付けている。
シックな室内に東南アジアの装飾を使う仕事が地元のお金持ちたちに
好評で、広告宣伝することなく口コミで次から次へと仕事が舞い込ん
でいるそうだ。
3階建ての一軒家に1人で住んでいるチェン。
ゲストルームもあるので、毎回ではないけれど、私はチェンの家に泊
まらせてもらう事がある。
日本から背負ってきた大きなリュックをゲストルームに下ろすと、
「今、お茶を入れてるからさ。リビングでゆっくりしよう」とチェン
が声を掛けてくれた。
顔の広いチェン。
お茶に詳しい知人が季節毎に美味しい茶葉を持ってきてくれるそうで、
彼の家でお茶を飲むのが密かな楽しみになっていた。
チェンの家の1階、広いリビングでお茶をしていると、チェンの携帯
が鳴った。
「19時に店に集まるみたい。その前に食事していこう」とチェンが
席を立った。
私が台湾を訪れる度、チェンと彼の友達が歓迎会を開いてくれる。
毎回顔を合わせるうちに仲良くなった人、初対面の人。
総勢30名くらいが集まる、ちょっとしたイベントだ。
今夜の歓迎会はいつもとは違ったメンバーになるとチェンが話してい
た。
再びチェンの車に乗り込み、市内にある日本料理屋で晩ご飯。
地元の人向けの日本料理屋は台湾人好みの味になっている店が多いが、
この日本料理屋では日本と同じ味が楽しめる。
チェンと出会った頃、何度か連れてきてもらった事がある。
日本料理屋なのに誰も日本語を話せない。
古くて狭い、でも美味しい。
板前さんとチェンが楽しそうに会話している間、私はパクパクと口を
動かす。
まだ電話が鳴る。
台湾人はせっかちだ。
「もう集まってるみたいだ。もう少ししたら行ってみよう」
食事を済ませ、会計を済ませ、私とチェンは歓迎会の会場へ向かった。
店は住宅街に近い場所にあった。
店とは言うものの一軒家だった。
看板も出ていない。
庭付きの大きな大きな一軒家。
入口でチェンが呼び鈴を押すと、大きな扉が開く。
男性スタッフが扉を開けてくれた奥で、女性スタッフが2人笑顔で挨拶
をしてくれた。
大きな一軒家を改造した店。
ちょっと高級な雰囲気だと思いながら歩いていると中国語の歌が漏れ聞
これてきた。
住宅地に近い立地ということもあり、各部屋は防音になっているようだ
った。
「こちらです」と女性スタッフが振り返り、ドアを開けてくれた。
同時に大音量の歌声が飛び出してきた!
部屋の中には男、男、男。
広い部屋に男が30人ほど。
チェンの姿に気が付き、歌声が止み、カラオケの音楽だけが流れ続ける
室内。
全員が立ち上がり、一斉にチェンに話しかける。
大声で冗談を言い合う。
「私の友達の日本人です」とチェンが私を紹介してくれた。
オ~~~~~ッ!
歓声が上がる。
とても歓迎されている。
怖いくらいだ。
「まずは一杯!」
一人の男がコップを2つ持ってきて、私とチェンの為にビールを注いで
くれた。
一気!一気!一気!
どこからともなく始まる一気コール!
日本のお笑いタレント、とんねるずは台湾でも大人気だった。
彼らが歌う歌は台湾でも大ヒットしていた。
その影響があって一気コールは台湾人の間でもブームになっていた。
ジョッキではなく小さなコップでの一杯。
普段はビールを飲まない私でも楽々飲み干せる。。。でも、ビールが
苦手な私には苦手だった。
私とチェンがビールを飲み干すと同時に一人の青年が近寄ってきた。
チェンに挨拶をしている。
中肉中背だがきりりとした目元。
直立不動でチェンの言葉を聞いている。
「初めまして」
その彼が笑顔で挨拶をしてくれ、席へ案内してくれた。
「彼は2年前に学校を卒業して、今は街の警察署で勤務する警察官だん
だよ」チェンが紹介してくれた。
絵に描いたような好青年(古い言葉だ)
日本のイケメンとは違う、どこか懐かしい感じのする好青年なのだ。
警察官だけあって言葉もハキハキ(何を話しているのか分からないけど)
初対面だけど頼りがいがある。
好印象だった。
奥に座る年輩の男性が手を上げるとチェンと私はその男の元へ。
挨拶を交わす。
笑顔の奥に威厳のある顔立ち。
話し方も落ち着いている。
「彼はこの街の警察署の署長さんだよ」とチェン。
「えっ?そうなんだ!」
「うん、そしてここにいるみんなは警察官。今日は警察官ばかりの集まり
なんだよ」とチェンが説明してくれた。
警察官ばかりが約30名。
暑苦しいなぁ~(笑)
再び始まる大音量のカラオケ。
チェンとの会話が成立しないほどの大音量。
耳が壊れそう。
でも、彼らの楽しそうな笑顔を見ていると、私も楽しくなってくる。
交わされている言葉は相変わらず分からないけど、自然と笑顔にな
っていた。
肩を組んでカラオケを熱唱するグループ。
ビールの一気飲み対決しているグループ。
腕相撲をしているグループ。
台湾人の男はいつまで経っても高校生のよう。
あっ、高校生は酒飲めないや(笑)
これが台湾の宴会だ。
宴の始まり。
飲み会始めだ!